二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.278 )
日時: 2013/03/17 19:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

           5.


      マグマ
 燃えたぎる岩漿と、渦巻く闇色の空。
 光伴う竜は岩漿のもとから、闇纏う竜は闇空の中から。
 かつて同じ時代を共に生きた二匹の竜が、睨み合っていた。
 ——否。光竜には、ひとり味方をつけている。けれど、闇竜には気づかれぬよう、息をひそめていた。

“ 久しぶりだな。グレイナルよ ”

 その音のような声は、闇竜のもの。嘲笑めいた、決して聞いていて心地よいとは言えない声。
 グレイナルは目を細め、言った。
「まだ、存在していたとはな——恥晒しめが」
“ ふん ”
 まただ、とマルヴィナは思った。『恥晒し』。その意味が、分からない。
再会を懐かしむ風はなかった。ただ相手を落とす、勝利する。闘いの思いしかない。
火山の岩漿が爆発音に近い音を立てた。それが合図だった。
思わず下を向いたマルヴィナは振り落とされそうになって慌ててしがみつく。
自分が落ちては、グレイナルはその飛行能力を失い、負けとなる。——勝利の鍵を握っているのは自分だ。
ただしがみつくだけではあるけれど——それでも、やって見せる。
 例によって闇竜が吐きだしたのは、あの闇の渦。マルヴィナは片目を閉じ、歯を食いしばる。
 今度は、受けても絶対に吹き飛ばされないぞ。
 だが、そう思う必要はなかった。グレイナルもまた、対称的な光の渦を吐き出し、
ちょうど両者の中間でぶつかり合い、爆発した。闇竜のほうが、攻撃が早かった。
なのに、ぶつかったのは中間——グレイナルのほうが、渦の速さは上だ! マルヴィナは、まだ油断はならないが、一つだけ安堵を覚えた。
 と、その爆発の中にグレイナルが突っ切った。爆発を目くらましに向かってきたグレイナルに
バルボロスは、黒く輝く—表現はおかしいが、少なくともマルヴィナにはその黒が輝いて見えた—、
闇の炎を吹く。初めて見る動きだ! マルヴィナは思った。
 闇竜の名があるように、バルボロスは闇の攻撃しか出せない。
 光竜もまた、その名の通り、光の攻撃しか出せない、闇は光に弱い。
だが、一方で光もまた、闇に弱いのだ。
 忘れていない。ツォの浜で、仲間と話した対になる二つの話。光と闇、
どちらも存在せねば両方とも消えゆくもの——これはセリアスの意見だ。
 …そんなことはない。グレイナルは、バルボロスがいなくても存在していた。
マルヴィナは自分の意見を変える気はなかった。
 ——まだ。

 闇の炎に対抗するは、光の炎。対の攻撃で、抗う。再び交錯する光と闇、突き抜けたのは光の炎!
 闇竜が、その光に焼かれた——かのように見えた。
 確かに、痛手は受けていた。…だが、その様子は? 何より…その眼の、色は。

“ 流石だな。グレイナル ”

 ——ここ一番の嫌な予感がした。

“ だが、この前の—竜には三百年前も、この前なのか—ようにはいかぬぞ ”

 お決まりの文句。そうほざいたとき、大抵は——この後に起こることは——…。

“ …来たれ、『哀切の焔』 ”


「「———っ!?」」
 グレイナルと、マルヴィナまでもが、その名に反応した。知らない。聞いたことがない。記憶には、ない。
でも——だったら、なぜ今反応した?
 天を裂き、生じた雷、どす黒い霧が取り巻く。何かが、見えた——何?
霧の中に見える、何かの陰、あれは…あれは、人…否、

 —————天使……!?


 闇竜の雄叫びが轟く、闇竜に降り注いだ黒い雷に目が眩む! 上下左右の区別のつかない目に変わり、
耳だけはその声を、正確に聞き取っていた。

“ あれから、三百年 ”

「それが…次の力というのか」
 グレイナルの声は、憎しみを孕んでいた。
「やはりまだ、貴様は——」
 遮るようにバルボロスが啼き、その先の言葉は聞き取れなかった。だが——
もしかしたら、その言葉は——辛うじて聞き取れた言葉から推測すれば——

 “操られて”?

