二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.194 )
- 日時: 2013/01/31 22:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
2.
囚人は言う。
本当に良いのだな、と。
皇帝陛下は返す——
お前に否定権はない、と。
同じころ、ガナン帝国。
マルヴィナがどこにあるのか悩んでいるその位置にいる二人の、潜むような会話である。
皇帝陛下——即ち、ガナサダイ。
そして、つい最近、マラミアがその存在をマルヴィナに伝えた—“霊”を蘇らせる者—囚人。
「念のため、もう一度言う。…“奴”を蘇らせる間は、誰ひとり蘇らせることはできない——」
「天使どもが思いのほか著しく力をつけ始めた」
遮って、ガナサダイは言う。
「“天性の剣姫”に関わりあるという“奴”を利用する以外の手立てもあるまい」
「確かに、味方に付ければ恐ろしいまでの戦力となるだろう」囚人は一度、肯定する。
「だが——敵となれば、最も警戒すべき脅威となる——」
「それ以上の無駄口を叩くな」もう一度遮って、ガナサダイは言う。「貴様はただ実行さえすれば良い」
「やれやれ…」囚人はあきらめたようでも、嘲るようでもなく、溜め息を吐く。
「面倒な仕事が来たものだ…では、しばらくの面会は控えてもらおうか。強大な力に巻き込まれたくなければ」
「大きな世話だ」ひとつ悪態をつき、ガナサダイは、その場を去る——
足音が聞こえなくなったその場所で、囚人は静かに言う——
「生年不明、消滅三百年前。“蒼穹嚆矢”蘇生儀式——」
静かに、時が流れ始める。
「あーい、おつかれー」
——エルシオン学院。その夜、四人は食堂にて、情報交換、首尾の報告、
「あっ、それは俺が食べようとっ」
…ついでに料理の取り合いをしていた。
「とられる方が悪いのよー、って、ちょっと私のゆで卵はっ!?」
「はいはーい。いただきましたー」
「マルヴィナっ!? それ美味しいのにっ」
「知っているよー。だからとったんだ」
「つーか、とられる方が悪いんだろ?」
「セリアス…明日は覚悟しなさい」
「すいませんした」
一人苦笑しながらもキルガはそれを眺め、最後に残しておいた唐揚げ——が皿の上にないことに気付く。
「…あれ?」
「あー、ここの唐揚げ美味しいな。ころもが特に」
作り方教えてほしいなー、とか言ってホクホク顔をするマルヴィナに視線を向け——
「………………………マルヴィナ」
「なに?」
「…トマト、もらうよ」
「えーちょっとそれ最後まで残しておいたのにっ」
「こっちこそ唐揚げは最後まで残しておいたものだっ」
今度はその二人の会話に、セリアスは笑い、シェナはニヤニヤしていた。
ちなみにサンディはまた、人目を盗んでつまみ食いに走っていたりする。
「で結局、どうだった?」
「んー…」互いに意見を聞くが、全員言葉を濁すのみ。
「て言うか、初めてだしな。なかなかいきなり事件のこと聞ける人はいなかったし」
「だよね」マルヴィナは苦笑した。
「——…」シェナが少しだけ考え込んでいるのに気付いて、発言を促す。
えーと、事件とは関係ないと思うんだけど——そう前置いてから、シェナは言った。
「今日歩き回ってて気づいたんだけどね。なーんかつけられてる感じがしたのよ」
「なぬ!?」セリアスが反応。「誰だそいつはっ」
「分かっていたらこんな遠回しな言い方しないわよ。——でもね」
シェナは紅茶を一口飲んでから、天を仰いだ。「なーんか最近、見たことがあるような気がするのよねー…」
結局情報は何も得られなかったという結論に終わり、翌日から本格的に調査開始と言うことになる。
その夜、マルヴィナは、悩みながらも、マイレナを探しに外へ出た。
マラミアの口調からすると、今回の事件を解決しないことには彼女には会えないのかもしれない。
だが、とりあえずは、捜しておきたかった。
門限が決まっているため、マルヴィナはそっと、気付かれないように、扉を開く。
幸い、雪は降っていない。今の内、と外に出る。
「………………………………………」 ・・・・・・・・・
魔法的な力で学院内は寒さから守られているとシェナは言ったが、やはり外へ出る者のいない夜は
その力が消えている。若干雪は積もっており、そしてとても寒かった。
マルヴィナは油断なく辺りを見渡す。マイレナを探すためでもあり、
気配を感じたガナン帝国の使者に見つからないためでもあった。右手に隠したピアスを、握りしめる。
だが、やはり、何も、誰も見つかることはなかった。
(やっぱ、そうだよな…)
マルヴィナは溜め息を吐く。真っ白だった。時間も遅い。
戻るか。ちらつき始めた雪を見て、そう思った。ざく、ざくと音を立て、
マルヴィナはもと来た道を歩き——そして固まった。
寮の扉の前に誰かいる。
「……………………………」警戒して、その人物を遠くから眺め——そして、やばっ、と一言。
そこにいたのは——寮の、管理人であった。
(や、ヤバい。これって抜け出した事に気付かれたってことだよな…?
ど、どうしよ…ってかなんで気づいた!?)
