二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.155 )
- 日時: 2013/01/26 18:01
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
3.
——夜の事。
「きいたよぉ。女王様が、援助金を出してくれたそうじゃないか」
「えぇ、おかげで主人がまた仕事を張り切りだして!」
「しかもあれ、沐浴場。自由に使えるようになったって話じゃないか」
「あら、もうご存知でしたの? あたくし、朝一番で伺おうと思っていますの!」
砂漠の夜は恐ろしいほどに寒い。
普通ならばこの時間は女たちはあまり出歩かないのだが、今宵は別であった。
女王が変わり始めているらしい。その噂は、半信半疑だった最初だったが、
少しずつ移された行動によりだんだんと信憑性を得ていた。
その中で。
守護天使像の前、広場の中央に、誰かが降り立った。
金色の長髪、灰色の瞳。けれど、女たちは気づかない。誰も、見ることができない者。
悠然と、堂々と。秀麗で有能な魔法使い、“悠然高雅”アイリスは、ゆっくりと両手を合わせ、微笑んだ——…。
———『…ねぇ、人の心なんて、簡単に変わらないよね』
何かの声がした。———は、当たり前だろ、と頷く。
『どんなにきれいごとを並べたって、虚しいだけだ。少なくともわたしは、そう思うね』
『やっぱりね。でも、仕方ないさ。ウチらは、そういう性格なんだから。
今までも、多分、これからもさ』———
「っ!?」
マルヴィナは、いきなり跳ね起きた。
夢を見ていた気がする。誰だろう。誰かが、何かを言っていた。人の心? 何の話…?
でも、確かに誰かは、わたしに向かって話していた。わたしもその人に答え返していた。
・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
…でも、何かおかしい。わたしが答えたんじゃない。わたしの中の誰かが答えた。
自分の答えではないことを言った気がする。…夢? ・・・・・・
本当に夢なのか? なんだか、…馬鹿な話だ、だが——マルヴィナにはそれは、過去に思えた。
過去? いつの事? どうして? あの人は誰?
「………なんなんだよ、一体…」
マルヴィナは窓を開ける。流れ込んできた風は恐ろしく冷たく、マルヴィナは震えあがる。
(だ…ダメだ。眠気覚ましにしかならない)
窓を閉めようとする。が、そのとき。
(………………………え?)
マルヴィナは、目を疑った。広場の中央、守護天使像の前。誰かがいる。
女性だ。金色の髪と、灰色の瞳——何故、暗闇で瞳の色が見えたのだろう?
だが、何故か、目を引いた。 ・・・・・
守護天使像の前に立っている、だが像は見えていた。すなわちその女性は、透けていた。
おかしな感情を覚えた。どうかしている、と思った。だが——笑い飛ばせない自分がいる。
全然似ていない、そもそも性別が違う。なのに、彼女は、キルガに何かが似ているような、そんな気がした。
(…誰、だ……?)
マルヴィナは立ち上がると、扉を開け、階段を、音をたてない程度に急いで降り、外へ出た。
砂風が舞う。だが、気にしなかった。早く。早く。…間に合って——
『ようやく来たわね。…待っていたわ、“天性の剣姫”マルヴィナ』
“悠然高雅”は、その称号の名の通り、悠然とそう言った——。
「…あなたは、何者だ…?」
マルヴィナはいきなり呼ばれた称号と名に、少し警戒しながら尋ねた。
だが、彼女は。ふっと小さな溜め息のようなものをつくと、目を細めて微笑み、歌うように言った。
『警戒は恐怖。恐れる必要はないわ。——私の名は、アイリス。“悠然高雅”の称号を持つ者』
「アイリス……?」
どこかで——マルヴィナは、そう思った。頭の端に転がった、記憶という玉に、手が届かない。
アイリスはそんなマルヴィナを見て、また語る。
『さすがね。彼女は、私のことを記憶に残してくれたようね』
「………………え」
『あなたの記憶に自分の記憶を受け継がせた者よ』
「…………………………………。…?」
マルヴィナの頭が疑問符に支配される。
無理もない、アイリスはそう思った。だから先に、説明しておく。
『…あなたが何故、自分が異常な時に天使界へ送られたのか、
何故、己が存在しなかったはずの過去の出来事を知っているのか——
私は、それをあなたに、教えに来たの。…時が満ちたのよ』
ぎくり、とした。触れないでおいたこと…自分が他者と…そう、キルガやセリアスとですら…
異なる何かを持っていることを、敢えて気にしないでおいたこと…それを、指摘された。
マルヴィナは混乱した。わけが分からない。そもそも彼女は何者なのか?
