二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.141 )
- 日時: 2013/01/26 17:09
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
【 Ⅸ 】 想見
1.
空は快晴、風は爽快。まさに船旅にはうってつけの気候。風に髪を躍らせ、マルヴィナは両手を広げた。
海が好きなのである。たなびく闇色の髪を見て、マルヴィナは少しだけすくってみた。
(…大分、伸びたな)
天使界から落ちた時は、確か肩に触れるか触れないか、という位の長さだった。
だが今は、しっかりとついている。
(…シェナは長いし、結構きれいなんだよな。……)
しばらく考え込んでから、マルヴィナは無意識にキルガを探した。そして、急にはっと気づき、
「っだから何だってんだっ!?」
つい、そう叫んだ。
「わっ!? な、何よいきなり! 叫ばないでよ心臓に悪いわねっ」
「わわわっ!? シェナ、い、いつからいたんだっ!?」
まさかシェナは、マルヴィナを驚かせようとして忍び寄っている途中でいきなり叫ばれて
自分が驚いてしまったなどとは言うわけにもいかず、うー、とかいう意味のなさない言葉を返しておいた。
「…で。なにが何だっていうの?」
シェナは落ち着いてから、そういった。今度はマルヴィナがうー、と意味のなさない言葉を返す側である。
(…何だったんだろ)
当然だ。自分にも分からないのだから。
そもそも、無意識とはいえ、何故今キルガを探してしまった? ・・・・・・
普通考えている内容からして、探す対象はシェナである。キルガってそういうこと詳しかったっけ?
いや、確かに頼りにはなるけれど、よく気を使ってくれるけれど、大切な戦友であることは変わりないけれど、
…なんなんだ? この、何か…うまく言い表せない、微妙な感じは。
「…最近、わたし、変じゃないか?」
「えっ?」
マルヴィナのいきなりのそんな質問に、シェナの声はひっくり返る。
「な、なななななな、なな、何が、何があったのマルヴィナ一体!?」
「…何だろうなぁ……ねぇ、キルガは?」
「え。船に酔って寝てるけど」
「………………………………………」
しばらく沈黙。
「…キルガ船酔いするんだ!?」
「確かにねぇ…普段丈夫なやつほど意外なものに弱い、とはよく言うわ」
「初めて聞いたよそれ」
まぁまぁ、と軽く答えてから、シェナは思った。
(…“キルガは”?)
…何故今、キルガのことを話題に出したのだろう?
それに、さっきの反応に、最近自分が変じゃないかなどと——
(……………あ)
シェナはたっぷり四秒考えて、そして、思った。
(……………もしかして)
海に視線を戻したマルヴィナを見て、シェナは一度くすりと笑い——
(船酔い野郎、あんたの想い、もしかしたら叶うのは遠くないかもよ?)
…と思ってやったのだが、
(…多分)
いつもの表情に戻りきってしまったその横顔を見直して、そう付け足しておいたのであった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.142 )
- 日時: 2013/01/26 17:12
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
一方噂の“船酔い野郎”、腕を目の上にのせて唸り中である。
「う…これだから船は嫌いなんだ…」
酔いながらもまともな感想が言えているのだが。
ジャーマスに乗せてもらった小舟も、ツォの浜の漁師に乗せてもらった舟でも、
実は調子が良くなかったのである。迷惑がかかるからと、ずっと我慢し続けていたのだが…
今回ばかりはさすがに限界が来た。
あー気分悪、とブツブツ呟きつつ、キルガが顔をしかめたまま寝返りをうったとき、
「あ〜も〜、風強すぎっ! これじゃヘアぼさになるんですケドっ!!」
何とも騒がしい奴が入ってきたりする。
「つかなんでマルヴィナもセリアスもアタシの箱舟ちゃん乗ってたトキ酔ったくせにこの船じゃ酔わないわけ」
というサンディの愚痴と、
「セリアスは運転(注:正しくは操縦)してるからともかくマルヴィナよマルヴィナ何でへーきなわけー!?」
という文句と、
「つかコサージュつぶれてるー。せっかくなおしたのにっ」
