二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.316 )
- 日時: 2013/04/03 21:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
5.
レンジャー
「——ふぅ。やっぱ然闘士の方が安心するかな」
『職』が戻り、武具を纏いながら、マルヴィナはあの変態魔法戦士が聞いたら
即刻突っ伏して嘆きそうな言葉をさらりと言った。
「…奴は、頭は悪いけれど、力は半端なモノじゃないわ。…気を付けて」
「分かった」
頷く。集中する。
何でそんなことを知っているんだ? …そう、マルヴィナから聞かれるだろうと想像していたシェナは、
何の答えも返ってこないことをもう一度、妙に思った。もしかして、彼女は知っているのか?
自分の——シェナの、本性を。
「なーチェス。あのクレスってやつ、人間だよね」
マイレナが傷ついた人々に一人ずつ癒しの呪文を唱えながら言った。
「あぁ。…間違いないな。帝国、まだあの実験続けてんだ」
「人体実験——」呟く。「人間を魔物に変えるってやつだよね? …あーやだやだ。そんなに魔物が好きか」
「…そういう問題じゃないような」
チェルスが呆れて呟いたとき、彼女たちがここに残った最大の理由になる者たちが、ようやく来た。
『チェス、マイ! やっとわかったぞ!』
『…良いとも悪いとも言える情報よ。心して聞いて』
マラミアと、アイリスである。おっしゃようやく来たかと、チェルスは手をひらひらさせた。
「ちょ、ウチになんかかける言葉とかないの?」
マイレナは、復活後初めて会う二人に身を乗り出して尋ねるが、
『アンタは復活しようがしまいが同じだろ』
ちょいとそれどういう意味っすかすごくすごーく馬鹿にされた気がするんスけど
どーゆー意味ですかーーというマイレナの早口抗議は対応するのが面倒なので無視。
癒しを施されていた者たちが、いきなり互い以外のものに話しかけているような二人を怪訝そうに見たが、
解説するわけにもいかずまたその気もない二人は無視した。
「で? いいとも悪いともいえないってのは?」チェルスが促し、アイリスが彼女にしては珍しく言いよどんだ。
それを見て、相当妙な話らしいと判断したチェルスは、幾分か姿勢を正した。
膨れるマイレナと、頬をかくマラミアの前で。アイリスは、言った。
『帝国の周りに張られた、結界についてよ』
ばん、と。
扉を開け、四人は突入した。
早くも剣に手をかけ集中するマルヴィナ、警戒心を研ぎ澄まし続けるキルガ、
何が来ても戦闘に入れる体勢のセリアス、祈るように拳を胸に当てるシェナ。
「ネズミどもが」
複数の兵士と共に、“強力の覇者”はいた。何ともご挨拶である。
「ネズミじゃない。わたしらは、——天使だ」
堂々と、悠然と。松明に刃を白く煌かせたまま、マルヴィナは早々にとどめの一言を言い放った。
「天使…だとぉ!?」
いきなり目つきが変わった。この男が探し求めていた存在。この反応は当然だった。
「そして、わたしの名はマルヴィナ。“天性の剣姫”マルヴィナだ!」
堂々と、悠然と。叫んだその名を聞いた兵士たちがたじろいだ。
この娘が…! あの、脅威の…? じゃあまさか、その周りの者は。どよめきの起こる中、
セリアスの背に隠れ気味だったシェナがゆっくりと、恐れるような足取りで進み出た。
ゴレオンの忌々しげな表情が、更なる驚愕に変化した。
咄嗟に二の句の告げられぬ将軍の前で、シェナは口を開く。
「…久しぶりね。“強力の覇者”戦士ゴレオン」
「なっ…んだ、とっ…!? さ、さ…さっ……」
驚いて、キルガとセリアスがシェナを見た。マルヴィナも、視線を転じる。
「…ずっと隠していてごめんなさい。でも、これで本当に全部よ」
シェナは心なしか震える声で、言った。
「私は三百年前、里の民の無事を条件に帝国に手を貸した者。三将軍の司令塔——
“才気煥発”シェラスティーナ・ヴィナウ」
冷たい空気が、あたりを支配した。
「条件などいまさら言ったって、言い訳としか捉えられないことは分かっている。
だから、これはあくまで独り言で、ただの弁解——私は帝国が嫌い。強く憎んでいる。だから、歯向かう」
強がるように彼女は言った。けれど、隠せない。腕が、足が、ひどく震えている。
あぁ、言ってしまった。…どうして今、こんなことを言ったの?