マルヴィナが自分の足跡を雪の上に残してきてしまったことに気付いたのは、しばらくの後のことであった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.195 )
- 日時: 2013/01/31 22:27
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「…で、どうしたの?」
——翌朝、寮の食堂にて。四人は再び集まり、軽い朝食をとっていた。
「んー、最初は裏にまわって二階の扉まで跳んでやろうかと思ったんだが」
「いやいやいやいやいや。そりゃ無理でしょ」
「うん、三回やってみたが無理だった」
「やったんかい!!」とは、セリアス。
シェナはこの子時々よく分からないわ、とか思い。キルガはとりあえず黙って苦笑。
「で、その時、わたしとは別に寮を抜け出している不良の奴らを見つけたんだ」
「え、何別にいたの? …で、どうしたの? まさか囮にでもした?」
シェナじゃないんだからそれはない、とキルガは思ったが、「せいかーい」という
マルヴィナの気の抜けた声を聞き、思わず吹き出しかける。
(マ、マルヴィナ、シェナの影響受けている!?)
見直すべきだ、とキルガは本気で思った。
ともかくマルヴィナは、いたずらそうに笑うと、「もちろん理由はある」と前置きした。
「そいつら、どうやら今回の誘拐騒動にかかわりがあるみたいなんだ」
グラスに入った水で少し舌を湿らせ、マルヴィナは続ける。
「会話からしてそうだろう、って感じのいわゆる推測だから、
あんまり詳しいことも分かっていないんだが、誘拐された人間はあの不良グループの一員だったらしい。
…となると、もしかしたらその誘拐犯はそのグループの誰かを狙っているかもしれないだろ?」
まぁ、裏を突かれる場合もあるだろうけれど——そう言って、マルヴィナは食後のデザートに手を付ける。
「あぁ、それで、奴らを帰した、ってこと?」
「そう。ま、管理人には、『誰かが外に出る気配がしたので追ってみたらなんか複数の人間がいます、
あれはこの学校では普通の現象なのですか?』って何も知らない新入生のふりをしたけれどね」
「「………………………………………」」キルガ&セリアス、無言のまま固まる。
なんかマルヴィナ最近黒くなっていないか? と同時に思いつつ、視線は自然とシェナに向く。
「ん? 何?」
シェナは本気で首をかしげ、いやなんでもアリマセン、と引き下がる二人であったのだが。
そんなわけで、迎えた二日目では、主に誘拐された人物、
ついでにその不良グループのことについて探ることにした。マルヴィナ・キルガペアは、
もちろんキースとナスカの双子から尋ねることにする。
「あー、あのコらねー」
ナスカはうーんとうなった。
「最初にいなくなったナシルって人さ、最初すんごい頭良かったんだよね。普通にトップとるくらい」
トップ、と聞いてマルヴィナは苦笑した。ちなみに、昨日の抜き打ちテストは、
トップが七人で、いずれも満点。その中にキルガとシェナはごくあっさりと入っていた。
どうやら二人とも、まだ訪れたことのない場所まで知っていたらしい。
マルヴィナはその訪れたことのない場所は記入していなかったし、セリアスは妙なケアレスミスで
点を落としていたが、それでもかなりの上位で、二人してホクホク顔だったのだが。
というどうでもいい話はともかく、次いで話すのはキース。
「おれナシルには結構勉強教えてもらってたりしたのよ。でもさぁ、去年の…いつ頃だったか忘れたけど、
まぁでっかい試験で、順位が一気に六位に下がってさ、すんげぇショック受けてた」
「わっかんないわよねー、あたしなんて自分の後ろに二ケタ人数いればそんでラッキー☆ なのに」
「だからおまえ、それはさすがにまずいだろ」
どうやらナスカの成績は思わしくないらしい。
「で、そっからちょくちょく休むようになってさ。モザイオと組むようになっちゃってー」
「モザイオ?」キルガだ。
「あ、それって」マルヴィナ。実は、昨夜見た不良たち——それがモザイオたちだったのである。
「そ。…あいつよ」
ナスカが指したのは、教室の片隅で数人を従えて何やらやっている少年たち——の中心、
染められた金髪、だらしない服装、目つきも悪い、見た目は不良、中身も不良、
ついでに行動も不良、不良オンリーな少年。
「…………………………」マルヴィナは眉をひそめそのグループを眺める。
「あいつらには近づかないほうがいいぜ。結構やばいやつらだからよ」
キースは聞こえないようにと、声を落とす。が、マルヴィナは。
「たかが不良だろ? わたしは平気だ」
頼もしくも、あっさりと言って見せる。
「いや、たかが…じゃないんだよな。…あいつ、武術の科目で剣術とってんだけどよ、
ガチの勝負で一番らしいぜ。だから誰も逆らえない」
「へぇ」
マルヴィナとキルガは、同時に意外そうな声を上げる。伊達じゃないのか、とキルガは思い、
そして剣術といえば…と隣にいる少女を見て、なんだかにやりと笑っている気もしなくもないその表情に
若干嵐の予感がしたのだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.196 )
- 日時: 2013/01/31 22:32
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「そういえば」
もう一つ思い出したことがあったのか、キースが続けた。
「おまえの友達もあの不良グループに入ってたけ?」
ナスカは問われてすぐに頷く。どうやらもとより話すつもりだったらしい。
「次にいなくなっちゃったのが、リュナって子なんだけど——てか別に友達じゃないんだけど——
悪い子じゃなかったんだけどね、みょーになんかなー、って感じでー」
といったなんかよく分からない説明が続き、「で、」と最後に一言、
「なんかそれから最近めっちゃ不良連れてかれてるじゃん?
