二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.19 )
日時: 2013/01/15 20:35
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

      2.





 日が昇る。
リッカの作ってくれた美味しい朝食で腹と満足感を満たしたマルヴィナは再び村を出て、
キサゴナ遺跡へと向かった。

(行くのは初めてだな——えっと、南東、峠の道方向じゃない方)

 かなりいい加減であることは気にしない。
 森の中へと入り、方位磁針と睨めっこしつつ、進むこと少々。
少し離れた後ろを、何かがつけていることにマルヴィナは気付いた。魔物か。
直感して、走ろうかと考えたのとほぼ同時、次はそこが騒がしくなる。魔物の集団か!? 早速役立つかこの剣。
——と思ったのは見当違いで、振り向けば魔物。…いや想像はしていたが。ああ何か混乱してきた。
(えっと。四匹だな)とりあえず落ち着いて、観察してみる。
 弓使いリリパットと、ズッキーニャと、スライムとスライム——華がない。——前も同じこと思わなかったか?
 だが、首を傾げつつもよくよく見てみれば、ズッキーニャとスライム二匹は、
リリパットの持つ弓矢をグイグイと引っ張っているようにも見えなくはない。
まるで、討たせまいとでもするように。気付く。その三匹に、マルヴィナは見覚えがあった。
そう、あれは。自分にまだ、翼と光輪のあったあの時に対峙した——

(…あの時の)

「…ゴッ!」
 弓矢を取られたリリパットは、抗議するように唸ったが、
ズッキーニャに弓を折られて顔を真っ赤にさせて逃げて行った。
「ふぅーいっ。危なかったぜ。これであの子も——むげ!?」
 一息ついて視線を転じたズッキーニャは、今自分が助けた少女が自分をじっと見ていたことに気付いて身を引く。
「や、やっべ」慌てて逃げかけた時だ。
「ちょ、まってズッキー、あの人、もしかして」一匹、スライムがそれを止めた。
 マルヴィナは小さく開いていた口を閉じて、微笑んだ。
「久しぶりだな。…かな? あの時あんたの腹に突きつけた剣はないが」
 その言葉に確信したスライムは、高揚した様子で飛び跳ねる——あ、色が変わった。
「やっぱり天使だっ! 羽も輪っかもないけど、あの時の!」
 ようやく残る二匹も納得したらしい。おわお、とか、わおう、とか、
マルヴィナには聞き慣れぬ感嘆の声を上げた。
「さっきはありがと。助かった」
 自分が狙われていることが分かっていたものの、あえて言うことはしなかった。
「あん時から、おいらたち、色んな旅人さ守ってるだあよ。
だども、気付かれったら、おいらたちまで被害が来るべ」あ、懐かしいこの喋り方。
「前はひどかったよねー、剣持った男が『待て待てーっ』て追いかけて来るんだもん」
「ああ、生きた心地がしなかったぜ」
 そのやり取りをしばらく呆然と聞いていたマルヴィナは、急にはっと気付き、尋ねる。
「…あんたたち、キサゴナ遺跡について知らないか?」
「キサゴナ? 知ってるよ。何、行きたいの?」
「あぁ。…探している人がいてな」
「案内しよっか」
 素直に頷いた。迷うのは勘弁だ。それに、今の彼ら(?)なら信用していいだろう。

 そのスライムは、スラらんと名乗った。田舎風の喋り方のスライムがスラピ。ズッキーニャはズッキー。
マルヴィナも自己紹介を返す。スラピには発音が難しそうだ。
「全部あだ名だけどね。もともとの真名からとっているんだし」
 道中、スラらんはそう言った。