という意見などなど全てを、
「……………………………………………………………………………………………………………………」
キルガは不機嫌のハンコを額に付けていそうな表情で聞き流す。
(…頼むから静かにしてくれ)
もちろんその考えがサンディに届くことはないのだが。
「あ、ち—————っ…」
それから二日の時を経て、彼らは砂漠へ着く。
さすがに二日も揺られれば慣れたのか、キルガの顔色はそう悪い方ではなくなっていた。
一方で不機嫌顔なのがマルヴィナとサンディである。
マルヴィナはきっちりと止めていた胸元のボタンを外し、手団扇であおぐ。またもシェナが確認していた。
サンディはサンディで、やはり一人文句を言っていた。
「マジ、ヤバス。これいじょーアタシをこんがり美人にしてどーすんのヨッ」
そんなサンディに答えたのはマルヴィナである。
「美人かどーかはともかく、確かにそれ以上焦げたら
作るのに失敗した目玉焼きの白身並に黒くなりそうだね」
「例え長ってか焦げたって」
「えーだって、白身って本当に真っ黒になるしさ」
「方向性違うわよ」
セリアスとシェナ、二人がかりでマルヴィナにツッこんだのであった。
ともかく、彼らはグビアナ城を目指し歩き始める。
「そういや砂漠って、サソリ出るよな…」
セリアスが何気なく呟く。
「それを言ったらタラ——」
「シェナ言うなッ!!」
残りの四文字を言われる前に、キルガがあわてて制した。ン、まで言っていたシェナの唇が止まる。
そして、キルガの視線の先のマルヴィナを見て、あ、そっか、ごめんマルヴィナ、と口を閉じたのだった。
だが幸いマルヴィナは地図と格闘しており、会話を聞いていなかった。いなかったのだが。
「…ねぇみんな。…非常に、言いにくいんだけれど…」
という、微妙に不吉な言い回しをする。いや〜な予感のした三人は顔を見合わせ、セリアスが尋ねる。
「……………………ちなみに? 道に迷った以外の意見なら受け付けるが」
「じゃあ何も言わない」
「ん、ならいい」
「イヤ良くないだろうっ」あっさり答えてしまったセリアスに対しキルガが間髪を入れずにツッこんだ。
「道に迷ったのか、マルヴィナっ!?」
「んー。もしかしたらそうかもしれない」
同じようにあっさり言ってしまったマルヴィナに、暑さ以外の理由の若干のめまいを感じるキルガ。
「か、勘弁してくれよ…砂漠で遭難っていうのはかなり厳しいんだ…」
「キルガ、道、覚えてないわけ?」シェナが尋ねるが、さすがに一度通っただけで覚えられる状況ではない。
ましてや、(皆は道、道と言っているが)砂漠に“道”などありはしない。しかも今日は黄砂がたっている。
これで晴れていたら、そろそろ城の面影が見えるはずなのだが——
「…あっ」
と。キルガが、短く呟く。見渡していた砂漠の奥に、何かが見えたのである。
しかも、それは。見覚えのあるそれは。
「…聖騎士団…!」
それは、かつてキルガの所属していた、グビアナ聖騎士団の団員たちであった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.143 )
- 日時: 2013/01/26 17:15
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「…久しぶりね、キルガ」 ・・・
哀しいやら嬉しいやら、ともかく遭難者として聖騎士団に拾われ、
四人が馬車ならぬ駱駝車に乗らせてもらっているとき、そんな声が聞こえた。
む? と、そろって顔を見合わせる三人の前で、キルガはなんとなく苦々しげな表情となる。
この勝気、あるいは頑固そうな辛うじて女性の声で、真っ先に自分に声をかけてくる聖騎士といえば
一人しかいない。金色、短髪、身長は微妙に低く“さん”を付けるのが嫌いな、聖騎士団の小隊長、
「…パスリィ…」
及び天使界から落ちたキルガを真っ先に見つけた人物、パスリィである。
「何、そのシラケた顔は。…あらら、今回は、やけに大人数じゃない」
四人でか? と反論する気力もあまりない。
「…キルガ。知り合い?」
「……………………まぁ」
微妙に歯切れの悪いキルガに自分を紹介される前に、パスリィはさっさとマルヴィナに自己紹介をする。
「パスリィよ。グビアナ聖騎士団小隊長」
