二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.148 )
- 日時: 2013/01/26 17:31
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
2.
「しっ…来たわよ」
シェナは唇に手を当て、三人に囁いた。
あまりにも長い時間待たされるので、暇つぶしにと、グビアナの滞在期間、宿をとるか否か、
これからの方針、遂には今までの戦闘の反省、新しい戦闘方法及び作戦、炎の回避の仕方、呪文回避法、
カウンター方法、魔法の指導(マルヴィナ&キルガがシェナに学んだ)、等々…
話が面白いほど素早く進んだのもあるが、これだけの内容を話し合いきってしまったのである。
そして物理攻撃のコツをセリアスに教えてもらっていたところ、
ようやくグビアナの主が姿を現したということである。
コツコツとヒールを鳴らし、薄い絹の外套を細い腰に巻いている。
大蛇を模ったティアラは、女王の長い黒髪にすっぽりと馴染んでいた。
肌は褐色で、下半身はともかく上半身は露出が多すぎる。
これが絶世の美女として名高い、女王ユリシスである。
…が、マルヴィナの抱いた第一感想は、
(…これはこの国の正装か?)
である。世界は広い。別に自分は人の服装に何か意見をつける気はないのだが、
(なんつーチャラっチャラした格好! とか言って倒れそうだな、セントシュタイン王なら)
なんてことを考える。
王家、と言われて真っ先に思いつくのは、やはり彼らである。
そういえば、これまでに訪れた国は一つしかない。…考えてみれば、天使界から落ちて来て、
二年がたったのだ。旅のせいで、そんな感覚がしない。 ルーラ
セントシュタインにも行っていないし、リッカにももう随分会っていない。一回転移呪文で
セントシュタインに行くのもいいかな、とマルヴィナは考える。
とにかく、今はここにいることで、と。
「ユリシスさま。この者たちが、アノンちゃんを戻しに来たマルヴィナたちです」
大臣がいちいち説明をする。アノンちゃんとか言ってトカゲをたてている割には、
戻しに来たという微妙な物扱いをしているのだが。
しかも呼び捨てかよオイ、とも思ったのだが、まぁそれはこの際関係のない話。
ともかく、セリアスがトカゲを放すと、どててててっ! とすごいスピードでユリシスの足元へ走って行った。
「…よっぽど嫌われたな、セリアス」
「…俺のせいかよ」
ぼそぼそと会話するキルガ&セリアス。が、ユリシスはそんなアノンを腕にのせて頭をなでると、
いきなり傲慢に言い放つ。
「ふん、そんな旅人の事なんか、どうでもいいわ」
おいおい連れ戻したのはこっちだぜ、どうでもいいってのはないだろうどうでもいいってのは…とは
さすがに思っていても顔には出せず。四人はシラケた顔、あるいは無表情を決め込んだ。
そんな彼らにかまわず、ユリシスは視線をジーラへ向ける。
「っ…」
ジーラはその鋭い視線に少しだけ硬直した。
「…アノンを逃がしたのは、おまえね? ジーラ」
「…も、申し訳、ございませんっ…」
ジーラは硬直したままの角ばった所作で膝と頭を床につけた。
「アノンがこれまでに逃げたことなどあったかしら? おまえは…一体、アノンに何をしたの!?」
「申し訳ございません!」叫び声に、何人かの女中が反応した。
「私はただ、いつものようにお世話をしていたら…いつの間にか」
「言い訳をしても無駄よ、ドジな女。アノンだけじゃない。そうでしょ、泥棒猫」
「「えっ?」」
その言葉には、ジーラと、何故かマルヴィナが短く困惑声をあげた。
ユリシスは気だるげに溜め息をつく。
「シラを切るつもり? 私が商人から買い取ったあの黄金の果実…知らないとは言わせないわよ。
あれがどこにもない。おまえが勝手に持ち出して食べたんでしょう」
マルヴィナの拳が硬くなる。シェナがはっとそれを見た。