そして、何より。
「アイリス…あなた、わたしの存在を知っているのか?」
『…えぇ』アイリスは静かに微笑む。
『遥か彼方、天空の宮に住みし神聖なる光の子にして、
人間という名の創造体を守るべく存在するもの、即ち天使』
アイリスは台詞めいた言葉をよどむことなくさらりと言ってみせる。
『私は、教えに来たのよ。あなたに眠る謎と…そしてあなたの、“記憶の先祖”のことをね———』
冷たい風が、頬を撫でる。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.156 )
- 日時: 2013/01/26 18:08
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
突然、風の吹き方が変わった。髪が激しくたなびく。
はっ、と、マルヴィナは小さく笑った。
「何それ。“先祖”だって? そんなもの」
『存在しない…そう言いたいのね』
先に言われた。開いていた口を、不機嫌さを包み隠さず閉じた。どうも気に入らない。
自分ですら知らない秘密を知っている。けれど、その言葉はあまりにも謎めいていて、
あまりにも非現実的で、信憑性に欠ける。マルヴィナは内心で舌打ちし、結局再び口を開く。
「当たり前じゃないか。すべての父は創造神グランゼニスさまだ。先祖なんか存在しない」
『“先祖”はただの隠喩よ。本当のではないわ。…けれどマルヴィナ、覚えておきなさい。あなたは——』
アイリスは変わらぬ笑顔のまま——発言する。
『創造神グランゼニスに作られた生命ではないわ』
爆弾発言だった。
マルヴィナの時が止まる。風が吹き荒れる——いつの間にか、広場で話していた女たちも、いない。
深夜。
・・・
ひとり。
「…どう…いう、…こと……?」
ようやくそれだけ、声に出す。勢い付けて、今度はさらに大きな声で。
「何だよそれ、いきなりそんなこと言われて、信じるわけないだろっ」
『動揺は真実』またも謎めいた言葉を言い、アイリスは祈るように手を組む。
『信じたくない気持ちは分かるわ。けれどこれは事実…あなたを創り出したのは、“記憶の——』
「その名はもういい。じゃあなんだ、わたしはその某に創られて、
そいつの記憶を受け継がされているっていうのか!?」
『ご名答よ。大まかに言えばね』
大まかに、という言葉に、まだこれ以上にややこしい細かな部分があることを悟る。
ここまで来たら、遠慮はしない。
「どういうことだよ、説明して。…いや、そもそも、あなたは何者なんだ?
なぜ…そんなことをわたしに言う?」
『彼女が望むからよ』あっさりと言う。『そして、定めであるから』
アイリスは遠くを見るように視線をそむけた。マルヴィナがその視線を無意識に追う。
『…まぁ』
そして、その言葉で、意識を取り戻す。
『…私たちの存在の事なら、マラミアに聞くといいわ』
「え、ちょ…」いきなり!?
