二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【カゲプロ】人間冷凍ショコラ【オリジナル】短編リク募集! ( No.86 )
日時: 2012/11/11 20:00
名前: noeru (ID: i/PBPHsD)



[六兆年と一夜物語]


名もない時代の集落の
名もない幼い少年の
誰も知らない
お と ぎ ば な し


「さっさと起きろ!朝だ!!」

看守がまだ暗い時間に、ボロボロに傷付いた子供たちを起こしていく。昨夜やっとのことで就寝してから、まだ4時間も経っていなかった。

ここは、その通り監獄———というより、強制収容所のような場所だ。僕らは生まれたときから此処に居た。正確には、幼い頃は付属の孤児院で虐待されて、物心付いた時にはこの施設で日夜労働に励んでいた。僕のような、ここに収容されている子供は何らかの特別な能力を持っているらしい。そういった子供はいつか、戦争の軍事力として利用される。
そして、死ぬ。

昔は何故ここに閉じ込められているのかなんて教えてもらえなかった。ただ『忌み子』『鬼の子』と貶された。罰を受けた。他は、そんな風に言われることはなかったのに。

僕には同じく、此処に収容されていた双子の姉がいた。
彼女は明るくて、こんな汚れた薄汚い場所でも笑顔だった。
どんな重労働にも暴力にも耐えた。
でもある日彼女は消えた。
眼の前で腕を引かれて、何処かへ連れて行かれた。
その時のあの叫び声が。

それももう忘れてしまった。
悲しいなんてもう思わないし、どうせ僕もきっと子供のうちに死ねるだろう。

僕は何も知らない。何も知らない。知らない、知らないんだ。
叱られた後の優しさも、叱られる前の優しさも。
雨に打たれて一人ぼっちで、姉がいなくなってから誰とも会話もしない。
寒い牢屋で、他の子供たちと閉じ込められて。
どうして僕は早く死ねないんだ?ここから出る夢さえも、もう無謀だって知っているのに。ここから出られる未来なんて、あるはずないのに。
かつて姉が教えてくれたおとぎ話も、彼女の笑顔も忘れてしまった。

紅い夕焼けに吸い込まれて、姉が居なくなった今その話は、誰も知らずに消えた。