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「……………は…る……わたし。はる………って…いう……の………」

ユキにそっくりな彼女は、やっと口を開いて少し笑った。
いやこれ早く逃げた方がいいんじゃないかな？
ほら、警察とか集まって来てるし……？


事の始まりは３時間前。入院中のユキと『目を潰す』能力を抑える約束をしていたのでデパートでユキが好きなお菓子でも買ってから会いに行こう、ということになったのだ。
キドは珍しくあまり乗り気じゃなかった。「病人にどれだけ負担がかかるか分からない」とか言ってたけど、ユキがどうしても早く能力をコントロールできるようにしたいと頼み込んできたので仕方ないとも言っていた。ユキがまだ孤児院に居た頃からキドはユキに甘い……というかやたら面倒見が良かったな……まあいいか。


「デパートってどこの行くの？この前のとこ潰れちゃったじゃん」

「駅前に新しく出来たやつだ。期間限定で入ってるフランスの洋菓子店らしい。俺はよく分からんが、キサラギがユキに聞いてくるって言ってたぞ。」

「うわぁ……ユキ大丈夫なの？それ……」


それから先はキサラギちゃんとマリーが乱入してきたので(正しくはまたマリーがお茶をひっくり返したので)よく憶えてない。確かその後アジトを出たから……ちょうど今から２時間半ぐらい前。


「うわあぁ……！キド、このデパートも大きいね……！！」

「あ！！団長さんアレです！！えっと、確か頼まれたのは……」

「お前たち落ち着け……うるさいぞ」

駅前に新しくできたばかりのデパートは、この前テロに襲撃されたデパートと同じかもしくはそれ以上の大きさに見えた。地下２階と３階が駐車場、地下１階から５階までが商業施設、６階と７階がオフィス、８階から１５階がマンションになっているらしい。それから屋上にヘリポートが２つ……ってなんのために使うんだか。

ユキに頼まれたスイーツがある店がかなり複雑な場所にあるらしく、かれこれ１０分ほど広い館内を彷徨った後、やっと古風の造りのいかにも老舗らしい店を見つけた。たった２週間の出店なのによくここまで手の込んだものを……。


「お待たせしました！あ、カノさんこれ持ってもらっていいですか？団長さんはこれ、マリーちゃんはこれを……残りも取ってきます！！」


キサラギちゃんが息を切らせて渡してきた箱は、本当にケーキが入っているのかと疑いたくなるほど大きくて重かった。子供が持ったら肩でも痛めてしまうだろう。それを何箱も何箱も必死に運んでくる。


「おいキサラギ……これ全部ユキが食べるのか？」

「そうですよ！私たちの分も別にありますし、いつもより少ないくらいですね……って、どこからお金出してるんでしょう？」


全員が両腕一杯にケーキの箱を抱えたところでやっと全部になった。相手の顔もまともに見えない程に各自積み上げられた状態では、キドの能力も誰かにぶつかって切れてしまうかもしれない。


「みんな大丈夫？」

「私と団長さんは平気です……けど……マリーちゃんが……」


箱を持ちかえて振り向くとマリーが一歩も動けないまま、その場で立ち止まっている。
その上人とぶつかったようで今にも泣きそうになっている。かなりテンパっているのかここまでマリーたちの声が聞こえてきた。


「あああのすいません……！」

「いや大丈夫。それよりフウ、もうそろそろ行かないと……。」

「分かってるよ。でも美がいないぜ？」

「後で私が探しておくわ……。美のことだから、たぶん甘いものがある場所でしょう。じゃあ、貴女気を付けてね。」

「あああすいませんでした………！」


ぶつかった２人組が僕たちとすれ違う時、一瞬だけ目が合った。
見たことがあるような……？
と思っていたが、すぐに目を逸らして早足で居なくなってしまった。人ごみに紛れて、ろくに身動きが取れない僕たちが追いかけるのは無理だ。

それが大体今から１時間半前。