 そして、一時(この世界で言う、約一時間)ほどかけて、
元天使と三匹の愉快な(?)魔物たちは、キサゴナ遺跡に到着した。やはりこの方が早かっただろう。
中は、どことなく神聖な雰囲気があった。しかし、今は魔物だらけ。
一番多くいたのは、吸血蝙蝠ドラキーであった。
「ボクの血は美味しくないよ美味しくないよ美味しくないよ」
「スラらん…妙なことを聞くが、お前に血は流れているのか?」
 ズッキーにツッコまれたスラらんが黙り込む。
マルヴィナはスラピに流れているの? と訊ねて凄く真剣な表情をされた。
ともかくそのまま中を探索すると、ひとりと三匹は壁にぶち当たった。
「…いきなり行き止まりか?」
 マルヴィナが尋ね、
「こっちに、ボタンがあるだ。ボタン押さんこたぁ、先には進めんべ」スラピが答え、
「あ、ボク行く」スラらんが行動に移そうとし、
「お前身長届かんだろう。ここで待ってろ」結局ズッキーが向かった。
 リズミカルにステップを踏むかのように、てってってっ、と走るズッキーを見ていたマルヴィナは、
その手前に人影を見た。だが、それは。
(死者…?)
 目が合う。人——四、五十代のその男性は驚きの表情を見せた。そして、スッと消える。
(…なんでこんな所)「にっ!?」
 その瞬間、地響きのような音がマルヴィナの鼓膜を震わせる。
「なっ。地震かっ!?」
「ちちががううよぉぉ。とととびびららががが開くううぅんだぁぁよぉぉおお」
 かなり揺れて、揺れに揺れて、しばらくして止まった。
壁だと思っていたところにぽっかりと穴が開いていた。奥への扉だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.20 )
日時: 2013/01/15 20:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ウォルロ村から西の方角、セントシュタインの国。
 一人の少年、もしくは青年が、城下町の看板を見ていた。

『セントシュタインに謎の黒騎士現る。
  奴を討たんとする勇気ある者は申し出よ。素性は問わぬ
                    セントシュタイン 国王』

「俺ひとりじゃなぁ。——せめてテリガン様とか、キルガとか、マルヴィナがいてくれりゃなぁ…」
 その少年は、腕を組み、天を仰ぐ。 ・・・・
「——はぁぁぁぁぁ。…何で俺だけが、こんな目に…」
 …びゅう、と、強い風が、吹いて、少年のぼさぼさの赤い髪をさらに爆発させた。
ぐしゃぐしゃと掻く。と、もう一度風が吹いてくる。自然のものではない——なにか、何かが——

「………ん?」

 人々のざわめき、緊張感。異質な、雰囲気——
「おっおい、あれ…!」
「うっ、うわわ…また来たぞ!」
 少年ははっとする。

 ・・・・
「黒騎士だ!!」


 馬の声と、蹄の高く軽快な音。
 黒い馬に跨った、漆黒の騎士!
「っげ。黒騎士って、あれかよ! てかホントにいたーー!!」
 信じていなかったわけではないが、いきなりそれを目の当たりにして、少年は呆然と突っ立った。
逃げる住民には目もくれず、黒騎士は城を目指す。幸か不幸か—いや多分不幸だろうが—、
少年はまさにその目の前にいた。
「…しゃあ、ねえ…なっ」
 横にあった幸い何も干されていない物干し棹をむんずと掴み、それを背に持ち、
「…っせえぇぇええい!」少年は馬に足払いをかけた。
 ガッ! 痛そうな音があたりに鳴り響く。
「ブヒィィィン!」
 そう、見事命中。馬は悲鳴を上げた。振り回された前足をおっと、とよける。
馬は黒騎士の意思とは逆に、町の外へ逃げて行った。おおっ、と歓声があがる。
 少年が棹をブン、と回し、元の位置に収めると、割れんばかりの拍手が起こる。
少年はにかっ、と笑い、何気なく群集を見渡し——