もしかしたら、これってユーレイの仕業なんじゃないかって今もっぱらの噂なのよぉぉ!!」
…と叫んでしまった。もちろん、生徒の何人かが反応して、こちらの様子をうかがう。
あ、まずい、とキルガは思った。
案の定。幽霊と言われて今最も反応する者たち——すなわちモザイオら不良グループ。
彼らが、ずかずかと——正確に言えばずかずかとやってきたモザイオについてきて——四人の前にやってくる。
ナスカがひきつった笑顔でやっば、と言い、キースがこの馬鹿、と頭を抱え、
キルガはため息をつき、マルヴィナは静かに待った。
「…てめぇら」
いかにもチンピラ気取りの様子で、モザイオはマルヴィナとキルガに睨みをきかせる。
「新参者がずけずけ知りたがんじゃねーよ、俺様の名前もばっちり聞こえたぜぇ?」
「威張ってるよ」
マルヴィナぽつり。いっそ清々しいと言えるほどにさらりと。
シェナがいないから挑発する人はいないだろう——と安心しきっていたキルガはがくっ、と脱力した。
(やはり最近シェナ化していっていないか…?)
見直すべきだ、とキルガは本気で思い…なんか朝も同じようなことを思った気がする。
いずれにせよ(と言うか当たり前なのだが)、不良たちを怒らせたマルヴィナに、モザイオはずいと詰め寄る。
「…んな顔して、随分言いてぇこと言ってくれんじゃねーか」
「………………………………………」
(顔?)と胸中で首を傾げつつ、マルヴィナは黙ってモザイオを睨み付ける。
自分が割と大勢から綺麗だと思われていることは、マルヴィナは自覚していなかった。
が、この状況は明らかにまずい。旅慣れたマルヴィナが不良ごときから
不意打ちを食らうことはまずないだろうが、それでも万が一のことがある。
そう思う矢先、さっそくモザイオは拳を鳴らしてニヤと笑う。
「…気に入らねぇなぁ。俺様に逆らおうっての? どうなるか、実際に教えてやってもいいんだぜ?」
「よせ」
マルヴィナが何言ってんだコイツと思っている間に、キルガの制する声が入る。
これ以上事を荒げないように、とマルヴィナとモザイオの間に割って入るように。
が、キルガもまたその行動の意味を自覚していなかった。
本人からすれば仲裁に入ったということなのだが、モザイオたち不良側から見ると——
・・・ ・・・・・ ・・・
キルガがマルヴィナを庇った、と言うように見えるのである。
その行動は、不良の中でも特に彼女いない歴一年以上の男どもを腹立たせた——というよりガチで嫉妬させた。
ちなみに、モザイオも例外ではない。
「へーえ? お前、そいつの代わりに殴られようっての?」
からかいの口笛と、挑発。ちなみにこの状況をキルガが理解するのはもっと後の話なのだが、
とりあえず今この状態をどうすれば円滑にまとめられるか——と考えている間に、
相手の堪忍袋の緒はぶっちり切れる。
「無視かよ。——いい度胸してんじゃねぇかっ!!」
「あっ!?」
ナスカの悲鳴にも聞こえる叫び声、モザイオのうなる拳、向かう先はキルガ。
だが、キルガは。
——————————ぱしっ。
そんな一撃を、右手ひとつであっさりと止めてしまった。
全く揺らぎなく。ぱしっと。もういっそ清々しいほどに。
「……………………は?」
瞬時にして、時間が止まる。
マルヴィナと同じく旅経験の長いキルガにしては、不良といえども素人であるモザイオの攻撃は
なんか前からソフトボールが飛んできた、程度のことにしか思えなかったのである。だが、相手にしてみれば。
華奢で頭が良さそうで(良いのだが)、イケメンでイケメンでイケメンで(by彼女いない歴以下略の男ども)、
人のよさそうな目の前の少年が学園内でも有名な不良モザイオの攻撃を
こうもあっさり止めてしまったことに唖然とするしかないのである。マルヴィナがごめん、と
片目を瞑って小さく謝り、キルガはそれを見て少しだけ笑い。
そして、未だ時を止め続けているモザイオに一言、
「あの」
ひっ、と首をすくめる取り巻きの連中。それには目もくれずキルガはさらに一言。
「…そろそろ、手を下ろしてくれないかな?」
言葉こそ穏やかだが、言い方と表情は冷ややかなキルガに、モザイオは思わず手を下ろした。
そして、素直に従ってしまった自分の行動に気付き、屈辱に表情を歪め——
「お、覚えてろっ!!」
なんだかよく聞きそうな捨て台詞を残して、取り巻きたちとさっさか退散してしまった。