言うのは、戦いが終わった後でもよかったじゃないか。どうして、戦う前に、こんなことを——…。
「…ごめん。みんな——」
呟いたとき、肩を叩かれた。びくりとして、勢いよく振り返る。マルヴィナだった。
「…関係ない話だよ。過ぎたものなんて」
まったくの予想外の言葉に、シェナは目を見開いた。
それは、認めた言葉。キルガと、セリアスと同じ答え。
しかも彼女は、悩むこともなく、さらりとそう言った。
彼らは過去で判断しない。自分たちが共にあった時間を信じて。
——本当に、今更だった。
彼らは仲間だ。何もかもを認めたうえで——自分を、『シェナ』として見てくれる。
自分は今まで、そんなことに気付かなかった。
「今は戦う。それだけ——だろ? ・・・・・ ・・・
“聖邪の司者”、シェナ」
マルヴィナに続いて、セリアスが声をかける。
「そうそう。今やることだけに、集中すればいい」
キルガもまた。
「いつもの通り——任せていいな? シェナ」
励ましじゃない。確認じゃない。これは、『言葉』。
当たり前の、ごく普通の会話と同じ重みの、文章。傍から見れば、綺麗事だと思われるかもしれない。
けれど、そう思われても構わない。
シェナはゆっくりと、視線を前に戻した。そして、三人の『言葉』の、答えを出す——
頷いた。しっかりと、はっきりと。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.317 )
- 日時: 2013/04/03 22:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
「なかなかの戯言だった」
いきなりゴレオンのだみ声が邪魔をした。
…こちらから来たのだから文句は言えないのだが、ともかく四人は再び構えなおした。兵士が動く。
だが、ゴレオンがひと睨みすると、慌てたように引き下がった。
「第一貴様ら、どうやって結界を解いた? まさか、裏切り者でもおったのか」
マルヴィナは少々考え——クレスの存在を隠すべきかと思ったが、そういえば彼はあとから来る。
隠しても無駄だと考え直し、答えた。
「解いたのはわたしじゃないが、解こうとしたのはわたしだ。…見てみな」
言うなりマルヴィナは、再びガナンの紋章を取り出した。
「助かったよ。これを奪われなかったのは幸い」
「貴様いつそれを!?」 ・・
遮られた。最後まで人の話聞けよと呆れかけたマルヴィナは、ふと疑問の言葉をなぞる。いつ?
何故、ではない、いつ、と聞かれた——その意味は——…。
「それは俺のものではないか!」
「…え? 何これ、あんたのだったの!?」
「えーとマルヴィナ? 自分で出しておきながら問い返すって…」
「イヤこれ貰い物」
「貰った、だと…?」再び、ゴレオン。が、考えることは早々に諦めたらしい。
まぁよい、下らん反乱を捻り潰してから調べてやると言い、兵士に攻撃を命じる。
がちゃり、と鎧や金属音を響かせながら。ある者は緊張しながら、ある者は恐々と。ある者は挑発的に笑い。
間合いを詰め、一気に飛びかかってきた無謀者を見て、マルヴィナは音も立てず剣を引き抜き、
そのまま斬って伏せた。——たった、一撃。
「…悪いが」
その現実に、部屋の中心に鎮座する者と、扉の前に立つもの四人以外の全てが、驚愕に表情を変化させる。
「…あんたらを相手にするために来たんじゃない」
この牢の支配者が大将なら、それを相手にする彼女は即ち、まるで王者の風格。
実力と共に備わった威厳で周りを怯ませる、絶対的な存在だ。
誰もが、彼女の称号の意味を改めて理解したような気がした——
「う———っス!! じゃぁぁぁますんぜぇぇぇぇぇっ!!」
が、それとほぼ同時に、ようやくアギロが突入してきた。
一体何やっていたんだろう、と思ったが今は関係のない話だと、早々に考えるのを打ち切った。
突然現れた囚人のまとめ役の大男に兵士は少なからず驚く。
加えて、その後ろからやってきた赤鎧のクレスからの不意打ち。さらに面食らう。
「き、貴様っ」叫んだ声には聞き覚えがある。昨日クレスに刃を向けていた者だ。
クレスは表情を変えず一瞥、別の兵士の攻撃をかわし、アギロがその兵士の腹に一撃を入れる。
「貴様が裏切り者か」
先程の一件もあり、少々固まっていたままだったゴレオンがゆっくりと立ち上がる。
じゃら、と危険な音をたてて、鉄球を持ち上げて。 ・・・・・・・・・
「——成程。確かに貴様は称号に値する風格の持ち主だ——だが、それだけで何になる!?
