二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.28 )
- 日時: 2013/01/15 22:42
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
【 Ⅲ 】 再会
1.
リベルトが昇天し、夜が明け——二日後。
セントシュタインの兵士から、峠の道が開いたとの連絡が来た。
つまり——リッカがセントシュタインへと旅立つ日が来たのである。
「リッカ」
ルイーダと共にならんで宿屋を寂しげに見るリッカに、マルヴィナは、声をかけた。
「うん」
「いろいろ、お世話になった。ありがとう」
「こちらこそ。マルヴィナには、いろいろ助けてもらったし」
リッカは笑う。
「…宿屋。いつか来てよねっ」
「もちろん」
即答した。そして、二人はいつかのように微笑んだ。
リッカを見送った後、マルヴィナもまた、旅立つ準備を整える。
後ろでサンディがぶんぶんぶんぶんと(アタシは蜂か! と言うサンディの言葉は無視して)飛び回った。
「さー! あたしたちも出発しよ! 天の箱舟、場所もち覚えてんでしょーネ?」
「峠の道」
「おっけ。さ〜、レェッツ・ゴーーッ!」
なんで朝からそんなに元気なんだ。
マルヴィナは発つ前に、村人たちに礼を言って回った。
短い間だったけれど。お世話になった人々へ。
——嬉しさを、胸に抱いた。彼らは、暖かく見送ってくれた。
初めのころの嫌悪感など、かけらもない様子で。
ニードにも挨拶をしに行った。なんだよ、もう行くのかよ——とつまらなさそうな顔をされた。
お前がいると何だかんだ退屈しねーからな、ま、行くなら頑張れよと言われた。驚いた。
まさか彼からそんな言葉を聞くとは。
あぁそうだリッカによろしくなとも言われた。マルヴィナは手を振ってこたえてやった。
——そう言えば、リッカの宿屋はニードが継ぐらしい。——大丈夫だろうか?
この道を通るのも慣れた気がする。
マルヴィナはサンディのハイ・テンションについていくのを既に諦めた状態でそこまで歩いた。
「さ! 乗って乗って!」
言われるがままに乗り込んだマルヴィナは、感嘆し声を上げた。
外だけでない。仲間で、金一色だった。だからと言って、妙なゴテゴテ感は一切ない。
その黄金は、むしろ船の優美さを際立たせていた。
「なかなかいいっしょ。…でもアタシ的にはもーちょっと飾りたいのよねーだってまだちょいジミじゃない?
きらきらピンクのラインストーンとかー、とにかくアタシ色に染めたい的な——」
マルヴィナが思い切り冷めた表情になっているのを見て、サンディは黙った。
「な、何ヨ。さっさとやれっての? いーわよやってやるわよマッタク」
「イヤ何も言っていないだろ」
ツッコみつつ、マルヴィナは胸に生じた興奮を隠しきれなかった。
天の箱舟。あの日、砕け散ったはずの舟…それにわたしが乗っている。わたしがここに立っている!
「そーれ、いっくよぉーー…ス・ス・スイッチ・オンヌッ!!」
「……………は?」
問い返したと同時、小気味いい音がした。したのはしたが。
「……………」
「……………」
反応はない。
「…ダメか」
「諦め早っ」
「ぐぅぅ…アタシ的には天使乗せりゃ絶対動くと思ってたのに」
「はぁ」他にどう答えろという。
サンディはしばらく考え込み、ぐるっと振り返る。
「アンタさ、あん時星のオーラ見えなかったよね?」
「…うん」
「それってやばくネ? だいたいさぁ、天使なのに人間に近いってありえないっしょ!」
ぐさりと急所を刺された気分に陥る。
「……………………まあね…」悔しいが、そう答える以外にはない。
「あれ。意外と素直じゃん。超ウケる! ——とか言ってる場合じゃないか。
アタシもトロトロしてると神様に怒られるっぽいし」考え込んで、サンディはぱっと顔を上げた。
ぶんぶかぶんぶか飛び回りながら(アタシは蜂か!! 再び)怒りの言葉を言い始める。
「って、そーよ、神さまよ。何でアタシらがこんな目に遭ってるのに何もしてくれないわけ!?」
マルヴィナは黙ってサンディの謎のダンスを眺めていた。
「…とにかくマルヴィナ、アタシ達もセントシュタインに向うワヨ。きっとそこで星のオーラ見つけて
天使だって証明すれば天の箱舟だって動くって——え、何その思いっきり疑ってる顔」
超ウケる、と付け足して、サンディはマルヴィナの背中を思い切り蹴った。
「んじゃ、人助けの旅に、れっつらごーーーーーん!」
「……痛いよ」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.29 )
- 日時: 2013/01/15 22:53
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
箱舟で飛び立つことを諦め、マルヴィナは新しい土地に向かって歩いた。
峠の道を北へ越え、のち東に向かって歩き続ける。見たことのない魔物が多い。…当たり前だが。
「マルヴィナー」
サンディがひょこっ、と頭巾から顔を出して、言う。どうやらそこを拠点(?)としたらしい。
なに、と問い返すと、サンディは両手を腰に、まるで子供を叱るお姉さんのような姿で言った。
「ここら辺からホント自分の身はしっかり守りなさいヨ?
