二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.268 )
日時: 2013/03/17 00:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 困惑しつつも自分を奮い立たせ、兵士の——ではなく、自らの剣を手にする。
マルヴィナは、相手を見た。観察したのではない、見ただけで、敵の弱点が分かる。
それは魔法戦士の特技。一年弱異なった『職』を経験したが、勘は鈍っていない。
「マルヴィナ、悪いが相手の守備を下げてくれ!」
「分かった」        ル カ ナ ン
 マルヴィナは集中し詠唱、守減呪文改を唱える。魔物の気力を奪う。
そして、炎——ファイアフォースを送る——全員に。
「流れはこちらだ、一気に片を付ける!」
 疲労を払うように、マルヴィナは叫んだ。唱和が響く。

 それを見てチェルスは、よし、と頷くと——いつの間にか顔を上げていたルィシアと、視線をぶつけた。
「…なんの、つもり…?」
 自分を生かせ、と言った理由だ。
変わらず深く息を吐きながら、麻痺する身体を動かそうとして——無理だった。
「言った通り——話がある」
 チェルスは相手に合わせた姿勢にはならず、ただ立ったまま話し続ける。
「わたしを復活させ——あいつはどうなっている」
「…さぁ?」
 ルィシアは目を閉じてもう一度息を吐く。「どうこうとかは、訊いていない」
「…『儀式』は行われていないんだな」
 チェルスはどこかで安堵しながら、言った。
「貴女が、逃げ出した、から…よっぽどのことがない限り、『儀式』とやらは、行われないでしょうよ」
 帝国に対する侮蔑を孕んだ物言いに、チェルスは眉をひそめた。心中で、やはりと思いながら。
「…もう、一つだ」
 先陣を切るキルガとセリアス、後に続く里の民たちによって最後の魔物も、討伐される。
里の勝利に喜び、負傷者の手当てにまわりだした皆を見て、チェルスは問うた——
「里襲撃の命令を下したのは誰だ?」

 答えは、別の場所から返ってきた。

「わたくしですよ、“蒼穹嚆矢”殿」



 丁度、あるいは狙ってか。チェルスの名を呼んだ者が、姿を現す——
「ッ!!」
 意識の飛びかけたマルヴィナが、息を吐くキルガとセリアスが、はっとそいつの姿に目を見開いた。
ひだひだしたローブ、毒を含んだ丁寧語、まるで妖鳥のような顔の、男。
 あの日、箱舟を襲った者、

“ —首尾はどうですか? イザヤールさん— ”

 闇竜に乗り、師匠の名を呼んだ、あいつが————…。


「「…ゲルニック…!!」」


 マルヴィナとチェルスに同時に名を呼ばれたそいつが、邪悪な笑顔を浮かべて立っていた。





「…久しいな、“毒牙の妖術師”」
「全くです。いきなり面倒を起こしてくださった、出来損ないの天使殿」
「面倒起こしはどっちだ」チェルスが吐き捨て、マルヴィナが叫んだ。
「貴様っ…!」
 その姿を目に映し、ゲルニックはわざとらしく驚いて見せた。
「おやおや…生きていたのですか。確か、イザヤールさんの」
「死にかけた、で止めたよ!」マルヴィナは怒気を孕んで、詰め寄った。「よくも、わたしの師匠をっ…!」
 ゲルニックは答えなかった。まるで軽くあしらうような小馬鹿にした笑みを崩さず、
再びチェルスへ視線を転じる——否。その先は——ルィシア。はっとして、ルィシアが顔を上げた。
憤怒、屈辱。だが、動けない。
「…無様な」
 少々、声色を低くして——ゲルニックは、杖を持ち直す。
マルヴィナが、チェルスが、そして何よりルィシア自身が——その先の行動が目に見えて、息を呑む。
前触れなしに、杖から生じた黒い雷を伴う、箱舟を襲ったそれに酷似した渦が、ルィシアに向かって放たれる!!
「————————————ッ!」
 マルヴィナは、何かを叫ぼうとした。だが、声にはならなかった。
 狙いが外れるわけがない。それは、そこにいた——

「ぐっ!?」

 否、
 そこに飛び込んだチェルスを、遠慮容赦なく襲った。

「  」
 ルィシアの驚愕の声は、だが、チェルスが受けきれなかった分に襲われ、
意識が飛び——声には、ならなかった。
「チェルスっ」
 マルヴィナが叫ぶ、駈け寄ろうとして足をもつれさせる。
限界が来た。肩を支えるキルガ、武器を構えるセリアス。嗤うゲルニック。
「おやおや…まさか敵を庇うとは。まぁ、いいでしょう」
 くくっ、と、厭らしく笑って。
「——いずれこの里も消滅する」
「!?」顔を上げる、戦慄する。
「このっ」斧を手に、だっと走るセリアス。だが、その前に、ゲルニックは飛び去った。
 むなしく空をきった斧の上に、キメラの翼の羽が、嘲笑うようにはらりと落ちた——…。