二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.178 )
日時: 2013/01/29 21:45
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

      4.


 同日、夜のこと。
 いつもなら寝支度を始める遊牧民たちも、皆外に出、宴に酔いしれていた。
広場の中央で赤々と炎が燃えている。キャンプファイアー、というものを、マルヴィナたちは初めて見た。
族長の立ち位置にいるのは、ラボルチュではなく、ナムジンであった。
あの一戦後、ラボルチュは何の未練も躊躇いもなく、族長の座を降り、息子に譲ったのである。
未熟だと思っていた息子が、自分を超えるほどに成長していた。


“—父親なら、もっとナムジンのことを見てあげるといいよ。理解してやるんじゃなくてね—”


 マルヴィナが言い残した言葉の意味が、ようやく分かった。
…心残りを、あえて言うなら、息子の成長に気付けなかったということだろうか。




「そーいやさマルヴィナ」
 食用肉にかぶりつきながら、セリアスが言う。
「ん?」一方草原の老婆の秘伝の草の茶、という長ったらしい名前のそれを飲みかけていたマルヴィナは、
目だけでセリアスに反応した。
「この前、ここにガナン帝」
 国の気配を感じたって言ってたろ——という残りの長い文章を言いかけたところで、
マルヴィナが勢いよく立ちあがった。
「しまっ、忘れていたっ…! あぁまずい、逃げられたッ!!」
 いきなり叫んだマルヴィナに、周囲の人々が視線を送る。セリアスがあわて立ち上がり、
スンマセン、なんでもないですと謝っておく。そして、声を潜められるように、
なるべく顔をマルヴィナに近づけて(一瞬キルガの視線を思わず探してしまった)話を続けた。
「逃げられたって…マジかよ、それ」
「気配を感じないんだ、しまった、すっかり忘れていた…!
さっきの戦闘中には、少しだけ感じ取ったんだ、けれど今は全くない。
おそらく、住民のふりをしていた密偵だ…!」
「…ちくしょう、マジかよ…」不覚だった、とセリアスは頭をおさえる。
「…仕方ない。過ぎちまったことだ。…これから警戒した方がいいかもな」
「ごめん」
「謝るな、マルヴィナ一人のせいじゃない」
 ぽん、と肩を叩く。マルヴィナはうなだれつつも頷いた。
さて、そろそろシェナの様子を見に行くか…と踵を返した時、
何故か不意にキルガとばっちり目が合ってしまった。
いや別に、キルガも意味があって見ていたわけではなく、むしろこちらも不意に視線を上げたところで
こんな状況になった、というわけだったのだが、当然それを知らないセリアスは大いに慌てた。
(いやいやいやいやいやそうじゃなくてって言うかなんでお前そんな遠くにいるんだよ!?)
 もちろんその考えもキルガに届くことはなかったのだが。




 マルヴィナは頃合を見計らって、その場を離れ、民たちの死角となるような、
ひっそりしたところへ足を運んだ。えーっと…と小さく呟きながら辺りを見渡すと、
捜していた“人物”から声をかけられた。


『いーよなー人が寂しく悲しく一人でぽっつーんって待ってるってのに呑気に飯食えてー。
あーいーよないーよなーちくしょー』


 その恨みたらたらな発言をした、かすれ気味の、辛うじて女のものである声——
薄紫の眸、灼熱の長髪、アイリスの同胞マラミアである。
「あ、ようやく来た」マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
『コラ。どっちの台詞だ。待ってたのはこっちだっつーの』
「えぇ? だってこっちは数日前に」
『アホ、ここでの用事が解決していないうちにノコノコ出てくるか。——って、そんなことはどっちゃでもいい』
 ノリというかテンポというか、そのいずれかの良い言葉を言い、マラミアは頭を振って髪をバサつかせた。
紅い髪、薄紫の少々つり気味の目——違和感を覚えていたのだが、そういえば、セリアスに似ている。
彼女ほどセリアスはつり目ではないが、殆ど似ているのである。
だが、その訝しげな視線に気付きながらもマラミアは無視し、話しはじめる。
『えーと、なんだっけ…そう。“未世界”のことについてだったな』
「ちょまっ、待った、わたしそもそも、あんた達が何者なのか、聴いていないんだけれど」
『あー急かすな。今から話してやる』
 マラミアは髪をわしゃわしゃとかき乱し、少しだけ目を開けた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.179 )
日時: 2013/01/29 21:49
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 マラミアはまず、自分たちのことから話しはじめた。
 自分の正体——それは、“霊”ではない。
そもそも、人間の世界に、実在していた者たちではないのだ。種類の名はない。
あえて、“不人間”とでも言っておこうか、とマラミアは話した。
住まう地は、先程ちらりとその名を出した“未世界—実はこれも仮名である—”。
 未世界とは、人の形をしていながら人になれなかった者=不人間、
実在はしていたが強すぎる後悔、未練を残した者=霊、の二つの種類が集う場所だという。