「そんな、誤解です! 私はずっと、アノンちゃんを探して」
「問答無用…お前は、クビよ。荷物をまとめて出ていきなさい」
「ま、まった! それは違う!」
見かねたマルヴィナは遂に、二人の間に割って入った。
「果実っていうのは、これの事だろう?」
「ちょ、ちょっとマルヴィナ」
果実を取り出したマルヴィナを見て、シェナがあちゃー、と呟く。嫌な予感がしたんだ、と。
もちろん、もう遅い。ユリシスは煌めく果実を見て、顔をしかめた。
「何故、おまえが持っているの?」
「わたしらがそのトカゲ…アノンを見つけたその近くにあったんだ。
この果実は、人間が持っていてはいけないものなんだ。だからわたしたちは、これを探して旅をしている」
「…………………」ユリシスはしばらくマルヴィナの顔を不機嫌そうにじっと眺める。
が、すぐに鼻で笑った。
「…ふん、それで、その果実を譲れとでもいうの? 怪しいわ。それを集めているっていう証拠でもあって?」
「あぁ、今までに見つ——」
けた果実がある。言おうとして、気付いた。フードの中には、何もないということに。
何故なら——果実は、全て船の宝物庫に置いてきてしまったのだから。
(し…しまった…!)
「あはははは! どうやら、何もないようね。ざーんねんだけど、それは返してもらうわ。今は私の物よ!」
呆然としたマルヴィナの手から、瞬時に果実が奪い取られる。
「しまっ」
「フフフ、この果実をスライスして、私の沐浴場に入れるのよ。
果実風呂に入れば、お肌がもっとスベスベになるに違いありませんもの」
「なっ…そっ…だっ…」
声にならない叫びをあげる。果実をスライスなどされたら、何が起こるか分かったものではない。
が、どうにもならない。ユリシスは憎たらしいほどにマルヴィナの顔に自分の顔を近づけると、
勝ち誇ったように嘲り笑った。そして、蜥蜴のアノンに猫なで声で話しかける。
「さーアノンちゃーん。ばっちい旅人に触られたからお風呂に行きましょーねー」
駆け付けた戦士たちに行く手を阻まれた四人は、なすすべもなく、階段の下へ消えるユリシスを見続ける…。
漆千音))1.の最後とこれの文字数差(((
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.149 )
- 日時: 2013/01/26 17:33
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
もう手段は択ばない。
果実をスライスされる前に、なんとしても取り返さねばならなかった。
が、何分今回は相手が沐浴場なので、マルヴィナとシェナ、キルガとセリアスの二組に分かれ、
マルヴィナたちが沐浴場へ向かう手段を探し、キルガたちが情報収集という形となる。
が、原因を作り出してしまったマルヴィナは。
「…確かにそうだけれど」
あそこで正直に言わなければ無事に終わったのに、と言ったシェナに、そう抗議した。
「もしあそこで何も言わなかったら、ジーラさんは濡れ衣を着せられる羽目にあったんだ。
黙ってなんかいられない」
「…マルヴィナは、優しすぎるのよ。一人仕事を奪われるのと、果実のせいで混乱が起きるのと…
どっちが大変かって言ったら、果実の方じゃない」
「…」マルヴィナは一瞬視線を落とした。
「でも、やっぱりいやだ。わたしたちの都合で、関係のない人を、巻き込めないよ」
「………………………………」
シェナは答えなかった。小さく溜め息をつく音が聞こえただけだった。
「…あんたたち、ここを何処だと思ってるのっ!?」
やはり…というか、なんというか。
ようやく沐浴場に着いた二人は、変わらぬ格好のユリシスにそんな不機嫌声をあげられた。
必死の情報収集の末、二人は城の屋上の水路が直接沐浴場につながっていることを聞き出した。
そこから飛び込めば、一発で入り込めるらしい。
「…………………なんか無防備じゃない?」