殺しちゃかわいそーなんて言ってたらアンタがやられちゃうんだし」
「う…分かった」
そういうことをサラリと言わないでほしい。
マルヴィナは『勝負』は好きだった。けれど、『戦闘』は嫌いだった。
命を懸けるもの。勝敗は、どちらかが死ぬことによって決まる。それが嫌だった。
…けれど。魔物相手に、そんなことは言っていられない。
ただ、異種を殺めるために存在する生物だから。
殆どは、話の通じないものだから。
セントシュタインまではそんなにかからなかった。門は開放的で、入国にも大した時間はかからなかった。
町並みは綺麗で、シンプルな明るさがある。だがやはり国、とてつもなく広い。
当然、行き場所に困るマルヴィナであった。
「…広いなぁ…看板とかないのかな」
「あ、マルヴィナ、宿屋ってあれじゃネ?」目ざとくサンディはその建物を見つけた。「行ってみよーよ!」
…もしかしたら、リッカがいるかもしれない。この国に宿屋は一つだけとは限らないが、
とりあえず最初にリッカを捜しがてら観光するかと、マルヴィナはサンディの言葉に従った。
宿屋に入り、扉を閉める。悪くはない宿だ。少々寂れているのが気にはなるが。
「いらっしゃいませ。宿帳はこちらです」
自分なりに第一印象を評価していると、訊き慣れた声が耳に飛び込んでくる。
マルヴィナはその名を呼んだ。
「リッカ」
「あ! マルヴィナ! 来てくれたんだ!」
カウンターに立っていたのは、リッカであった。マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
「…もう、仕事しているのか?」
「うん。——いや、最初はこんな娘、って言われたけどね。任されてますよん」
「さすがだな…」マルヴィナ、苦笑。
「あら、マルヴィナ!」
続いて、登場したのはルイーダ。久しぶりでもない顔に、マルヴィナは一礼した。
「ん。そういえば」何か声をかけようとする前に、かけられた。
「遺跡で助けてもらったお礼、まだしてなかったわね。…貴女、確か一人で旅をしていたのよね?」
「…え。まぁ」
サンディを例外としていいものか悩むが。
「私が一緒に冒険してくれる仲間を見つけてあげましょうか」
目をしばたたかせる。
「…仲間」
マルヴィナは復唱した。仲間——人間の仲間か。
確かにありがたいと言えばありがたい。
けれど、自分に——天使の力についてこられる人間など、そんなにいるだろうか。
かえって足手まといになるのなら、いっそいないほうがいい。
「そ。彼らは、このセントシュタインにいるわ。このバッジをつけているの。
こっちの赤が募集中・募集され中、青が募集され中。…どっちにする?」
——などと言う考えはあくまで考え、ルイーダに伝わるはずもなく勝手に話が進んでいた。
断れぬ雰囲気が漂い、マルヴィナは結局答えてしまった。
「…赤で」
「了解。——目安は四人。貴女を含めてね。あまり多いと、狙われやすいから——それじゃ、良き時間を!」
やっぱりこの人には敵わないかもしれない。
マルヴィナは苦笑した。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.30 )
- 日時: 2013/01/17 21:12
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
はしゃぐサンディの横でやはり、マルヴィナは少々げんなりしていた。
「どーせならさ。イケメンを探そーよ、マルヴィナ!」
「断る」
「ケチ」
“いけめん”の意味が微妙に分からなかったマルヴィナだが、
あまりいい意味じゃなさそうだったのでそう答える。
「僧侶の人いないかなぁ」
「イケメンの?」
「断る」
「ケチ」
傍から見たら独り言を言う怪しい少女である。
「てかさ、マルヴィナ。どこ向かってるわけ?」
「え、いや——別に、特には——」
そう言いながらもマルヴィナの足取りは迷いがなかった。
初めて見る土地である。右も左も分からない。なのに、足が勝手に動いていた。まるで、引き付けられるように。