『何でそんな世界があるんだとかは聞くなよ。
何で人間界とか天使界があるんだって聞くようなもんだから』
 マラミアはそう言って、余計な質問を回避した。
『まぁ、いろいろややこしい世界だからその辺の説明は必要な時にだな』
 既に十分ややこしいわ、と言いかけてマルヴィナは一応黙ったままを保った。
『で。…どうやら今の世、その“未世界”から“霊”を蘇らせるほどの力を持っている奴がいるらしい』
「はぁ!?」マルヴィナはつい大声を出し、急いで口を塞ぐ。
マラミアのジト目に、ゴメン、と頭を下げて謝る。
「え、じゃあマラミアも」
『誰が呼び捨てで良いっつった!? …しかも、アタシは“不人間”だって』
 やはり混乱するマルヴィナに、マラミアはやっぱ説明難しいわ、と溜め息をつき、説明再開。

 “霊”が蘇るというのは、実体として再びこの世に存在すること。
 “不人間”がこの世に出てくることは束の間の“顕現”であり、時間が限られていること。
『“不人間”系統を呼び出すのは、修業を積んだ奴ならまぁ難しいことじゃあないんだ。
ほら、例えばあんたも今日、あの二匹の狼呼び出したろ?
…あいつらも、“不人間”だよ。なんかおかしいけどな』
 頭の中でその言葉を理解するのに少々かかった。「…えぇっ!? あの二匹が!?」
『そ。それとか、ほら、占い師とか召喚士とかいるだろ? あいつらが呼び出すのも、“不人間”だ』
「あ…そういうことなんだ。幽霊呼び出しているわけじゃないんだ」
『そう勘違いされてっけどな。…でも、“霊”は違う。
一度消えた魂を再び戻すってのは、とんでもない力が必要なんだ。だから、よく言われるだろ?
たとえ蘇生の呪文を身につけたとしても油断するな、命が完全に消えるまでに呼び戻せと——
完全に消去される前なら、蘇らせることが出来る奴もいる』
 マルヴィナはその言葉を聞いたことがなかったが、おそらく賢者であるシェナは聞いたことがあるのだろう。
『しかも、その蘇生ができるって奴は——』マラミアは話を戻し、そして一度切る。
少し溜めてから、言った。

『…どうやらガナンの中にいるらしい』

 マルヴィナの眼が開く。マラミアが出会ってから一番厳しい表情を作る。沈黙が、続いた。
 が、その重苦しい空気を払うように、いきなりマラミアは『…ま』と気の抜けた声を出した。
「はい?」
『ちょっくらそろそろ時間がまずいんでね。
このほかに聞きたいことがあったらエルシオン学院にいるマイに聞いてみ』
「は? …マイ?」
『そ。…あぁ、本名はマイレナな。へへっ、アタシら、こんな感じの愛称持ってんだ。
マイレナはマイだし、アイリスはアイだし。アタシはマミ』
「…マラミアだけ滅茶苦茶わかりにくいね」
『余計じゃ』
「…で? あと一人は?」
 マルヴィナの質問に、マラミアは固まる。
「イヤ『ん?』って顔しないでよ。わたしの記憶の先祖とやらだよ」
『あー…』マラミアは答えを濁す。『ま、とにかく、一応エルシオンはここから東な』
「無視かい」
『アイツは賢者だったんだ、少なくともアタシらん中で一番頭がいい。いろいろ教えてくれるだろうさ』
 要するに、マイレナという人物に聞けと言うらしい。
 賢者…その言葉に、再びシェナを思い浮かべる。ガナン。シェナ。つながり——?
「あのさ。えっと、シェナってわかる?」
『あー? あぁ、分かるけど』
「話が早いな。…あのさ、シェナ、ガナン絡みとなると、
いつも何かに怯えたような感じになるんだ。…何か、知らない?」
 知るわけないか。聞いている途中に、思った。
だが、マラミアの眼が一瞬、本当に一瞬だけ険しくなったのを、マルヴィナは見た。

 ——知っている?