シェナがさっきよりもなお呆れ果てた声で言う。異国の文化っていまいちよく分かんないわ、とかなんとか。
「ともかく、行こう。強行突破だっ」
「気乗りしないわね…泥棒より質悪いわ」
「仕方ない」
…という経緯があって、今のこの状況であった。
「…いっ…つぅ…」
びしゃびしゃに濡れて呻き声をあげるシェナには悪かったが、
マルヴィナはさっさと立ち上がり、ユリシスを睨む。
「こうしなければならないほどに、それは返してもらわなければならないものなんだ、…っ!」
言ってから、マルヴィナはビクッとした。足元を、何かが通り過ぎたのだ。
水面に揺れる、それは、薄く切られた金色の——…。
「あははは、生憎! 残念でした、果実は全部スライスした後よっ!」
「…………………………っ!!」
ぎしっ、とマルヴィナの歯ぎしりの音が響いた。どうすれば良い? 果実を元に戻さなければならない。
だが——今まで食された果実は、食らった者の意識を正常に戻すことで果実も元の姿に戻った。
だが…切断されただけであるこの状況で、どのようにして戻せばよいのか。
皮肉気に笑うユリシスから目を離さずに、マルヴィナは考えを巡らせる。
が。その目が、不意に、女王から離れた。視線は彼女のペットである、金色の小蜥蜴へ。
興味深げな視線、ひと声鳴き、そして——
(っ駄————————!)
…その一切れに、食いついた。マルヴィナが、シェナが、目を見開く。
二人が恐れていたことが、現実となった。小蜥蜴の身体が、ふわりと浮く。
沐浴場にいるすべての人間の目が、アノンに殺到した。
きゅあああっ! アノンが叫び、そして——
「っ!!」
沐浴場、否、浮かべられた果実が光り、全てがアノンの元へ集まる。
その光を消さぬまま——アノンを包み、それがパッと散った…刹那。
「きっ」
侍女たちが喉の奥から絞るように声をあげ…
「きゃああああああ———っ!!」
そして、絶叫した。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.150 )
- 日時: 2013/01/26 17:38
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
面影はどこにもない。
よくよく見てみれば愛嬌のあった顔は、今や別の物となっていた。
手の甲に乗るほどしかなかった身体は巨きく膨れ上がり、あどけなさのあった眸は生々しく光っていた。
ずらりと鋭い犬歯が並ぶ。かすり傷程度しかつけさせなかった爪は、
硬く、大きく、今では人ひとり切り裂くくらいを簡単にやってのけそうなほどであった。
「ば…化け物っ」
侍女が思わず叫んだ言葉に反応したアノンは、ぎるり、とその侍女に目を向けた。
もう一度盛大な悲鳴を上げた侍女はそのまま失神する。部屋を揺らし、水飛沫を上げ、足音を立てて。
アノンは——アノンであったものは、沐浴場の井戸へ向かう。
明らかに自分より狭いはずのそこへ——飛び込んでいった。
「……………………………………………………」
皆が皆、あまりの急展開に絶句した。沈黙が破られたのは、ようやくマルヴィナとシェナが
状況を確認できるほど冷静になった時である。何かが変わっている気がした。
何か、何かが、欠けているような——
「—————女王は?」
シェナの呟いた声は、静かなそこに、大きく響いた。ユリシスの姿がなかった。
マルヴィナが沐浴場の入り口を確認する。しっかりと、鍵がかけられていた。
「まさか」
全員の目が、今度は井戸に殺到する…。
「おっす、久しぶりだなぁ、キルガ!」
一方、何も知らない締め出された二人。
キルガの一番の目的であった、“聖騎士団修道院の様子を見に行く”は、今ようやく実現されたのであった。
「お久しぶりです、マリレイさん」
「おうおう。今回の賭けも、俺の勝ちだ」
「は?」
いやこっちの話、とはぐらかすマリレイの横からすかさず精霊オルンのツッコミが入る。
