二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.128 )
- 日時: 2013/01/24 23:32
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
4.
「遂に見つけたぞ、天使どもよ!!」
リレミト
シェナの脱出呪文で外へ出た四人を待ち受けていたのは、血を吸ったかの如く紅き鎧に身を包んだ、
計三人の兵士だった。武装した姿と、自分たちの正体を知っていたことに驚愕を隠せない。
問答無用で突きつけられる剣。はっと身構える。
「………?」声の主が見えなくて、シェナはセリアスの陰から兵士たちを覗いた。
…そして、その時。
「———————————————————————っ!!」
シェナは、唇に両の手を当て、硬直した。目を見開き、腕を震わせ、じわりと汗をかく。
瞳の色は、はっきりと——恐怖。先ほどのマルヴィナと、同じように。
「…何者だ!」
マルヴィナは声を押し殺して、叫ぶ。
そうしたのは、まだかすかに残る恐怖を払いのけるためでもあった。
さっと、キルガがマルヴィナの前に庇うように立ちはだかる。が、マルヴィナは気付いた。
彼が珍しく震えていることに。圧倒されるような、ちりちりと突き刺さるような——
そんな雰囲気を漂わせるどこかの国の兵士に。
「ふ…我が称号は“高乱戦者”、名はシダード。
ガナサダイ皇帝陛下治めしガナン帝国の誇り高き兵士だ」
律儀に答えた兵士の言葉に、シェナの顔色がいよいよ白くなる。
じり、と後退りしたが、それに気付く者はいなかった。
「ガナン…帝国…?」
(知っている)
マルヴィナは、胸のあたりがぞわりとするのを感じた。
(ガナン帝国…いや、しかし、あれは——!)
「単刀直入に言おう。女神の果実をよこせ」
「なっ」
叫んだのは、セリアスだ。
「冗談じゃねぇ。誰がお前らみたいな怪しい奴に!」
「右に同じだ、さっさと国に帰って叱られていろ」キルガもまた、言う。
自分たちの正体を知っているものに果実のことをはぐらかす余地はない。
兵士はニタリ、といやらしく笑うと、突きつけたままの剣の柄を持つ手に
亀裂を走らせんばかりの力を込める。
「…ほう。抗うか。しかたない。力ずくで、奪ってやろうぞ」
言うが早いか、後ろの兵士二人もまた金属音を立てて剣を引き抜く。
“高乱戦者”と名乗る兵士は、一番近くのキルガを狙った。左手に持っていた槍を素早く持ち替え、
キルガは相手の腹部をつくと見せかけて、一瞬のうちに一番やわらかい喉元を狙って突きつけた。
寸でのところで足を止めた兵士は、さっと身を引き、にやりと笑う。
「ふ、なかなか。だが、所詮槍。剣には勝てぬ!」
なめんなよ槍を、と、もし槍の使い手がセリアスだったらそう言っただろうが、キルガなので聞き流す。が、そのキルガも、次の言葉には黙っていられなかった。
「ハンデでもくれてやろう。剣は剣同士で戦うのが適している」
意味を理解するのに少々時間を有した。キルガははっとする。
剣士は、マルヴィナしかいない。なにがハンデだ。
「勝手にそんなことを…」さっきのことでまだ精神的に不安定なマルヴィナを気遣い、
キルガは抗議した、が。
「…わたしなら大丈夫だ、キルガ」
キルガの心配を読み取ったようにマルヴィナは言う。
「あぁ…かまわない。相手をしよう。…みんなは、残る奴らに気を付けて」
キルガに一度微笑んでから、マルヴィナは進み出た。
不安でひきつった表情を見せるキルガに、セリアスは落ちつけよ、と一言言った。
「歌と剣を相手にした時のマルヴィナは最強だ。簡単にやられるはずがない」
「くっ…」
押し潰されそうな心臓をおさえ、キルガは目を強く閉じ——
「——行くぜ」
「…あぁ」
セリアスの一言に答え、残る兵士二人の動きに集中した。
誰もまだ、シェナの様子に、気付いてはいなかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.129 )
- 日時: 2013/01/25 11:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
マルヴィナは腰の剣に手をのせ、じゃっ、と音を立て一気に引き抜いた。
順手にしっかりと持ち、ピタリと止める。マルヴィナは剣に意識を集中させながら、相手の剣を見た。
構え方からして、なかなかの有段者だ。
・・
(あの剣…確実に、これより上等だ)
残っていた兵士二人が動く。キルガとセリアスは素早く目を合わせた。
「俺はあっちを担当する」
「了解」
セリアスが左に、キルガが右に。それぞれ散った時、キルガは、シェナの様子にようやく気付いた。
拳を固め、顔を伏せ、若干震える彼女に。
「………?」
いやまさか、さっきのマルヴィナのように、赤い鎧を見ていられないというわけではなさそうだが、
だったら何故、あれだけ震えている? …まさか、知っているのか?
