二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】 ( No.45 )
- 日時: 2012/11/03 19:50
- 名前: noeru (ID: wriHP60F)
あれから1週間が経った。
お兄ちゃんはますますヒキニートになって、もう2日ほど顔を見ていない。高校中退した時と同じだ。今度こそ、お兄ちゃんは独りになってしまった。
「モモちゃん、大丈夫…?」
マリーちゃんに呼ばれて我に返った。かなりボーっとしていたみたいで、心配そうにされて少し恥ずかしく申し訳なくなった。
「なんでもないよ、大丈夫だって!」
なんとか笑って見せるけど、顔が引きつっている。思わず盛大にため息を付いた。
・ ・ ・
「ご主人ー、妹さんが心配しますよー。」
「………。」
「ご主人ー…。」
ご主人は最近何も話さない。布団に入ったまま、食事とトイレの時しか出てこない。アヤノちゃんが死んだときも、こんなだったのかな。貴音の頃に会った少女を思い出した。赤いマフラーをした、あの楽しそうな笑顔。初めて会った日の、学園祭の日の3人を。
・ ・ ・
「あ、あの……友人が失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした……」
ふいに話しかけてきたのは、黒いミドルロングの髪の少女だった。その横には、さっきのミリタリー集団がまともに見えるようなゴスロリ少女がいる。骸骨に崇拝するかのような視線を向けていた。
今日は大して寒くないというのに、なぜか2人とも色違いのマフラーを着けている。ミドルロングの少女は赤、ゴスロリの少女は黒だ。その姿は非常に儚げな雰囲気を持っていた。
「……あなたたち、さっきの子の友達?」
コントローラーを机に置き、そう聞くと、赤いマフラーの少女は照れくさそうにはにかんでから「……一応」と答えた。ゴスロリの少女は完全にホルマリン漬けに魅入られてまるで聞いていない。
ということはあのジャージの少年は、あれだけの腕で、さらに女の子2人連れで学園祭に来たということか?!
憤怒の炎が燃え上がりそうになるが少女の申し訳なさそうな態度に気持ちが削がれてしまった。
「すいません、私たちもここで失礼させていただきます。この後父にも会いに行かなくてはいけないもので……」
少女は頭を下げると、あたふたと急いで部屋を出て行った。
そこにあのゴスロリの少女がまだカエルの解剖図を眺めているのに気付いた。
「あれ、お友達行っちゃったけど……」
声を掛けると我に返ったようにこちらを振り返る。「にゃっ?!」と猫の鳴き声のような声を上げて目が合った。なんかものすごく……美少女だった。赤地のこげ茶のショートヘアー、ヘーゼルカラーのくりっとした瞳。赤渕の眼鏡を掛けていなければ、本当にフランス人形のようだ。
「大丈夫?一緒に追いかけようか?」
私が少女に手を差し伸べると、彼女は怯えたようにぶんぶんと首を振った。少女はおろおろと周りを見まわした後、ゲームのコントローラーを指差した。
「あ、あの、ええっと、あのゲーム……」
「……やりたいの?もう景品ないよ?」
私が訊ねると、「怒られちゃうから」とかなんとか小さく呟いた。
少し重たいコントローラーをしっかりと両手で持ったのを確認して、タイトル画面のセレクトボタンにカソールを動かす。だいたい難易度は普通から易しい辺りだろう。最後だし、負けてあげてもいいかもしれない。
「難易度はどうしますか?」
「あ、あの、エクストラで……」
私は耳を疑った。横を向くとそこにはやっぱり長いフリフリの袖が邪魔で重い銃を持つだけで精一杯なか弱そうな少女がいる。
「え、エクストラでお願いします……!」
聞こえていないのかと思ったが、そこにいた観客にも、もちろん私にも聞こえていた。エクストラ、ゴスロリ少女が最高難易度度を自ら迷わず選択したのを。躊躇しつつも難易度をエクストラに設定する。
「わ、分かりました……、じゃあ始めましょう!」
「……。」
私の画面には再び「LOSE」の文字が青く表示されていた。少女の画面のには「WIN」とその下に本日2度目の「PERFECT!!」の赤文字が表示されていた。
観客もジャージの少年が勝った時とは別に、私と同じで何も言えないという感じだ。なにかいけないものを見てしまったかのような。
横ではゲーム開始早々人格が変わり、周りが唖然とするほど素晴らしいプレイを見せた少女がコントローラーを置いた。あんなに持つのも苦労していたのに、始まった瞬間片手で軽々と持ったかと思うと一寸の狂いもなく、敵や妨害アイテムを問わず撃ちぬいていった。彼女に本物の銃を持たせてはいけないな、なんて思った。
「あっ、シンタロー!ユキいたよ!!」
いきなりドアが勢いよく開いたかと思うと、さっきのマフラーの少女が飛び込んできて、後に続くようにジャージの少年が入ってきた。
「シンタロー、アヤノ、あの、ごめんなさい……」
「お前、勝手にいなくなって迷子になったらどうするつもりだったんだよ……馬鹿か。」
「ううっ……」
「……ユキ、これユキがやったの?」
マフラーの少女が指差すのは、まだ呆然としている私と観客、そして彼女の圧勝を現す画面だった。