こんなくだらないことを覚えているくらいなら
もっと有意義なことを覚えるよ——とでも言いたげなキルガに、マルヴィナは礼を言うべく口を開き、
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜っ、キルガすっごぉぉぉぉい!!」…ナスカに邪魔される。
「うぎゃ」
どーん、と突き飛ばされ(ナスカは自覚していなかった)、マルヴィナは言葉を飲み込んでしまい、
キースは暴走し始めそうなナスカを殴って止める。
そこから双子喧嘩を始めた二人を放っておいて、キルガはマルヴィナに目配せした。
マルヴィナも、静かに頷く。
・
あとで、奴と関わってみよう。そう、思ったので。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.197 )
- 日時: 2013/01/31 22:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
二日目が終わり、三日目。三日目も終わる——その、少し前。夕食の時間帯である。
四人はそれぞれ調査結果を出し合い、まとめると、以下のようになった。
・誘拐されたのはいずれも十代、非行少年少女たち
・モザイオ率いる不良グループに属していた
・幽霊の噂有(実際に見た、と言う人もいた)
・誘拐ではなく勝手に抜け出しただけではないか? という意見も
・消えた生徒たちは勝手に寮を抜け出すところを度々見られている
・明日の夕飯はグリルチキンらしい
「ちょっとまて、誰だ最後のやつ聞いたのは」マルヴィナである。
「明らか関係ないね…」キルガが頬杖をつき、嘆息。
「絶対明日最初に食べてやるっ」
「そっちかい!!」とは、セリアス。なんだか似たようなことが前にもあったような。
「とにかく、まとめると、次に狙われる可能性が極めて高いのはその不良グループたち…ってことよね?」
シェナはグリルチキン云々をだれが書いたのか想像がつきつつも無視して、
人差し指を頤にあてて視線を上げた。
「あぁ、でもなんとなく、次に狙われるのもあのグループの誰かだって噂も流れている。
本人たちも気にしていない風を装っているが、多分内心ではビクついているだろう」
キルガも頬杖を解かず、唇に左手の親指を当て、考え込む。
こうやって見るとなんだかこの秀才二人がお似合いに見
「ってことは!」
と、いきなりセリアス。驚いてシェナが考え込むのをやめ、キルガも左手をおろす。
マルヴィナは目をぱちくりとさせる。
「……………えっと、そいつら——モザイオってやつとかその周りに、注意を払えばいいんだな?」
「え? えぇ、まぁ…どうしたの?」
「えっ、何が?」
「…いきなり大きな声出して」先ほどの状況を知らないほど集中していたシェナは
恐ろしいほど無自覚に尋ねた。
「え、あ、いや、別に…あれ?」セリアスは首を傾げ、「何でだっけ?」と自問。
「ひらめいたからだろ」マルヴィナ。「そういう時って、叫びたくなるでしょ」
「あぁ、そゆこと」シェナ納得。
和やかな雰囲気に戻った四人、マルヴィナの後ろで、
「ドンだけニブいのよこの集団」
サンディがひとり呆れていた。
「そーだ、そういやもう一つ、すげぇ朗報だぜ」
調子を取り戻したセリアス、手始めにおめでたい情報を示す。
「じゃじゃん。実は女神の果実のことだが——最後の一個、どうやらここにあったってことで間違いねぇぜ」
マルヴィナはパンに伸ばしかけた手を、キルガはグラスを持った手を、
シェナは髪を耳にかけようとした手を——それぞれ、瞬時に止めて。そして。
「ふえぇぇぇえっ!?」
相も変らぬマルヴィナの珍妙な叫びを聞く。
「マルヴィナ、今更突っ込んでもしょうがないかもだけど何? その珍妙な叫び」
「イヤすんません、驚くとたまに…ってのはどうでもいい、ここにあったんだな!? 果実が」
「あ、あぁ」ノリツッコミをしたマルヴィナに目をしばたたかせつつ、セリアスは頷く。
「学校の創立者——初代エルシオンの墓に
頭がよくなりますよーにって捧げた奴がいるらしい。…いやちなみにもうないが」
「………………………………………」三人、沈黙。やはり最後まで事前には果実には手が届かなかった。
ずぅぅぅん、と落胆した三人を見て、セリアスは慌てて繕う。
「やっぱ初代が食っちまったかね? ほら、ユーレイってさ、もしかしたらそいつかもよ!