『おめえがまた戻ってくるかどーか、賭けてやがったのさ。ったくしょー懲りのねえ』
「…………………………………………これで僕が賭けの対象にされたの、三回目ですよ」
「いや五回目だ」マリレイ、あっさり打ち砕く。
「まず怪我してたお前が目を覚ますかどーか、立ち上がれるようになるまで何日か、
紹介の日に何人以上若い女が集まるか、槍術で何人勝ち抜くか、んで、今回の賭けだな。
二つ目以外は全部勝ってんだぜ」
「…………………………………………………」自慢げに話されても困る。
「……あの、賭け、好きなんすか?」
セリアスが何となく居心地の悪さを感じて嘴を挟む。マリレイは慇懃に笑うと、あったりめえだ、と頷く。
「俺たちゃ中年男の聖騎士は砂漠の民と槍とダンスと賭けをこよなく愛す! これ、基本だぜ」
「いや俺バトルマスターなんで。基本とか言われても」
「む? むむむ? …おお、おめさん、バトマスかよ! あーこりゃ、いい人選じゃねーか!」
「…………………………………?」
キルガもセリアスも、なんのこっちゃと固まった。
「だからな。聖騎士とバトマスだ。知らねぇのか? この二つは、対にして同じ存在だ。だからさ」
キルガは、目をしばたたかせる。なんだそれ、と首を傾げた。が。
「…………あぁ! なるほど、すげぇや。そんな考え方もあるんすね!」
セリアスが難題を解いた時のような、清々しい表情でそう答える。キルガは唖然とした。分かるのかよ、と。
「いやー、何かいいこと聞いた気分だなぁ。ありがとうございますっ」
「はっはっは、褒めても何も出さんぞ。ほれ食うか」
「おおっ、ナツメヤシ!! 俺結構好きなんすよー!」
「出してんじゃねえか…」
「セ、セリアス」キルガは満面の笑みのセリアスをつつく。「どういう意味だ? それ」
「え? ナツメヤシ? ——冗談です」
キルガの無言の圧力に早々に降参しセリアスは半歩退く。
「今のだろ。——分かんねぇの?」
「全く」
「意外だなー」満足顔のマリレイと呆れ顔のオルンの前でナツメヤシを口に含む。
「でも、これは、俺がさらっと言っちまうと意味ないと思うぜ」
「……………………………だよな」
キルガは溜め息をつく。
そういえば、ハルクに言われた“攻撃こそ最大の防御”の意味もまだ分かっていない。
このままでいいのか自分、と自分自身にツッコんでから——キルガは、思い出した。修道院を訪ねた理由を。
「…そういえば、ハルクさんは…」
その名を出した時、マリレイは、あー…、と歯切れを悪くした。
「まだ、だな。まだ、帰ってきてねぇよ。…俺たちも、待ってんだがな。あの人の槍さばきをさ。
…何でクビにされちまったんだろな」
確かにその通りだ。納得いかなかった。…だが、それは今更だ。
「そう、ですか」
キルガはそれだけ答えた。食べ終わったセリアスが生じた気まずげな雰囲気に頬をかく、
あー、えっと、と間を繋ぐために何か言おうとした時だ。
「っキルガさ——ん!! セリアスさ——ん!! お見えでしたら、お返事お願いいたしますぅぅぅぅ!!」
…そんな声がした。え、と振り返る。キルガだけならともかく、セリアスの名も呼べるもの。
それは、先ほどのあのジーラであった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.151 )
- 日時: 2013/01/26 17:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「とわあぁぁあぁああ——っ!!」
奇妙な悲鳴を上げ、どででばっきんどかぐしゃかーん、などの音を立ててマルヴィナは転がり落ちた。
地下へと続く梯子がヌルリと滑り、ついでに手も滑ったのである。
…沐浴場から続く、井戸の中。
逃げたアノンとおそらくともにいるであろうユリシスを探すべく、マルヴィナとシェナは