「っ」
考え込むと、どうしてもそちらに意識がいってしまう。危ない危ない、と、
キルガは集中する先を変更する。あとから考えればいい。大丈夫。大した敵ではない!
セリアスもまた、そう苦戦しているわけではなさそうだ。
互角、どちらかといえば、セリアスの方が優位である。
が——マルヴィナは。
(このままじゃ、こっちはそうはいかないかもしれない)
相手は上物の剣、こっちは刃の欠けかけた剣。実力以前に、根本的なところから不利であった。
(…なるべく、刃を交わさない方がいいな)
戦術を素早く組み立て、マルヴィナはじりじりと間合いを詰めた。と、相手が向かってくる。
「!?」
(は、速——)
——————……ィンッ………!
耳障りな金属音を立て、ふたつの剣が交錯した。やはり相手は大の男、力は強い。
強い力を込められて無事ではないのは、天使であるマルヴィナではない、剣の方である。
これが通常の剣であれば、こんな攻撃、大したことはないのに——…
(…くっ、しまっ…た…っ!)
このまま剣を折られたらたまったものじゃない——思ったことは、現実となる。
刃独特の音を立て、マルヴィナの剣が半ばから折れ飛ぶ。
「ッ!!」
相手の剣が振り下ろされる!! が、これを躱せないほど、マルヴィナものんびりとはしていない。
辛うじて後ろに跳び、後から冷や汗を浮かべる。闇色の髪が散っていた。
バクつく心臓をおさえ、折れた剣を見て悔しげに呟く。
「刃砕き、か…!」
「どうした、“天性の剣姫”。貴殿の力はこれほどではないはずだが?」
マルヴィナは目を見開く。
「…何故、そこまで知っている?」
自分たちを天使と呼んだ時点でおかしいとは思っていたのだが、自分の称号や実力まで知られていた。
特に、称号はまだ最近貰ったばかりである。
いつから奴らは自分たちのことを知っているのか…。 ワラ
「まぁ、仕方あるまい」マルヴィナの質問には答えず、兵士は邪笑う。
「睡眠薬を受けたその身体ではな…出せる本気も出せぬというもの」
「なっ!?」
これにはさすがに、キルガやセリアスも驚いた。
「そんなことまで…!」
「一体、何者なんだっ…?」
答えは再びの突進だった。マルヴィナは辛うじて身をかわし、歯ぎしりする。
このままじゃ、まともに戦えない。せめて、剣の代わりになるものがあれば——
「………………………仕方ない」
一言、マルヴィナは呟いた。目を閉じる。腕を下げ、隙だらけの格好となる。
「おい、なにやって」
セリアスの声を、無視する。そのままマルヴィナは、右手に持っていた剣を——
音を立てて、地面に放り捨てた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.130 )
- 日時: 2013/01/24 23:39
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「っ!?」
まさかのその行動に、さすがの兵士たちも度胆を抜かれた。
が、マルヴィナは。剣姫の名の如く、優雅に微笑むと——
「っ…はっ!!」
そのまま、気合の声を発し、深く腰を落として——回転。
キルガと戦っていた兵士にぶつかり、そして、そのままその手中の剣を奪い取る!!