…あ、となると今回の犯人になっちまうか」
苦し紛れに適当なことを言って見せて——あれ? と一時停止するセリアス。
笑わせようとした三人も別の意味で固まる——
「アレ? 俺なんかマズいことでも」
「セリアスっ」
キルガが思わず立ち上がって顔を上げ、セリアスを呼ぶ。
「はっはいっっ」
「それ…正解かも、しれない」
今度はセリアスが叫んだ。
「あのねぇ。いい加減公共の場で大声出すのはやめなさいっての」
「イヤそれシェナが言う言葉じゃ何デモナイデス」
ダーマ神殿のフリーフロアと言いグビアナの宿屋と言い学生寮と言い、
彼らが大声を出すのは決まって公共の場であるのは偶然か。ともかく、その叫び声に驚き、
あるいは迷惑そうな表情をする学生たちに潔く謝ってからストンと腰を下ろす——
迷惑がるわけではない、だが、別の理由で彼らを遠くからじっと睨んでいたのは、
先日シェナが訝しんでいた、あの学生だった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.198 )
- 日時: 2013/01/31 22:39
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
エルシオン学院の授業のうち六日に一回は、学院の方針『文武両道』の『武』の時間——
すなわち、一日『武術』を習う時間とされている。
『特別授業』と称され、自らの学びたい科目をとり、それに勤しむのだ。
その日はいつもより授業が早く終わるので、あまり勤勉でない学生たちからすると
ホクホクな日でもあるらしい。
キースが言っていたように、モザイオは剣術をとっていた。
「……………………………………」 ・・・
もちろん剣をとったマルヴィナはその日、二番目にモザイオに目を付けた。
ちなみに、仲間たちはそれぞれの愛用する武器を習える場所へ行っている。槍や弓はともかく、
斧などと物騒すぎるものを習えるというのには若干驚いたのだが。
マルヴィナは新入生と言うのもあり、皆の前で紹介される。名乗り、軽く頭を下げる。
さりげなく笑顔で。とりあえず好感を持たせたほうが動きやすい。
もちろん計算したわけではないが(そこまで人付き合いを避けたがるわけではない)、
その効果はしっかりと発揮し、よろしくー、という歓迎の声がぽつぽつとあがった。
実力のそこそこある者はマルヴィナの力量を少なからず読み取り、
不敵に、あるいは期待して笑ってみせる者もいた。
(…ま。まずは、周りからかな…)
真っ先に攻めたりはせず、モザイオを知っていそうな周りの情報収集から始めることにした。
基礎運動の際ペアを組んだのは、17歳くらいの少女だ。彼女はミチェルダ、と名乗った。
「マルヴィナ、結構剣の腕凄いっしょ? なんか立ち居振る舞いから素人っぽくないよ」
気さくに話しかけてくるミチェルダに、
自慢にも謙遜にもならぬよう、「やってみないと分かんないかな」と答えた。
この答え方はキルガに教えてもらったのである。
「にしても、よかったよ。あたし実はこの中では二番目に新しく入ってさ。
…や、もう三番目か。んで、二番目に入ってきたなんか恐そーな子と組んでたから、気まずくってさ」
「恐そうな子」復唱する。「…誰?」
「ほら、あそこ。一人でやってる」
ミチェルダの視線の先には、ひとり人の輪からは少し離れた場所で伸脚運動をする、
マルヴィナより少し暗めの闇色の髪を高い位置で結えてあとは無造作に垂らした、
端正だが冷たさを感じさせる同じ年くらいの娘がいた。
「…………………………………………」
マルヴィナは目を細めた。そして——口の中で、ほぼ声に出さず、やはり、と呟いた。
モザイオには二番目に目を付けた。
では、一番目には? …それが、彼女だったのである。
マルヴィナが感じ取った気配、それは—————…。
「ルィシア、って言ってたけ」
ミチェルダが続ける。「なんてかさ、あたしはあの人すっごい強いんじゃないかって思うんだよね」
「あぁ」マルヴィナは側近をよく伸ばしながら答える。
「…わたしも、そう思う」 ・
「今この中でいっちばん強いのはさ、あの不良…モザイクとかいうやつなんだけど」
頷きかけて止まる。 ・
「……………………モザイオ?」 ・
「へ?」ミチェルダは素っ頓狂な声を上げた、「あれ、オだっけ? まぁどっちでもいいよ!」
いいのかよ、とは胸中だけでツッコんでおいた。
「しょーじき、あいつより強いんじゃないかってかんじなんだよねー。
でもなんとなく、マルヴィナのほうが強そう」
ミチェルダは相手の力量を見計らえる人物でもあるらしい。
他人事のように言う彼女自身も、なかなか見どころがありそうだ、とマルヴィナは思った。
至る所の筋肉をほぐしながら、マルヴィナは今後の予定を頭の中で組み立てていた。
モザイオの憎々しげな視線を感じる。ここは、予定通りだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.199 )
- 日時: 2013/01/31 22:43
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「まさかとは思うけどさぁ、まさかマルヴィナの奴モザイオにケンカ売りつけたりしないだろうな?」
“まさか”を二回言って、セリアス。最近シェナ化している気もしなくはない彼女のことである、
まずない、とはキルガも断言できなかった。
槍と斧は外で行われるため、この二人は割とあっさり会えるのだが、
体育館兼講堂にいるマルヴィナはもちろん、格技場にいるシェナもなかなか交流が取れない状態である。
「しかしマルヴィナが誰かと関わろうとする日が来るとは…」
「しかも男だしな」
む、とキルガの表情が心なしか強張る。セリアスも割と狙って言ったので、その反応に少々吹き出す。
ナビ
「…マルヴィナはそう簡単に靡かない」
「お前がそれを言ってどうするよ」
キルガも言った後に、確かに、と思い直す。そして落胆する。
お前はピュアか、とセリアスが胸中でツッコむ。
なんだか妙な空気が流れた頃、二人の耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「おつかれ、お二人さん。…何? この微妙な空気」
それは弓の道着に身を包んだシェナである。なかなか会えないと言った後にこれである。
落胆したまま顔を上げないキルガに変わり(とはいえ落胆していなくてもだろうが)セリアスは引いてから
「なんで来れた!?」
と問う。それに対しシェナは居丈高に言う。
「え? 当たり前じゃない。すっぽかしよ」
真面目に言うな断言するな悪気ない表情をするなとはセリアスは言わなかった。
とりあえず落胆キルガとなった状況を簡単に説明。
するとシェナは先ほどと同じように、あっさりと言葉を紡ぎだす。
「じゃあ見に行けばいいじゃない」
「はぁ?」
「心配なら見に行って、なんか雰囲気良さそうでもまずそうでも阻止してあげればいいんじゃないの?」
それはどっちにしろ阻止しろと言うことではないのか? とキルガは思ったが、
それは口に出さず、「それはマルヴィナに悪い」と落胆した時の声のまま言う。
若干呆れ気味に半眼で苦笑するセリアスは、
あぁどうでもいいからコイツに闘志を与えてやってくれとシェナに目線だけで言う。
それが彼女に伝わっていたかは別として、ともかくシェナは少し考えてから
少しだけにやりと笑ってキルガの耳元に口を寄せる。
「マルヴィナは剣術強い人に一番ときめくのかもよ? 今この状況で剣術強い男っていえば——」
最後まで言わせず、キルガの頭がいきなり上がる。半死人みたいだった目が別物のように開いている。
何事かと驚くセリアスにしっかり向き直ると、
「行こう、今すぐに!!」
何故か倒置法できっぱり言い切り、返事も待たず体育館に向かうのであった。
(訂正。お前は単純か!!)
