二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.250 )
- 日時: 2013/02/28 22:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
【 ⅩⅢ 】 聖者
1.
燃える溶岩だらけのその地を、四人はゆっくりゆったり——というか、のろのろりと歩いていた。
原因は——もちろんその暑さに、である。
「暑い…」
「以下同文…」
「エルシオンが恋しい」
「………………………………………」
順に、マルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナ。
竜の門を過ぎてから、一晩が過ぎた。もっとも出立が昼過ぎだったので、妥当と言えば妥当なのだが。
が——グビアナ砂漠と違い、この辺りは夜も暑い。うーうー唸りながら、やはりマルヴィナ・キルガの
寝付けない組はそれぞれのテントで転がっていたらしい。この状況で、魔物なんかが来たら——
と思っていた矢先に早速、来た。 マグマロン
ギガントヒルズ、妖鳥マッドファルコン、溶岩ピロー、溶岩魔、共通点は。
「全員、火ぃ吹いてくるぞっ。どうする!?」
「逃げる!」
「いやそれ無理っっ…ひえーえええ、きたぁぁぁっ」
メラミ ・
炎が渦巻く、火炎呪文が飛ぶ! どかすかだだだ、と逃げ足は速いセリアス、逃げる逃げる。
「どっどどどどこに逃げりゃいいっ」
「そこそこ! そこに逃げろっ」
「そこって何処!!」
「そこはそこ、違うそこじゃないっ! あー囲まれたぁぁっ」
あまりの暑さにおかしくなったマルヴィナとセリアスを前に、キルガは額に手を当て嘆息。
「仕方ない」
そう言って、譲り受けたばかりの槍を握りなおす。敵は多い。なるべく、一撃で斃したい。
———できるだろうか。
…やってみるしかない。
自由に、動いてみよう。決意した日から、キルガは人知れず槍の技術を磨いていた。
物理的なものではない、魔法的なものまで。
「下がれ、二人とも!」騒ぐ二人に声をかけ、キルガは目を閉じた。槍の先を地に打ち付け、祈る。
打ち付けた切先から、禍々しい色をした魔法円盤が生じ、ばちり、と電撃音を響かせる。——雷?
ジゴ・スパーク
「——出でよ。————獄雷爆」
キルガが低い声で唱えた瞬間、黒雷が魔物たちを焼き払う——
そう、それは、焼き払うというに相応しかった。
…絶大。
ジゴ・スパーク
その技は——槍の奥義とも言われる大技、獄雷爆だ。
凄まじい威力に、囲んでいた多くの魔物が痛手を負い、絶命し、辛うじて生き永らえたものは
慌ててその場から逃げて行った。
「————ふぅ」キルガの一息に、唖然としていた三人が駆け寄る。
「キ、キルガ。今の何…じゃなくて、いつの間に」
「…え?」キルガは問い返して、あぁ、と答えなおす。「…今、だ」
「今!?」
「まさか初めて!!?」
「…………………………まぁ」
再び唖然とする三人組。
「初めてで…あれって…」
「いや」キルガはその言葉には顔を曇らせた。 ルーン
「魔法の類は、まだ慣れない…現に今も、少し逃がした。魔法円盤も小さい。まだまだだ」
「でも、凄いじゃんか!」セリアスはばしっ、と戦友の肩を叩く。
「いつの間にか強くなってるってことだろ? 俺も負けちゃいられないな!」
「わたしも今、練習しているものがあるんだが——うまくいかないんだよね」
マルヴィナがいきなり言いだし、今度はキルガを含めた三人が驚く。
「いつの間に?」
「つい最近」
「ちょ、マジかよ! まさかシェナまで」
セリアスはシェナを振り返ったが、…彼女は放心したように虚空を見ていた。
セリアスがシェナの前に立ち、少し大声で呼ぶまで、彼女は全く気付かなかった。
気付いたら気付いたでかなり取り乱したのだが。
「どっど、どう、したの…?」
「い、いや、…まさかシェナまでなんか新技の鍛錬してるとか言わないよな? って聞こうとして」
「……………………………」
シェナは一瞬、迷ったように目をそらしたが…「ないわ」と結局、短く答えた。
「そっかー…。俺らもなんか、考えてみるかなぁ」
「とりあえず、わたしは早くこの技を完成させたい」
マルヴィナは拳を握り、剣を軽くたたいた。「キルガ」
いきなり名を呼ばれ、キルガは目をしばたたかせてマルヴィナを見た。
「…付き合ってくれないか?」
だが、いきなり言われたその言葉に——「え」一度短く答えて、内心でかなり慌てていた。