と。マルヴィナはその時、裏路地に目を留めた。何故そうしたのだろう。後から考えたが、分からない。
けれど、あえて言うなら——やはり、引き付けられたように。まるで知っていたように、そこを見た。
彼らが近くにいると、彼女がそこにいると、分かっているように。
セントシュタイン国は広い。
治安が良いので、一般的に住民は心穏やかな人が多いが、
「彼女、美人だネ。ちょっと来てくんない?」
こんな柄の悪い不埒な男共もいるのである。
五人いる。十代か、二十代ほど。全員、不埒で不潔で不安で不審な感じがした。
声をかけられたのは、銀髪と金色の眸の、少し背の高い美少女である。
だが、あくまでその眸は厳しい、というより無感情だった。
「聞こえてるー? ちょっと来てくんないって」
不埒なことに、馴れ馴れしく美少女の肩を掴んだ男は、
その次の瞬間天と地がひっくり返ったように見えて、——そのままズダンと自分がひっくり返っていた。
——つまり。その美少女が、遥かにでかいその男を打ち倒したわけである。…あるが。
「……なああぁぁぁああっ!?」
一人は叫び、
「て…てめぇっ!?」
一人は態度を一変させる。
マルヴィナがそこへ来たのは、ちょうどその時だった。
「…危ない」ほぼ反射的に路地へ走った。
「えーちょっとマルヴィナ、関わるのよしなって! あーあ」
サンディの声は無視した。走りながら跳躍、そのまま一番近くの男に足蹴りを食らわせようとした、
その時、
別の場所で、一人倒れた。
「…っは! 悪いが、治安維持も戦士の役目なんだ!」
聞き慣れた声が、響いた。
「セリアス、…やりすぎだ」
もう一つ、良く聞いたことのある声が。
「って言いながらキルガこそ、その一撃は荒いんじゃ——」
マルヴィナが足蹴りを食らわせた男がどさりと倒れたとき、その声はスコンと途切れた。
「…………」
マルヴィナはその声の主をじっと見つめ、
「…………」
「…………」
二人のその声の主たちもマルヴィナをじっと見つめ、
…そして、裏路地に驚愕の声が響き渡った。
…というわけで。
「…マルヴィナだ」
「キルガです」
「俺セリアス」
カニも縦に歩くのではないかと思われるほどの奇跡で再会した元天使三人組は、
絡まれていた同い年くらいの美少女に自己紹介をした。
「…助かりました。どうもありがとう。——私はシェナ。旅人です」
シェナと名乗った彼女は、丁寧な口調でお辞儀した。
「何かお礼がしたいけれど…あいにく、何も持ってなくて」
「いやいやいや、大げさな。ただわたしは、反射的に動いただけだし」
「俺は仕事だし」
「…右に同じ」とは、キルガ。
えーとどうしようか…と、未だに起こったことの信じられない三人が迷っていると、
シェナは考え込むような視線を三人に送った。
「…え、と?」
言ったように、シェナは美少女である。そんな彼女にまじまじと見つめられて、
少々居心地が悪くなった、その時だった。
「…えっと…貴方たち、もしかして——」
シェナは、ほとんど確信した声で、言う。
「——天使じゃない?」
——と。
「え」
「はっ?」
「な!?」
三者それぞれの驚愕の声が重なる。
「当たりね」
シェナはくすっと笑った。
「ちょちょちょちょちょっ!? なんで!? 何で分かった!?」
「ちょ、セリアス」
セリアスの質問と、マルヴィナの慌て気味の声に、シェナはあっさりと答えて見せた。
「…私もなのよ」
「はい?」
「私も、色んなわけがあって天使界にいられなかった——元、天使」
二度目の驚愕の叫びが上がった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.31 )
- 日時: 2013/01/17 21:42
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
…再び、というわけで。
「ルイーダさん。バッジ返しに来ましたー」
仲間は決定した。