セリアスはもう一度胸中でツッコみつつ、一言二言で心情をあっさり変えさせた仲間に苦笑したのだった。
移動を開始した三人の後ろに、またしても影が姿を現す。
ところでサンディはというと、
「やっばマジぱねぇぇ何あのスタイル! いーなチョーかわいーアタシも真似しよっかなー」
いろんな生徒を見ては、自分のギャルスタイルについてよくよく考えていたのだが、まぁ今は関係のない話。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.200 )
- 日時: 2013/01/31 22:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
(…うん。こんなものかな)
時は少々戻る。
マルヴィナはある程度の情報を集めてから一つ肩の力を抜いた。
(…そろそろ鍛錬かな)
実際に細剣を交えるなら、やはり相手にすべきはモザイオである。だが、新参者がいきなり
一番の強者と称されるモザイオと戦えさせてもらえるだろうか。 ・・・・・・
ある程度の実力者だろうと想像がついているであろう他の者も、まさかとある別世界で彼女が一番——否、二番目の剣技を誇っているなどと気付くはずはない。
となると、別の者と戦い、実力を見せつけるべきか。
それとも迅速に、挑発してその気にさせるか。
いや、早すぎると相手にもしてもらえないかもしれない。どうするべきか——
とさまざまな考えを巡らせている間に、鍛錬は始まる。マルヴィナは考えるのをやめた。
最終的に、両方やるかと決めたのであった。
天使界二番目の実力派剣士は、凛とした表情で初戦に臨む。
そして、マルヴィナ見守り三人組。
…が、体育館兼講堂に着く手前——
「む?」
その出入り口に少々人だかりができている。それに対し声を出し反応したのはセリアスだけだったが、
無論無言の二人も軽く首を傾げる。
「なんだ…?」
問うても答えが返ってくるわけではないので、実際に近づく——そして、
その意味は大して時間をかけず知らされる。
「む」
「おっ」
「あら」
三者それぞれ短い感嘆の声を上げる。
彼らの視線の先にいたのは——持ち前の剣技を披露するマルヴィナの姿であった。
『なかなかの実力者』ではない。『相当』——という言葉で表していいものか、それほどの実力者だ。
マルヴィナのことを、周りはそう認識し始めた。こんな強い人がいたのか——そんな羨望と憧憬の目。
強い、と言うより、美しかった。まるで舞を踊っているように見えた。
それに魅了され、思わず周りも動きを止めていたのである。
「凄い」
ミチェルダが素直に目を見張り、
「…………………………………」
モザイオが憎々しげな表情をし、
「ほう」
剣教師ガザールは感嘆の声を上げる。
ちなみに、マルヴィナはまだ本気ではない。『常に本気であれ』——師の教えである。
が、彼はマルヴィナの実力がさらに上がると、なかなか難しい言葉を教えてくれた。
・・・・・・・・・
『本気にならないことに本気になれ』————
なんのこっちゃ、と首を傾げる。どうしてもわからなくてキルガにも何気なく尋ねたのだが、
彼もお手上げだったらしい。セリアスはなんとなくぼんやり分かったような、分かっていないような、
そんな感覚だけがあるらしい。
『本気になるべきところでないところで本気になると、
無駄に体力を使うことになる』と言いたかったのだろうか?
