二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.112 )
- 日時: 2013/01/24 22:49
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
2.
——翌日。
珍しく早く寝て、ぐっすりと眠ったはいいが、これまた珍しくちっとも起きてこないマルヴィナを
ひっぱたきくすぐり怒鳴り耳を引っ張り挙句の果てにはチョップまで一発かましたシェナだが、
やはり何をしてもダメである。普通なら何かしらの状態異常を考えるだろうが、
しつこく寝返りを打ちもにょもにょ何かを呟いているのだから、
やはり寝起きが悪い問題であろうということが分かる。
というわけで、シェナはついに最終手段をとることにする。軽く身構え、
マルヴィナに向かって投げないようにするために集中し、そして。
「………………ドルマ」
マルヴィナの頭上で、ぶぉすぶぅすぶぉすぶすっ、という何とも珍妙な音がして、
「ひいっ!?」
マルヴィナ、いきなり生じた闇の気配に、戦闘の危機感を覚えてがばっと起床。
シェナは慌てて唱えるのを止める。目を高速でしばたたかせ、
呆然とするマルヴィナに対し、「おはよう」とそっけなく言うのであった。
「しぇしぇしぇシェナぁぁっ? アンタなんてことをっ…」
「はい、さっさと準備する」
さらりと受け流される。
憮然とした表情でマルヴィナはフェンサードレスに腕を通す。
そんなマルヴィナに、シェナは「珍しいわね」と話しかける。
「何が?」
「だから、最後に起きるなんて。セリアスじゃあるまいし」
隣の部屋からセリアスの盛大なクシャミが聞こえる。
「んー…なんか、目覚めがすっきりしないなぁ…こんなにいい宿だったのに」
「えぇ?」シェナは眉を片方持ち上げる。
「私はぐっすりすっきりよ。…まさかマルヴィナ、こんなところで睡眠薬でも飲んだ?」
茶化すつもりで言ったのだが、マルヴィナは何と「…それかも」と言い出した。シェナは引く。
薬草がいい例であるように、人間の薬も天使には効く。可能性は否定できなかった。
「イヤ自分で飲んだわけじゃあないんだが…なんだろ…昨日の夜から、どーもねぇ…」
「か、仮にも女性であるマルヴィナに睡眠薬って…い、異常はないわよね!?」
「仮にもってなんだ仮にもって。わたしはれっきとした女だ…でも、気にはなる」
あくびをしかけたマルヴィナ、そこで目をしっかり見開く。急にベッドの下を覗きこみ、
そこに隠した女神の果実を確認する。問題ない。三つ、確かにそこにあった。マルヴィナは嘆息した。
「よかった。もしこれが狙われたら、シャレになんないしね。危ない危ない」
「そうね。…って、まさかほんとにその果実狙われたんじゃないでしょうね…?」
シェナは訝しんでそう呟く。マルヴィナは肩をすくめ、
「まぁ、シェナが来た以上、確認できなくなっちゃったけれどね」と言う。
問い返すシェナに、マルヴィナは個室の扉を指した。
「下の方。見えるだろ? テープが」
シェナが扉の下に目をやると、なるほどそこに、傷を負ったときに使用するテープが、扉が開くと
剥がれる位置に貼ってあった。マルヴィナが寝る前に貼り付けたものである。
こうすれば、マルヴィナが寝ている間に何かが侵入した時テープがはがれたことになり、
翌朝マルヴィナは侵入者の存在に気付けると言う仕組みだったのだが——今はシェナが入ってきたために、
シェナが来る前にそのテープはどうなっていたのかが分からないのである。
「…………………………………」
ようやくその意味に気付き、シェナは絶句した。しまった、と冷や汗混じりにようやく呟く。