成り行き旅芸人のマルヴィナ、
何故か聖騎士であるキルガ、
この国で戦士となったセリアス、
そして『元天使』、賢者のシェナである。
「早いわね」
とだけ言われ、ルイーダはバッジを受け取った。
まさかの『元天使』を名乗ったシェナに少々疑惑を抱いた三人ではあったが、
嘘だと言うことも厳しかった。迷いなく見破った自分たちの本性、自らより大きな男を打ち倒したあの能力、
ただの人間には思えなかった。
もともと回復役をもとめて僧侶を探していたのだ。
攻撃、回復共に扱える賢者の彼女が仲間入りしてくれるのなら心強い。
もしよかったら、一緒に旅をしないか。
マルヴィナが差し出した手を、シェナは握り返した。
とりあえずこれからの方針を決めようと、早速リッカの宿屋に泊まることにした。
カウンターの横、酒場の人通りの少ない席に四人は座る。ルイーダが冗談めかして、乾杯する? と聞いた。
「さて…まずはどうしようか」マルヴィナ、
「ん。俺ネタ持ってるけど」セリアス、
「ネタ?」シェナ、
「黒騎士か」キルガ。
マルヴィナとシェナがきょとん、としたので、事情を知る男二人は説明から始めた。
世界を揺るがせた大地震。その後、このセントシュタインの国に全身を黒に染めた騎士が現れた。
彼の狙いは国民には知らされていない。だが、国にとって脅威の存在であるという。
国の兵士は、その騎士に戦いを挑んでは、ことごとく返り討ちにあったらしい。
「俺、前直接会ったんだけど。馬に乗っててさ。足払いかけたら逃げてったけど」
「臆病なんだな」
「馬がな」
セリアスは氷をがりがりと噛む。
「んで、何か知らんが見込まれて、…んで、何か知らんがこの国で戦士の『職』をもらった」
「そうなんだ。…キルガは?」
「僕は別の場所で聖騎士になったんだ。だから断った」
「聖騎士?」
「あぁ。簡単に言えば——守備担当、と言ったところか」
「へぇ…」マルヴィナが答えたとき。
「……って、チョットさっきから全員無視しすぎなんですケド! アタシを忘れないでよねっ」
…いきなりサンディ登場。正直サンディの言うように忘れていた。
「あ、サンディ」
「お? 誰だよこの妖精?」
「だからサンディだって」
「可愛い」
「え、カワイイっすか? いやー、ありがとー。マルヴィナて石アタマで何も——おっと」
マルヴィナが頭をはたこうとして、見事にかわされていた。
「へー、みんな元天使なんだー。ドンだけいんのよ、羽なし天使。どーりであたしの姿が見えるわけだ」
腕を組みつつ、サンディはニヤリと笑う。
「んじゃ、みんな天の箱舟ちゃん使って天使界戻りたいってコトですよネ」
「え?」セリアスが素っ頓狂な声を上げた。「何で天の箱舟の事知ってんだよ」
「アタシ、運転手だし」
「…………」
マジかよ、と言う声が聞こえたような聞こえなかったような。
「んでさっ。アンタ達、コレ見える? 見えるコレ?」
サンディはマルヴィナの背の頭巾に潜ると、しばらくしてひょこりと出てくる。何かをつまむような仕草で。
「じゃーん! アタシは何を持ってるでしょー?」
若干胸をそらして右手を頭上に掲げるサンディを前にした三人の反応は、
「は?」セリアス、
「腕のブレスレット…なわけないか」キルガ、
「?」シェナ。尤も喋っていないので、数えるべきか悩みどころではあるが。
で、静寂。マルヴィナ苦笑。ていうかそんなところに入れていたのか。
「…見っ事に誰も見えてないんですケド…星のオーラよ、星のオーラ! あんたらがチョー大事にしてたものヨッ」
変わらぬ沈黙。変わらずマルヴィナ苦笑。
「…見えてないってことか?」
「…みたいだな」
「……」
三者それぞれの反応を見たサンディは、遂に深々溜め息をつく。
「…誰乗せても天使界行けないか。しゃーないマルヴィナ、黒騎士って奴。あれ、退治しに行くわヨ」
「はぁ!?」
マルヴィナは飲みかけの酒から口を離して叫んだ。喉に溜まっていた残りが引っ込み、ゲホゲホ咳き込む。
「言ったっしょ、星のオーラ集めりゃ絶対天使って認めてくれるって!