「な、」
「何ィ!?」
驚愕の声を受け止め、マルヴィナはその勢いを止めることなく一気に相手の懐を薙いだ。
間一髪で兵士はその攻撃を避けたが、並の者では
確実に腹を切り裂かれていただろうというほどの早業だった。
しかも、たったそれだけの行動で、この重さと鋭さゆえに持ちにくいこの複雑な剣は
まるで忠実な生き物のように、マルヴィナの手にぴったりと馴染んだのである。
「なんだとっ。何故、貴様が瞬時に使いこなすことができる!?」
帝国の兵士ですら、この剣をまともに扱うのに数年かける。
それほどまでに扱いにくい剣だった——それを知っているからこそ、驚愕に叫ばずにはいられなかった。
「すげーぞマルヴィナ! さすがイザヤールさんの弟子!」
セリアスが勝ち誇ったように叫ぶ。キルガもまた、呆然とした兵士の隙を突き、
「マルヴィナの剣の実力を舐めるなよ!」
誇るように、そう叫んだ。
「イザヤールだと…!?」兵士が呟き、その後、にやりと笑う。「そうか…そういうことか!」
セリアスが顔をしかめた。…余計なことを言ったか? ——いや待て、それよりも——…。
マルヴィナは重く、速く剣を唸らせる。兵士はそれを辛うじて受け止める。
が、この恐ろしく剣の腕に冴えた天使は、勝利の確信を表情に出した。
このまま戦いが続けば、不利になるのは明らかに兵士の方である。
果実はあきらめた方がよい。大丈夫だ、新たな、否——思った以上の収穫があった。
この不覚は帳消しにできる。
「…ふ、仕方ない、果実はあきらめるとしよう…!」
「えっ!?」
叫んだのはもちろん、部下の兵士二人である。思わず動きを止めた時にできた隙を
見逃すはずのないキルガとセリアスは、そのまま体当たりし、冷静にそれぞれの武器を突きつける。
セリアスは武器が斧なので、ほぼ断頭台のような状況だったが、動けない兵士は既に覚悟でもしたのか
目を思い切り閉じていた。マルヴィナは交錯した剣にさらに力を込めながら、逃がさせまいとする。
が、敵は素早く身を翻しそれを躱すと、そのまま嘲笑うような視線を彼女に向けた。
そしてそのとき、兵士は——飛んだ。跳んだのではなく。
「天使よ…覚えておくが良い! 貴様らは必ずいつか斃される。必ずな…」
だんだんと、声が小さくなってゆく。兵士は空に消えた。
呆然とする彼らの前に、油で光る羽がひらりと落ちてくる。
「…キメラの翼だ」
マルヴィナは苦々しげに言った。突きつけていた武器を元に戻し、
キルガとセリアスがマルヴィナの後ろからその羽を覗きこむ。置いて行かれた兵士二人は、
明らかな不利を感じ取り、すぐさま近くを流れていた川へ飛び込む。
鎧の重みで沈みかけるのを何とか防ぐようにしながら、派手に水飛沫を立てて逃げ始める。
「…行ったか」セリアスが呟く。
「ガナン、帝国…」キルガが復唱し——首を、傾げた。
「妙だな。初めて聞いたはずなのに…知っている気がする」
「キルガもか?」セリアスだ。
「俺もそう思ったんだ。バカな話だけど、それどころか…関わったことまであるような」
マルヴィナはその二人の会話に驚き、二人もなのか、と呟いた。
が、あえてそうは言わず、別の話題を出す。
「…ガナン帝国…何故、イザヤールさまのことを知っているんだろ」
「…悪い。俺、余計なこと言ったかもしれない」
「気にしないで」マルヴィナは言った。「そんなこと、分からなかったんだから」
「…いや、でも——すまん」
「…結局…何だったんだろうね」
「それに」キルガはシェナの様子のことを言おうとして、口をつぐんだ。
馬鹿馬鹿しい考えだった。そんなことがあるはずがない——そう言ってその考えを消したかった、
が、消したい一方で、その可能性を否定できない自分がいる。
シェナが、あの帝国とつながりがあるのではないか、という、その考えが。
「なんか…嫌な予感がするよ。すごく…嫌な…」
マルヴィナは呟き、不安げに敵国の剣を握りしめた——…。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.131 )
- 日時: 2013/01/24 23:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