マルヴィナは笑い、考えすぎかもしれないし、いいよ、となだめる。シェナは微妙な表情で頷くのだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.113 )
- 日時: 2013/01/24 22:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
マキナの家は、ハイリーの言った通り、使用人が誰もいなかった。一見豪華な屋敷も、
埃の積もったテーブルや額縁が目立ってしまい、どことなく静けさを感じる。
「掃除、していないのかしら」
「誰かが出入りした形跡は残っている…な」
無論、床にも積もるものは積もっていた。
よくよく見てみれば、足跡がついているのである。妙にその跡が大きいのが気になるのだが。
「で。着いたはいいけど、どーすんだ…?」
セリアスが呟いて、反応はない。沈黙が落ちたときに響いたのは、別の声だった。
「マーキーナーちゃんっ! あっそびに来たよ〜っ」
甲高い、艶っぽい女の声がする。四人はあまりにも似つかわしくないその声に、
思わずびくりと体を硬直させる。声の主を見ようとそれぞれ視線を一点に集める。
そこにいたのは、明らかに遊んでいいような歳でない町の住民の大人たち。
どやどや、何のためらいもなく、一つの部屋へ向かう様を見て、キルガは
「とりあえず、ついていくか?」
苦笑まじりに尋ねるが、もちろん道に、あるいは屋敷に迷いたくはないので、頷いた。
「怪しい人みたいだな、ここの住民たちは」
「…僕らも充分に怪しいと思う」
部屋の扉の横に立ち、ほぼ盗み聞き状態である。確かにマルヴィナの言える台詞ではなかった。
さておき、怪しい四人組、自然と黙る。中から、初めに訪れた女の声が真っ先に聞こえた。
「マキナちゃ〜ん、遊びに来たよん」
(仕事しろよ、仕事)
と思ったのはセリアスである。
女は手にしたリボンをひらひらさせ、作り笑いを浮かべる。化粧の濃いその表情は結構怖かった。
隣にもいる。武闘家風の、筋肉ムキムキと言うのが一番ふさわしい男である。
しかしその右手にあるのは、爪や棍ではなく、ケーキである。恐ろしいほどに似合っていなかった。
「今日はさ、マキナさんのためにケーキ作ってきたんだ」
武闘家風男、にこやかに嘘をつく。
(…明らかに買ったものだろう…)
と思ったのはキルガである。宿屋で商品として売られていたのを見たことがある。
が、この際それはどうでもよいことであった。一番驚いたのは、マキナの反応である。
「ありがとう。ケ…キ? ケキー? 花瓶に入れて飾っておくわね」
(…は?)
四人、大体同じタイミングで頭上に疑問符を浮かべた。
「もー、あんたは黙ってなよ! …ね、マキナちゃん。
いっつもおんなじリボンしてるでしょお? 新しーの、あげるー」
(…この喋り方、この町の特徴なのかしら)
と思ったのはシェナである。
が、やはり気になるマキナの反応は、簡潔であった。
「いらない!」
(短っ!)
これはさすがに、四人同時に思った。
もちろん、即答で拒絶された女は焦り、説明を始める。
「な、何でっ!? 色も模様も可愛いし、」
(…流行遅れよ、それは)もちろんシェナである。
が、マキナ、聞く耳持たず。
「いらないったらいらない! これは大切なおともだちとお揃いだもん。いらない、帰って。もう絶交よ!」
「ちょ、ちょっと、待ってよぉっ」
その様子を耳に、盗み聞きの四人、沈黙。
「強敵だ」マルヴィナ、
「恐るべし女神の果実、よね?」シェナ、
「つか女神より悪魔では…?」セリアス、
そして、
「…誰が話す? 船のことは」
キルガがぽつり呟く。
「………………………………………………」
もちろん、うまく話す自信のない四人は、思い切り黙り込む。
「…仕方ない。多数決だ。せーので、行くに相応しい人を指差す。いいか?」
マルヴィナが言い、異議はない。
「…せーの」
決!