この国の人が黒騎士に困ってるなら助けるべきなんですケド。——だいじょぶ? マルヴィナ」
「生きてるから大丈夫でしょ」
「ひどいぞシェナぁっ!」
「ほら、元気になった」
返す言葉がない。
「…でもま、いいんじゃないか?」笑いながら、セリアスは言う。「俺ら四人の、初の戦い、ってな感じで」
単純だなオイ、と胸中でマルヴィナ。
「よし、んじゃ早速、明日城ん中行こうぜ」
「勝手に話を進めるな」
そう言いながらも、賛成する三人であった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.32 )
- 日時: 2013/01/17 21:45
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
ペリドット
翌朝、橄欖石の刻—八時—頃になる。
「うあー、眠っ。なんか久々に寝た気が…」
「羨ましいことで。…わたしは全然寝られなかったぞ。——いや宿のせいじゃなく」
「…実は僕も寝られていない」
「何、二人とも寝付けない人?」
「んー…以前は良く寝られていたんだけれど…」
「僕は元から。…セリアス、立ったまま寝るな」
会話しながら四人は椅子に腰を下ろす。リッカが紅茶を出してくれた。
「よし。黒騎士戦に備えて食うぞ」
「戦うの?」
シェナがツッコミを入れた。
四人はその後、城門へ足を進める。
「アリーシュ、通してくれ」
セリアスがそこにいる若い兵士に声をかけた。
「ん? セリアス、お前、サボり?」
「違げーよ、今は戦士じゃなくて旅人。…ほら、戦士にはなるけど、あくまで旅人のままで——って言ったろ?」
「はいはい、おめでたい奴」
「なんか違わないか?」
と言う会話の中で、あっさり入城許可は下りた。
「広いな」マルヴィナが目を丸くし、
「城だからねぇ」シェナがほのぼのと言い、
「…分かっているって」マルヴィナ脱力。
セリアスの案内で、王座の間の手前までたどり着く。意外に短かった。
しかじかの王宮作法の後、そのまま四人は王座の前まで行くことになる。
「…客人か? すまぬが、今は——」
発しかけた言葉を、その目にセリアスを写すことで止めたのがセントシュタイン国王である。
そして隣にいるのが、セントシュタイン姫君。
名を、フィオーネといった。
「王様。決めました。黒騎士退治に、向かいます」
気取った風でもなく、ごく平凡な言葉でセリアスが声をかけた。
セリアスが一国の主と話しているー! とか思ったマルヴィナはそのまま唖然とした。
うむ、と満足げに頷いた国王は、次いでマルヴィナとシェナに目を留める。キルガはともかく、
昨日会ったばかりの二人を王が知るはずも無かった。
「…とりあえず、私たちにも話して欲しいんですけど…事の経緯を」
シェナが首をすくめ、意見する。尤もな話だった。
王はおそらくセリアスやキルガにしたものと同じ説明を始める。
「黒騎士というものが、このセントシュタインを狙っていることは知っておるな?
あれの目的は、我が一人娘フィオーネ。そしてかの黒騎士は、今宵、フィオーネをここより北、
シュタイン湖に向かわせよと言うておる! だが、それを私は罠だと思っているのだ」
「お父様!」
フィオーネの声を無視して、国王は続ける。
「普通、その場合は城の兵士を向かわせるのが妥当と言うもの。
だが、そんなことをすれば、この城の守りは薄くなる! おそらく黒騎士はそれを狙い、
城に攻め込むつもりじゃろう。故に、そなたらのような自由に動ける人材が欲しかったのじゃ」
「そんな、お父様! 見ず知らずの旅のお方を巻き込んではなりませぬ!」
「黙っていなさい、断じてあやつの好きにはさせん」
フィオーネの意見は全て聞き入れないようだ。うわぁ頑固そうだなぁこの人、とマルヴィナはそっと思った。
「…あんまりですわ…わたくしの気持ちを知りもせずに」フィオーネはフイと顔を背ける。
(ふうん…なるほど。——なんか、隠しているんだな)
マルヴィナは表情にも声にも出さず、そっと思った。
「とにかく。そなたらにはこれからシュタイン湖に赴き、黒騎士を退治してもらいたい。
うまくいけば、褒美を取らせよう」
国王は、玉座に座りなおした。
「黒騎士って言うのは強いのか?」
城を出たのち、マルヴィナは唯一黒騎士と接触しているセリアスに問うた。が、セリアスは、
「んー…俺も、実際に戦ったわけじゃないしなぁ…あの時もどっちかっつーと、
追い払ったのは黒騎士じゃなくて馬だし」
「でも、この国の兵士はことごとく返り討ちに遭った、って言ってたじゃない」
「…あぁ、まぁな。——でも」
セリアスは少々言い辛そうに振り返った。
「あぁ、まぁ——」キルガも苦笑しながら、頭の後ろをおさえた。
「平和ボケしていそうだよな。ここの兵士って」
あまりにも言い辛くて濁していた言葉をマルヴィナがあっさりと言ってしまい、二人は少々慌てた。
「同感ー」
シェナの言葉にも慌てたが。