揃いも揃って舐めたもんだ——そんなに望むなら、この俺様の力、思い知るが良い! ——はァァッ!!」
自信ありげに叫んだかと思いきや、いきなりその鉄球を振り回してきた。
「っ!」
鉄球は四人だけでなく、近くにいた兵士たちにも襲い掛かった。
集中していた四人でさえ辛うじてかわしたのだから、別の場所に気をとられていた兵士が
咄嗟に避けられるはずもない。その兜を吹っ飛ばし、数人は昏倒した。
「なっ」マルヴィナははっとそちらを見た。幸い、皆気絶しただけであったが、
一歩間違えればそのまま死んでしまっていたかもしれない。
「味方もろとも攻撃するなんて…っ」
マルヴィナがゴレオンを睨み、半歩下がった。
「「スクルト!」」キルガとシェナがほぼ同時に守備の呪文を唱える。と、ゴレオンが頭上で鉄球を振り回した。
「どんだけ力あんだよっ」セリアスが驚愕の声を上げたとき、
回っていた鉄球が自分たちに襲い掛かってくる。速い。マルヴィナはシェナを庇うようにかわした。
セリアスが大きく二歩分下がってかわすと、足が地面に着く間もなしにタッと前へ飛び込んだ。
振り回しきった、その一瞬の隙を狙って——
「!?」
無かった。
その隙は、無かった。
「うらァっ」
振り回しきった後、休む間もなく、逆方向に再び振り回す。隙を突いたつもりが、
逆に突かれてしまったセリアスは、避ける体勢をつくろうとしたところで重い一撃を喰らった。
「ぐ、がっ!!」
「セリアス!」
兜が割れ、破片を散らばらせる。吹っ飛ばされたセリアスは三人の目の前に倒れ込んだ。
咄嗟に避けようとしただけでも幸いだったかもしれない。まともに喰らっていたら、
それこそ首の骨が折れるなどの重傷だったかもしれない。 ベホイム
そんなことを頭の端で考えながらマルヴィナは、呻くセリアスに再生呪文を送るべく集中した——
「危ないッ!!」
「——え」
その後、マルヴィナは叫んだ——気がする。
気付いた時に見えたのは、すぐ目の前まで迫った鉄球の陰。
——と、咄嗟に飛び込んだ、キルガの背だった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.318 )
- 日時: 2013/04/03 22:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
骨が折れるような、いやな音がした。
呆然と目を見開いたまま、マルヴィナは横へ飛ばされ、壁に背を打ち付けるキルガを見ていた。
「——っキルガ!!」
マルヴィナが叫び、シェナが顔をはっきりとしかめた。
…今の攻撃の受け方は、まずかったかもしれない。間違いなく鎧は今の一撃で使い物にならなくなった。
それほどまでに強い、強すぎる攻撃を、もろに喰らった——…。
「マルヴィナ、任せて。…奴の攻撃を引き付けてちょうだい」
「……」実質的に、自分のせいでキルガに傷を負わせてしまった。
そう思ってしまっているマルヴィナは、すぐに返事をすることができなかった。
シェナはその心情を想像したが、かける言葉を見つけ出すほどの余裕はない。だから敢えて、一括した。
「マルヴィナ!」
「え、あ…わ、分かった」
マルヴィナは慌てて頷くと、シェナから離れて聞き取れぬ叫び声をあげ、ゴレオンの注意を引き付けた。
…いつもそうだ。いつも、守ってもらっている。
例えそれが役割だとしても、キルガだって超人じゃない。何でも無事に受け止められるわけじゃない。
…知っていた。自分は、身を守ることは、うまくできないのだ。
防御は大抵、剣で攻撃を受け流していたから。もちろん素人の攻撃をかわすことくらいならできる、
けれど相手は将軍。素人じゃない。…攻撃が、かわせない。だから、いつもわたしは。
(…ごめん)
マルヴィナはいつの間にかその剣を強く握りしめて、思った。
(ごめん、キルガ。みんな——)
その一方で、シェナは拳を握り、集中する。
(川を、風を、波を起こせ。癒しを光と変えて、降り注げ。)「ベホマラー」
セリアスの頬の傷が塞がった。ひとつ呻くと、頭を振って兜の破片を落とし、はっと顔を上げた。
「…っぶねぇ。意識飛びかけてた——さんきゅ、シェ——」
ナ、と、小さく呟いた。そうせざるを得なかった。シェナと共に視界に入った、キルガを見て。
彼は動かなかった。傷が癒えていなかった。その、意味するところは——
「——回復魔法じゃ、間に合わない」
シェナが、ゆっくりと呟いた。少し声が、震えていた。
「魂が——消えかけている」
意味するところ——死の、間際。
「…な…き、キルガ! キルガっ!!」マルヴィナが叫ぶ。自分の今の役割を、半ば忘れて。
「おい、キルガっ—————…ッ!!」セリアスは顔をしかめて、飛んできた鉄球を躱した。
悪態をつく。回復魔法じゃ間に合わない。じゃあ、どうすればいいんだよ。
…こんな時、何もできない自分が恨めしい。
「…方法はあるわ。ただし…非情に高度。——マルヴィナ」
シェナは冷静さを欠いた彼女に、静かに言った。
「…覚えているわね? こんな時、使う魔法」 ザ オ ラ ル
マルヴィナはふっと、シェナを見た。少し視線を落とし——「蘇生呪文」呟いた。
「その通りよ。——手伝って」
ザ オ ラ ル
蘇生呪文——消えかけた魂を呼び戻す魔法。
完全に身体から魂が消える前に行わねばならぬうえ、非情に高度な魔法であり、
更に失敗することがある。 レンジャー
だからこそ、賢者であるシェナと、然闘士であるマルヴィナ、二人係で唱えるのだ。
シェナですら扱うのが厳しい呪文を、自分に扱えるのか。けれど、迷っている時間はなかった。
…でも、また、攻撃が飛んできたら。次は——
——次は、誰を犠牲にしてしまうの?
