二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 【魔法少女】嗚呼、きっとそれは【まどか☆マギカ】 ( No.44 )
- 日時: 2013/03/14 17:16
- 名前: おなかへった ◆scEpNWmRjQ (ID: EdkNSjYc)
見滝原中学校は全面、ガラス張りとなっている珍しい校舎だ。その意匠は教室や廊下の様子を誰もが見えるようにし、死角を無くすために設けられたそうだ。プライバシーを尊重しないのかと苦情が来ている一面、これによって陰湿ないじめは防がれているという声も出ている。
そんな賛否両論あるデザインだが、今の鹿目まどかにとってはかなり不必要な——というよりかなり恥ずかしい——ものだった。彼女は転校生と廊下を歩いている最中である。その転校生がかなりの美少女なので、周りの人の視線は彼女に自然と向けられる。それは廊下にいる人々だけでなく、窓が透き通っていることから教室にいる生徒の目線までも集めてしまう。
自分に向けられているのではない。暁美ほむらという黒髪の少女に注目しているのだ。分かっているはずなのに、どうしても自分まで注目されているような気がして。まどかは下を向いてじっと羞恥心に耐えていた。
「あ、あの・・・・・・その」
沈黙のまま保健室まで二人、歩くというのも気まずい。まどかは何とか喉元から声を絞る。そしてか細い、頼りない声で問う。
「私が保健係って、どうして・・・・・・」
返事がこない。まどかは眉を下げて、目を伏せる。
「早乙女先生から聞いたの」
少しの沈黙の後、ぽつりとほむらは口から漏らした。
「あっ、そうなんだ。えっとさ、保健室は・・・・・・」
「こっちよね」
迷いもない口調で、彼女は左に曲がる。
「うん、そうなんだけど。いやぁ・・・・・・だからその、もしかして場所知ってるのかなって」
「・・・・・・」
今度は何も答えず、ほむらは歩みを進める。
「暁美、さん?」
様子を伺うまどか。
ぐっ、とほむらは口を食いしばる。
「・・・・・・ほむらでいいわ」
「ほむら、ちゃん」
「何かしら」
少しだけ、淡々と放つ声が強張っていた。
「変わった名前だよね! いや、だからあのね、変な意味じゃなくてね。その、かっこいいなぁって」
しどろもどろに、まどかは自分の言葉の意味を補う。
ほむらの口が、ますます固く閉ざされる。ついには歯を食いしばるようになった。
くるり。ほむらはつま先を軸に回転し、後ろを向く。さらり、長い黒髪がたなびく。
「鹿目まどか。貴方は自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」
唐突に尋ねたほむらだが、表情は真剣だった。伏せがちな紫の瞳も、しっかりとまどかを見据えており、決してふざけ半分では無いことが理解できる。
「えっと・・・・・・」
けれどもまどかは彼女の 摯実 な態度に戸惑ってしまう。
「私は・・・・・・大切、だよ。家族も、友達の皆も。大好きで、とっても大事な人達だよ」
「・・・・・・本当に」
「本当だよ、嘘なわけないよ!」
いつもは自信のないまどかだが、これだけは胸を張って断言できる。
彼女にとって友達はいつも一緒にいてくれる大切な人。
彼女にとって家族は失くしたくないかけがえのない人。
そう、臆することなく言える。
「・・・・・・そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね。さもなければ、全てを失うことになる」
落ち着いたトーンも相まって、ほむらの警告がより重く聞こえた。
「貴方は、鹿目まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも」
謎めいた一言を放ち、ほむらは足を踏み出した。
足音が、二人だけの渡り廊下に反響する。
まどかは呆然と、黒髪の転校生の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。