プラチナメイル
翌日セリアスは、がばっ! と跳ね起きると、白金鎧を装着——しかけて、止めた。
鎧の重さに既に慣れてしまったので、何も着ていないようでむしろ戸惑ってしまう。
が、慣れれば結局楽であった。おっしゃ、やるぞ、と気合を入れてから、
一気に腹筋と背筋と腕立て伏せを各二百回ずつとなんとなくイメージトレーニングを済ませると、
朝のジョギングと言うには早すぎるスピードで宿を出て船着き場まで走る。
「おじさん!」
あっという間に着いてしまい、だが大して息も乱れてはおらず、そのままセリアスは叫んだ。
漁師ジャーマスにである。
「おぅ、セリアス。早ぇな」
「そりゃそうっすよ!」にっと笑ってから、次に仲間の肩をポンとたたいて、
「おっす、マルヴィナ」
ようやく挨拶をする。
が、マルヴィナは凶悪な仏頂面で「…おはよ」と呟く、あるいは唸ると、
「…あんたさ。いきなり“おじさん!”はないだろ。
わたしにかと思ってつい“わたしは女だ!”って思ったぞ」
「はは、悪ぃ悪ぃ。つーわけで、おはようございます、ジャーマスさん」
「おぅよ」ジャーマスはそこらの岩ほどにもある拳を引き締まった腰に当て、にやりと笑った。
「よし、セリアス。今から俺が船乗りの基礎からみ〜〜〜っちり教え込んでやる。ついて来れるかっ!」
「ついて行きますっ!」
「よぉし! よく言ったぁ!」
叫ぶ男どもを前に、マルヴィナは「…ついて行けるか」とかなんとかなんとか呟き、早々に退散する。
マルヴィナはその後、自分のフードを覗き見た。果実は——四つ。
マキナの家の裏の、小さな墓に——それはあった。マキナの墓。そして、そこに寄り添うように、
人形マウリヤは座っていた。もう動かないマウリヤの横に、果実は残されていたのである。
そして彼女の言伝で、船はマルヴィナたちに譲る、ということになった。
彼らは手を叩き、伸び上がって喜んだのだが、
「誰が動かすのヨ」
というサンディの珍しく冷静かつもっともな意見の元、
彼らの歓喜は空気の抜けた風船の如くしゅうううう、としぼんでいったのだった。
そこで手をあげたのがセリアスである。
彼は四人の中では機械や仕掛けなどを解くのが最も得意であった。
そのことから、だったら自分が船を操縦すると言い出したのである。
だが、彼も当然船というものを人間界に落ちて初めて見たので、右も左もわからない状態だったのだが、
そんなセリアスに指導(?)してやると出てきたのがジャーマスであった。
…というわけでこの状況なのだが。そんなことを思い出しつつ、
マルヴィナは集まった果実を見て、ひとりにやにやと笑っていた。おそらく誰かが見ていたら
怪しい人だと思われただろうが、幸い周りには誰もいない。
それにしても。もしかしたらわたしたちって、凄いのかもしれない、と少しだけ自惚れてみる。
もう果実が四つも集まったのだ。折り返し地点。嬉しいし、誇らしい、——のだが。
(…………………………………………………重い)
やはりさすがにフードに四つも入っていると首が絞まる。
(あ〜頼むセリアス。早く乗れるようになって。んで倉庫かなんかにしまわせてくれぇ)
やはり自分で管理すると言うのは少々厳しかった、と後悔しているところ——
「だいじょぶ? マルヴィナ」
そのフードがいきなり軽くなる。「はぶっ!?」若干吹き出しつつ、マルヴィナは面食らって振り返る。
そこには、昨日の様子はどこへやらの、ひょうひょうとした表情のシェナがフードを掴んで立っていた。
「しぇ、シェナかぁ。びっくりした」
「なんで? ——あ、これ、ハイリーさんから。今回の事件解決のお礼だってさ」
「礼」マルヴィナはきょとんとして、シェナの差し出した白布の袋を受け取る。
じゃらっ、と音をたて、ずっしりとした重さを感じつつ、袋の紐を解く。
…中には銅貨と銀貨が入っていた。銀貨も一枚二枚ではない。
「…………………………………うわわわわわわ」マルヴィナ乱心。
「た、た、大金じゃないか。こんなに受け取れない」
「んー。いいんじゃない? それにしても、ハイリーさんてお金持ちなのねぇ」
どうやらこの貨幣はすべてハイリーが用意したらしい。