「————————ぉぉぉおおおお!!?」
誰かの叫び。次いで別の絶叫。はっとして、三人はそちらを見た。
すぐに分かる。ゴレオンの上に重なって倒れてもがいている兵士。アギロが兵士を投げ飛ばしたのだ。
クレスが走る。鉄球を奪い取ろうと力を込める。「今のうちに!」叫ぶ。
顔を上げた。彼らがくれた時間と心の余裕、そして傷ついた仲間を、無視することはできない。
マルヴィナはようやく頷くことができた。シェナと共にひざまずく、両手を組んで祈りをささげる。
——仲間のために、そして、自分のために。これで失態を償えるとは思っていない、でも。それでも。
マルヴィナは祈る。
——信じてくれた、認めてくれた。信じるけれど、信じられないくらいの偶然の中、出会えた仲間のために。
シェナは祈る。
——こんな時できるのは、限られている。けれど、その限られた何かを、自分にしかできないそれを、する。
セリアスは走る。
キルガを小さな金色の粒子が覆う。淡く光るそれが包み込み、煌めく。
多くは願わないから。
ただ今だけは、この祈りを、聞き届けてほしかった。
「—————…?」
長い呪文の旋律が完成して。
その中で、キルガは茫然としたまま目を開け——はっと顔を上げて痛みに顔をしかめた。
「キルガっ!」今度はその喜びに、彼の名を呼ぶ。 ベ ホ イ ム
「あ、ちょっと——」シェナが抑え、今度は先ほどより集中せずに再生呪文を唱えた。
しっかり回復した未だ困惑顔のキルガを見て安心したように立ち上がり、
マルヴィナに視線を転じて「さ、これで大丈夫。あとは抱きつくなりなんなりしなさい」と
懐かしいにやにや笑いをして見せる。
「——えッ!!? い、いや、そそそそんなことはし、しないってもう!」
「——ん?」想像した反応と全く違い、しかも語尾の“もう”の言葉にシェナは首を傾げた。
「え、何、今の——」
「おい、今戦闘中ってこと忘れてないか?」どんどん話が脱線していく二人に—“こんな時”という状況で
のんびりしてしまうことにどこか懐かしさを感じながらも—、セリアスはとりあえず歯止めをきかせた。
「おっとごめん」シェナは笑い、マルヴィナの様子をもう一度見て——
「ほら、さっさと立って」やはりまだ何が起きたのかわかっていない様子のキルガを立たせて集中しなおした。
叶ったとびきりの奇跡を、心の底から嬉しく思いながら。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.319 )
- 日時: 2013/04/03 22:36
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
「……」
マラミアとアイリスの報告を受けてから、チェルスは考え込んでしまった。
普段から考え事をするのを嫌う相棒がここまで静かになると、
マイレナとしてはこれ以上ないほどの居心地の悪さを覚えてしまう。
(…まぁ)
先程のマラミアたちとの会話は、先に述べたように“不人間”の見えない人間たちからは
かなり妙な顔をされたが、別にどう思われても関係ないしと割り切ってマイレナは全員の回復を終えた。
(…何考えてるかってのは、分かるんだけどね)
マイレナは、相棒の性格から、その考え事を見事に予想していた。伊達に戦友やっていない。
(…手伝ってやってもいーけど。結構、骨が折れそうだなー)
「ちょ!?」
のんびりと伸びをした時に視界に入った。入口に、全く別ものの赤鎧が三人、姿を現している。
「援護軍ーー!? ちょーめんどくさっ!!」
どこぞやの自称“謎の乙女”めいた発言をし、マイレナは立ち上がって服の埃を払った。
(…ん? ——人間がいるな)
マイレナは顔をしかめた。チェルスに視線を転じると、彼女の姿はもうそこにはなく、
既に如何にも面倒くさそうに混乱呪文の詠唱を始めていた。
「ちょこざいなっ!!」
「任せろぉ!」アギロも叫び、「——離れろっ!!」渾身の力を振り絞って鉄球を部屋の片隅に投げ飛ばした。
「貴様らっ、ネズミのくせに、生意気なっ」ようやく見せた焦燥に、マルヴィナは鋭く反応した。
——今だ。動揺した、今が好機。
「えぇい、邪魔だっ」遂に上に乗っかった兵士を振り払い、ゴレオンが立ち上がる。
無理矢理、その兵士の剣を奪い取り、明らかに馴染んでいない様子で振り回す。
「——シェナ、下がれ!!」マルヴィナは反射的に叫んだ。マルヴィナは走った。
滅茶苦茶に振り回された剣の軌道を読み取る。冷静にマルヴィナは、捨て身の攻撃に入った。
お世辞で、ゴレオンの連続攻撃をかいくぐり、マルヴィナは剣を持つその手を一閃した。
離れて、宙を舞う剣、高く後転してマルヴィナは叫ぶ——「今っ!!」
二人、同時に反応した。キルガと、セリアス。