なんとなく納得がいかないながら、とりあえず今はそうなるように『本気を出している』のだった。
鋭く、弾かれた音が鳴り響く。マルヴィナ、三度目の勝利。
彼女はここでようやく、周りの人々が自分を見ていることに気付く。
なんとなく気恥ずかしさを覚え、彼女にしてはかなり珍しく顔を赤くし肩をすくめた。
「むー…『好き』って感情以外であんな表情をすることもできるのね…」
「シェナ、それ、禁句」
「だいじょーぶよ、さすがにキルガもこの程度では」
キルガの頭が下がっていた。
「ってなんで落ち込んでんのよ!?」
「は?」と、瞬時にキルガの頭が持ち上がる。目は、何のことだ? と言っていた。
「…はい?」
「…へ?」
「………………………………………」
三人がなんだかよく分からない空気に包まれていたとき——
「マルヴィナ君、どうだね、うちの強者と戦ってみるかね?」
ガザールはそんな質問をマルヴィナに投げかけていた。
「強者ですか?」あえてとぼけてみるマルヴィナに、当の本人から声がかかる。
「っざけんなよ、女ごときに俺様がやられるわけねえだろ!」
「逃げんのー?」
マルヴィナがそろそろかな、と相手を乗り気にさせるための言葉を言おうとしたとき、別方向から声。
それは、ミチェルダであった。
少し驚くマルヴィナに、彼女はにっ、と歯を見せて笑った。
モザイオの居丈高な状況を変えてくれる者が欲しい。
モザイオに勝てる人が欲しい。
マルヴィナの勝利を確信している。
ミチェルダはそう思ったうえで、そう言ったのだ。
マルヴィナは笑い、無言で、だが挑みかかるような目で相手を見据えた。
モザイオはしばらくそのにらみ合いに応じていたが、悪態をつくと、乱暴に細剣をとりあげ、
そのまま大股でマルヴィナの前まで歩いてきた。
「…ちょーしノってんじゃねぇぞ」
モザイオのすごむ様子をみて、マルヴィナは口だけで微笑む。
・・
「…誰が?」
このやりとりを、彼らより一層鋭い眸で眺めている者——
ルィシアの存在に、マルヴィナは気づいていながら何も言わなかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.201 )
- 日時: 2013/01/31 22:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
—————っぱぁん!!
今日一番、鋭い音を立てて、細剣が弾かれる。
「っ!?」
「…………………………………」
弧を描いて主のもとから弾き跳んだ細剣は、観衆のいない空白のスペースに落ちて乾いた音を立てた。
勝負あり。細剣を未だその手に携えていたのはマルヴィナ、消えていたのはモザイオ。
文句なし、マルヴィナの勝利であった。
「す」
沈黙を破ったのは、ミチェルダの歓喜か、あるいは圧倒による震え気味の声。
「すごいマルヴィナ、よくやったー!」
「わっ」
構えを解いたところでいきなり飛びつかれ、マルヴィナはよけようか——と思ったが
それもやめて素直にとどまった。さすがに学院一の猛者をこうもたやすく倒してしまうとは、
周りの人間、ガザールすら思わなかったらしい。驚愕、歓喜、若干の同情と羨望。
群衆がさまざまな表情をしている中で——
やはり一人、異様な殺気を漂わせた娘がいることに、三人は気づく。
「彼女…」
勝敗の行方は分かっていながらも安堵と歓喜に包まれていた三人の中で、
真っ先にその重い空気を見つけたのはセリアスで、そのことに対し口を開いたのはキルガだった。
鋭い翡翠の眸に、感情といった感情はない、どこまでも深い、深い海の底のように冷えていて、
その眸に気付いたものに言い表せないほどの悪寒を覚えさせていた。
「彼女の霊気…まるで別格だ。…まさか、あの人まで、ガナンの手先じゃないだろうな…」
「…分からん。でも、それならマルヴィナが、真っ先に警戒すると思うんだが」
まぁ…ね。キルガは曖昧に頷いてから、隣のセリアスの、さらに隣にいるシェナを一瞥した。
シェナは無言だった。殺気漂わせる娘への鋭く、値踏みするような視線は変わらない。
やはり、どうしても拭いきれない何かがあった。シェナと、ガナン帝国。
どこかで、何かつながりがあるのではないか。花の街サンマロウ、その北の洞窟——
恐怖から無理矢理に立ち直ったマルヴィナが、震える身体を押さえながら対峙し、
しかし敵の武器を奪いその類稀なる才能を見せつけてみせた、あの兵士が現れてから——
その兵士たちへのシェナの反応を見てから——どうしても、そう思わずにはいられなかったのだ。
・・・・・・・・
だが、もし彼女がガナンの、そういう意味での関係者だったら——マルヴィナが、
あの邪悪に敏感に反応する彼女の勘が、黙ってはいないだろう。
マルヴィナはシェナを仲間とし、信じ、認めていた。疑うことなく、純粋に。
…マルヴィナを信じているのに、何故彼女の信じる者を信じないでいる? それは、矛盾していないか。
「……………………………………」
キルガはそっと、内心でかぶりを振った。
そして、最終的に仲間の勝利に喜ぶ二人と同じように、屈託なく笑うのだった。
話通り、その日は早い時間に授業が終わる。
生徒たちは放課後の教室でおしゃべりをする者もいれば、いそいそと更なる勉強に勤しむ者も、
図書館で好きな本を読む者も、購買へ行って買い物気分を味わう者も、
さっさと寮へ戻って寝る者も——さまざまだった。
キルガは槍術にてお前なんでそんな強いんだよ一体どこで教えてもらったんだよ
くそうただの優男じゃねえなちょっと俺に槍を教えてくれよ今ここで勝ち逃げとか許せんなどと
彼に負けた、あるいは彼の試合を口をあんぐり開けて見守っていた男たちに囲まれて
なかなか逃げ出せないでいた。…おそらく周りの男たちも、彼の近くにいれば