「相変わらずだね。——セリアス」


 そう、声をかけられた。
「……エ?」
 少年、セリアスはその瞬間、思考がスコン、と抜け落ちる。
 何故なら、声をかけてきたのは。

「…キル、ガ? …っキルガじゃないか!!」
        ・・・・・
 自分の親友の、自分と同じ翼も光輪もない天使だったから。
見たものが信じられずに、セリアスは目をこすりながら片方の手で頬をつねる。目を開ける。
何やってんだ? と言いたげなキルガの顔がそこに映っていた。
「キルガー! 無事だったかー!」
「それについては首を傾げたいところだが——まさかこんなところで会えるとは思わなかった。
偶然ってのは恐ろしいな」
「だな。…………どういう意味だ?」
「ん? そのままだが」
「………嫌がってるわけじゃないな? …だな。ウン」
「…………? …とりあえず、ここでは話がし辛い。歩きながら話すとしようか」
 住民たちのセリアスへの感謝と称賛の目から、キルガへの(女性たちからの)熱烈な視線に
変わり始めていることをキルガは肩をすくめながら確認し、セリアスを促した。
「…さて。——セリアスも落ちていたんだね。人間界に」
「まーな。翼も光輪もないけど」
「見ての通り、僕もだ。落ちたことが原因だろうか」
「さぁ。見事に俺も落ちました。見に行かなきゃ良かったなぁ…」
「それは自業自得だ。責任はとらない」
「ばれた時、じゃなかったっけ」
 キルガに無言を通され、スミマセンと引くセリアス。
「でも、見かけこそ人間だけれど…天使としての力は、残っているみたいだな。そう怪我もひどくはないし」
「俺は足に。キルガは顔か。また目立つところに」
「実は喋り辛い」
「普段からあんまり喋んねーじゃんか」
「まぁ」
 話が不意に途切れ、微妙な空気が漂った時。
「おお、貴方ですな? 黒騎士を追い払ったと言うのは!」
 鎧を纏った者、即ち兵士が一人、二人を見つけて沈黙を破った。
「え」
「是非! 是が非とも! わが国で戦士となってくださいませんか!
貴方のようなお強い人を求めているのです! いやぁさすが、住民たちから目を引くことだけはある!」
 セリアスは呆然。そして、別にいいけど、と答えようとして、
兵士の視線がキルガに注がれていることに気付く。
住民たちの目——そう言えばさっき、最終的に視線を主に注がれていたのは——


「って、追っ払ったのは俺だ————っ!!」


 そう考えるとなんだか無性に悔しくなって、思わずセリアスは叫んでいた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.21 )
日時: 2013/01/15 21:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「…いないなぁ、ルイーダさん」
 ——大体同じ頃の話。
 マルヴィナは、リッカからもらったプラチナソードを右手に持ったまま歩く。
何度も魔物たちに襲われ、何度もそれらを切り抜けた。スラらんとスラピのスライム組が
主に注意を引き寄せ、マルヴィナとズッキーが攻撃。
何度も戦っているうちにズッキーの槍の使い方もまともになってきた。
マルヴィナは相変わらず、鋭い冴えを見せている。仲間たち三匹は、以前こんな天使を相手にしていたんだと
少々背筋が凍る思いをしていたのだが。
       ドラキー
 ちなみに、吸血蝙蝠に最も狙われたのはスラらんであった。…やっぱりお前血が通っているのか? と
訊ねられるたびにスラらんとついでにスラピは、必死で何も聞こえないふりをしていたのだが。
 ともかく、連続の襲撃がようやく落ち着き、一行は警戒しながらも探索を進めた。
 ズッキーがその左に、スラピは右にいたため、マルヴィナの剣が何度も刺さりそうになっては
珍妙な悲鳴を上げている。スラらんは先回りして、誰かいないかを確認していた。
 ——と、そのスラらんが帰ってくる。マルヴィナはぴょこぴょこ飛び回るその様子に、
何かを掴んだのかと察して身をかがめた。
「マルヴィナぁ。あそこに誰かいるー」
「ルイーダさんか?」
「男」
「——て、ちょっと待て。遭難者?」
 何だ、と言いそうになり、慌ててマルヴィナはそう言った。
だが、スラらんのうーんとうなる声に首をかしげる。
「死んじゃってるみたいだよ、あのおじさん」
「え」
 予想外の答えだったが、まさか、と思った。さっきも見たあの人か? と。——見えた。
マルヴィナは駆け寄る。やはりそうだ。
「あの、貴方は——」
 マルヴィナが声をかけたときに、彼は口を開く——