そこへ飛び込んだ。行く前に、荷物をまとめ出て行きかけるジーラに、キルガとセリアスへの言伝を頼んだ。
特別許可で入れるようにしてくれ、と。
が。実際中に入ってみると、かなり入り組んでいる。一体誰が何の目的で作ったのだろう。
合流するまでに時間はかかりそうだし、第一むんむんの湿気にヌメヌメの床、
悪寒を与えるしか使い道がなさそうである。実際、マルヴィナはこうやって滑って
更なる悪寒を与えられている。
「うへぇ…ドロドロだぁ。気持ち悪」
「だいじょーぶマルヴィナぁ?」
まだ降りて来ていないシェナが、上から覗き込んでくる。
「身体的には大丈夫だ。精神的には最悪だ。…気をつけなよ? 本気で滑るから」
「んー、まぁ、慎重——」
ずるり、と不吉な音が聞こえる。
「わきゃあああっ」
次いでシェナ、標準的な悲鳴を上げ、どどどがっすんぽきどすっどっしーん、などの音を立てて
マルヴィナの上に落ちる。
「重っ」
「失礼なッ」
思わず素直な意見を述べたマルヴィナに、すかさずシェナチョップが入る。
「痛っ。仕方ないだろ本当の事な——あ、イヤ」
ドルクマ
「闇力呪文でも食らう? マルちゃん」
誰がマルちゃんだ、と抗議したかったが、先に殺されそうなのでいいえスミマセン、と謝っておいた。
マルヴィナとシェナが地下水路奥部でそんなアホな会話をしていたころ、
キルガ、セリアス、そしてジーラは、井戸に入って間もなく、集まってきた魔物たちに囲まれていた。
「そ、そんな。こんな所に、魔物がいたなんて」
ジーラは後退りする。キルガはジーラの防衛を第一に考えることにした。
「セリアス、どうする? 戦うか?」
「いや…俺ら二人で、かつ回復なしでこんだけはキツいだろ。…隙見て、突破する」
「従おう」キルガは、万が一を考えて、とりあえず槍を手にしておいた。セリアスがきっかけを作る。
魔物に攻撃する素振りを見せ、輪を乱す。そこに生じた隙を狙い——走る!
「っしゃ、上手く——」セリアスが叫んだ時、ジーラが脚をもつれさせ、その場に倒れた。魔物が狙う。
「その行動を後悔しろっ」キルガは気合一閃、魔物を薙ぎ払う。
やるじゃん、と言ってから、セリアスも加勢した。絶命した同士に怯んだ魔物たちを置き去りに、
ジーラを助け起こしてからその場から去る。
「申し訳ございません」ジーラが小声で謝る。
「気にすんな、助かったからいいじゃないか」セリアスは自然にフォローする。
「だけど…無理はするなよ。本気で、城内で待っててもいいんだぜ?」
「いいえ」
きっぱりと、断る。「大丈夫です。女王さまのご安全が第一ですわ」
「…」セリアスは黙る。そして、さっきから気になっていたことをついに、問う。
「何で、そこまで女王に尽くそうとするんだ?」
セリアスは確かに聞いた。女中たちの本心を。
“女王がいなくなってせいせいした”
“ようやくおべっか使わなくて済む”
“これで国も安泰だ”———…”
「女王さまは」
ジーラは、唇をかむ。
「ユリシスさまは、孤独なお方なのです」
そして、走りながら、語りだす——。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.152 )
- 日時: 2013/01/26 17:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
地下水路奥部の二人に戻る。
「そろそろ、空気が悪くなってきたな」
「イヤ最初からでしょ」
マルヴィナは手団扇であおぐ。が、来る風はじめじめとして不快だったので、すぐさまやめた。
「あー、じめじめ。きのこ生えてきそう」
「生えるの!?」
シェナの爆弾的な発言に、マルヴィナは大声で反応。かなり響いた。
声デカいわよ、シェナはそう言おうとした。が、先に、マルヴィナよりなお大きな声が、それを遮る。
「誰やっ」
二人は素早く目を合わせる。息を合わせ、陰に隠れる。
「…そう言うあなたこそ、誰だ? 名を聞くなら、先に名乗るのが礼儀ってものだ」