左右から二人が、あれだけの痛手を負わされてもなお臆することなく向かった。
ゴレオンが目を見張る、咄嗟に何かを叫んだ、けれど——もう、遅い。 ・・・・・・
シェナが叫んだ。二人が飛びのいたのちに、爆発が生じた。それはとどめであり、自分自身への区切り。
自分はもう、味方じゃない。帝国の、裏切り者。
自分の仲間と共に戦う者だという、証明。
「 」
ゴレオンは、人でありながら、人でないような叫びをあげた。
その目を剥いて、喉の奥から、抉り出すような声で。
「こ…この俺が…こ…こんな、ガキ、共に…っ!?」
「その油断が命取りだ」マルヴィナはその剣を突き付けて、言った。
「お…俺は…し、死ぬ、の、か…? い、いや! 俺は、どこかで——」
死を目前にして、蘇る。何故か封じられていた記憶、つい最近——否。それは、三百年前。
思い出す。まるで映像のように流れ込む記憶。
死の間際に見る、幻覚のような。
「お、俺は…ぐ…グレイナルの炎に、焼かれて、死んだ…?」
ゴレオンの声が消えてゆく。
「だ、だとしたら、お…俺、は———…!?」
最後まで言えなかった。その足元から生じる渦。
間もなくゴレオンを覆い、そして——もろとも、消えた。
静かになった部屋で。
今もなお立っている者は、六人だった。
「っ……」
マルヴィナは、どくん、と脈打った心臓をおさえる。
…まただ。決して、通常では起こりえない脈打ち。
けれど、彼女はまだ知らなかった。それが何を意味するのか。
知るわけにはいかなかった。自分の存在の儚さを。抑えたついでに、マルヴィナは瞳を閉じ黙祷した。
帝国の者と言えど人間。本来守るべき種族を殺めてしまったこと。
こんなことで足りはしないけれど、せめてもの償いに。
マルヴィナはそっと顔を上げ——強い眸で、前を見た——
と、いきなり頭をがっしりと掴まれる。そしてその状況を理解する前に、ぐりぐりぐりぐりと、
「ふなぁはかわがぁなぁぁぁぁっ!!?」
「まっマルヴィナっ!?」
「おっしゃあああ! よくやった! 特にお前さんよくあの状況で指示が出せたぁ!」——アギロだった。
「ふぁえあうがぅなぅぅっ。たた、たすたすてけてけ」
「あの、アギロさん止めた止めた! マルヴィナあまりのことに混乱して言葉がおかしくなってるだろ!?」
「何だセリアス、お前さんも希望者か?」
「いいいいいえ断じて断るどうぞ続けてください!」
「こっこの、裏切りもものののぉぉ!」マルヴィナが叫んだと同時、「おっとそうだ」とアギロはいきなり解放。
ぐっしゃぐしゃの頭でくるくるふらーりと倒れかけるマルヴィナを、
あーあー可哀想にと、言葉に反する表情で今度はシェナが支えてやったのだった。
「お前さんも、お疲れさん」
アギロが視線を転じたのはクレスだった。一応あれでも喜んでいるのであろう無表情顔が、アギロに向く。
「そしてこれで、お互い自由だ。これからの人生、お前さんなりにしっかり生きて行けや」
「うはー、さっきまで敵扱いしていた人が——何でもナイデス」
茶化そうとしたセリアスは、ぐりぐりを恐れてそこで引き下がった。
シェナにぱぱっと髪の毛を整えてもらったマルヴィナが歩み寄る。
そのまま、クレスに向けて手を差し出した。表情が変化した。驚愕だった。
「——ありがとな」
更なる驚愕を覚える。ありがとな。——礼なんて、言われたことがなかった気がする。
見れば、この場にいる者全員が、穏やかな笑みを浮かべていた。無表情なのは、自分だけなのだ。
単純揃いだな。そう思いながら、手を差し出す——結局自分も久しぶりに笑っているのを感じて、
自分も負けずに単純なのだろうな、そんな考えを隠しながら。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.320 )
- 日時: 2013/04/03 22:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
「——さて。んじゃ、最後の仕事だ」
クレスに上の様子を見に行かせてからアギロが言った。
彼に続こうと踵を返しかけていたセリアスとシェナが止まり、大男を見る。
「…仕事?」
「あぁ。…そっちの宝箱、調べてくんねぇか。鍵か、ホイッスルが入っているはずなんだが」
「…ほいっする?」
訊き慣れぬ言葉にシェナを除いた三人がそれぞれ疑問の意を表す。
「え…知らないの? ——んと…笛、って言えばいいのかしら?」
「あぁ、笛」マルヴィナが頷いて宝箱を開ける。中に入っていたのは勾玉のような形をした金色の小物だった。
「んー…こっちには笛も鍵も、ないけれど」
「ん? ねえのか? ——鍵はあったんだが」アギロが手に同じく黄金の複雑な形の鍵を持って言った。
