二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.214 )
- 日時: 2013/02/03 22:30
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
【 断章Ⅱ 】
——空へ昇る天の箱舟。
静かな空気の中に張りつめた、緊迫感。
マルヴィナは——いきなり現れた、懐かしい師匠に、…絶句、していた。
懐かしさに喜びはしない。会いたかったと涙しない。
ただ、硬直し、時を止めていた。
「…しばらく見ないうちに、変わったようだな。どこか、大人びた」
「…イザヤールさまは、お変わりなく」
久しぶりなのに、久しぶりに会えた大切な師匠なのに。
…何故か、人見知りを覚える。話す言葉を、いちいち選んでしまう。
何故。彼に物事を学んできた年月は、会えなくなってからの年月よりはるかに長いはずなのに。
——違う。時の問題じゃない。
嬉しくないわけじゃない。会いたくなかったわけじゃない。
むしろ、望んでいたのに。じゃあ、何で——…。
「…世界に散らばった果実を集めていたのはお前だったな、マルヴィナ」
マルヴィナは驚いて、肯定した。
…自分に翼と光輪がないことについては、何も言わないのか。
それは気づかってのことなのか、それとも——
「それなら、果実は私が天使界に届けよう。渡してくれないか」
遂にマルヴィナの肩が、ぎくり、とした。
…普段なら。三年前なら—(あぁ、もうそろそろ三年なのか!)—、躊躇いなく差し出していただろう。
…けれど、今日は。どこかで、彼を警戒していた。
何故か。何故か、彼が——マルヴィナには、恐ろしく見えたのだ。
コトワリ
だが——マルヴィナは天使だ。天使であり、彼の弟子なのだ。これだけは忘れない。天使界の理。
天使は、上位の者に、逆らってはいけない。渡せと言われた時点で——マルヴィナに拒否権はないのだ。
…マルヴィナは、女神の果実を持つ腕に力を込めた。あんなに重かったはずなのに、
不思議ともうその重みを感じない。腕が痺れたから? …それとも、…………………………。
頭を垂れるというよりは、顔を伏せて、マルヴィナはひざまずき、果実を差し出した。
七つの輝きに、彼は、心なしか表情を緩めたが、その顔を見ていないマルヴィナは気づかない。
「さすがだな。見習いを終えたばかりのお前だったら、想像もつかなかった——」
果実を受け取るために。腕を、少し上げる——
「——————————これで」
刹那、マルヴィナの背筋を、凄まじいほどの邪悪な気配が走った。
目をいっぱいに見開き、唇を震わせる。ひゅっと、喉が鳴った。
“ ——ご苦労だったなイザヤールよ—— ”
耳元で囁かれたような、雷のように低く、けれどけたたましい声、
厳かなようであって笑っているような口調が怖気を呼び起こす。
“ ——約束通り、果実を我が帝国へ届けるがよい—— ”
はっ…と、彼は答えた。その手が果実に触れた——その手前、マルヴィナは咄嗟に手を引いた。
はずみで、果実がどさどさっ、と床に落ち、箱舟の金色と混ざり合って変わりなく輝いた。
だが、マルヴィナは。
「………………ぅ…嘘っ………ま、さかっ…………………!」
見る見るうちに蒼白となってゆくマルヴィナの顔色を見て、
彼は、イザヤールは…感情の読み取れない白い目で、そのまま果実に目を落とした。
マルヴィナは、この三百足らず生きてきた中で、かつてないほどに自分が震えていることに気が付いた。
逆らってしまったこと? 違う、それよりも。今流れ込んできた、『帝国』の名は———!!