「な、ちょ、マ、マルヴィ、ナ?」
「この技も雷関係なんだ」だが、自分の言葉の意味を自覚していないマルヴィナは、さらりと言う。
「鍛錬。付き合ってくれないか?」
「…………………」少々時間をおいて——「……あぁ。…そっちか」
「?」
キルガは一瞬慌てた自分の考えを怒涛の勢いで殴りつけたい心情に陥りながら、
マルヴィナの願いに応えたのだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.251 )
- 日時: 2013/02/28 22:40
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
水筒の中身が乏しくなり始めた三日目・夜。
幸いにして彼らは海岸にたどり着き、自然の恵みに大いに感謝しながらそこで休憩をとることにした。
キルガが海水をろ過し、マルヴィナは簡単に料理、セリアスは海の幸の調達。
シェナは、体調不良を隠し、精一杯元気なように振る舞いながらマルヴィナを手伝っていた。
「よーうマルヴィナ、でっかいの捕ったぞ」
セリアスが木の枝で作ったもりの先に大きな魚を刺し、マルヴィナの前に。
さんきゅ、と答えて、マルヴィナは魚をさばき始める…彼女は魚をさばくことだけは下手だったが。
簡単に食事を終え、水を補充し、たき火をおこし、キルガは地図を広げた。
「今はここ…『竜の翼』地方だ」四人が額を寄せ合う中心にあるその地図の海岸のところを
指でぐるっと円を描き、キルガは言った。 アギト
「ここから、こう…『竜の尻尾』地方を通り、それから『竜の咢』地方に行く。
ここをぐるっと回れば…ドミールの里だ」
「こりゃまた…ややこしいな」セリアスが唸った。
「いや、そうでもない」だが、キルガが答える。「一本道なんだ。遠いが、道に迷うことはなさそうだ」
「でも、この分だと、明日につくのも厳しそうか…明後日の昼とか、そのあたりかな?」
「魔物に襲われなければ、それくらいだろう」キルガは頷いた。
「この先に水を補給できるところはない。節約したいのは変わらないな」
「了解」皆は頷いた。
今日の不寝番も、セリアスとシェナである。
「…ぁ、ぁわはがぁ…」
セリアスは大きく口を開けて、あくびをした。眠い。
もともと規則正しい時間に寝て必要以上に起きるのが遅い彼にとって、不寝番はある種の敵である。
だがもちろん、仲間で決めた約束は破らない。そう言った義理は、堅いのだ。
とはいえ、現在寝ているのはシェナだけである。マルヴィナとキルガは、先ほどから外に出て、
昨日マルヴィナが言っていた『新技』の特訓に励んでいた。…シェナももうすぐ
交代のために起きてくるはずだから、一回だけ皆が起きていることになる。
…正直不寝番の意味がないような気もしなくはないが。
何十回目かのあくびを噛み殺しながら、セリアスは特訓をする二人を眺めた。
ずっと、ずっと一緒だった仲間。いつも、三人でいた。
いつから、キルガはマルヴィナに特別な思いを抱いていたのだろう。
ずっと、仲間として、友達として接してきたから、シェナに言われるまで気付かなかった。
キルガが、“そういう想い”を抱いているということは。
でも、彼は、悩んでいる。自分の思いに、自信が持てなくて。
いつまでも前に進めない。自分の思いに、真面目すぎて。
(それでも)
それでも、セリアスは。
(それでも、俺は応援するぞ。ちゃんと応援するぞ)
そんな親友に、心の中で、思う。
(だって、仲間だもんな)
口の端で、笑いながら。
テントの幕が開いた。シェナが、長い髪を後ろで束ねながら出てくる。
「おぅ、シェナ、おそよう」
セリアスが冗談を言い、シェナは。
「………………………………」
吹き出すことなく、はっと目を見開いて、セリアスを見た。初めて言った冗談が空回りし、
セリアスはちょっぴり落ち込んだ笑いを見せる。
「せめてなんかツッコんでくれよ。独り言親父みたいじゃないか」
「…え。…えぇ、ごめん」
「謝るほどじゃないからいい」セリアスは気にせず屈託なく笑うと、んじゃ、よろしく、と言って、
大きなあくびを一発、そのままテントへ戻って行った。
えぇ、と小さく答えて——シェナは、手を離してしまい垂れ下がった長髪の先を軽く握って、
少し、本当に少し目を細めて、歯をかちり、と鳴らした。
どうして、今更。
・・・・・
彼の姿に、嫌いだった少年が、重なって見えたのだ。
もう一日日は巡り、五日目になった朝——ようやく、あと少しというところまで来た。