 が、そう思った瞬間、視界を何かが覆った。気付かなかった。それは闇竜の攻撃だった。
目の前に迫ったそれは、過たず光竜を狙い撃つ——

「ッ!!!」

 痛みじゃない。その身を襲ったのは、何と言われて、表現できるものではなかった。
しがみついていた背が低くなって、マルヴィナは無意識に閉じていた目を開く。
 見えたのは、先程の逆——闇竜の前に、ぐったりと首を垂れるグレイナルの姿だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.279 )
日時: 2013/03/17 19:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 形勢が逆転した。闇竜は一回りも二回りも大きくなったように見える。
その前で、グレイナルはゆっくりと、顔を上げた。こんな状況でも声をかけられない自分の現状が恨めしい。
けれど、声をかけては、更に状況は悪化してしまう。
 けれど、動けない。マルヴィナはあまり痛手を受けていなかった。気付いた。
グレイナルは咄嗟に、マルヴィナを庇うように攻撃を受けたのだ。
あの時の、ルィシアを庇ったチェルスと同じように。
 …不利だった。ここで次の攻撃を喰らえば、どうなってしまうのだろう。
考える時間をくれるほど相手は優しくなかった。天を仰ぐ闇竜、再び裂かれた空。集まる雷、生じた——

(なッ!?)

 円盤。
 見たこともないほど大きな円だった。紫と黒の鈍い光を取り巻き、気分が悪くなるような電磁音を響かせる。
息が苦しい。口を抑えそうになる。だが、兜があって、それはできなかった。
顔を上げる。自分を叱咤するように。気付く。その、方向に——
 闇竜の目線の先に。それは、

 ———ドミールの里!

「なっ…貴様何をする気だ!?」
 愚問だと分かっていながら、グレイナルは叫んだ。
その言葉を待っていたとばかりに、闇竜はしゅう、と息を吐く。

“ ただ殺すだけではつまらん ”

 これほど何かを邪悪だと感じたことはあっただろうか。
マルヴィナの眼はもう、限界まで見開かれていた。

“ あの里の最期も見せてやろう ”

 思い出す、あの闘いを。
 思い出す、あの将軍を。

“— いずれこの里も消滅する —”

 ——あの言葉の意味は、まさか——!


 思わず叫んでいた。
叫んじゃいけないとは分かっていた。
けれど、止められなかった——
                            やめろ!!

 闇竜の眼だけが、ぎょろりとグレイナルを——否、その上の人影を捕らえた。
 しまった、とマルヴィナは後悔した。グレイナルが歯ぎしりした。
咎めはしなかった。妥当だと、考えたのかもしれない。
           ヒソ
 だが、その眼が困惑に顰められた。闇竜の眼の色が変わったのだ。
その眼の奥に隠されていたのは、困惑、不審、そして——憎悪。グレイナルにはそれが読み取れた、
だがマルヴィナはそれが分からなかった。仮に分かったとしても、何故このような目を向けられているのかは
分からなかっただろう。グレイナルもまた、その理由を知る術はなかった。
どう出るかは、分からなかった。だが——その円盤が向く方向は、変わらなかった。
 眸の色が戻る。バチバチとした音は次第に大きくなってゆく。間違いない。
狙いはマルヴィナではない、里だ。

 ——やめろ!!! 再び、自分は叫んだだろうか。言ったか、あるいは思ったか。
そのタイミングで、闇竜はその円盤を放った。グレイナルの目の前で、彼の故郷を滅ぼさんがために。
 マルヴィナの頭に蘇る、皆の顔、昨日までの出来事。
戦友たち、里の者たち、チェルスやルィシア。危ない、このままじゃ、皆———!!