『カルバドへ向かうといい。ここから北の、大草原の中の集落よ。そこに、もう一人の同胞がいる』
「何言ってんだよ、ここまで話して次回もちきりって…!」
マルヴィナの声は、虚しく響いただけ。
風のやまない砂漠の城下町に、ひとりの陰が、ぽつんと残されているだけだった。
そんなことがあったからか、マルヴィナは翌日不機嫌であった。
「…どうしたマルヴィナ、さっきからモノの掴み方が怖いんだが」
朝食でキルガがマルヴィナに言った言葉である。
「そりゃ不機嫌ですから。…あんなさっむい中意味わからん言葉言われてさっさと立ち去られて。
“詳しくは掲示板で!”とか言うつもりかってんだ」
「マルヴィナ、怖いわよ。今日は関わるのやめておこうかしら」
シェナの冗談が珍しく空回りする。
「何かあったのか?」
セリアスだけは素直な心配の声をかける。一応キルガとシェナの発言も心配してのことなのだが、
回りくどすぎてマルヴィナには伝わっていないだけである。
ともかく、マルヴィナは伸ばしかけた手を止め、うーん、と唸った。
「…昨日さ、妙な人に会ったんだ」
アイリスという名の女性、実体はない。だが、霊には見えない。
マラミアという人物(?)に会うためにカルバドへ行けと言われたこと。
記憶の先祖。自分の…正体。
「…ちょ待っ、何だよそれ、じゃあ…マルヴィナは一体、なんだって言うんだよ」
「わからない」マルヴィナは言う。「…まさか、今になって…自分自身の“謎”に関わることになるなんてね」
「“異常時期に送られた者”…か」キルガが呟く。
「でも、そんなことを言ったら、僕らはどうなんだ?
マルヴィナだけじゃない、僕らだって、十分おかしいってことになる」
「いや変なのは、最初っから分かってっけどな」セリアスが苦笑した。
「いまさら言われたって…だからどうしろって言うんだ。…でも」
マルヴィナは手を戻し、顔をあげ、言い放つ。
「カルバドに行きたいんだ」
降ろした手を握りしめる。
「一度聞いてしまったものを、最後まで聞かずして無視したくない。…カルバドに、行きたい」
「はいよ」
セリアスの軽い返事が返ってきた。
「………………………はい?」
思わず問い返す。
「……いいの?」
「ん? だって、マルヴィナが言いだしたんじゃないか。いいに決まってるだろ」
「いやそうだけれど。…いいの? んなあっさりと」
そんなマルヴィナを、シェナがつつく。
「何言ってんのよ。遠慮なんかしなくていいのよ」
「果実集めも兼ねているしね」
キルガが果物を半分に割りつつ言う。
「…あ、そっか」マルヴィナは納得したように肩をすくめた。「…それ半分貰っていい?」
「あぁ」キルガは半分のその果物を渡す。「…で。まだ何か、悩んでいるだろ」
受け取りそびれかける。
「っ何で分かった!?」
「バレバレだよ」床に落ちる前にキルガは間一髪で器用につかみなおした。マルヴィナは苦笑する。
「え、なに、まだ何か悩んでたの?」
シェナがマルヴィナの顔を覗き込んで訊ねた。いきなり顔が近づいたので、マルヴィナは驚いた。
「んー…まぁ」
三人がいいから話せと言わんばかりの表情であることを確認し——マルヴィナは、結局、決意した。
本当にそうしようか、それともやめておこうか。ずっと悩み続けていた選択肢を——ようやく、選び取って。
そして、宣言する。
「…転職しようと思っているんだ。魔法戦士から」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.157 )
- 日時: 2013/01/26 22:40
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
長い沈黙の後。
驚愕の声が、爆発した。
「わわわわちょっ、声声、声デカいっ」
まさか転職の言葉でそんなに驚かれるとは思わず、マルヴィナは慌てふためく。