が、もう殆ど彼らは、口をきく余裕がない。休憩回数も、徐々に増えてきた。
あんなに補充したはずの水も少なくなってきて、一刻も早く人里に着きたい一方で
これ以上速く歩くことに限界を感じてもいた。
だが遂に——そうも言っていられない状況になる。
朝から、というか最近、体調の悪そうだったシェナ。彼女の足取りが、本格的に遅くなり始めたのである。
「おいシェナ、本当に大丈夫か?」
セリアスの三度目の問いは——答えが、一番弱々しかった、どころか———。
「…ん。ちょっと、ふら、ふ———」
「危ない!」
口を開いた瞬間——シェナは、ふらりと体勢を崩す。咄嗟にセリアスが前から腕を背に回して受け止めたが、
シェナは身体をその腕に預けたままぐったりとし、動かなくなった。
「ちょ——シェナ!?」
あわててマルヴィナが、その疲労すら忘れて危なげな足取りで駆け寄った。
その額に手を当て——すぐに、引っ込める。
「熱、い」
「な…やっぱり、熱があったんじゃないか! 何で、隠してっ…」
「急ごう」セリアスはきっぱり言った。
「もうすぐなんだろ。早く着いて、宿に運ぼう」
言われるまでもないことだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.252 )
- 日時: 2013/02/28 22:44
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
ドミールの騎士は、祈っていた。その墓に眠る者たちに。
四人。若き男性と女性、その隣に、少し大きめの女性の母の墓。
更に、少し離れた別の場所に——とある少年の、墓が。
・・・
少し大きな墓に祈るのは、もう日課であった。どうか、あの方をお守りください、と。
ここに眠る修道女が、天寿を全うしてから。毎日。
「ケルシュ」
騎士は——ケルシュは、自分の名を呼ばれ、その声の主に——現在の里長、ラスタバに頭を下げた。
「…もう、この毎日にも、慣れてしまった」
足の完全に動かなくなったラスタバは、杖を使いゆっくりと墓の前に来る。ケルシュが支えた。
「いや、結構…感謝する。…早いものだ。あれから、もう三百年か」
「はい」ケルシュは答えた。ラスタバはもう老人である。ケルシュも、若くはない年ごろだ。
「…せめて、あの方だけでも、戻ってこられたら——戻ってきてくださらねば、せがれが浮かばれん」
「えぇ」ケルシュは頷く。
祈って、祈って——祈り続けて。そして、この間に戻ってきてくれればと思って——
そんな都合のいい話があるわけがないと、でもどこかで期待して…
いつも、やるせない思いで、ため息を吐いて終わるのだ。
いつもどおり、いつもの時間だけ。…そのはずだった。その声が、飛び込んでくるまでは。
「——すみませんっ!!」
異なる風が吹いた。
その意味——異国の民が、現れた。
「お客人…?」
「何と——実に、珍しいことだ」
ケルシュは崖の上から、入口を覗き見た。多い。三人——否、四——
「———————————————!!!」
そして、ケルシュは目を見張った。
「あ…あぁああああっ……!!」
見開かれた、その眼には。
ずっと待ち続けていた、ずっと無事を祈り続けていた、ひとりの娘を映していた。
「異なる風の、歓迎を。——ようこそ、外界のお客人。
ここはドミール、人間とは異なる『竜族』住みし小さき里です」
里長に古めかしい挨拶をされ、三人は返す言葉を咄嗟に思いつけず、頭を下げた。
…そして、マルヴィナが、隣に顔を移す。
「…あの。どういう、ことですか…?」
彼女の目線の先には、小さく息をつきながらも意識の戻らないシェナ。そして周りには、
心配げに見守る、里の女たち。だが、里長はそれより先に、マルヴィナたちを見て、問うた。
「あなた方は…お見受けしたところ、人間ではありませぬな」
普通に聞けば、それはとてつもなく失礼な言葉にもなる。だが、彼は確信していた。
それをマルヴィナたちも読み取れた。この人は、知っている。そう思ったからこそ、素直に答えた。
天使です、と。
天使の存在を、彼らは知っていた。何故なのかまでは分からなかったが、
マルヴィナの話を聞き、里長は納得いったように頷いた。
「…シェナさまは」
里長——ラストゥアーマダと名乗った彼は、ようやく説明を始めた。
「シェラスティーナさまは…このドミールの民、いわゆる——竜族です」
この状況から想像していたこととはいえ、三人は驚きを隠せなかった。