マルヴィナが指したのはシェナ。シェナが指したのはセリアス。
セリアスが指したのはキルガ。キルガが指したのはマルヴィナ。
「…………………………………………………………………………………………………………………」
長い沈黙。
「…1対1対1対1…」
「…どする?」
答えはない。こうなったら四人全員が行くか、とセリアスが言いかけた時。
「2ヨっ」
別な声が遮る。無論、この独特な話し方は、マルヴィナのフードを住処とするサンディであった。
「はい?」
問い返す四人に、サンディは得意げに胸をそらす。
「だってアタシ、マルヴィナ指してマスから」
言いながら、サンディは長い爪をマルヴィナに突きつける。
「………は?」マルヴィナがやや遅れて反応し、
「…なら、多数決でマルヴィナ?」キルガ、
「そーみたーい」シェナ、
「…がんばれー」セリアス。
「ちょ…ちょっと待て、そんなんアリか—————っ!?」
叫びこそしなかったものの、マルヴィナは心の中で屋敷をひっくり返すほどの勢いで虚しく抗議した。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.114 )
- 日時: 2013/01/24 22:55
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
デグマ、顔も頭も、名前からしても悪そうな筋肉ムキムキのそいつは、
サンマロウ最大の屋敷の前でウロウロしていた。
「あの屋敷で…遊び人…ちぃと眠らして…いや、金は…ぶつぶつ」
どう考えても怪しいデグマは、肩をごりごり鳴らして筋肉を盛り上がらせる。
そして、先ほど目の前の屋敷に入って行った四人の若者の内の一人の後姿を思い出す。
「…しかし、何だ。あの女。どっかで…むぅ、思い出せん」
「兄キぃ〜〜〜っ」
考えているところに飛んできたその大声に、デグマはぎょっと振り返る。そして、叫ぶ。
「…だぁっ! 何でっ、お前が来たぁっ」
「うぃっす。備えありゃウレーなしって」
「お前なんぞ備えておきゃともウレーはないっ」
「へぇ。そっすか」
ペコペコしている奴はクルト、自称デグマの弟分である。デグマと違い名前はいたって普通だが、
見た目がひどい。黒頭巾、黒装束、ナイフ、見た目通りのチンケな盗賊である。
「で、兄キ。計画の事っすが——」
クルトが大声でそんなことを言い、デグマがあわててクルトの口をふさぎかけた時。
「———————————————————————っ!!」
目の前の屋敷からのとてつもない怒りの叫びが聞こえてくる。クルトよりも明らかに大きなその声に、
屋敷周辺にいた人々が思わず足を止める、が、何故かあぁまたか、と言いたげな表情で
やるべき行動に戻ってしまった。
そして続いて、どやどや走る音に悲鳴の連鎖。
「ななな何だぁ…?」
「兄キ、ヤバいでやす。一回引きやしょうッ」
もちろんこの怪しい二人組、あぁまたかといってこれから移そうとしている行動をするわけにはいかない。
こそこそ逃げ隠れたのと同時、マルヴィナたち四人は追い出されて文字通り転がり落ちてきた。
「ってぇ…何だ今のはっ」マルヴィナ憤慨、
「うーん嫌われたねぇマルヴィナ」シェナのんびり、
「一体何をしたんだ? 急に怒らせるなんて」キルガ一言、
「ま、マルヴィナ女友達少ないからな」セリアス苦笑。
「…だったらなんでわたしを選んだんだっ」再びマルヴィナ、
「イヤ俺はキルガ指したから」セリアス弁解、
「ゴメン僕だ」キルガさらり。
「キルガ…反省していないだろ」マルヴィナジト目、
「何で行かせたの?」シェナが訊ね、
「…無意識に」キルガが答え、
「好きな人を選べって問いじゃなかったわよ?」シェナが笑い、
「…………………………」キルガは黙る。
要するに、彼らはマキナを怒らせてしまい、屋敷を追い出されたのである。
四人以外にも追い出された人々の内の、礼のリボンを持ってきた女は、しばらく呆然としてから、
「ちょ…ちょっとぉ、あんたのせいでマキナちゃん怒っちゃったじゃない!! こっちは生活かかってんのよ!?」
マルヴィナにいきなり食ってかかる。
マルヴィナは、へぇ、そんなんで友達気取りかよと言い返してやろうと思ったが、
キルガに無言のままに首根っこをつかまれ、首が絞まったせいで実行不可能となる。
「ところで、彼女はいつもあのように激しく怒るのですか?」
マルヴィナの代わりにキルガがそう尋ねる。マルヴィナの首根っこはつかんだままである。
「むー! むー!」