『あー…うん。そりゃ、仕方ないわ』
 そして、言いづらそうに、その言葉から始める。そして、言った——…。


『その娘昔、ガナン帝国に捕まってたことがあるようだな。だからだろ』


 先ほどより長い沈黙が落ちた。
「え」
 マルヴィナは一言呟き——

「ええええぇぇぇぇえええっ!?」

 そして、思わず叫んだ。
『わっ、バカっ』マラミアは焦り、そして、自分を見てさらに焦った。顕現時間がもう終了するのだ。
『と、とにかく、いいか、その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ!
もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!? とにかく次はマイに会』
 マラミアの話途中で、声は途切れた。


 宴の続く集落の片隅で、マルヴィナはしばらくの間ずっと立ち尽くした。




 とんでもない過去を秘めていた、仲間を想いながら。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.180 )
日時: 2013/01/29 21:52
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「あと一つ、か——」
 セリアスが腕や背を十分に伸ばしながら言った。
ダーマ神殿、ツォの浜、カラコタの橋、サンマロウ、グビアナ砂漠、カルバドの草原。
そして今、導かれるままに、次の地へと赴こうとしている。
そこに、果実はあるだろうか。期待と不安が入り混じるとは、まさにこのことである。

「エルシオン学院? 有名な学校ね。文武ともに鍛えられるっていう…何、マラミアって人が言ったの? そこへ行けって」
「う、うん」
「…どうしたのマルヴィナ。調子悪いの?」
「え」マルヴィナはシェナの視線を受けかけ——そらす。ううん、大丈夫、と呟くように言った。
 カルバドの集落を後にした彼らは、次なる地エルシオンに向けて船を出した。
セリアスはいつもの通り舵を切り、マルヴィナは魔物の姿が見えた時以外はのんびりモード、
シェナは多量の魔力使用による気絶の後遺症(?)がすっかり消え、
そしてキルガは例によって調子が悪いのだが、寝ているとサンディがわぁきゃあうるさい、ということを
学んだので今日は初めから外に出て潮風に当たっていた。
 マルヴィナはそっと目を伏せる。まともに、シェナを見ていられなかったから。
まさか、ガナンに捕まっていたことがあったなんて——道理で、過剰な反応を見せてしまうわけだ。
 けれど——

“—その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ! もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!?—”

 …先日の戦いでマルヴィナが呼び出した二匹の狼は、実際にこの世のものに傷をつけた。
実体がないと言えど、ものに触れることができる——ややこしすぎる。 だが、事実であるのだ。つまり…マラミアの行ったこと——マルヴィナの魂を消滅させる、
即ち殺めることは、可能。

 …物騒なひと。

 マルヴィナは、そっとそう思った。
「で——何、まだ聞きたいことがあったの?」
「うん、まだ、教えてもらっていないことだらけでね。
まず“記憶の先祖”とやらの正体も名前も聞いていないし、正直、何かこんがらかってきてさ。だから」
「ふぅん…」
 シェナが頷く。そして、会話が切れたのを境に、一度大きく伸び、そのまま柱に背を預けて座った。
「いい天気ね、今日も」
「そうだね。…確かにこれだけの快晴だったら、外にいた方が酔わないだろうね」
 マルヴィナはキルガを見て、言った。最近誰も髪を切っていないせいで、
キルガの髪も少し長くなってきている。周りの女性曰く、それがいいらしいのだが、
やはりまだマルヴィナはそういうことに関しては鈍感だった。
「キルガも、いろいろ変わったよねぇ」シェナが呟く。
「なんていうか、何かを超えたような…成長とか、そういうのじゃなくて。どことなく、そんな感じがするわね」
「確かにね」マルヴィナは頷く。「顔つきが、変わったと思う」
「あぁ、言えてる。…それにしても様になるわね…容姿が良いやつには風が似合うってのは本当ね」
「毎回思うんだけれど、それ、誰の言葉?」
「ん? 毎回即興」
「じゃあ『本当ね』とか『〜とは言うものだ』とか人に聞いたような言い方を止めてくれ…ややこしい」
 いいのいいの、と手を振ってシェナは笑った。
なんとなく噂されている気がしたので、キルガは遂に怪訝そうな視線を送ってくる。
二人は肩をすくめ、そちらへ向かった。


「調子は?」
 とりあえず、最初にそう聞いておく。
「前よりはずっと良いと思う」
「でしょうね」マルヴィナではなく、シェナが笑って答えた。
 バサつく髪を掬うように抑えつつ(シェナが決まりすぎでしょ、と半眼になっていた)、
キルガは、ところで次の場所にも誰かがいるのか、と問うてくる。
「うん、いる。マイレナって人で——そう、シェナと同じ、賢者だったらしい」
「——へっ?」シェナが素っ頓狂な声を上げる。いきなりの指名に驚いたのかと思ったが、違った。
「…私」
 しばらく悩んで、考えてから——やっぱり、と確信を持ったような口調で、シェナはいきなり言った。