“ —私も、色んなわけがあって天使界にいられなかった——元、天使— ”
“ —…私は…天使界には、戻れない— ”
自らを天使と偽り、行動を共にしてきたシェナ。
だが、その正体は。
「…………………………………」
「恐らく」ラスタバは続ける。「シェナさまは、ご自分の身分を隠すために、天使を名乗られたのでしょう」
三人は、答えない。
「何ゆえ、そうされたのかは、私めは残念ながら知り得ませぬ。ですが——」
「許せ、っていうなら、断るよ」
マルヴィナは小さく言った。キルガとセリアスが、驚いて彼女を見る。
「…なんで、隠し事なんかしたんだ。シェナが誰であったって…どんな出身だったからって、
仲間であることは変わらないのに。なんで、隠し事なんかしたんだっ…」
「マルヴィナ」
マルヴィナは、シェナの嘘を怒っているのではない。…シェナに嘘をつきつづけさせてしまった、
自分たちの関係に、怒っているのだ。…彼女は何処までも、仲間思いで、優しかった。
ラスタバの話は続く。
シェナは、五百五十年ほど前に生まれた竜族。そして、古の絶大な魔力と知恵を兼ね備えた
『真の賢者』の正統なる後継者である。その名の通り、彼女はあらゆる魔法を次々とその身に覚え、
素晴らしい成長を見せた。
…だが、三百年前。
ガナン帝国を名乗る、紅い鎧の兵士たちに、その能力を恐れられてか、強制的に連れ去られてしまった。
マルヴィナは知っていた、キルガとセリアスは予想していた。
それでも——事実をはっきりと知らされ、言葉を失わずにはいられなかった。
・・・・・
「そこで一人の少年の命が失われ、里長はその後、天寿を全うされました」
少年、の言葉に一つの悲しみを交え、里長、の言葉に言い表せない思いを抱き。
「——シェナさまの安否を、確認されぬまま」
一筋、涙が流れるのを、隠さずに、言った——…。
「お話、ありがとうございました」
マルヴィナは礼を言い、二人も続いた。布を出し、マルヴィナはラスタバに差し出す。
かたじけない、とラスタバは布を受け取り、まなじりを押さえ、目をしばたたかせた。
「しかし、シェナさまは、あの頃とお変わりにならない。…忌まわしき帝国が滅びてから、三百年…
一体、何が起きたのでしょう」
「———え?」
その言葉には、マルヴィナとキルガが反応した。
「…滅び、た?」
「…帝国が…?」
「……………………む?」
遅れて、セリアスも。
「む…何か?」
ラスタバが怪訝そうな顔をするのを見て、マルヴィナはさらに混乱する。
「じゃあ、今ある帝国は、一体…?」
「…む?」
「何…?」
マルヴィナの言葉には、ドミールの民たち全員が首を傾げた。
「お話します」
その空気に、キルガが割って入った。「今存在する帝国と…僕らがこの里を訪れた、理由を」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.253 )
- 日時: 2013/02/28 22:47
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
ガナン帝国について、新たなことが分かった。
ガナン帝国は、三百年前、一度滅びたらしい。
原因は不明。だが、一方で、復活した理由も不明だ。
シェナがガナンに捕まってから、帝国は突然滅び、シェナの安否も不明になってしまったのだ。
ガナンを名乗る兵士に度々襲われ、関わってきたことを、マルヴィナたちはすべて話した。
ここまで彼らを信用できるのはきっと、仲間を助けてくれる人たちだから。
仲間の、故郷の人々だから。
「成程。それで、グレイナル様に会いに」
ラスタバは得心したように頷いた。「分かりました、許可致します。山頂へ、足を運ぶことを」
マルヴィナは問い返した。きけば、グレイナルは、この火山の頂にいるらしい。
だが、最近魔物が狂暴化している。この火山の魔物はかなり酷いらしい。
そこで、山頂への入り口をふさぎ、立ち入ることを許した者にしか山を登らせてもらえないという。
シェナは意識を失ったまま目覚める気配はないし、起きたとしても体調を完全に回復させるまでは
同行させる気はなかった。そのため、山頂にはマルヴィナ、キルガ、セリアスが行くことになった。
万一にとケルシュを同行させることをラスタバは薦めたが、三人は断った。
万一、の状態が、この里で起きるかもしれなかったから。
もし起きたとき、彼にはこの里を守る義務があるだろうと思ったから。
「………………………ぅぅぅぅぅぅぅ」