当然朝っぱらからこんな大声をあげてしまったはた迷惑な旅人達は、
周囲から冷た〜い視線を浴びてしまい、平謝りに謝るのであった。
「ど、どうしたのマルヴィナ。一体何がどうして、どうなってそういう結論に陥ったの」
「陥るとは失礼な! シェナだよ、考えるきっかけになったのは」
「え、私?」シェナが固まる。
私何かしたかしら…と真剣、あるいは深刻な表情で考え始めたシェナの誤解を慌てて解く。
「いや悪い意味じゃないから安心して」
マルヴィナは苦笑してから、話し出す。
シェナはパーティの回復の要である。キルガは少々の回復呪文が使えるものの、普段は使う暇など殆どない。
自分たちは強くなってきたとは思う、だが、世界にはさらに、
比べ物にならないほど強い敵がごろごろしているだろう。
先日現れたガナン帝国とも、いつか闘うことになるのかもしれない。そう考えると、
シェナは仲間の体力に一人で気を配り、集中し、祈ることで、自分の身が危うくなる。
昨日も——アノンに自分がふっとばされた時、シェナは自分の守りを捨てて
マルヴィナの傷の治療を試みていたのだ。
レンジャー
「でさ。“然闘士”って知っているか?」
「む?」セリアス。
「あぁ、名前だけは聞いたことがある」キルガ。
「私も」シェナ。
知らないのはセリアスだけか、と、マルヴィナは説明しようとしたが、
「自然と、野生の力を味方につけた戦士の事だよな? あー…回復と、補助が出来て、
んで弓とか爪とか使えて…そだ、前登ったビタリ山に何か優秀なそいつが現れるって噂もあるな!」
…先に説明されてしまった。しかもなんだか恐ろしく詳しい。
「……分かってんなら尋ねるな」
マルヴィナが半眼のジト目でセリアスを睨む。
「いやぁスンマセン」あっさりと謝るセリアス。このあたり、妙に潔い。
「…爪は使わないはずよ?」
と、シェナ。セリアスがえ、と一度目をぱちくりとさせた。
「然闘士が使うのは、斧と弓と投てき系統。…爪はないわ」
「あれ? …え、でも、確か」
セリアスが悩み、悩み果てて、悪い、なんかと勘違いしたっぽい、と言った。
だが、その表情は、納得しきれていないものがある。
沈黙の気配が寄ってきて、キルガはとりあえず話を戻した。
「なるほど…マルヴィナが援護か」
キルガが考え込む。
これで、今までは大まかに言えば攻撃役がマルヴィナ、キルガ、セリアス、補助がキルガ、シェナ、
回復がシェナといった形で担当していたが、補助と回復にマルヴィナが入ったことで、
攻撃的な戦力は若干下がったが、バランス的には安定したと言えそうだった。
「うん、いいんじゃないか。フォースも使えるみたいだし」
「剣もだな。『職業』柄、剣は少し重く感じるだろーが、マルヴィナには関係ないしな」
「なったら、回復呪文のなんたるかをみっちり教えてあげるわ。覚悟しておきなさい」
にっこり笑って恐ろしいことを言うシェナに、苦笑したのはキルガである。
彼も彼で、一応は回復呪文を扱う身、丹念の込め方やら集中の仕方やら、色々叩き込まれたのであった。
別に丸め込まれるわけではないのだからいいのだが、そういえばキルガの周りには、
妙にひとつのことを以上に熱心に教える女性が多いような気がした。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.158 )
- 日時: 2013/01/26 18:16
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
そんなわけで、マルヴィナ除く三人は、
セントシュタイン・リッカの宿屋で、暇人状態でぼけらんとしていた。
「………………………………………………………………………………………」
「………………………………………………………………………………………」
「………………………………………………………………………………………」
「……あ、紅茶、いる?」