マルヴィナがじたばたするが、当然明らかにキルガの方が力が強いので、無駄な努力でしかなかった。
「キルガ…やるわね」
シェナが呟いていたような。
ともかく、その光景は別として、いきなり若い美青年に声をかけられた女は、
怒りにぎゅうと曲げていた眉をいきなり元に戻すと、思いっきり声色を高くして答え始めた。
「えぇー?(ここで小声で、あら可愛い、とか言っていた気がする byセリアス)そぉねぇ、時々かなぁ〜?」
明らかに年上の、色目を使っているその女に、キルガはとりあえず身を若干引きつつ、もう一度問う。
「彼女のことをよく知る人といえば?」
「詳しい人ぉ? そーねー、からくり屋のジイさ…おじーちゃんじゃなぁい? 教会裏に住んでるってぇ」
「そうですか」
キルガはさっと礼をして、思い切り逃げるように苦笑するセリアスとシェナの元へ戻る。
「むぁー、むぁー、むぇーーーっ」
干からびたカモのような声をあげてマルヴィナが再びじたばたする。
首根っこをつかんでいたことを忘れていたキルガは、あぁゴメン、と再び反省っ気のない声色で謝り、
マルヴィナを解放する。
「うぅ…キぃルぅガぁ———っ」
「モテモテですねぇ」
マルヴィナの恨みがましい声に続くように、シェナがくすくす笑って言った。
キルガは顔をしかめ、「やめてくれ。…ああいう人は正直、苦手なんだ」と答えた。
…マルヴィナのことは一応無視しておいた。
「はは、分かる分かる」セリアスが軽く笑う。「で、なんて?」
「からくり屋の男性」キルガは答える。「マルヴィナ、地図を…ごめんごめん、悪かったよ」
ふくれっ面を続けるマルヴィナに、先ほどよりは反省したような声でキルガは謝る。
むぅ、とうなってから、マルヴィナは仕方なしにサンマロウの地図を広げ、三人に見せる。
「教会の裏、だったよね」マルヴィナは地図を指でたどる。
「教会…あった。…けれど、裏って…な、何もないじゃないか…?」
実際の答えは、教会の横、であった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.115 )
- 日時: 2013/01/24 22:57
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「ごめんくださぁい」
教会の横の家、からくり屋の老人の住む家を四人は訪れる。
マルヴィナが扉を叩いてそう声をかけたが、反応はない。
もう一度、先ほどより声を大きくして叫んだ。が、やはり誰も出てこない。
「あー、あるよな、こういうの」セリアスが言う。
「どういうの?」
「ほら、扉を叩いてもだれも出てこなくて、開けようとすると鍵が開いてる。
キィー、って扉開けてみると、中で人間が倒れててうわぁぁぁなんてコトに…あっ、イヤ」
サンディ含む四人の思いっきり冷めた視線に、セリアスは「冗談です」と頭を垂れ、片手をひらりと振る。
が、手をかけた扉を押したとき、開く音がする。
「はっ?」
少しだけではあるが——確かに開いていた。
「……あの、まさか、ねぇ?」
マルヴィナがキルガに確認し、キルガはシェナに助け舟を出し、
シェナはさぁ? と言うように肩をすくめる。その反応を見たマルヴィナは、手に微妙に力を入れ、
一拍置いてから、一気に扉を押しあけた。開けたが。
「うっわぁぁぁぁぁぁあああっ!?」
・・・・・
…本当に叫ぶこととなった。立っている一人の男に。
…しかし、目はどんより、隈が浮き出て、頬がこけた、半死人のような形相である。
一瞬ルーフィンが化けて出てきたかと思った。
「あぁ…ひとの耳元で大声出さないでください…僕はあんまり寝てないんですよぉ…」
お前やっぱりルーフィンの親戚!? とセリアスは言ってやろうかと思った。
キルガとセリアスの反応は割と普通だったが、
マルヴィナは扉を開けた張本人と言うこともあり、相当動揺していた。
「あ、あ、あ、の、そのぉ、か、からくり屋の、って、ここ、です、よね?」
久々マルヴィナの敬語である。
「からくり…? あぁ…親父なら、後ろに」
そう言って、ルーフィンもどきは一番後ろにいたシェナを——いや、シェナの後ろを指す。
「えっ?」
シェナが問い返し、そういえばなんか後ろから気配がと早口に思い、そろそろと振り返り。
「っきゃあああああっ!?」
マルヴィナたちは、そう言えば初めてシェナの悲鳴を聞くことになる。
「いやすまんすまん。驚かすつもりじゃなかったんだ」
ヌッと、シェナの後ろに立っていたからくり屋のおじいさんは、カラカラ笑ってそう言った。が。