「私、その人のこと、知ってる——」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.181 )
日時: 2013/01/29 21:57
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 数秒の沈黙の後、マルヴィナが、神妙この上ない顔つきでシェナの肩を叩いた。
「…前から何度も言っているし、」
「うん」
「前から何回も思っていたが、」
「うん」
「シェナ、…………………………あんたいったい何者?」
「………………………………」黙ってから、シェナは何とも微妙な笑顔をつくった。
「うーん…今回は、“賢者”かな?」
 意外とまともな答えが返ってきたので、マルヴィナは頓狂な声を上げてから手を放す。
「結構有名なひとなのよ。たしか、本名はマイレナ・ローリアス・ナイン。
初めは、彼女は僧侶だったの。とある有名な世界に認められる団の一員だったみたい。
で、治療の魔力を十分に身に着けて、しばらくして賢者となって——最終的に、
史上最強とまで言われる呪文を手懐けた、賢者の中の賢者よ」
 恐ろしくさらりと説明してしまったシェナに、やっぱ何モンだこいつ、という半眼を送るふたり。
「そんな顔しないでよ。賢者の中じゃ常識でもあるんだから。
ほら、多分、称号なら、この世界の冒険者も知っているかもよ?」
「そなのか?」
「ちなみに?」
 マルヴィナ、キルガと言い、シェナはえーと、と呟いてから、言った。

「確か——“賢人猊下”」

 過剰に反応したのは、マルヴィナだった。
「賢人猊下!?」
 あぁ、やっぱり知ってる? ——と言いかけて、
表情が驚愕以外の何かを秘めていることに気付き、言葉に詰まる。
「どうしたの?」
「だ、ダーマ神殿で、聞いたことがある。ほら、名前知らないけれど、武闘家の人がいたろ。
彼に、聞いたんだ…伝説とまで言われた、その女戦士の名前」
「伝説」キルガが言う。「なんだかその言葉も生ぬるく聞こえるほど凄そうだな、そのマイレナって人は」
「そうね」頷いてから、ついでにとシェナは二人に説明を始めた。
「まず、究極呪文を覚えるまでが大変だわ。…究極呪文マダンテは、太古の昔の大賢者が編み出した
聖とも邪ともつかない魔法。でも、その前に、二つの魔法を取得しなければならないの」
                     イオグランデ
 一つは、聖——空爆呪文系統最大の魔法、極爆破呪文。
                     ドルマドン
 もう一つは、邪——闇呪文系統最大の魔法、絶闇呪文。
 有能な賢者となると、ある日突然、とんでもない高熱を出すらしい。
それが、その二つの内、どちらかを身に着ける合図——
                   ドルマドン       イオグランデ
 自分の中に闇が多ければ、取得するのは絶闇呪文、光ならば、極爆破呪文だと言われている。
「呪文で自分の評価がされるってことか…恐ろしいな」
「そうね。でも、もう一つの魔法を取得するにはどうすればいいのか、
それはあまり知られていないの。そもそも、一つを身に付けられても、二つ目は無理だ、って人が多いしね」
 何で? と問い返す。シェナはだって、と肩をすくめた。
「自分が光の存在だ…って証明してもらったとしたら、大抵、もう一つの呪文を覚えるために
邪悪になろうとする人なんて、そうそういないでしょ? 逆に、闇だって証明されたら…
ショックじゃない? 悔しくて、でもどうにもならない。
邪悪だって言われた自分が聖になれるはずがない、って」
「あー…」マルヴィナは曖昧に答えた。
「まぁ、後者は、人間にはありがちだな。…シェナはまだ覚えないのか?」
 カルバドの地で、シェナはその二つの一歩手前の呪文を取得した。
となると、これはそろそろだという合図ではないのかと、キルガはそう言っているのだ。
 だが、シェナは「まだまだ!」とどこか笑って言った。
「あんなのとはレベルが違いすぎるわよ。このうちのどっちかを覚えるだけでも大変なんだし、
まだ私じゃ無理ね。…それに」
 一度切って——シェナは、少しだけ表情を暗くして、呟いた。
「…できれば、今のままがいいわ」
「………………………?」
 マルヴィナとキルガは、顔を見合わせた。
シェナのその一言に、何か言い表せない辛さを感じたので。

(そうか…てことは、マイレナは、“霊”なのか——)

 賢人猊下——まさか、その名をここで聞くとは思わなかった。
そして、あれ? とつい呟く。賢人猊下——その名を聴いて、思い浮かべられるもう一つの名——

 ——“蒼穹嚆矢”。
 もう一人の、女戦士。



 彼女は、一体——…?






 何故かは分からない。
 けれど、潮風が、その時だけ冷たく感じた。