リッカである。他の客が誰もいないこの時間、彼女としても暇で暇で仕様がないのである。
断ろうかと思ったのだが、わざわざ気を使ってくれたのを追い返すわけにもいかないので、
三人は素直にもらうことにした。
「ストレートにする? それとも、何かジャムとか果実とかミルクとか入れる?」
「僕はストレートで」
「ジャムって何がある?」セリアスが念のために聞く。
「ベリーね。ラズベリー、クランベリー、ストロベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、その他もろもろ」
「ざっくばらんね…」シェナが苦笑。「私ブルーベリー」
「あ、じゃあ俺、ミルクで」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
先ほどより軽い足取りで、リッカはカウンターの奥へ消える。
「………………………………………………………………………………………………………………」
再び、暇時間。かなり短いのだが、この何もない時間が既に飽きてしまった三人にとっては
長い時間であった。
「今頃マルヴィナ、修業してんだよなー…」
「そのビタリ山の然闘士に会えていればね」
「あー…会えていてくれー…んで早くなってきてくれー…暇で暇で○×△%*☆И」
「セリアス、言葉がおかしい」
「せめて天使の言葉で話しなさい」
日は巡り。
心配されずとも無事、噂の然闘士に会えていたマルヴィナは、
三日の寝ずの修行を終えてダーマ神殿にいた。
「ううう…さ、さすがに眠い」
噂されていたその者は、生まれながらの然闘士であった。
名はプーディー、獣に育てられた半獣人の娘だった。彼女は人間を欲深いものと見なし、
近付きたがらなかったが、マルヴィナの人間らしからぬ気配と、瞳の奥の強い光を見て、それを認め、
遠慮容赦なくさまざまな知識と訓練を教え込んだのである。かなり疲れたのだが、
なんだか以前より様々な分野で強くなった…と思う。多分。と言うかこれで強くなっていなかったら悲しすぎる。
(…あー眠い。…すごく眠い)
だが、自分のためにセントシュタインでひたすら待ちに待つ三人のためにも、
早く転職し、戻らなければならなかった。舟をこぐ重い頭をぶんぶんと振り、
半死人のような表情で神殿の階段をのぼり。神官たちに若干引かれ。
ようやく中に入った——マルヴィナを真っ先に見つけたのは、やはりあの変人であった。
「マルヴィナ——!!」
最も聞きたくない声を聞いてしまい、マルヴィナはげんなりという言葉も生ぬるいほどの感覚に陥る。
ほぼ拒絶反応である。
もちろん、変態魔法戦士スカリオだった。寝不足による不機嫌さを全く隠すことなく、
マルヴィナはぎろり、と鋭い眼光でスカリオを睨む。瞬時にスカリオの周りの空気が三度ほど下がった。
ついでに彼の足も射すくめられて止まっている。
「何か用か。変人」
トゲだらけ、あるいは刃だらけの返答の後、スカリオは一丈(約3メートル)ほどの間隔をとる。
「えーと、何か用かい?」
「こっちの台詞だ。わたしは転職しに来たんだ」
あーなるほど、と納得しかけて気付く。
「魔法戦士から!?」
「当たり前だろう今魔法戦士なんだから」
「いやいやいやいやちょっと待ってよキミ魔法戦士に魅力を感じたからそうなったんでしょ!?」
スカリオに、と言わなかったところは評価してやろう、と考えるマルヴィナ。
「パーティ的な問題だ。考えを改めるつもりはない」
返答を聞かず、マルヴィナはそのままふらふらと、…宿屋へ向かって歩いて行くのであった。
取り残されたスカリオは、相変わらず手厳しい、となぜかときめきつつ、
マルヴィナの行先についてふと気づく。
「…あれ? 転職するんじゃないの?」
もちろんその呟きにはマルヴィナに届いてはいなかったが。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.159 )