人間には聞こえない声で、何かが唸っていた。
「………………………ぅぐううぐむぐむぐ」
人間には見えない乗物の中で、唸っていた。
…サンディである。
「…ぐ。うむむむ。…ぐ、ぅ。…。……っ。……………………っぐぅあああああむ————!!」
が。遂に訳の分からない絶叫をしてサンディはばーん、と運転台をブッ叩く、そして痛くてぷるぷるした。
「あーもう、わけわからん」
訳分からんのは自分の絶叫だ——なんて考えがサンディにあるはずがない。
「ったく、勝手に、アタシの箱舟ちゃん壊しやがって! あのドラゴン今度会ったらシメてやる…」
牙があったら今すぐ手あたり次第かじれるものを探してがじがじ噛みそうな様子のサンディは、
だが次いで、はーぁ、と腕を重ねあごを載せ、眉をハの字にため息を吐く。
「マルヴィナ、だいじょぶかなぁ」
セントシュタインに集まった時、ひとりだけ来なかったマルヴィナ。
また壊されたらたまらないと思って早々に箱舟のもとに戻ったが——それでも心配なのは、心配なのだ。
——相棒。
お人好しで。見捨てられなくて。だから、首突っ込みたがり屋で。
天使のくせに『星のオーラ』が見えなくて。なのに天の箱舟は見えて。
仲間が現れてからは、いつの間にか凄く、凄く頼りになる戦士になっていて、四人の中心だった。
…裏を返せば。マルヴィナは、ひとりだと、凄く頼りのない、娘なのだ。
サンディは、否、サンディだからこそ、知っていた。
相棒は、強い、強い戦士だけれど、弱い、弱い娘なのだ。
自分に怯えて。一人で抱えて。怖いこと、恐れていることを、ひとりで詰め込んでしまう、
弱い、弱い少女なのだ。
だから。マルヴィナを一人にした、あいつを——師匠だという、あの天使を、サンディは許さなかった。
師匠のことを語るマルヴィナは、本当に誇らしげで、幸せそうだった。
サンディはそのたびに呆れもしたが、邪険には決してしなかった。
…それなのに。
そんなマルヴィナの思いを払って、打ちのめした、あの天使。
「絶対、許さないカラっ!!」
サンディは叫んで、再び箱舟の運転台を叩く。もう、痛みなど感じなかった。
ドミール火山は、更に暑かった。
「ぐぅぅぅぅぅぅ。暑、い」
セリアスは情けない声を上げる。が、二人も同意見なので、何も言えない。
「さ、さすが火山。…相当のものだな」キルガが顔にへばりついた髪の毛をはがし、
「暑い。汗が凄い。溶ける。どろどろ」マルヴィナは顔を拭い、手を振って水気を弾き飛ばし、
「そんなマルヴィナは見たくないな。…あー、暑い」セリアスは相変わらず情けない声を上げる。
水分を補給させてもらえたのは幸いだった。こんな環境でも、水の湧くところはあったらしい。
手持ちの塩を少量水に加え、準備も万端——で臨んだはずなのに既にこれである。
しかも鎧の中に熱はこもるし、足取りは不安定だし、何より魔物が強い。
襲われるたびに自棄っぱちな雄叫びを上げて突っかかっていくのは、そうでもしないと
ぶっ倒れそうだからだった。が、その欠いた冷静さが、仇を成す。
いきなり、鉄の戦車に乗った小人が現れたかと思うと、リズムに乗りだして暴走しながら
突っかかってきたのである。不意を突かれマルヴィナとキルガはその影響で転倒、
マルヴィナは不安定な転び方をしたので、頭を強かに打ち付けてしまった。
傷が開いたような痛みが襲う——否、開いていた。
「う、ぐっ!!?」
「マルヴィナ!?」
唯一転倒を免れたセリアスが気合一閃、小人を打ち払うと、頭を押さえ膝をつくマルヴィナに駆け寄った。
「おい、大丈——」セリアスは言葉を打ち切った。打ち切らされた。出血が止まらない。
「痛——」汗の影響で、痛みが増している。この状況は、厳しい。
——と、その時、
キルガとセリアスは、こちらへ向かってくる人影を、見た。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.254 )
- 日時: 2013/02/28 22:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
こんなに暑いのにそいつは、黒い外套に頭巾と、非常に暑苦しい姿をしていた。しかも、そのまま——
蹲るマルヴィナの前に、立ったのである。セリアスは思わず、その場から引いてしまったのだ。
マルヴィナがはっとする、が、顔は上げられない。そのまま、そいつは、呟いた——
べホマ、と。
マルヴィナの頭の傷から、金色の光が生まれ出で、そのまま身体中を包み込む!
