二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.343 )
- 日時: 2013/04/04 01:27
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
…正直、この時のことは、もう殆ど覚えていない。
おそらく“騎士”も“天使”も、わたしの意識は完全に失われていると思っていたのだろう。
だが、少々の後、何とか耳だけは機能し始めていた。
確か、手に枷をつけられたまま、長老の前に引きずり出されていたような気がする。
わたしの意識がないうちに事を運ぼうとしたのだろう。そうすれば、わたしに反論される虞がないから。
状況報告をするように、初代長老エルーファが守護天使たちに命じる—ちなみに彼も当然
わたしたちと同じ年に送られたのだが、その性格と実力を認められて長となり、
この時に天使の代表は長老と呼ぶことが決定したため、同い年でも長老と呼んだ—。
被害を受けた土地、人間の数——他にも何か述べていたが、それが何だったかということすら覚えていない。
「…上級天使ルフィン」
長老の声と、忌々しい声。
「…爆発当時、この付近に降り立っていた者はチェノのみ。間違いなく、この者の仕業です」
天使たちがざわめいていた。やはり怪しいと思っていたんだ。
あの集団——本当はそういう企みを持った天使の集まりだったんじゃないのか?
その囁き声に、ルフィンと、何故か後ろに着いてきていたギルの二人が顔をしかめた。
特にギルが睨み付けたとき、天使たちは居心地悪そうに視線を逸らしたり、渋々口を閉じたりした。
「チェノは我らと行動を良く共にした者。問いたいことも多くございます。
この者の処置、我らに任せていただけませぬか」
言うだけ言って、反応をほぼ待たずに去ろうとする二人を、長老はちゃんと止めた。
「待て」たった一言だったが、十分だった。ギルの睨みよりよっぽど強い、天使の上に立つ者の風格。
「…妙な噂も流れておるが」エルーファは続ける。「ここで問うても、真実は見出すことはできぬだろう」
その通りだ。馬鹿正直に「お前たち本当は人間を良く思っていない連中なのではないか」なんて言われて、
はいそうですなんて答えるはずがない。そうする気のない者だからこそ、
わたしに濡れ衣をかぶせてきたのだから。
「故に、お前たちの言葉をすぐに信じることができぬというのもまた事実」
「…爆発を起こしたのが、チェノではないと仰りたいのですか」
心なしか、表情を強張らせたような声に変わった。緊張か。軽い焦りか。
もし意識があったら、ざまぁみろ、の一言でも言ってやりたかった。
「…納得いかぬだけだ」長老は答えた。「…私は直接、チェノの言葉を聞きたい」
「な」ルフィンが焦りを短い間表情に出した。それに対してギルが心中で舌打ちする。
「そ」「分かりました」ルフィンが何かを言う前に、ギルが遮る。
「では一度ここを外しましょう。…ですが最終的には、我々に」
「——」
答えはない。ギルが踵を返した。ルフィンがその後ろに着く。
ある程度離れたところで、周りを気にしたのちにルフィンは非難の口調でギルに問う。
「…どういうつもりだ。チェノが本当のことを話したらどうする!
…もしあいつに、おれの姿が見られていたら…!」
「関係ない」ギルは視線を転じず、変わらぬ口調で言った。
「い、いや、それ以前に、あいつの口から“騎士”のことがばらされたら、終わりだ!」
「少しは落ち着いたらどうだ、ルフィン」今度は呆れたような声が返ってきた。
確か“騎士”の中で一番怖い呆れ声を出すのはコイツだった。立場は上のはずのルフィンでさえ背筋を伸ばすほど。
「…チェノは決して“騎士”のことは話さん。そこまで馬鹿ではない」
褒め言葉としてとっていいんだろうかね。これ。
「話しても話さなくても自分の処刑は決まっておるのだ。処刑される数が違うだけ——
だが、ルフィンが爆発を起こしたといえば、自分だけではなくマリーナも処刑されることになるだろう。
…チェノにそんなことはできんさ」
わたしはずっと黙っていた。
「——答える気はないのか」長老エルーファの声色は先ほどから一定だった。
「本当に、あの集落の人間を滅ぼそうとしたのか?」
この質問は三度目だった。それでもわたしは、何も答えなかった。
自分の立場を、正しく理解していなかったんだと思う。当たり前だ。
人間に危害を加える者は、天使にとっては敵同然。わたしはやっていない、と言わなければ、
『処刑』——まぁ間違いなく、天使界追放…人間界で言う死罪となるわけだから。
…だけど、さ。言ったところで、次はどうなる? じゃあ誰がやったんだ、って話になるに決まっている。
…もう、道は残されていなかったから。だからもう、全て成行きに任せた。
自分がこれからどうなるかなんて、全く考えていなかった。
「…頑固なことだ」エルーファは聞こえぬほど小さく、溜め息を吐いた。
微妙な間が空く。でもわたしは、動かなかった。
「…ならば、これだけは答えてもらいたい」
…大分声の調子が変わったことを覚えている。…この時のことを、今でも時々思い出すくらいだから。
黙って顔をそらし続けていたわたしの前で。長老は、一言——重く言った。
「お前たちは、何者なのだ?」
と。