- 日時: 2013/01/26 18:20
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「たっだいまー」
もう一夜、三人には長〜い時間を過ごしてもらった。
まるで自分の家のように宿屋へ入ってきた“客”に、キルガとセリアスは若干驚き、そして立ち上がる。
「おかえり」「待ちくたびれたぞ!」
キルガ、セリアスがハモる。“客”、及びマルヴィナは、「やー、ごめんごめん」と笑った。
「本当は昨日帰ってくるつもりだったんだけれど、ごめん。
眠すぎていつの間にか宿屋に足が行っちゃっていてさー」
一日余分に待たされた身にもなってくれ、…とはさすがに言えなかった。
とりあえず、マルヴィナは腰かける。「リッカは? ついでにシェナは?」
「ついでとはご挨拶ねぇマルちゃん」
余計なところだけしっかり聞かれていたマルヴィナ、びくっとした後、殺気漂う背後をそろ〜りと見る。
そこには、またしても酒場で働く姿でかなり怖い笑顔を浮かべたシェナがいた。
「リッカなら今洗濯中よ。で、私は見ての通り。ほほほ」
「……………………………着替えて来い」
「はいはーい」
軽く答えると、シェナはくるりくるりとステップを踏みつつ奥へ行く。
「絶対楽しんでいるな…」マルヴィナは苦笑。
「いつものことだけれどね」
「キルガ死刑確定だから覚悟しておきなさーい」扉の向こうに消える前に、シェナ。
「早めに逃げるべきでしょうか」おどけて、キルガ。
「いや多分シェナなら憑りつくぞ」真面目な表情でセリアス。
「訂正ー。死刑確定はセリアスに変更」
「いやいやいやいやいやいやいやスンマセン!!」即返答する。
そうこうするうちに、扉が開く。シェナとルイーダが顔を出していた。
「着替え早っ」
「お褒めに預かり光栄です」
「いや褒めていないが…シェナ、旅装変えたんだ」
悟りのワンピース、と呼ばれる、賢者のためにある法衣の一種である。
シェナはスタイルがいいからなのか、すんなりと馴染んでいるように見えた。
「まーね。だって、汚れ、落ちないんだもの」
「あぁ…グビアナのアレか…」
地下水路でそろって仲良く落ちて泥まみれになった時のことである。
「あら、グビアナ城に行って来たの」ルイーダが髪を揺らして尋ねた。
「あぁ。あれ、ルイーダさん、知っているの?」
そういえば、と。マルヴィナは、言ってから思い出した。初めて彼女に会ったときに考えたこと。
ルイーダは、どことなく、冒険者の面影がある。けれど、決して、その話を出したことはない——
でも。知っているんじゃないのか。一人の、“旅人であった者”として——
「何言ってるのよ。セントシュタインの他の国って言ったら、グビアナしかないじゃない」
あっさりと、彼女は、そう言った。
「え。…あ、あぁ、そうか…」
そうだよな。マルヴィナはそう納得したが、セリアスは、目を細めた。
…何か隠しているな。セリアスは、言葉の裏に隠された真の感情を読み取っていた。
けれど、触れはしない。無駄にずけずけと入り込んではいけない。
「そうだ、乾杯でもする? マルヴィナの転職祝い、ってことで」
話を切るように、ルイーダはそう言った。いいわね、とシェナ。
他の三人からも異論はなく、お願いすることにした。
「マルヴィナー!」
待つ間に、これからの予定について話し合っていた四人の元に、リッカが返ってくる。
「あ、リッカ。四日ぶり」
「帰ってきたのね。何か飲む?」
マルヴィナは笑って、首を横に振る。
「今ルイーダさんが用意してくれている。ありがと」
そっか、と少しだけ唇をとがらせてから、そうだ、と手を叩く。
「ねぇ、何か旅の話、聞かせてよ。お土産、ってことでさ」
「えぇ?」
話すことと言っても。マルヴィナは考える。果実の話? いやそれはマズい。
じゃあグビアナの城? …話すことといえば?