「…聖騎士団なのに小隊長なのか…?」何気なくセリアスがぼそりと呟くと。
「聖騎士団『白の隊』の小隊長。いちいち細かいところまで気にしてると禿げるわよ?」
遠慮容赦ないパスリィのツッコミが返ってきたりする。
何で初対面の人にここまで言われにゃならんのだとは思ったが、セリアスは反論しなかった。
横で賢明だとキルガがぼそりと言っていたような。
「…僕が天使界から落ちた時に、助けてくれた人なんだ」
小声で、そう伝える。皆納得したように頷いた。
「あぁ、なるほどね。…結構素敵な人じゃない」
シェナがくすりと笑う。「キルガとは相性悪そうだけどね」
「俺ともな」同情気味に頷くセリアス。
「で? まさか聖騎士に戻りに来たの?」
話をさっさと打ち切ると、パスリィはキルガにそう尋ねた。キルガはきっぱりと、「違う」と答える。
「様子を見に来たんだ」
キルガはそう言ってから、それに、と口中で呟いた。
それに——もしかしたら会えるかもしれない、と思ったのだ。
副団長であった——ハルクに。
そして——聖騎士団を追われる前夜に見た、金髪、灰色の瞳の、あの神秘的な女性に。
彼女を見つけた時、キルガは全身に雷が走ったような、不思議な感触を覚えたのだ。
別に恋心だとか、そういうものではない。ただ、彼女を見た時、キルガは、馬鹿な話だとは思うが——
“もう一人の自分”を端から見ているような、そんな感情を抱いた。容姿はまったく似ていない。
だが…雰囲気が、自分と一致する何かを漂わせていた。
彼女は一体何者なのだろう。それが知りたかったのだ。
「まだ戻って来ない方がいいわよ」
パスリィのその一言に、キルガは意識を取り戻す。
相変わらず考え事をすると周りの世界から意識を途切れさせてしまう。
本当は早く直したいのだが、そう簡単にいくものでもない。
「未だ全然女王から寄付金貰えないからね。最近ちょっとは金、できたけどさ。果物売ったおかげで」
ふぅん、と答えようとして。
「「「「…………………………………………………っ果物っ!?」」」」
見事に四人はハモる。若干幌の中に響き、駱駝が一瞬びくりと動いていた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.144 )
- 日時: 2013/01/26 17:18
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
だが。
「はぁ?」
果物ってまさか、これくらい(マルヴィナが両手の人差し指と親指を使って輪を作った)の金色のか、と
身を乗り出して幌から転がり落ちんばかりの勢いで尋ねたマルヴィナに対し、パスリィは気の抜けた声でそう答えた。
「え、…違うのか?」
セリアスもまた、素っ頓狂な声を出す。
「違うわよ。えーと、なんだっけ? …あ、そうだ、サンドフルーツ。あれを女王に売ったのよ」
「な、なんだ…」
“サンドフルーツ”なるものを知っているキルガが真っ先に脱力した。
何それ? と聞くと、彼はオアシスにときどき生る美容に良い果実、と簡単に説明してくれた。
はーなるほど、と納得してから…三人も同じように脱力した。
「な、何よ!? 別にあたしはあんたたちを喜ばせるために話してるわけじゃないのよっ!?」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
やはりキルガがぼそりと抗議したが、当然パスリィは聞く耳を持っていない。
「第一、話のその果物なら、先にどっかの太った商人が女王にやるとかなんとか言って持って行ったんだし」
「…………………………………………………………………」
さすがに次は脱力できる話ではない。
「…え、それ、いつ!?」マルヴィナだ。
「ついさっき。あたしたちが外に出る前よ」
「い、い、急いでっ!!」
マルヴィナの叫び声に、何故か駱駝の歩みは若干早いものとなる。
グビアナの城下町に着く。
急ぎとはいえど礼はきっちりと言ってから、四人は城を目指して走る。
昼前だ。まず間に合わないだろうな、という考えはとりあえず流し、ひたすらに走った——が。
「…あれ?」
シェナである。走るスピードを緩め、首を伸ばし、横を通り過ぎようとしたマルヴィナのフードを
ぐいと掴む。集めた四つの果実は、船の宝物庫の中。すなわちフードは軽々と引っ張られ、