どれどれ、とシェナがのぞく。「あるじゃない」そう言って、その小物を取り出した。「これでしょ?」
「おう、それだそれ」
「笛じゃないじゃないか」マルヴィナは言った。「こんな小さなもので、音が鳴るのか?」
天使たちにとって笛というものは、小さな穴の並んだ細長い形状のものである。
これ、どうやって音を鳴らすんだろうか、と興味津々に触ろうとしたところでアギロに取り上げられる。
「鳴る」アギロが頷いた。「まぁ、今は鳴らせねぇ。またあとで証明してやるよ。——さて、着いてきな」
「一体、どこへ——?」
キルガの尤もな質問に、アギロは受け取ったホイッスルを首にかけながら答えた。
「この地下にいる、“特別な囚人”たちの元へさ」
アギロに連れられ、暗い闇でしかない地下に着いた四人は、そのまま絶句した。
その空間に、ぼうっと青白く光る“何か”により、はめられた鉄格子がほの白く光る。
「な、なんか…不気味ね」
「こんなところに、一体誰が」恐る恐る覗いてみたセリアスが、あっと声を上げた。
反響して、セリアスは思わず背筋を震わせる。
「どうした?」キルガが訊ねながらも、自分から覗く。
そして、声こそあげなかったものの、驚愕した。そこにいたのは、光っていたのは。
「天使…!」
紛れもない。天使が、封じ込められた繭状の物体だった。
「お前さん、あのぐるぐるの仕事、嫌がってたろう」
アギロがマルヴィナに言った。あのタービンのようなものである。あぁ、とマルヴィナは頷いた。
「大した直感だ。——あれはもしかしたら、彼らの力を吸い取るものだったのかもしれねぇ」
「なっ…」短く叫んで、マルヴィナはすぐさまアギロを見上げた。ちょっと待て。何故——
「——おっと、言いたいことは分かってる。だがとりあえず、先に彼らを解放してやんな」
「…む。わ、分かった」
「手伝おう」
仲間たちが続く。マルヴィナが鍵を開け、仲間たちはその中の結界を解き、天使を繭から解放する。
まるで塊だったようにピシ、と音を立て、消え去った。
中から天使が、ぐったりした状態で現れる——真っ先に声を上げたのは、セリアスだった。
「テリガン様!」
間違えようもなかった。やつれてはいたけれど、彼は確かに、セリアスの師匠だった。
「なっ…じゃあ、まさか——」キルガも、少々声を高くして顔を上げた。
彼の期待通り、キルガの師・ローシャもいた。次々と、見覚えのある天使たちを解放してゆく。
「…やっぱり。天使狩りって、こういう事だったんだ——」
「…よし。運び出すぞ。まずは上と合流だ」
四人はそれぞれ了解の声をあげた。
それで、何であなたは——…。
聞こうとした声は、天使たちを背負ったためにつぶれてしまった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.321 )
- 日時: 2013/04/03 22:54
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
「この“賢人猊下”サマを唸らせるとはキミちょっとやるね?」
「何言ってんだお前は」
マイレナは、援護に現れた兵士の最後の一人——人間だ、と判断したそいつと戦っていた。
チェルスは手を出さなかった。互いに槍同士の戦い。槍と槍の戦いは下手に剣で手を出さないほうがいい。
自分の経験、と言うよりとある過去から、チェルスはそう考えている。
人間兵は答えない。正式な槍の構えである分、どのような動きが来るのか読み取りやすかった。
だがだからと言って容易に勝てるわけでもない。
「…」マイレナは軽口をたたいてはいるが、遊んでいるわけではなかった。むしろ、
(こいつはちょっと危険かもしれない)
そう考えてすらいた。心情を、相手に読み取らせないこと。 ・・・・・・・・・・
へつらって、へりくだって。そうやって信用を得てきた、あの見習いたくもない天才に教えてもらったこと。
(降伏に応じる気はなさそうだね。…悪いけど)
マイレナは目を細め、間合いを詰めた——と、向こうの扉が開く。
アギロたちが、天使を連れて帰ってきた。五人の無事に、湧き上がる歓声。慰労の言葉。
兵士の動きが止まりかける。が、一度始めたことをやめる気はないらしい。
まだ、マイレナを狙って鋭く槍で突く——
「——え」
キルガの中で、何かが反応した。
あの動き。正式な訓練を受け、それを完璧にものにしている。けれど、ちょっと下がり方に、癖がある。
その動き——かつて似た動きを、見た。どこだったか。少しだけではあったけれど、確かに見たことがある。
そう、あれは、あれはたしか——…。
キルガの眼が、はっと見開かれた。高い位置から、見下ろす。
…間違いない。あれは、でも、何故——!?