キルガが目を見張り、セリアスが唖然とする、その眼の前で、
マルヴィナの頭の包帯の中から流れ出ていた血が、止まる。驚いてマルヴィナは、頭を上げた——
痛く、ない。どころか、傷が——。
「え? ………え?」
混乱し、手を見て背を見て頭を触り、首を傾げて前を見る。黒外套が立ち上がる。
「え? ——待っ…!」
待って。その言葉には、応えてくれなかった。だが、何かを言っていた——
“マタアトデ”
と。
「マル、ヴィナ…大丈夫か?」
念のためにと、セリアスが訊いた。キルガが手を貸し、マルヴィナを立ちあがらせる。
頷くまえに、マルヴィナは血染めとなった包帯を外した。二人が目を見張った。
そこにあったはずの大きく、生々しい跡は、跡形もなく、消えていた。
「え?」 ベホマ
「まさか…完治呪文? 今のが…」 ベホマ
どのような傷でも完全に回復させるという、僧侶のみ使うという、最高位の回復呪文——それが、完治呪文。
「ちょ——今のは誰なんだ? なんで助けてくれたんだ? そしてありがとーう!」
混乱しながら礼を言うセリアス。尤も、もう姿はそこにはなかったが——
「…今の人、何か…」キルガは呟いた。…が、自分の考えが馬鹿らしくなって、言うのはやめた。
だが、実のことを言うと、セリアスもまた、キルガと同じことを思っていながら言わなかった。
——懐かしい。
謎の黒外套に助けられてから元気になったマルヴィナは、その分よく動いた。
竜戦士が襲ってくる。返り討ち。ヒートギズモが炎を吹く。追い風。
緑竜が薙ぎ払う。払いかえす。暑いのを払うように熱くなる彼女を見て男二人は
やれやれと息を吐きながらも加勢。そうこうするうちに頂と思しき場所に着く。
「うしゅああああー、着ぅいたぁー」
何とも気の抜けた声でセリアスは脱力したのだった。
「天使だから当然のように思ってしまっていたが」
山頂——の手前の坂を昇りながら、キルガが言った。
「グレイナルが存在していたのは三百年前。…普通の人間じゃ、既にこの世にはいないはずだった。
けれど、ちゃんと今もいる——竜族というのは長生きなんだな。おそらく生命力は、天使と変わらないのだろう」
「シェナを見りゃわかることだ。…人間界にも、天使みたいなのがいたんだな」セリアスが頷く。
「世界って不思議だよね」マルヴィナ。「…でも、グレイナルは、竜族じゃない」
「え?」
「へっ?」
キルガとセリアスが、ほぼ同時に問い返した。
マルヴィナの声は低かった。独り言でもいうような声で——だがすぐにびくりとする。
「…あれ? …何でこんなこと知っているんだ?」
「はぁ?」セリアス。「おい、ボケたか」
「…肘鉄喰らいたいか」
「スンマセン」
セリアスが脱兎の勢いで三歩逃げた。
「…ちなみに、だったら何なんだ?」
キルガは首を傾げるも、あえて詮索はせずそちらを尋ねた。
「…うん。…でも、言わなくても、すぐわかる——」
はかったように、その咆哮は、響いた。
その声、雄叫び、凄まじく、猛々しく、雄々しく。
頂上。
そこにいた、グレイナルという者は—————…。
「竜………!?」
白く、大きな—————光竜だったのだ。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.255 )
- 日時: 2013/02/28 22:54
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
暖かい日差しが辺りを照らすその部屋で——
シェナは、目を覚ました。
いつの間に寝ていたんだっけ。…あれ、でも私、今あの里に向かっているはず。
この部屋——あぁ、懐かしい。ここは、私の———…
「———————————————————————っ!!!!」
瞬時に、複数の箇所のスイッチが入った。
がばっ、と身を起こし、立ちくらみ—いや、起きくらみ—をおこして倒れこむ。頭をぐらぐらさせながら、
けれどシェナはかつてないほどに焦っていた。故郷を懐かしむ余裕など、なかった。
(ど)
どくどくどく。心臓が大砲のように大音を奏でる。
(どうしよう——どうしようどうしよう!!)
頬を緊張させて、シェナは思った。
(ドミールだ、ここは、ドミールだ…………………っ!!)
知られてしまっただろう。仲間たちに、自分は、天使ではないと。
天使と同等の力を持つだけの、地上の民に過ぎないと。
(ね、熱っ…!)
そう、熱。熱で、倒れたのだ。馬鹿、自分を罵った。ドミール出身だと、知られないために——
どうにかして、里の民にばれないようにするか。口止めするか。
今更考えると、どう考えても不可能なことをやって見せようとしていたのだ。
その時からすでに熱はあったのかもしれない。…焦って落ち込んで、そして——冷静になって、思った。
…おばあさまは? ケルシュは? そして——
嫌いだった、あの少年は?
命を懸けて自分を救おうとし、返り討ちにあい、
それなのに私は何もできなかった、しなかったあの少年は、今一体、どうしているの——?