首を思い切り絞められたマルヴィナは、一瞬カエルが潰れた時のような奇妙な声をあげ、呼吸を停止させた。
「げほっ。な、何すんだシェナっ!?」
「あれってさ」
マルヴィナの文句を完璧にスルーして、シェナは城の陰のヤシの木の根元を指した。
「あれって、果実じゃない?」
問い返し、三人はシェナの指差す先をじっと見る。「…どこ?」
「一瞬だけ光ったような気がするんだけど…」
埒が明かない。シェナに促され、小走りで問題の位置まで行く。
それから最初に声をあげたのはセリアスであった。
「あ、分かったぞ、あれだなっ!」
続いてキルガが、最後にマルヴィナが気付く。歓声を上げ、スピードを上げ、手に取る。
まぎれもない、女神の果実であった。
「よおっしゃあああ! よーやく、すんなり手に入ったなー!」
「ようやくだな。…でも、なんでこんなところにあるんだろ。商人が持っていたんじゃないのか?」
果実をフードの中に入れて、マルヴィナが首を傾げる。
「もう一つ別の果実なんじゃないか?」
「んー…そうなのかなぁ…?」
「っていうか、女神の果実が落ちたのって、そろそろ二年前なんでしょ? 何で今更手に入ったのかしら」
「あぁ、それは多分」キルガが答える。
「ここが砂漠だからじゃないか? 砂煙がたつし広いしで、なかなか見つからなかったとか」
「あー、なるほどね。ま、そういうことにしておきましょうか。…で、何で今はここにあるの?」
ついでにシェナがからかうように尋ねる。当然、
「…そこまでは」
と答える以外に、キルガの回答はなかった。
「ま、そりゃそうよね。ところで、どうする? このまますぐにここで他の果実を」
探す? そう尋ねようとしたシェナは、マルヴィナとセリアスの視線が別方向に向いていることに気付いた。
「…どうかしたか?」
キルガの問いに、セリアスは「もうひとつ発見したかと思ったら違った」と
やけに長ったらしい説明をする。
「?」今度はシェナたちがマルヴィナの視線先をたどる。
——黄金のトカゲがそこにいた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.145 )
- 日時: 2013/01/26 17:20
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
トカゲとセリアスの視線が合う。両者、睨みあう。
トカゲが低く身構えれば、セリアスも体勢を若干低くし、トカゲが首をもたげばセリアスも首を伸ばす。
「…何しているんだセリアス?」
「睨めっこ」
「子供かお前は」
「天使だ」
「くだらない反論はやめなさい」
ちなみに、今の会話はキルガ、セリアス、マルヴィナ、セリアス、シェナの順である。
「誰かのペットだろうね」キルガが肩をすくめる。
「イモリが!?」
「マルヴィナ、あれ多分ヤモリだと思う」
「………………トカゲだよ、二人とも」
同時に女二人の間に沈黙が落ちる。
「…一応、飼い主を探すか?」
「そうね。で——誰か捕まえてくれない? 私虫とトカゲとイモリとヤモリ、苦手なのよ」
「…分かりやすいことで」
少しだけ呆れて、セリアスが苦笑した。睨めっこのついでとして、今度は追いかけっこが始まる。
セリアス、一気に加速。トカゲ、敵の動きに反応。トカゲにして脱兎の勢いで逃げる。
「おぉ、凄いなあのトカゲ。見どころがある。あぁ、今の動き。あれ、今度練習してみようかなぁ」
「…何評価してんのよ…あ、捕まえた」
短い追いかけっこはセリアスの勝利。
トカゲは悔しげにじたばたと暴れ、セリアスの小手に爪をガシガシとたてる。
「おい、傷つくだろ。わぁ、こら、やめんかい」
「…かわろうか」
代わりに持とうか、という意味で、キルガはそう尋ねたのだが、
セリアスは「いい。この小手気に入ってるし」とズレた答えを返した。
トカゲの飼い主は意外なことにあっさりと分かった。
「あれっ? あんたたち」
金色トカゲとともに四人が歩いているときにかかった言葉である。
「はい?」
「そのトカゲ。…やっぱり、ユリシスさまのペットじゃないか」
「ゆりしす?」
マルヴィナが問い返し、声の主であるおばさんは慌てて「わ———!!」と叫ぶ。
「よ、よ、呼び捨てにするんじゃないよ!! 女王様だよ、女王様!