マジかよ、と言いそうになるのをこらえつつ、マルヴィナは恐縮しつつもシェナに返しておく。
「キルガは?」受け取って、シェナは尋ねた。
「町長のところ」
「そ。…あれ」
答えてから、シェナは首を伸ばし、遠くを見た。ハイリーの姿が見えたのである。
「うーん…やっぱりハイリーさんて、謎よねぇ…行動といい、このお金といい…マルヴィナ?」
ねぇ、と同意を求めようとして——マルヴィナの目が、困惑と警戒の色になっていることに気付いた。
シェナは戸惑い、見比べる。相手は視線に気づかない。シェナは首を傾げる。
が、マルヴィナは、その時思った。
ハイリーの、気配、生気が——
…例の帝国に似ている、と。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.132 )
- 日時: 2013/01/24 23:44
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「グビアナ城に行ってみたいんだ」
日は巡る。
その日の夜、宿屋の夕食に舌鼓を打っていた一同に、キルガはそう言った。
船乗りの修行を圧倒的なというか異常なというか、
とにかくありえないスピードで終えてしまったセリアスは、
今やすっかり船を乗りまわせるようにとなっていた。
これにはさすがのジャーマスも引き、
「おまえ…本当は船、乗ったことあるだろう」
もちろんありません、とセリアスは即答したらしいが。
ともかく、そんなわけで船は正式に一向に譲り渡された。
大切に使えよ、と言われ、何故か契約書みたいなものを書かされた。
ちなみにマルヴィナが書いたので、サンマロウの民からは
マルヴィナ一人が船を受け取ったものと勘違いされていたりする。
「グビアナ城?」
マルヴィナは問い返す。
「セリアスには話したんだけれど。僕は天使界から、グビアナという名の国に落ちたんだ。
セントシュタインで戦士になれるように、グビアナでは聖騎士になることができてね」
「あぁ…もしかしてそこで、聖騎士に?」
「話が早いな」キルガは笑うと、頷いた。「まぁ…事情があって、修道院は追われたんだけれどね」
「あぁ、そうなんだ…そうだよね、キルガが自分からそんな短期間で
何かをやめるなんて言い出すわけがないからな、セリアスみたいに」
最後に呟かれたマルヴィナの一言に、スープをすすっていたセリアスが「ぶほっ」と言ってむせた。
少量が飛び散る。
「マルヴィナっ、なんつーことをっ」
「こぼれたのはわたしのせいじゃないぞ! さっさと拭け!」
「そーじゃねぇっ。明日船に乗せてやんねーぞっ」
「契約書を書いて正式に受け取ったのはわたしだ! あんたは運転手だ!」
「んじゃその船から突き落としてやる!」
「その言葉、そっくり返すぞド変態!」
「…………あの」とりあえず、シェナが一言。
「今、食事中なんだからさ。とりあえず手を動かしましょうよ。ついでにマルヴィナ、“航海士”ね」
「…………………………………………………」
のーんびりと言われ、二人は乾いた表情で黙り込む。ついでに脱力。シェナは無視した。
「…どこにあるのか分かってんのか、そこは」
セリアスは繕うように、話題を戻す。キルガは苦笑して、「分かっている」と答えた。
「北東だ。記憶に残っているし、訊いても見た。間違いない」
「北東か」マルヴィナはパンを千切り、口に放り込む。
「新天地だな。この辺りでちょっと、気を引き締めるとするか」
「あれ、行くこと決定?」セリアスが問い返す。
マルヴィナは肩をすくめ、「じゃあどこに行くと?」と抜け抜けと言ってみせる。
「まさか思い出つくりの旅に出るとか言わないわよね?」シェナまで便乗する。
当然返す言葉のないセリアスは、
「…なぁキルガ」
話し相手をキルガに変え、
「何?」
「女って怖いな」
「そうだね」
その後素早く目を合わせた女二人に男たち二人がボカスカ殴られる羽目にあったのは言うまでもない。
翌日、四人は旅立つ。
今回は、様々なことがありすぎた。女神の果実と船の入手、謎の帝国と——その記憶。
…その記憶を巡り、彼らの旅に新章が訪れることを——四人が、知るはずもなかった。
【 Ⅷ 親友 】 ——完。