たとえ自分に向けられたものでないとしても大勢の女の子から視線を集められるという理由で
集まっていると言うこともあったのだろうが。
セリアスはセリアスで、さっさと寮に戻り、自室で筋力トレーニング。
普段鎧を着こむ彼には、何も身に着けていないように感じて、
いつもよりもトレーニングをしていないと落ち着かないらしい。
そしてその分へとへとになり、身体もほてり、最終的にはクールダウンに寮の外へ出て
くしゃみを一発かましてから元の部屋へ戻っていくのだ。
シェナはというと、放課後の教室でおしゃべりをするクラスメイトに付き合っていた。
彼女は授業の合間はいつも授業についていけなかったセリアスのために
その授業ごとの要点をまとめて説明してセリアスに毎度頭を下げられているので、
彼らにとって情報を得る時間と言うのは放課後やその他の時間に充てられるのであった。
そして、マルヴィナは。
目の前にいる、前日までは敵意と、恐怖感の入り混じった視線で見られていた大人数を前に——
不敵な、だが決して嫌ではない——むしろ優雅ともいえる微笑をその口元に浮かべていた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.202 )
- 日時: 2013/01/31 22:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
どん、と。
マルヴィナの前に、なんだかすごく大きなグリルチキンの皿が置かれた。
目をしばたたかせ、また一方でおそらくグリルチキンよりも大きな喜びを感じているだろうマルヴィナに、
それを置いたセリアスは二言、
「戦利品だ。食え」
と促した。
たちまちマルヴィナの表情が華やぎ、素早くお祈りを済ませてから、
何とも嬉しそうな顔でチキンを切り始める。
「それを言うなら勝利祝いじゃない?」
シェナがマルヴィナの横でそれを眺めながらセリアスに尋ね、
「いんや。それもあるが、これ手に入れるのにちょっと一戦してな」
「…一体何をしたんだ…」
キルガが真剣な表情で尋ねるわけでもなく呟いた。そして目の前のマルヴィナの
チキンを口にした嬉しそうな声に顔を上げる。
「セリアス…実はいい奴だったんだね」
「ほめてもそれ以上は——ちょっと待てなんだ『実は』って」
もう一度チキンを口に入れながら、マルヴィナは「はぐ?」と
目だけで“なんのこと?”と言いたげな視線をセリアスに送った。
相手の悪気ないその表情に、いややっぱいいわ、とセリアスは苦笑気味に諦め、
シェナがお疲れー、といまいち言葉通りの感情を抱いていなさそうな声色で言い、
キルガはマルヴィナの幸せそうな表情を同じように幸せそうに見ていたりする。
言うまでもなくサンディはまたしても摘み食いである。
「で、首尾は?」
シェナが、こちらは慎ましくパンを口に入れる前にマルヴィナに尋ねた。
マルヴィナは幸せそうな表情を未だ崩すことなく、そしてさらりと、
「とりあえず奴らの中に入り込んだ」
と言って三者から同時に問い返しの言葉をもらった。
「不良グループ。なんかモザイオに勝ったことでモザイオにも取り巻きにも恐れ半分に認められてさ。
今日、ちょっと動いてみようと思う」
「今日」キルガだ。「…夜にか?」
マルヴィナは頷く。そして、簡単に説明を始めた。
事件に一番関わりのありそうなグループに潜り込んだことで、
なかなか関係のない生徒からは聞けそうにない話を聞き出せた。まず、幽霊の話。
セリアスが冗談交じりで言ったあの話。ないとは言い切れない。
そこに女神の果実が関わっているのなら、あり得ない話ではないのだから。
だから、マルヴィナは幽霊方向で調査を開始することにしたのだ。
その話を出すと、彼らは何とも気まずそうに黙り込んだ。モザイオが話さないので、
周りも話していいのかどうかと悩んでいるらしかった。埒が明かないと思ったマルヴィナは、
やり方は好きではなかったが、モザイオの意地を突いて——すなわち、「怖いの?」と言って——
どうにか話を聞き出した。聞き出したのはいいが、その先まで行ってしまったのだ。
日付変更時間——学校の屋上にある、守護天使像。その額を触ると、幽霊がでる。
その噂は、シェナが知っていた。放課後で聞き出した情報である。
関係あるかもしれない——マルヴィナがそう思って、一人内心力強く頷いた時、モザイオが言ったのだ。
『それなら実際に試してみようぜ』
取り巻きたちが一斉に血の気を引かせたのは言うまでもない。モザイオですら、若干震えていたのだ。
マルヴィナは少々呆れ半分、もし本当に起きたらモザイオの身が危ないという緊迫感半分で
それを否定しようとした、だが相手は頑固だった。
結局——日付の変わる時間、その行動にマルヴィナも付き合わされることになったのであった。
話し終えたマルヴィナが再びチキンに手を伸ばし、
「単純」
シェナが見えないモザイオに対し棘が五本ほどついた発言をし、
「………………………………………」反応のしようがなくてキルガは黙っていた。
「てかさマルヴィナ、なんでそんなアイツのこと気にしてんだ?」
セリアスが何気なく尋ねる。シェナがずるっ、と椅子から滑りかけた。
「あんたねぇ…さすがに分かるでしょ」
「え? …何が?」
「…ちなみに恋愛感情じゃないってことくらいはわかるわね?」
「そうじゃないと思っているから聞いているんだ」
「許容範囲。よし」 ・・・・・・・
という、セリアスとシェナのよくわからない会話を聞き流したのち、マルヴィナは答える。
「ん…なんとなく。なんとなくなんだけれど——」
マルヴィナはこの時間の中で、初めて表情を曇らせる。手を止めて、潜むように、そっと言った。
「…あいつが、次の犠牲になるような気がしたから」
小さな声で。