「ハルクさんっ!!?」
兵士の動きが、止まった。はっと、キルガを見る。そして——驚愕した。兜があっても、それが分かった。
覚えている。間違いない、彼は。キルガが天使界から落ちて、聖騎士団に入って。
境遇に不安になり、右も左も分からない状態になった自分に、世話を焼いてくれて、親切にしてくれた。
それなのに、聖騎士団を追われた——…あの、ハルクだった。
何年振りだろう。そして、なんて再会だろう。
どうして。何があったんですか。貴方も帝国に連れてこられたんですか——聞きたかった。聞かせてほしかった。
——けれど、この間は。マイレナにとって、好機を見つけただけに過ぎなかった。
そう、キルガのその叫びが——ハルクにとっての、致命的な隙を生み出してしまった——
「っやめろぉぉっ!!」
キルガは咄嗟に叫んだ。叫びで人は止められなかった。
あまりにも呆気なく——とす、と、小さな音を立てて、マイレナの槍がハルクを貫いていた。
仲間の叫びに、三人は驚いて彼を見た。彼は呆然としたままだった。
——そんな馬鹿な。命が消える音は、あんなに軽いのか?
そんな馬鹿な——っ…。
キルガは一瞬の間をおいて、駆け出した。飛び降りて、駈け寄った。
思わず、もう一度確認してしまう。見間違いじゃないのか。
こんなところに彼がいるはずがない、という思いではない。
ここに倒れているのが彼でないことを確認したい、そんな感情だった。
—— 間違いなく、ハルクだった。 ベ ホ イ ミ
キルガは思わず呆然と彼を見た。ざわめきが聴こえてくる。拳を握り、キルガは回復呪文を送った。
が、もう、間に合わなかった。薄い色の粒子が彼を包んだだけで、その魔法は効果を発揮しなかった。
先ほどの、彼自身と同様に。
「…やめな、キルガ…俺は、もう、持たん…」
「ッ!!」キルガは集中させていた右手を握りしめた。駄目だ。自分じゃ、彼を救えない。
「ハルクさん、何で——ッ 一体、どうして!」
ハルクは兜の下で、嗤った。
自分自身を。
「無様にも、な。家族を、人質に取られちまった。…なんでそうなったのか、今は分からんが」
「———っ…」キルガは応えられなかった。もう一度、祈った。だがやはり、傷はもう、癒えなかった。
「っマイレナ!!」
「……」マイレナは黙った。小さく息を吐く。
そして、手を出して、ハルクの傷に触れた。が、彼自身が、それを拒んだ。
「…俺は負けた。騎士は誇りを持つもの。実力不足で迎えた最期に命乞いなどはしない」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょう!」キルガは叫んだ。けれど、ハルクは聞かなかった。
「…俺の言葉。覚えているか?」
唐突に、訊かれた。答えている場合じゃない。そう思った、が、ハルクは再び言った。
「答えろ、キルガ・ティガージュ!」
自分の偽名と共に、一括されて——キルガは今度は小さく、答えた。
「“攻撃こそ、最大の防御”」
「…そうだ。…意味は、分かったか?」
キルガは黙った。視線をそらし——「いいえ」答えた。
以前よりは理解した、けれど、完璧じゃない。それは完璧な答えじゃない。だから、否定。
「…そうか」
ハルクは言った。少し悲しそうに笑って。
嘘でも、分かった、と言うべきだったのか。そんな考えもよぎった。けれど、それは。
彼を喜ばせるための嘘を吐くということは。——それは、彼の死を、覚悟したことになるんじゃないか。
——認めたくなくて。でも、こんなことしか言えなくて。
「…じゃあな。気張れよ」
最後まで、弱々しくはならずに。しっかりと言い切って——彼は、そのまま息を、引き取った。
「…………なんで……何で、こんなことになるんだよ……っ…。何で、いきなり———!!」
キルガは震えて、拳を握りしめた。気まずそうに、マイレナが立ち上がる。
今更のことに弁解する気はなかったが、無言でいるのも人が悪い。
どうしようかと迷っていた、その時だった。
上空からの襲撃が、彼らを震わせたのは。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.322 )
- 日時: 2013/04/03 23:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
闇竜バルボロスだった。
囚人たちが悲鳴を上げる。アギロが顔をしかめた。
マイレナはその場で引き、チェルスが訝しげに見上げる。 ・・・・・・
闇竜の攻撃は、誰かを狙っているわけではなかった。そう、破壊の意味で。