「礼儀も冷気もあるかい。邪魔せんといてや」
「寒っ。冗談いうならもっとましなもの考えなさいよ。——いくら蜥蜴でもさ」
…声の主は。
ドラゴン
蜥蜴——否、もはや竜というに等しいそいつ——アノンだった。
「アンタら、さっきのけったいな旅人やないか」
幸い、巨大アノンの近くにユリシスはいた。探す手間が省けたわ、と
シェナは心配っ気の全くない声色で言う。
「まぁまぁ。…けったいとはご挨拶だな。
わたしはマルヴィナ、あんたの食らった果実を求めて旅をする者だ」
挨拶を始めたマルヴィナに、シェナは苦笑、アノンは呆然。ユリシスの表情は分からない。
「なんや、つまりは、あの果実を返せ言うんか。生憎や。もうわてが食ってもたがな」
「全部か?」
「見りゃわかるやろ、完璧な人間の姿んなっとるんやで」
その言葉には、マルヴィナもシェナも固まった。
完璧な人間の姿——いや待て、ちょっと待て。マルヴィナは目をしばたたかせる。観察。結果。
金色の厚い鱗、大きすぎる目、細い眸、ずらりと並ぶ犬歯、…
「…ヤバいわよマルヴィナ。こいつ、この格好で、本気で人間だって思い込んでるわ…」
「………………………はは」反応のしようがない。
「はぁぁん? 何か言うたか? あんたらどうせ、わての夢壊しに来たんやろ」
アノンは、やはり大きな足を踏み鳴らし、二人の前に歩いてくる。
二人は身構える。ついでに落ちてきた小さな石から頭を守る。
「やがな、あの城に戻すわけにはいかんのや…敵ばっかのあの城には…
それでも引き戻すっちゅうんなら、容赦はせぇへんでっ!」
「っ!!」
言うと同時、気合のこもった爪の一撃がマルヴィナをかすめる。体格の割に、素早い動きだった。
小手が音を立てて三つに分かれる。いきなり使い物にならなくなった。
「不意打ちか、卑怯なっ」左手首をおさえながら、マルヴィナが小さく悪態をついた。
「うるさい、うるさい! 容赦せぇへんっ」
暴れている、という言葉がしっくりくる。
合流するまでに、何とか時間稼ぎをしようと思っていた。だが、どうやらその余裕はないらしい。
暴れるアノンの一撃に備え、シェナは神秘の悟りを開く。
攻撃、回復共に、潜在能力を引出し、魔力を高める賢者特有の技である。
「戦うしか、なさそうね」シェナは溜め息をついた。
「二人だけだからな、最初は防御専念だ」マルヴィナは言いながら、左腕に通した紅蓮の盾をふりかざした。
炎のバリアが二人の前に生じる。
「シェナ、後衛へ。援護を頼みたい。わたしが合図したら、攻撃に移ってほしい」
「いいの? ずっと回復じゃなくて」
「大丈夫。わたしも隙を見て、攻撃する。
…あぁ、なるべく奴の視界に入りにくい位置に、もう少し…そのあたり」
指示通りにシェナは動く。
「って、ごめん。また即興だから、上手くいかないかもしれない。
無理を感じたら、安全な位置に動いてほしい」
「かまわないわ」
シェナはそれだけ言った。
最近、マルヴィナの即興作戦の腕は著しく成長しているように思えた。
戦術を組み立てるのは最初、マルヴィナとセリアス、主にはセリアスだった。
が、彼の場合、最近は攻撃に専念することが多く、攻撃と援護を交互に行うマルヴィナの方が
戦況を見渡しやすくなった。それからはずっとマルヴィナが作戦を組み立てていた。
が、直感的に作っている割には、彼女の作戦はほぼ完璧に思える。
何度も修羅場をくぐり抜けたおかげだろうか。いや、それだけではない気がする。
マルヴィナに眠る才能が一気にあふれてきたような、隠された能力が吐き出されたような、そんな感じがする。
(…従うわよ、マルヴィナ)
シェナはそう思った。マルヴィナの直感を、無意識に信じて。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.153 )