「…………………………………………………………………………………。かちかち」
シェナの反応は変わらない。
本気で驚いたシェナは、マルヴィナの後ろから彼女の肩をぎゅうと掴んで、
奥歯を必死に噛みしめるも相当鳴らして、真っ赤な顔で睨んでいる。ちなみに涙目。
「あの、シェナ。痛い。肩」
「…………我慢して」
「無理」
「我慢」
「…………………………………………」
即答に即答で返され、何でわたしが申し訳ないような気分に陥るんだ? と自分自身に疑問を抱くマルヴィナ。
ひとまずその二人をそのままにしておき、セリアスが訪ねてきた理由を話す。
キルガはマルヴィナに助けを求められて首をつかまれていた。…多分さっきの恨みも込めてだろう。
「おじさんなら、マキナに会えるんじゃないか?」
「マキナさま、かい? そりゃな」
「イヤ実は、マキナが部屋に引きこもっちまって」
「マキナさまがっ?」
あぁそこの肩掴まれてる人付き合い悪い&がさつ女が怒らせて、とは言わず(言えず)頷くセリアス。
「ふぅぅぅむ。心配じゃの。分かった。儂も行こう。もしかしたら、また悪い病気が出たのかもしれん」
イヤそうじゃないんだけど、とはやはり言わなかった。
「ほれ、行くぞ。…シェナ、いい加減落ち着け——どっ、わっ、だっ、痛い痛いシェナやめろろろっ!?」
最終的に、セリアスがシェナに無言のまま五発叩かれた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.116 )
- 日時: 2013/01/24 22:59
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
四人はからくり屋のおじさんを加えて再びマキナ宅へ。行ったり来たり忙しい。
シェナがマルヴィナの後ろにつきながら、あたりを見わたし——ふっと、視線を止めた。
町の民の中に、見覚えのある人物がいたような気がしたのだ。背中を見せ、
何かが入っているらしい大きな袋を担いで歩いていく、あらくれの男。
「…あいつ…」
「ん? どしたのシェナ?」
マルヴィナがその呟きに反応して、問うた。シェナは、何でもない、と応え、マルヴィナの後ろを追った。
すっかり人気のなくなった屋敷に入り、彼らは遠慮がちにマキナの部屋へと足を踏み入れる。
手を付けていないままのケーキがぽつんと、妙に悲しく置き去りにされていた。
さらに奥の扉の前にからくり屋のおじさんが立ち、扉を叩く。反応はなかった。
「…? マキナ様、失礼しますよ——」
取っ手に手をかける。かちゃっ、と小さな音がして、若干部屋の中が見える。
「…ちょっ、まさか今度こそ中でうわぁぁぁなんて——あでっ」
すかさずセリアスにシェナチョップが決まる。
「寝ておられるのだろうか」
ふうむ、と唸るからくり職人。キルガが「そういえば」と急に声を出す。
「…さっき、怪しげな男がいませんでしたか? やけに大きな袋を持った…なんとなく、引っかかる」
「あぁ、いたな。あらくれみたいな——」マルヴィナの言葉が途切れる。急いで、その場で叫ぶ。
「…開けてくれ、嫌な予感がするんだ!」
さっと青くなった表情と、切羽詰まった声に、セリアスが「やめてくれぇ」と情けない声をあげる。
「マルヴィナの悪い予感、外れたことないんだからよ…」
言われるがままに扉を開け、ざっと部屋を見渡す。マキナの姿はなかった。出かけたのだろうか。
いや、それならいいが、何故、こんなにも不安なのだろう?
「何か、妙なものはないですか」キルガだ。「何でもいい。あなたの方が詳しいはずだ」
キルガはマルヴィナの“嫌な予感”を信じ、からくり職人に尋ねる。もう一度部屋を見渡し——
「…人形が…」
そう、呟いた。
「「人形」」マルヴィナとキルガの声が重なる。
「あぁ。マキナさまの等身大の、本当にそっくりに仕上げた人形だ。マキナさまは病弱で、
外には出られなかったからな。少しでも友達として思ってくれるようにと考えて」
ふぅむ、と三人が唸った時。
「………おい。これ……」
セリアスの、シェナを除いた三人を呼ぶ声がした。隣にいたシェナが、一枚の羊皮紙を突きつける。
羊皮紙には、まるで書き殴ったような字が乱雑に並んでいた——…。
【 娘は預かった
カネを持って北の洞窟まで来い 】
「…これって」
マルヴィナの考えたことは、他の四人と同じであった。
「た…大変だ…っっ」
からくり職人は、急いで屋敷を飛び出すと——町の住民たちに向かって、叫んだ。
「マキナさまが…マキナさまが、さらわれた!」