二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.212 )
- 日時: 2013/02/03 22:25
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「あ、あの、“黒羽”様」
「………………………………………………………」
ルィシアはもう、答えない。ただ、立ち去ろうとしていたかの学院を、もう一度見る。
そして、目を細める。気のせいか。…気のせいだろう。だが、それならば、なぜこんなことを思った?
…確かに、ふと感じた。懐かしい気配、幼き頃に失った感覚。
歳の離れた、姉の気配が。
自分とは違って、短髪を好んでいた。
僧侶を志して、ある有名な僧侶団に入っていた。
たったひとり、仲間を作り、ともに戦っていた。
その名はいつしか有名になり、旅人なら誰もが知る称号を手にした。
そして、最後には、賢者となった——その名は、マイレナ。
だが——
ルィシアはふっと自嘲気味に笑った。 ・・・・
だからなんだと言う。もう、関係ない。そもそも、それは、三百年前の話。
もう、ここにいるはずがないではないか。
ルィシアは自分自身に目を落とし——そして、そのまま、学院を後にする。
振り返りもせずに。
ブラックコーヒー ビロード
黒珈琲の髪を、青紫色の天鵞絨の外套の頭布ですっぽり覆ったその娘—以前、マルヴィナたちが、
カラコタ橋のキャプテン・メダルのテント前で会った女性だ—は、そっと溜め息をついた。
結局、ここへ戻ってきてしまった。森の奥に隠された泉、初めてあの人を見つけた、この場所に。
行ける範囲は、もう行きつくしてしまったように思えた。それでも、あの人は、一向に見つからない。
(戻りたい)
娘は、思った。
(戻りたい。…けれど、置いてきてしまった。…どうして、隠してしまったの。…戻りたい。
もう一度、わたしに夢を見させて——…)
娘は、泉に足をおろした。
波紋は、もう広がらない。
「さてマルちゃん。もう一回聞こうか」
「だから分かんないって! てかマルちゃん言うな! 変態か!」
「何故それで変態になる!? 基準を述べよ!」
「セリアスが言うからだ!」
「それだけ!!?」
「マルヴィナ」
果実を二個持ったマルヴィナと果実を二個持ったセリアスが単純かつくだらない議論をしていたときに、
果実を二個持ったキルガが珍しくその話に割り込んだ。
前に言ったように、彼が人の話の間を割るということは、相当重要な話があるという事、
またこの時にヘタに無視するとあとから恐ろしいことになる。…やはりその中身は伏せておくが。
ともかく、そのまま彼らはあっさり、若干作り笑いを浮かべんばかりの表情で、キルガに話の主導権を譲る。
「マルヴィナは、あの木のことを…“女神の力宿せし聖なる樹木”と言った」二人は頷く。
「あの時…前回、天使界に戻った時、聞こえたあの“声”が、木に力を宿しただろ。…ってことは」
「女神だった、ってこと?」訊いたのは果実を一個持ったシェナだ。
何のことか知らないながらも、そう尋ねた。
キルガは頷く。
「…予想だけれどね。でも、そうだとすると…波動は天使界を襲ったが、
女神様は無事だということになる。…望みはありそうだ」
「キルガの予想は大体当たるからな! マルヴィナよりはましだ」
先ほどのお返しのように、果実を二個持ったセリアスはあっさりと言う。
「ちょっと待てそれどーいう意味だ?」
「だってマルヴィナが百発百中当たるのはヤーな予感だろがっ。
別に求めてないことをパンパかパンパか当ておって、占い師かアンタはっ」
「「「………………………………………………………………………………」」」
果実を二個持ったマルヴィナばかりでなく、果実を二個持ったキルガや
果実を一個持ったシェナにまで黙りこくられて、果実を二個持ったセリアスは「ふぇ?」と問い返す。
「ちょま、何で最近俺がしゃべると毎回シラケる?」
「…今、反論材料をそろえていてな…文章を組立て中だ」
「……………………………」
「なぁセリアス。——この話題、止めにしないか?」
「…そうしましょう」
ダメだこりゃ、と呆れたのは運転中サンディ。
「…えと、ところでさ。…さっきから思っていたんだけれど」
果実を二個持ったマルヴィナが、言った。
「…なんでわたしら、果実もったまま話しているんだろ?」
「え、や、なんとなく」
「降ろしていい雰囲気じゃなかった」
降ろそうとしたあたりでキルガに話しかけられたしとは賢明にもセリアスは言わなかった。
「…三両目に置いておくか。天使界まで遠いし、重いし」
果実を七つ集めたことで、心なしか一つ一つが重くなったような気がした。
マルヴィナは最大で四つ、自分のフードの中に入れていたことがあったが、
今そんな行動をすると間違いなくマルヴィナは首を絞められるか、
そのまま後ろに倒れるかのどちらかになる。けれど試しに、七つ持ってみると
どれくらいの重さになるのかなんとなく知りたくて、マルヴィナは自分が持っていくと言い出した。
手伝おうか、とも言われたが、考え事をしたいんだと言うと、
そのなんとなく思いつめた様子を感じ取った彼らは黙ってマルヴィナひとりに任せてくれた。
ただし、まずいと思ったら遠慮なく呼べよ、という言葉は忘れずにマルヴィナへ送ったけれども。