『この、扉の、向こうに——…』

「——え」
 それはおそらくその幽霊の男の声だろう。もう一度聞き返そうとしたが、男はすぐに消える。
「え、ちょま、早ッ」
 あわてて止めようとするが時すでに遅し。
(言いたいこと言って、すぐサヨナラて)
 マルヴィナが第一に思ったのは、
(あんたはイザヤール様かっ!!)
 …ということであったが、それはこの際関係のない話。
「マルヴィナ、何と言っていた?」
 ズッキーが槍をズブッとさして問う。
「危なッ」スラらんがサッと切っ先をよけた。「ボクに穴開ける気っ!?」
「血が流れてくるのか?」
「もういいよー!」
「で、なんつーてただ、マルビナ」
 スラピがようやく歯止めをきかせてくれた。マルヴィナは苦笑して答えた。
「“扉の向こう”」
「なんじゃそりゃ」間髪をいれずに、ズッキーが言った。確かに、尤もである。
「とにかく行ってみよう」マルヴィナは扉に手をかけ、顔をしかめた。「——重そうだな…手伝ってくれ」
 マルヴィナと三匹の魔物たちがせーので扉を開ける。が、見た目に反し軽かった。
勢い余って思わず前のめりに倒れるスライム二匹。スラピはべしゃりと床に突っ伏した。
「なんちゅーややこしい扉だべ!?」
 スラピが悪態をつき、
「マルヴィナ、あれ見てみろ!」
 ズッキーが大声を出した。       ・・・
「しーしーっ! 大声出しちゃだめだよっ! あいつが来るっ!!」
 スラらんが妙に説得力のない注意をする。
「あれって」
 最後にマルヴィナが顔をあげ、そして目を見張った。

 誰かいる。誰かが——倒れていた。
「あの人が…ルイーダさん?」
 その、目の前に——黒交じりの青の艶やかな髪が見えた。
そのまま寝ているのか、あるいは死んでいるのか。足元には、大きな岩。
「——助けなきゃ」
 呟くなりマルヴィナが走る。が、


「危ないマルヴィナ、走っちゃ駄目!」


 スラらんの声も、遅かった。

 天井の岩が少し崩れた。地響きが起こる。
 そして、マルヴィナの目の前に、何かが立ちはだかった。




 魔獣ブルドーガ。キサゴナ遺跡に住む、巨大な魔物である。


Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.22 )
日時: 2013/01/15 21:20
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「…………………」

 何が起きたかわからなくて、マルヴィナは思わず時を止めた。
二つの立派な角。黒く長い毛、そして、怒りの眸。侵入者を拒むように。
「ままままーずーいーっ! 見つかったっ!」
 スラらんが叫び、ぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ね回る。
「マルビナ、逃げるだ!」
 そして、スラピのその言葉で、マルヴィナはようやく我に返る。
「逃げる、て」
 だが——そんな事出来るわけがなかった。助けなければならない。ここまで来た意味がない!
マルヴィナはじりじりと後退した後、しゃがみこんだ。石を握る。ゆっくりと、下がりながら。
目を合わせたまま——マルヴィナは、さっと石を横に放り投げた。
ブルドーガの視線が、一瞬だけ外れる——今だ! マルヴィナはその横を駆けた。
 住処を荒らされた、あるいは眠りを妨げられたせいで怒り狂ったブルドーガが
させまいとマルヴィナの背を追う。だが、さらにそれに立ちはだかったのは三匹の魔物たちだ。
「行かせるかよっ」ズッキーが言い、
「んだ」スラピがあわせ、
「かよーっ」スラらんが最後だけズッキーに合わせた。
 それを聞いた時、マルヴィナの足が止まる。あんな魔物に、三匹だけで立ち向かおうとしている!?
「ちょ…」マルヴィナは声を上げた、が。
「マルビナ! ここはおいらたちに任せるだ! とにかくそのおなごを助けるだよ!」
 マルヴィナの反論はスラピに封殺される。大きな二つの目に睨まれ、マルヴィナは決意する。
(早く助けて、)
 走り、女性を揺さぶる。
(援護しなければ——!)
「う…アラ? あ、貴女は…?」
 反応があった。生きている!
マルヴィナはほっとし、名乗る前に彼女の足を挟んでいる大きな岩に力をこめた。
「ま、まずは、これを、どけてっ…」
 重い。とてつもなく、重い。持ち上がらない。——駄目だ。焦っちゃだめだ。落ち着け。集中しろ——
マルヴィナは目を閉じた。神経を集中させる——