「ま…まさか、冗談、です、よね…?」
後退り、固まった表情は、恐怖でかえって唇の端を持ちあがらせている。何言っているんですか、
そんな感じで笑い飛ばす顔を作りたくても、恐怖感が数倍も勝って、こんな表情しかできない。
…マルヴィナのかすかな希望を砕くように、彼は、冷徹に言い放つ——
「私に逆らう気か、マルヴィナ」
と。
マルヴィナの表情が歪む、何もできない。下がり続けた足が、遂に三両目への扉にかかった。
それでも、もうどこも動かせなかった。どんなことがあっても、どんな理由があっても、
マルヴィナには、イザヤールに剣を向けることはできなかった。…たとえ、相手に向けられていようとも。
容赦は、なかった。
無防備も同然のマルヴィナは、彼の剣の前に、ゆっくりと頽れる。
傷は一つしかなかった、だが、その痛みは全身を駆け巡り、マルヴィナの動きをすべて封じ込めてしまう。
「……………………………………」
イザヤールは何かを言いかけ——だが、結局口をつぐんだ。
果実が彼の手に移る、マルヴィナはただそれを見ることしかできない、
それでも、それでも、身体の底からあふれる感情、抑えられない思いが喉をとおり、そして———
「うっ…………ああああああああああああああああああッ!!!」
そして、限りの、悲痛と、苦悶の叫びをあげる——……。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.215 )
- 日時: 2013/02/03 22:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「マルヴィナ!?」
キルガが、セリアスが反応し、二両目の扉を開ける。絶句する。
そこにいたのはイザヤール、紛れもない自分の仲間の師匠。
だが、その手にしているものは。女神の果実、そして——剣。
「な…んで…っ」
キルガはどうにか、それだけ言った。すぐにでもマルヴィナのもとに駆け寄りたかったのに、
その前に立ちふさがる天使の様子に圧倒されて、近づけない。
後退はしなかったが、その一方で足がその場から一歩も動かなかった。
イザヤールは答えなかった。ただ一言、「…さらばだ」呟いただけで。
車両の、外へつながる扉が、破壊音を響かせて壊れ、風に呑まれる。
流れ込んだ凄まじい風に二人が怯んだ隙に、イザヤールは外へ飛び立ってしまう。
「な…っ…何で…っ、マルヴィナ、マルヴィナしっかりしろっ!! マルヴィナっ…!」
「俺、知らせてくる!」
サンディは運転中だし、シェナには万が一と言って一両目に残してある。
だが、最早万が一と言っていられる状況ではない。そう言える事態は、二両目で起こってしまったのだから。
キルガが、倒れて苦しげに顔を歪めるマルヴィナの傍らに座り、回復を試みる。
マルヴィナは呻き、うっすらと目を開けた。
「キル、ガ…?」
「マルヴィナ、大丈夫か!?」
愚問だった。大丈夫なはずがなかった。
だが、その場でかける言葉が、それ以外に思いつかなかったのだ。
だが、追い打ちをかけるように、あるいは、イザヤールと帝国のつながりを
決定づけるように——それは起こる。シェナを連れてセリアスが戻ってくる、その時——
「な…何だ、あれっ!!?」
セリアスが叫び、キルガは彼の視線をたどって壊された扉の外を見て、同じように目を見開いた。
マルヴィナに更なる回復を施していたシェナも、次いでそれに倣い——
「———っ! バルボロス……………っ!!」
「な、何だよあれ、竜…!? な、何でこんなところに…っ」
シェナの絞り出すような声は、セリアスの叫びと風のうなりにかき消される。
竜——黒、否、闇の色の鱗を身に纏った、紅き瞳の堂々たる、あるいは邪悪な——闇竜。
そしてその上に跨る—風の抵抗をまるで感じていないようだ—、嫌らしい笑みを含めた、男がいた。
若くはない、だが、まるで年齢が感じ取れない。
ひだひだした、奇妙な法衣を羽織っている。妖鳥のような顔つきの男だ。
「ほっほっ、首尾はどうですか? イザヤールさん」
その男が、身体を仰け反らせるようにして、イザヤールに向く。
「私のお目付け役か、ゲルニック将軍。ご苦労なことだな」
「ホホ、めっそうもない。たまたま用事が重なっただけですよ。
…まぁ、我々帝国があなたをまだ完全に信用していないのも、事実ですがね」
「心配せずとも」イザヤールは目を細めた。「果実は手に入れた」
「ほう…では、次はこちらに手を貸していただきましょうか」
横に並んだイザヤールを確認し、ゲルニックと呼ばれた将軍はくつくつと笑い、視線を前に戻した。
「ドミールの地を目指します。そして、“空の英雄”を亡き者へ。
我が帝国の誇るこの闇竜バルボロスも、溢れんばかりのチカラに満ちておりますよ…!」
少しお見せしておきましょうか。ゲルニックは言う。そして、イザヤールの顔色を窺った。
相変わらずの、無表情である。ゲルニックは嘆息して、口早に闇竜に指示を出した。
闇竜の口から、黒い雷が渦巻き、球となって過たず箱舟を狙い撃つ!!
がしゃぁぁぁぁぁああんっ!! どこかで、聞いたことのある——箱舟が、襲撃を受けた音が、鳴り響く。
「うっ!!」
「きゃあっ」
軽いマルヴィナとシェナは、その衝撃で跳ね上げられ、強かに床に背を打ち付けた。
そのままバランスを崩した箱舟が傾き、シェナは壁にぶつかった。
だが、マルヴィナは。開いたままの扉の向こう、つまり——外へ、投げ出されていった。
「マルヴィナぁっ!!!」
キルガが叫び、手を伸ばす、だがもう間に合わない。必死に彼女の名を呼ぶキルガを
セリアスはどうにか止め、シェナはどうしてよいかわからずにただうろたえる。
再び、襲撃。箱舟が遂にその向きを変えた。
天ではない。いう事を聞かなくなった箱舟は、
そのまま地上へ向けて落ちる、落ちる—————………………。