「…………………………次に行くべきところなら、あるかな」
「へぇ、もう決まってるんだ。すごいね。…で、どこ行くの? 私知らないと思うけど」
知らないのに聞いてどうする、とはツッコまないでおいた。
「ん。集落でね。カルバドって言」
うんだ。最後の言葉は、グラスの割れる音にかき消された。
「っルイーダさん!?」
リッカが悲鳴混じりの叫びをあげる。「怪我はないですかっ」だが、ルイーダは、
放心したように立っていたかと思うと、すぐに顔をあげる。
「…あ、あぁ…ごめんなさい。ちょっと、手が滑っただけよ」
「え、そ…そうですか。…大丈夫なんですね?」
「平気よ」ルイーダは破片を集め始める。
「手伝います」
「いいわよ。せっかくなんだから、マルヴィナたちとお喋りしていなさいな」
無理やり作ったような、余裕の笑顔。リッカは少し詰まり…頷く。
ルイーダは、誰にも聞かれないように、小さく息を吐いた。
…つい。手を、緩めてしまった。カルバドという言葉を聞いた瞬間。未だ、反応してしまうなんて。
「…………………………………」
忘れるものか。あのことは、決して。
忘れてはいけない。分かっている。そう思っている。
——なのに。
「ミロ……」
どうして、何かを否定してしまうのだろう。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.160 )
- 日時: 2013/01/29 21:16
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
———“悠然高雅”アイリスは、闇の中、姿を現した。
『…いるわね? マミ』
当たり前のように、返答が来る。
『当ったり前だろ。ここに』
マミ——マラミアの通称である。
アイリスは頷くと、見えない椅子に腰かけた。
『“子孫”たちがカルバドへ行くわ。落ち着いたら、続きを説明してあげて。
…私たちの存在と…この<世界>の掟のことを』
『はいはい。…でも、アタシらの存在のこと言うのは、アイの役目じゃなかったっけ?』
アイ、アイリスの通称である。
『えぇ。そのはずだったのだけれど…予想以上に、“子孫”が混乱してしまってね。
時間不足で説明しきれなかったの』
『そーゆーことか。そこは“アイツ”には似ていないんだな』
『そうね』アイリスは溜め息をついた。
・・
『ところでさ』話を変える。『マイは? 最近見かけないけど』
『あぁ…先程、戻ってきたわ。どうやら、“蒼穹嚆矢”に会っていたみたい』
あそ、と気の抜けた声を出す。
『…ところでさぁ、いい加減、“アイツ”って呼ぶの、疲れたんだけど。普通に名前で呼んじゃダメなの?』
『駄目よ』アイリスはきっぱりという。『どこかで何かに聞かれていたらお終いなのよ』
『相変わらず、慎重だねぇ』
アイリスの言葉を、別な言葉が遮った。闇の中に、闇色の短髪が溶ける。
マラミアの紅や、アイリスの金とは程遠い髪色、深海よりなお深い闇の色。瞳は、意志強き翠緑。
噂すれば影、それは、マラミアのちょうどまさに言っていた——
・・・・
『“賢人猊下”マイレナ、ただいま帰省』
もう一人の『伝説』の称号持つ女傑、“賢人猊下”であった。
『お帰りー。いたのかよ』
『ご挨拶だねぇ。ウチはとっくにここにいたんだから』
『へいへい。…で? マイだったよね。“アイツ”のことをマルヴィナに話す役目は』
マイレナの通称は、マイであった。
『そーだよー。ついでに、称号の事も言っちゃおうかと』
『…時にあなたのその軽さが不安になるわ』
アイリスのさりげない毒舌、つまり一番ぐっさりと来る言い方で炸裂する。
が、マイレナはそういう事を気にしない性格である。
『まー、そんな心配がらないでよ。大丈夫だって』
『不安だわ』
『即答かい』
沈黙。
『…まぁ、そろそろ行くな。しかしまーなんつーもったいぶった計画…』
マラミアが首をぐりぐり動かしながら言う。
『仕方ないわ。私たちは、使命をはたすだけ…』
『分かってるって。…じゃ、またあとで』
言い残して、“剛腹残照”マラミアは人の世へ行く。
マルヴィナたちの向かう大草原、集落カルバドへ。
【 Ⅸ 想見 】 ——完。