「く…っはぁぁぁああぁあああっ!!」

 気合一発、大岩はゴトン、と音を立て、わずかに持ち上がる。
「…うそ」
「嘘じゃない! いいから、早く、抜け、出しっ…」
 真っ赤な顔のまま、マルヴィナは必死に声をあげる。女性は今更のように気付き、足を抜き、立ち上がる。
「あ、ありがと…って、あの魔物、ブルドーガ!?」
 持ち上がった時より大きな音を立てて、マルヴィナは岩を落とした。肩で息をつく。
「っだ、はぁっ…し、知って、いる、のか?」
「えぇ…ここを住処としている魔物よ。ここらの奴らより、ずっと強——来たわよ!」
 ぎく、とする。三匹の魔物を振り切り、ブルドーガはマルヴィナに視線を合わせ、突進してくる。
「っ」
 マルヴィナは剣に手をかける。女性を庇うように立ち、構えた。
そのまま抜き、斬るつもりでいた。…が。


———ここを住処としている魔物よ


 女性の言葉が、耳に残っていた。
 住処。

(…誰だって…そう、だよな…住処に押しかけられたら…怒る、よな)

「…マルヴィナっ!!」
 その場でかわすことも出来た。だが、それでは後ろの女性が危ない。
動かない。無防備のまま、攻撃を受けようとして——








 その時、その瞬間だった。
 マルヴィナの剣が、輝く。
 ——違う。構えていた剣じゃない。
 それは、腰に下げていたままの。

 ——あの、使い物にならなさそうな『お守り』だった。

「グ、ガッ…!?」
 ブルドーガの動きが鈍る。マルヴィナ自身、呆然とした。
 彼女の目の前で。

 ブルドーガは、止まっていた。
「…………」
 毒気を無くして、獣はしばらく固まっていた——が、ゆっくりと踵を返す。のそりのそりと、端へ歩いて——
そのまま、丸まって寝てしまった。



「………………はへ?」
 ぽかん、と一同が時を止めていた後、最初に動いたのはズッキーだった。
「だ、大丈夫、…だよなマルヴィナ…」
「あ、あぁ。…大丈夫だ」
 答えてから——もう一度、獣を見る。
「…寝た…?」
「罠…?」
「何のだよ」
 ツッコミを入れたのはズッキー。
「…とりあえず、助かった…ってことでいいのかな」
 マルヴィナは曖昧に首を傾げたが、わけの分からない雰囲気を打ち消すために、後ろの女性を見た。
ぱっ、と目があった。       ・・
「…ああ! と。ありがとう、あなたたちのおかげで助かったわ」
幾分か姿勢を正すと、その女性は優雅な仕草でお辞儀をする。
「私はルイーダ。セントシュタイン城で酒場に勤めているの」
 求めていた名に、魔物たち含め皆ほっと胸をなでおろした。
「ようやく見つけた。リッカが心配していたから」
「リッ、カ? ——ああ、リベルトさんの娘さん——」呟いて、はっと顔を上げる。
「そう! ウォルロ村っ! ウォルロ村に早く行かなきゃっ!」
 優雅さがいきなり消え失せた彼女に目をぱちくりさせる。
が、ルイーダはその後咳払い、落ち着きを取り戻して、まずは出ましょと促した。
「…………………………えと、」
 なんだか相手にペースを持っていかれたような気がしないでもないマルヴィナであった。



 振り返る。マルヴィナは、そっと獣を見た。
——何があったのかはわからない、けれど。

 マルヴィナは、呟いた——
 邪魔をした、と。