「っ!」
音がして、シェナはそちらを見た。そして——止まった。
そこにいたのは。
「シェナ、さま…」
「ケルシュ……?」
祖母以外に頼りにし、好きだった、騎士の姿だった。
・・
ケルシュは無事を祈り続けた少女を目の前に、思わず涙を流しそうになる。 ・・
だが、騎士の務めは。先にすべきことがある。なにより、騎士ではなく、ひとりの家族として、
言うべきことがある。
互いに静かになってしまったそこで——ケルシュは、シェナの前に立ち、
膝を折り腕を水平に掲げ、頭を垂れて敬礼をした。騎士のすべき、行動。
困惑するシェナの前で、ケルシュは言う——ずっと言いたかった、言葉を。
・・・
「お帰り——シェナ」
「!!」
いつしか、そう呼んでくれなくなった名。
従者としてではない、ひとりの、もうひとりの家族として、呼んでくれたその名。
シェナは、思わず拳を握りしめた。
ゆっくりと立ち上がり、ケルシュの前にしゃがむと、その首に腕を回した。
「ただいま…ケルシュ…!」
彼女の眼に浮かんでいたのは、一粒の涙。
グレイナルだと、竜は名乗った。
その大きさ、存在感。圧倒される。だが——不思議と、猛々しさは、
闇竜よりも欠けているように見えた。…それは、その歳のせいか。
「…わたしは、マルヴィナという。こちらは——」
「貴様ら」
マルヴィナが仲間を紹介するより早く、グレイナルは言った。
「…そのにおい、忌まわしきガナン帝国! 性懲りもなくまた儂を狙ってきおったか!?」
「え?」「は?」「ちょ」
マルヴィナ、キルガ、セリアスと、三テンポ綺麗に問い返す。
「はぐらかしおっても無駄じゃ、忘れるはずもない。…ならば儂とて容赦はせん、
年老いたとて舐めるでない。古の竜族の力、見せてやろうぞ」
「待った! ちょっと、待った!」マルヴィナが慌ててそれを止めた。「それは違う!」
「違うとな」グレイナルは嗤った。「この期に及んで弁解か。いつからそれほど見苦しくなった、帝国の犬よ」
「だから、違うって言ってるだろー!?」セリアスだ。「俺らは、あんたの力を借りに来たんだ!」
「僕らは、シェナの…この里の民シェラスティーナの、仲間です」キルガも言った。
「復活したガナン帝国に相対できる力を持つあなたに、協力を頼みたいのです」
「シェラスティーナ? …あぁ、『真の賢者』か」
グレイナルはその爪で首筋(?)をかく。「…そうか、あの娘が帰ってきたのか」
「信じていただけますか」キルガは静かに、祈るように言った。だが、相手は相変わらずだった。
「帝国に捕まったというのならあの娘も、帝国の者となったという事か。
ならばこのにおいは、あの娘によるものということだな」
「おい」
セリアスが、抗議と、非難の声を上げたが、思ったよりその声は小さくなってしまい、相手には聞こえない。
「同じことだ、とにかく帝国のにおいを纏ったものに協力など」
「願い下げなのは、こっちも同じだ」
先に鋭く言ったのは、マルヴィナだ。キルガが、セリアスが、驚く。
彼女はその眸を、怒りに燃え上がらせていた。
「仲間を…わたしらの大事な仲間を侮辱する者に、もう用はない。
ましてやあなたはシェナをよく知るものだろう。ならば分かるはずだ、
彼女が帝国なんかに手を貸すはずがないと!」
グレイナルはその大きな眼で、ぎっ、とマルヴィナを睨みつけた。マルヴィナは怯むことなく、睨み返す。
「…ほう、このグレイナルに、意見するか。それは無知ゆえか、若さゆえか」
「どうだっていい、とにかく仲間を侮辱する者に、手など借りない!」
キルガとセリアスは黙ったままだったが、マルヴィナの言うことを否定はしなかった。
どこかで、彼女と同じことを思っていたから。少し、彼女より勇気が足りなかっただけで。
この勇敢さを、キルガは好きになったのかもしれない。
セリアスはこんな時にも拘らず、そう思った。
黙ったグレイナルに、踵を返しマルヴィナは仲間を促した。
「…帰ろう」
二人は、頷いた。その場から、足音が消えてゆく。グレイナルは、その場で、少しだけ笑っていた。
あの向こう見ずな眸を、思い出しながら。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.256 )
- 日時: 2013/02/28 23:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「…そう」
シェルラディスの死を、心苦しげに告げたケルシュに、シェナは思ったよりも冷静に答えた。
「…なんとなく、想像はしていたの。…駄目ね。覚悟はしていても、受け入れるのは厳しいわ」
「…シェディ様も、同じことをおっしゃっていました」ケルシュは顔を伏せ、言う。
「貴女がお生まれになり、母君が亡くなられたとき」
「…そっか」
シェナは虚空を見上げた。
「…最後の言葉は、覚えてる。邪に屈するな、死を見るな——…
忘れたことはなかったわ。なかったのよ。…………でもっ…」
「シェナさま?」
いつの間にか視線を落とし、シェナは苦しげに顔を歪めていた。けれど、それ以上は、語らなかった。
ケルシュはその様子にただならぬものを感じる。『でも』?