「マルヴィナ」




 恐ろしいほど冷静に。
 現状に似合わぬほど静かに。
 光の竜は、竜戦士の名を呼んだ。
「——短い間ではあるが、世話になった」
 その言葉の意味するところを、初めは理解できなかった。   ・・・・  ・・・・・・・
「…どうやら、貴様にもいろいろ訳がありそうだ。だから、貴様に任せよう——奴を討つのはな」
 そこまで聞いて、ようやく分かった。その言葉の意味。隠された、真実に——
 マルヴィナは何かを言おうとした、だが、その言葉をグレイナルは聞かなかった。
それより早く、頭を乱暴に上げ、マルヴィナを空中に投げ出した。
「———さらばだ!!」
「————————————————————っぁ」
 せき込むように、マルヴィナは息を吐いた。見開かない目で、グレイナルを見る。
風の音で聞き取り辛くなった耳に飛び込んだ、グレイナルの言葉は。




「——生きよ。
           ウォルロ村の守護天使よ」




 音が消えた。一瞬だけ、思考が止まった。時間が止まったかのようにさえ思えた。
だが、その思いも…すぐに、消える。
 意識が薄れゆく。目を必死にこじ開けるようにして、マルヴィナが見た光景、それは——


 円盤と里の間に入り、
 竜戦士を失った飛べない竜が、
 必死にその翼を広げて立ちはだかり、
 その口を大きく開いて光の炎を生じさせ——





 円盤と炎の交錯した爆発の中で、空に轟く雄叫びを上げた、空の英雄の姿だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.280 )
日時: 2013/03/17 19:49
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 ——里は静寂に包まれた。彼らが見たもの、それは、向かってくる闇の円盤と、飛び塞がるグレイナル、
光の炎、そして——爆発に叫んだ竜。

 その爆発に里の者が顔を覆い、目を閉じ、そろそろとその光景を再び見たとき——そこには何もいなかった。
炎の攻撃を受けたのか、北の空へ危なげに落ちてゆく闇竜。そして、光竜は——そこには、いない。

 爆発の後に、消えた。

 そう——消滅。

 絶句というのは、こういう時に使われるべき言葉なのかもしれない。
言葉が全く出てこない。まだ、理解すらできていない。自分の感情すら、追いついていない。
——けれど。誰かが、真っ先に気付いた。その状況を。その意味を——
「——グレイナル様」
 その呟きが、人々を起こした。凍り付いていた口を割り、その悲しみは波となって広がる。
「…あぁ…グレイナル様!」
「グレイナル様ぁっ!!」
 次々と頽れ、悔しがる人々を前に、ようやくキルガやセリアス、シェナは我に返った。
グレイナルが、消滅した——思い出されるのは、もう一人。仲間の、姿——…。
「…マルヴィナは…?」
 呟いたのは、キルガだった。さっと血の気が引いて行く。かたかたと、歯が鳴った。
「マルヴィナ、はっ……」
 シェナは思わず、後退り、ふらりと倒れかけた。
後ろからケルシュに支えてもらいながら、シェナは絞り出すように言った。
「…死なないでマルヴィナ。戻ってきてよ…これ以上、失わせないで」
「くそっ…!」セリアスが額に汗をにじませる。
「チェルス、追ったんだろう!? どうなんだよ、マルヴィナは、無事なのかよっ…!」
 もう、待っているだけなんて嫌だった。
無事を確認できない焦燥感、いつまで待てば良いのかわからないもどかしさ。
 もう、これ以上、待たせないでくれ——
 と、その空から、蒼い鳥が旋回して頭上まで来た。と、その姿が溶け、人の形になる——チェルス!!
「…っチェルス! マルヴィナはっ…!」
 間髪をいれずに問うキルガをじっと睨むようにして見、チェルスは言い辛そうに言う——
「良いとも、悪いともいえない。——どちらかというと、悪い」
 不吉な言い回しに、彼らは動けなくなる。だが——その言い方からすると、マルヴィナは…?
「…幸いにして、生きてはいる。一歩手前で、グレイナルに投げ飛ばされて、
ついさっきかろうじて地上に落ちた」
 命があることには、安堵を覚えた。だが、それを打ち切るような状況が、更に待っていた——
「だが、相当の痛手を受けている。更に、落ちた先が最悪だ——」





 —————————————落ちて、落ちて。
 …どれくらい、経っただろう?