- 日時: 2013/01/26 17:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「今だっっ!!」
マルヴィナの合図。呪文を詠唱し始めるシェナ。マルヴィナが跳びかかる、アノンが叫ぶ。
マルヴィナは飛び散った血を気にせず、金色の鱗を思い切り蹴りつけて後ろへ跳んだ。
「ドルクマっ!」
シェナが叫んだ。強く大きな闇の魔力が、炸裂する。アノンは唸ると、息を一気に吸い込む。
“竜斬り”の構えをしていたマルヴィナははっと目を見開く。
「防御を固めろ、来る!」
「了解!」
二人が盾をふりかざし、身を縮めたその後、激しく燃える炎が噴出された。
が、それは炎のバリアによって四方に小さく散る。二人は唇を噛み、顔をあげる。火傷はない、大丈夫。
だが、熱気はかなりの物だった。まともに喰らえば、おそらくは火傷だけでは済まなかった——…。
(気付いているんだろうか)
マルヴィナは思う。
(人間は火を吹かない、即ち自分は人間ではない。アノンは、それに気付いているのだろうか)
いないな、そう思い直す。気付いていれば、戸惑うだろう。だが、相手は、変わらず興奮し、
一瞬意識を走りに向けたマルヴィナに向かって、大きな爪を振りまわ——
「…え?」
「マルヴィナっ!!」
その一瞬が、命取りとなっていた。攻撃するために背後に回ろうとしていた、その時を狙われた。
爪が振り回される、横腹を容赦なく一思いに裂く。
息が止まる。
痛みが感じない——
——————ィナ、
…シェナの声が、聞こえない——
———『あの子だよ。イザヤールの弟子になった…異質な天使ってのは』
…何年前だろう。今よりずっと幼い時、まだイザヤールの弟子になりたての時、そんな声を聞いた。
未だ数人から、異質と呼ばれ、関わり合いになりたくなさげな視線を送られた頃。
ざっくばらんで、なんと言われようと自分が良いと思ったこと、気にしないと決めたことは、
そのままを通し続ける、そんなマルヴィナも、さすがにその言葉はこたえた。
知っていた、自分はまだ孤独だと、受け入れられないと。
一部の者には。
そう、だが、もう一つ知っていることがあった。
受け入れてくれる人は、必ずどこかにいる、心の奥底でそう思う人はいる。
マルヴィナにとっての、師匠やその友達、昔からいつも共にいたキルガやセリアス。
マルヴィナが求めたのは、彼らの無言の理解。
無理矢理解決しようとは思わない、無駄に慰めようともしない。
孤独なものに求められるのは、厚かましくない理解。
あなたもそう思っているはずだよ、ユリシス。
そして、無言の理解をすべきものはアノン、あなたの役目なんだ。
—————————「ベホイム」
ベホイム
シェナの再生呪文が、マルヴィナを包む。
マルヴィナは深く息をつくと、歯を食いしばり、ゆっくりと起き上がる。
「……ありがと、シェナ」
「まだ傷はふさがっていないわ、動かないで——…っ!?」
シェナの集中力が途切れる。再びアノンの爪が振り下ろされる。マルヴィナはシェナを突き飛ばした。
爪が地面に叩きつけられる。アノンは伝わってきた痛みに呻いた。
マルヴィナは唇を結び、まっすぐにアノンを見た。
「…あなたがやるべきことは、そんなものじゃない」
呟く。独り言のように、静かに。
シェナの再びの回復呪文に、背中を押されて。マルヴィナは、真正面から、対峙した。
「…そんなことは、求められない。わたしと…かつてのわたしと同じ、孤独者には。そんなことは」
伝わるだろうか。伝えねばならない。人の思いを。
「…分からないか? 本当は、力ずくでは、人の心は変えられない」
先ほどまでアノンの攻撃に抵抗はしてきたが、それだけで事を終わらせようなどとは考えない。
そんなことは、不可能だから。
「だから、なんやと言うてんのや。帰すわけにはいかん、あの敵だらけの城に」
「敵だらけ。確かめたわけでもないことを、よく言うな」
「うるさい、はよ黙らんかいっ…!」