混乱し、疲れ果てた兵士たちもろとも、炎の餌食にしてゆく。
「やばっ」マイレナが叫んだ。「逃げて皆、早くっ!!」心臓が脈打った。
囚人たちには先程回復を施したとき、それぞれに仕入れたキメラの翼を渡してやっている。
準備が良いことは本当に良いことだと思っている暇はないが。
「キルガ、危ない! ——キルガ!!」
セリアスがキルガの名を呼ぶが、彼は動かなかった。否——立っていながら、意識が無かった。
「——お…おい、キ」
「マイ、戻ってこい。お前さんらもだ! ここはオレに任せな——」
似つかわしくないほど冷静に。声を上げたのは、アギロだった。アギロは周りを確認する。
逃げてゆく囚人たちを見て、焦る戦士たちを見て。そして、あの笛を銜えた。
息を吸う。ありったけの力を込めて、アギロは笛を吹き鳴らした。
キルガがはっと意識を取り戻し、マルヴィナとセリアスがびくっとし、
一番近くにいたチェルスがその音の大きさに失神寸前に陥っていた。
——が、その時だった。
闇色に渦巻く、空の向こう。きらりと光る、金の煙。空を裂き、照らすそれは、
「——天の、箱舟———っ…!?」
神の創りし天空の舟だった。四人があまりのことに目を見張り、口を開けたその眼の前で、
そのまま箱舟は闇竜に激突した。否——そう言うよりかは。箱舟が、闇竜を、吹っ飛ばした。
「えーーーーーっ…」
さすがに訳が分からなくて叫ぶ彼らはそのまま、何かに包まれて——その場から、消えた。
——その、箱舟の中で。
サンディは、パネルの至る所を操作していた。目の前から去ってゆく闇竜を見て、
ドヤ顔—彼女の言葉で言う『したり顔』—をして見せた。
「ふっふぅん。これで借りは返したわヨ」
腰に手を当て、あっかんベーをする。と、背後で何かが白く光った。
振り返って、それを見る。中から現れたのは、マルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナ。
そして、未だふらついているチェルスと、誰がどう見ても困惑顔なマイレナの六人だった。
が、サンディが真っ先に見たのは——当然。
「——あぁっ!! マルヴィナぁぁぁ!!」
会えなくなってもう長い、相棒の姿だった。
「サンディ! 久しぶり!」
「マぁールぅーヴぃーナぁーーーーっ。何してたのヨどうしてたのヨっ。
心配マジでしたんだからぁ! 勝手に落っこちて帰ってこないし! 心配で心配で
もうずっとおやつ二回しかおかわりできなかったんだからぁ!」
「ちょっといろいろツッコみたいけれど、ごめんごめん。——泣くなって」
「泣いてないしっ!! しかも何この辛気クサイとこっ!?
こんなとこに勝手に呼び出してそーゆーのマジあり得なくないっ!? ——って」
はっとしてサンディは顔を上げた。見れば本当に泣いた面影なし。マルヴィナは笑顔のまま固まった。
「ちょっと待ってどーやって呼び出したの? いつの間にそんなテクを!?」
「…え? あぁ、それはアギロが——あれ?」
「へいへい、お呼びかな」
そう言えば何で——と思っている矢先、本人ご登場。
マルヴィナ、セリアス、シェナの順に、ぽかんと口を開いた中で、サンディだけが半眼となる。
「は? ちょっとアンタ何勝手に——?」
問うて、黙る。いきなり凄い速さで飛んできた。飛んできながら——「てっててててて」妙な言葉を言い——
「っテンチョー!? テンチョーじゃないっすかぁぁ!!」
なんて叫ぶのである。
「「「えええっ!!」」」天使組が叫び、シェナが知り合いだと言うことに驚き、
アギロは顔をしかめて「誰が店長だ! アギロさんと呼べといつも言ってるだろうがっ」などと言うのである。
まさかとは思うが、いや間違いないのだろうが。
マルヴィナは恐る恐る、発言した—— ・・・
「あ、アギロ…あなたまさか、この箱舟の——正式な運転士…!?」
「そのとぉり!!」
いきなりテンション高くずびしと指差され、マルヴィナはドン引いた。
「囚人のまとめ役とぁ仮の姿。その正体、この天の箱舟の、運転士なのだッ!!」
この上ないほどのドヤ顔で、しかも同じことを言った、が、
「……………………………………………………………」
漂ったのはシラケた空気であった。
「……アラ」
「何言ってんすかテンチョー。すっげサムいっすよ」
サンディがいっそ憐れむような表情でツッコミをいれ、空回りしたアギロは咳払いで誤魔化したのだった。
…箱舟は、天使界へ向けて走り出す。
複雑に絡み合う思いを伴いながら。
【 ⅩⅣ 激突 】 ——完。