どうかされたのですか。言いたかったが、言ってはならないような気がした。
何とも言えぬ沈黙が落ちる。が、ふとシェナは、その表情を元に戻すと、ケルシュを見た。
「そういえば、今の里長は誰が務めているの? ケルシュ?」
「いえ、私など。ラスタバです」
「ラスタバ…あっ」シェナはいきなり、弾かれたように身を乗り出した。「ねぇ、ディアは? 彼は——」
シェナのその問いに——ケルシュは、その表情を、隠せなかった。
——哀切。
・・・
「…三百年前——あの後、命を落としました」
「——————————————————————————っ!!!」
シェナの顔が、蒼白となった。
顔を伏せ、毛布を握りしめて。
けれど、彼女は、呟いたのみだった。
眸の奥に生じたものを堪えながら——「そう」——と。
・・
先程より気まずい空気を作り出してしまったその部屋の雰囲気を変えたのは、あの三人だった。
「ただいま——あぁっシェナ、目が覚めたのか!!」
里長の家に『ただいま』とか言って、マルヴィナはそのままシェナに気づき、駆け寄る。
ずっと騙し続けていたことを思い出して、シェナは目をそらして、小さく答えた。
「で。シェナ。なんかいう事あるだろ」
あぁ、やっぱり。シェナは、反射的に肩をすくめた。ずっと騙してきたこと。やっぱり、やっぱり——
「なんで体調悪いこと、黙っていたんだ! 熱があるならちゃんと言う、ちゃんと言って休む!
身体壊したらどうするんだ!?」
「……………………………………。…え?」
想像していた言葉とは別のそれに、シェナは思わず目をしばたたかせた。
見れば、入口に立つキルガは「だから大丈夫か、って聞いたんだ」と苦笑するし、
セリアスは「もっと頼れもっと使え、まったく!」と口調の割に笑っている。
…誰も、言わない。隠していたこと、騙していたこと。
シェナは、ようやく——今更——今になって初めて、悟った。
自分は、無駄に怯えていただけなのだと。どこの出身だろうと関係なしに、彼らは自分を認めてくれるのだと。
言い表せぬほど胸がいっぱいになり、シェナは思わず歯を噛みしめた。
あまりにもあっさりと許してくれた——却って、辛くなるほどに。
…それでも、言えない。
“ —…………でもっ…— ”
その先の、言葉だけは。
「ところでマルヴィナ殿——首尾はいかがでしたか?」
ケルシュが改まって、マルヴィナに問う。
が——彼女は、「あー」とお茶を濁しかけて、けれど素直に言った。
「うん。追い返された」
「…はい?」
「追い返された。機嫌損ねられてさ」セリアスだ。「一体何のために来たんだろな、俺ら」
はっはっはっ、と力なく低く笑うマルヴィナとセリアスの二人は結構不気味だった。
「でも、この里はガナンと戦った人々がたくさんいるんだろ? 何かつかめるはずだ。
ここで諦めるわけにはいかないのでござる。…だから、わら布団で構わないから
ここに滞在する許可をくださいませぬるか」
いきなりマルヴィナが謎の敬語を使いだして、キルガとセリアス、怪訝とは少々異なった微妙な表情をする。
確かマルヴィナがこのような状態になった時は——ろくでもないことを頼む前兆だった気がするのだが。
ともかく、シェナとケルシュが違和感を覚えて首を傾げかけ、
のちケルシュのみは慌ててその言葉の意味を捕らえて答えた。
「…いや、あの、マルヴィナ殿。…お客人に、ましてシェナさまのご友人に、
そんな不躾な真似はできませぬ。宿屋をお使いください、無料で提供いたします」
「え」マルヴィナが若干上ずった声で言う。「いいので?」
「構いません。私が話をつけておきましょう」
「わ、ありがとうございます!」マルヴィナが手をたたいて喜び、ケルシュは早速宿屋へ向かう。
彼の姿が見えなくなったときに——黙っていたキルガはぼそりと言った。
「…狙ったな」