三度、マルヴィナを狙って、爪が襲う。マルヴィナは身構えた。剣を構え、抵抗しようとする——
「———————————やめてっ!!」
…時に、突き刺さるような、何かを想ったような、鋭い声が響いた————。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.154 )
- 日時: 2013/01/26 17:53
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
自分自身でさえ、驚いてしまった。
疲労で、もう歩くことも出来なさそうな自分だったのに、まだこんな大きな声が出せたなんて、と。
だが、大丈夫。出せたのだから、出し切ってしまえばいい。
誤解が解けるのなら、主が気付くのならば——
「これ以上、アノンを傷つけるのはおやめください…!」
「—————ジーラ!?」
主が——ユリシス女王が、私の名を呼ぶ。
だが、叫んだら叫んだで、ジーラは足の力が抜けて崩れ折れかける。
「危っ」
セリアスはその腕をつかみ、体勢を整えさせる。
「む…」
マルヴィナの後ろ、シェナから、そんな声が聞こえたような気がした、…が、気のせいだろう。
「ユリシスさま、無事で良かったです。アノンまでいなくなってしまっては…
ユリシスさまはもう、誰にもお心を開かなくなってしまわれますわ」
「…………………」マルヴィナは黙る。
ユリシスは明らかに困惑していた。何故? どうしてそんなことを言う?
視線でその考えを読み取ったジーラは、申し訳ございません、と言う。
「私は見てしまったのです。ユリシスさまが夜な夜な、アノンに語りかけているところを」
先代王ガレイウス、ユリシスの父。彼はおそらく、歴代の中でもっとも慕われた王だったろう。
水不足を補うために自らつるはしをふるい井戸を作り、義援金を送り…忙しくも充実した日々を送る王だった。
だが、その忙しさゆえに。幼いユリシスにかまう余裕などは生まれなかった。
寂しい。我が侭な自分が嫌い。でも、抑えられない。後悔しかできない。
傲慢で、我が侭な女王の裏には、孤独で、寂しがり屋の、小さな娘がいる。
「どうか、そのお気持ちを、私たちにも打ち明けていただきたいのです。
ユリシスさまは決して、一人ぼっちではありませんわ」
「…………………………………」
ユリシスは黙る。顔はずっと伏せたままだった。マルヴィナはずっと無表情だった。
シェナは小さく溜め息をついた。
(ひとの心は簡単には変えられないわ。でも…何かは、変わったのかしらね)
ちらりと、そんなことを思う。
アノンはと言うと、先ほどの邪気はどこへやら、
呆けたような、安心したような、微妙な思いを巡らせていた。
「…城には、アンタみたいなええ人もおったんやなぁ。これならわてはピエロやで」
いやピエロじゃなくて蜥蜴、あるいはドラゴンだろ、と方向性の違った反論を仕掛けて止める。
今ここでそんなことを言えば蜥蜴の声の聞こえないユリシスとジーラに
一発で変人マルヴィナの称号をもらいそうだった。
「…なぁ、アンタ」
その考えを知ってか知らないでか、アノンはマルヴィナに向かって話しかけてくる。
「…わて、人間ちゃうやろ。人間は口から火ぃ吹かへん。…やけど、アンタ、アンタも人間ちゃうやろ?」
何だ知っていたのか。何だ知っていたのか——知っていたのか!? それぞれの言葉に
二度同じことを思ってマルヴィナは顔を上げた。——無論後者には驚いたけれども。
「わてこんな力、もういらへん。城で生活する。せやからこの果実…アンタに託すわ。欲しがっとったんやろ」
マルヴィナの返事を待たず、アノンは直立不動する。金色の鱗が、さらに金色に輝く。
別の輝きではあったが、それは、それぞれが演奏し合うように、お互いの光を強めた。
黄金の光が辺りを照らす——
目を開けた時、そこにいたのは、小さくあどけない金色の子蜥蜴と、
眩く輝く、五つ目の果実だった———…。