今のが聞かれたら、あっちゅうまに乞食の仲間入りになっちまうよ!」
「んな横暴な!」マルヴィナが抗議するように言った。
「女王のペット…なの? ヤモリが?」
「イヤだからトカゲだって」
「はいはいそーでしたねー」
セリアスの正統なる訂正をあっさり聞き流し、シェナは適当に答えた。
キルガはその様子に吹き出しそうになるが、どうにかこらえつつ
「城の中に入る必要がありそうだな」と三人に声をかける。
が、三人が答える前に、そのおばさんは「むぅぅ?」とキルガに反応した。
「…………………?」
当然、何故そんな反応をされているのか分からないキルガは目をしばたたかせた。
「あんた。もしかして、キルガかい?」
「…………………………………。はい?」
思わずマルヴィナが問い返す。
「あんたにゃ聞いてないよ。…そうだろ。大怪我負ってもすぐに回復しちまった強者の」
キルガは、今度は苦笑した。そういえば、聖騎士になった時この広場で紹介されたんだっけ、と
思い出し、素直にえぇ、と答えた。
「やーっぱねぇ! あんたほどの美青年が聖騎士になったって聞いたときはもう、そこらじゅうが騒いでたよ!
ほれ、久しぶりに帰ってきたんだ、ちょっくら娘らに顔を見せておやりよ!」
「いえ、急ぐので」
キルガはきっぱりと断る。急ぐのもそうなのだが、何よりこういうことが苦手なのである。
おばさんの大声に娘たちが集まる前にキルガは礼をし、
セリアスが助け舟をだして彼を引っ張ったのであった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.146 )
- 日時: 2013/01/26 17:23
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「神さまはっ、不公平だっ、なんでっ、キルガばっかりっ、モテるんだぁっ」
トカゲを女王に返すべく、四人は許可を得て城内へ入った。
城に入る前に女戦士がくれた氷を首筋や手首に当てながら進み——そしてその後、
ようやくキルガを開放したセリアスが一言ずつ唾を飛ばさんばかりの勢いで言った文句がこれである。
「創造神グランゼニスさまを侮辱するなー!」マルヴィナが言えば、
「俺が文句を言ってるのは公平の神さまだ!」セリアスも負けじと返し、
「誰だそれ?」冷静にツッコんだのはやはりキルガである。
「誰だろ? 公平神コウヘーイとか」
「…………………………………………………………………」
超シラケた空気が漂う。
「……ゴメンナサイ」
「わたし、氷いらない」
「右に同じ」
マルヴィナとシェナのダブル毒舌がセリアスに炸裂する。
「だ〜〜〜〜っ。ちくしょう。キルガ、少し分けろ!」
「どうぞ」
一言で許可を得てしまい、セリアス一瞬黙り込む。もちろんできるわけがないので、悪態だけついておく。
「ちくしょー」
「セリアスが言い出したんだろ…」
「ちぇ」
言い返す言葉がないので、それだけ言っておく。虚しいので、その後はその話に触れなかった。
「思ったんだけどさ」
しばらく城内をさまよってから、シェナが一言。
「ここって、女だらけなのね」
女中は言わずもがな、兵士までが女性である。よく考えたら、国の主まで女性なのだ。
「何で砂漠って大抵女が治めるのかしら。しかも城の中は女だらけ。絶対政治は崩壊気味ね」
「え、何で?」
マルヴィナが即座に聞き返す。
シェナの意見に、キルガが何か言いたげな、微妙な表情をしたのだが、
今言うことでもないなと結局黙ったのである。
「女だけっていうのは怖いのよ。表と裏のギスギス感がね」
「………………………………………?」
マルヴィナ、当然理解をしていない。性格がまずもって女にしては例外なので無理もないのだが。
「まぁ、即興で何か例を挙げるならね。
『あら○○さん。シーツはもう干したの?』
『えぇ、私は仕事は誰よりも早くこなしますわ』