 竜戦士の防具は役目を終えた魂のように消えてしまった。
なんの防具も着ていない旅装がこんなに寒いと感じたことはあっただろうか。
 全身があまりにも痛すぎて、動けない。チェルスに事前に傷を治してもらっていてよかった。
おそらく、あの傷がまだ残っていたら、今度こそ自分は死んだだろう。
けれど、今のマルヴィナに、そんなことを考えるだけの余裕はなかった——…。


「おやおや。またしても生きていたのですか、“天性の剣姫”」


 ——声がする。覚えている。この声は、そう——ゲルニック!!
 虚ろになった眼を、一瞬にして殺気立たせる。身を起こそうとして、だがそれより早く
戦斧や槍がマルヴィナの首筋にあてがわれた。——紅い鎧の兵士までいたのだ。
「ぐ、ぅっ…!」
「まぁ良いでしょう」
 マルヴィナに背を向けて、片手をひらりとあげる。「狂った計算は、利用すればよいだけ」
 ねじ伏せられながらも、マルヴィナはその眸の色を決して変えはしなかった。
「蒼穹嚆矢をおびき出す餌になってもらいますよ、マルヴィナさん」
 ゲルニックは天を仰いだ。マルヴィナは顔を動かせなかったのでわからなかったが、
そこにいたのは——蒼い鳥。三人の仲間の力を借りた、蒼穹嚆矢の二つ目の姿である。
「…蒼穹嚆矢。見えていますね? 『子孫』の命が惜しくば、ガナン帝国領、カデスの牢獄まで来ることです。
猶予はありませんが——せいぜい『子孫』があの環境に耐えられる日数を考慮するんですね…!」
 マルヴィナは再び薄れゆく意識を、唇を噛んでどうにか堪えていた。
ゲルニックはマルヴィナの未だある意識を嗤い——目を剥いてその杖を振るった。
「ぐっ!!」
 マルヴィナは短く呻くと、そのまま少し唇を切って昏倒した。がしゃん、と戦斧や槍が退けられる。
「さて、兵士! この者をカデスの牢獄へ。
言った通り、“剛力の覇者”にはただの人間と伝えるように」        ル ー ラ
 周りに、魔法文字の円盤が生じた。キメラの翼ではない、それは紛れもなく転移呪文だった。
空羽ばたく蒼の鳥は旋回し里に向かい、生じた円盤と共にマルヴィナは消えた…。



——————————————「闇竜の様子を見に来ていた奴らに捕まった」
 チェルスの話を聞き終えて、真っ先に沈黙を破ったのはキルガだった。
「その…カデスの牢獄とやらに行けばマルヴィナがいるんだな」
 キルガの言わんとしていることが分かった。だが、それより先にチェルスが「駄目だ」制した。
「あんたらは連れていけない。マルヴィナを人質に取られるのが落ちだ」
「だからって」キルガは言った。「このまま指をくわえて待ってはいられない!」
 確かに、実力はない。まだまだ弱くて、何もできない。けれど、仲間を助けたい気持ちは、譲れない。
しばらくチェルスとキルガたち三人が睨み合った。だが、流石のチェルスもその数には勝てない。
諦めたように舌打ちし、頭をがしがしと掻くと、二日待て、と言った。
「二日…?」
「時間がないから理由は省くが、おそらく明日あたりにでももう一回この里が襲われる可能性がある!
今度狙われるのはあんたら三人だ、そいつらを食い止めてからにしな。
兵士も下せないようじゃただの足手まといだ。いいな、二日待てよ!」
 チェルスは背を向けた。何かを考え込んでいた。

(そろそろ、あんたの力を借りるべきかもしれない)
(うーぃ。…確かに、ちょっくらまずいっぽいね)

 脳裏で自分の戦友に語りかけ。
 困惑顔の三人をその場に残し。



 蒼穹嚆矢は、再び空へ飛び立つ——…。
 長い戦いが、始まろうとしていた。








            【 ⅩⅢ 聖者 】  ——完。