二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.254 )
日時: 2013/02/28 22:50
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 こんなに暑いのにそいつは、黒い外套に頭巾と、非常に暑苦しい姿をしていた。しかも、そのまま——
蹲るマルヴィナの前に、立ったのである。セリアスは思わず、その場から引いてしまったのだ。
 マルヴィナがはっとする、が、顔は上げられない。そのまま、そいつは、呟いた——

 べホマ、と。

 マルヴィナの頭の傷から、金色の光が生まれ出で、そのまま身体中を包み込む!
キルガが目を見張り、セリアスが唖然とする、その眼の前で、
マルヴィナの頭の包帯の中から流れ出ていた血が、止まる。驚いてマルヴィナは、頭を上げた——
痛く、ない。どころか、傷が——。
「え? ………え?」
 混乱し、手を見て背を見て頭を触り、首を傾げて前を見る。黒外套が立ち上がる。
「え? ——待っ…!」
 待って。その言葉には、応えてくれなかった。だが、何かを言っていた——

 “マタアトデ”

 と。




「マル、ヴィナ…大丈夫か?」
 念のためにと、セリアスが訊いた。キルガが手を貸し、マルヴィナを立ちあがらせる。
頷くまえに、マルヴィナは血染めとなった包帯を外した。二人が目を見張った。
そこにあったはずの大きく、生々しい跡は、跡形もなく、消えていた。
「え?」  ベホマ
「まさか…完治呪文? 今のが…」                               ベホマ
 どのような傷でも完全に回復させるという、僧侶のみ使うという、最高位の回復呪文——それが、完治呪文。
「ちょ——今のは誰なんだ? なんで助けてくれたんだ? そしてありがとーう!」
 混乱しながら礼を言うセリアス。尤も、もう姿はそこにはなかったが——
「…今の人、何か…」キルガは呟いた。…が、自分の考えが馬鹿らしくなって、言うのはやめた。
だが、実のことを言うと、セリアスもまた、キルガと同じことを思っていながら言わなかった。

 ——懐かしい。




 謎の黒外套に助けられてから元気になったマルヴィナは、その分よく動いた。
 竜戦士が襲ってくる。返り討ち。ヒートギズモが炎を吹く。追い風。
緑竜が薙ぎ払う。払いかえす。暑いのを払うように熱くなる彼女を見て男二人は
やれやれと息を吐きながらも加勢。そうこうするうちに頂と思しき場所に着く。
「うしゅああああー、着ぅいたぁー」
 何とも気の抜けた声でセリアスは脱力したのだった。



「天使だから当然のように思ってしまっていたが」
 山頂——の手前の坂を昇りながら、キルガが言った。
「グレイナルが存在していたのは三百年前。…普通の人間じゃ、既にこの世にはいないはずだった。
けれど、ちゃんと今もいる——竜族というのは長生きなんだな。おそらく生命力は、天使と変わらないのだろう」
「シェナを見りゃわかることだ。…人間界にも、天使みたいなのがいたんだな」セリアスが頷く。
「世界って不思議だよね」マルヴィナ。「…でも、グレイナルは、竜族じゃない」
「え?」
「へっ?」
 キルガとセリアスが、ほぼ同時に問い返した。
 マルヴィナの声は低かった。独り言でもいうような声で——だがすぐにびくりとする。
「…あれ? …何でこんなこと知っているんだ?」
「はぁ?」セリアス。「おい、ボケたか」
「…肘鉄喰らいたいか」
「スンマセン」
 セリアスが脱兎の勢いで三歩逃げた。
「…ちなみに、だったら何なんだ?」
 キルガは首を傾げるも、あえて詮索はせずそちらを尋ねた。
「…うん。…でも、言わなくても、すぐわかる——」


 はかったように、その咆哮は、響いた。
 その声、雄叫び、凄まじく、猛々しく、雄々しく。


 頂上。
 そこにいた、グレイナルという者は—————…。




「竜………!?」




 白く、大きな—————光竜だったのだ。