『その割にはその仕事内容が雑ですわね。前なんて、そのシーツに髪の毛がついていましたのよ。
しっかりしてくださらないと』
『あら、失礼しました。先輩のベッドメーキングには
毎回皺が五つはあるのよりはずっとましだと思っていましたわ』
で、心の中では、
『この小娘が…あたしに向かって舐めた口きくじゃない…』
『先輩だからっていい気にならないでよこのオバン…いちいちいちゃもん付けてくれて…』
…みたいな感じになるのよ」
「……………………………分かりやすい説明だな」
セリアス、苦笑。マルヴィナが分かっているのかいないのかいまいち分からない表情で頷く。
「あー、陰でこそこそ文句を言いあうみたいな感じかー」
「声がでかい声がっ」
「まずいのか?」
「まずいわよ!」
「そっか」やはりいまいち理解していない、そして本人はそれに気付いていないような表情で頷いてから、
マルヴィナは一点に目を止めた。
「す、す、すみません、そこのお方っ」
こちらに向かって走ってくる、一人の女中の姿に。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.147 )
- 日時: 2013/01/26 17:25
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
呼ばれた四人は、声の主と思しき女中が着くのを待つ。
紫がかった髪を女性用のターバンですっきりとまとめた、若い女性である。
肩のショールをひらひらさせて、慌てて走ってくる。
いやそんなに急がなくてもいいよ——と言おうとした時、女中は思った通り何かにつまずいて
前のめりにすてーん、とすっ転んだ。
…いや、これは思った通りとは言えないかもしれない。あまりにも見事に、
いっそ綺麗と言えるほどにしっかりと転んだものだから、マルヴィナたち四人は思わず呆気にとられた。
「…大丈夫?」
念のために尋ねると、女中ははっと顔をあげ、あわてて立ち上がり、「はひっ! 申し訳ございません!」と若干噛みつつもちゃんと答えたのであった。
「ならいい。…で、わたしたちを呼んだんだよね?」
マルヴィナは慇懃に笑い、そう尋ねる。女中は再び返事し、まず自分の名をあげた。
彼女の名はジーラ。グビアナ城女中、女王のペットの小蜥蜴アノンの世話係である。
彼女の話を整理すると。いつものようにアノンの世話をしていたら、いつの間にかいなくなっていたと、
そういうものである。何とも簡潔な話であった。
「こんなこと、今まで一度もなかったのに…どうしたのでしょう?」
「さぁ」
もちろん知るわけがないので、それだけ答えておく。
「でも、本当によかったです。アノンは女王様の唯一の家族であられるのですから…」
少しだけ切なく笑って、ジーラは小声で言う。が、すぐに気を取り直し、
女王に会ってゆくといいと勧めた。四人はいや別にどうでもいいのだけれど…というような視線を
交わし合ったが、セリアスがキルガに聖騎士の事頼んでみたらどうだ? と聞いた。
確かに、修道院は寄付金が減ったせいで危機的な状況に陥りつつある。
キルガがそうだなと頷き、マルヴィナとシェナはキルガがそう言うならとそれに従った。
別に果実が見つかったんだし他のもの探すのはあとからでもできるしと。
半時はたっただろう。
四人は顔を見合わせた。
謁見の間にして、彼らはずっと待たされている格好となっていた。そこにいるのは四人のほか、
先ほどのジーラ、大臣—ちなみに男—、ジーラの妹という女中と女戦士二人だけ。
すなわち、玉座には誰もいない。皆が皆、溜め息をつく直前の表情であった。
——否、金のトカゲ、アノンも含めれば…そのアノンは、皆とは違う。
当然トカゲが溜め息をつくわけではないが、トカゲらしい表情をしているわけでもなかった。
セリアスの腕の上で諦めておとなしくしていながらも、緑色を成した小さな眼は、凶悪に光っていた。
マルヴィナのフードに入った、金色の果実をじっと睨みながら。