二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.371 )
- 日時: 2013/04/22 22:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
5.<マイレナ>
三百年の感覚はない。
“未世界”は時の流れを感じない半端な世界、そんな長い間、
死んでいながら意識があったなんて、変な感じだ。
普段ウチは遅くまで起きていられる性質じゃあなかった。けど、言った通り、
“未世界”じゃ時間が経過しているなんて感じ取れなかったから、いつの間にか寝ることすら忘れちゃってた。
——それにしても、ウチが空の上に立つ時が来るとはね。
普通に人間やってたら、絶対有り得なかったこと。
…足もとふわふわするな。怖っ。よく天使もこんなところで生活できるなぁ…
まぁ、故郷の土なんて、親しんだ者にしか慣れることはない、か。
三百年前にウチが所属していた僧侶団マーティルには、天界に住む者は存在するか否かと考える学者がいた。
町や村、国と名のつくところには必ずと言っていいほど一つ存在していた『守護天使像』。
世界共通の信仰ともいえるその情報が、表向きには信仰者である僧侶団に届いていないはずはない——ってか、
アルカニアにもあったしね。守護天使像。ま、そんなわけで、天使はいる、って言う説が、
説得力があるだけの『仮説』として知られていた。
ウチはただ単に職業を手に入れて給料をもらうためだけに僧侶団に入ったわけだから、
そう信仰心にあつーいわけじゃなかった。マーティルじゃ珍しい方だったんだけどね、
大抵、あの魔法都市の人間は、何かを信じて生活していたから。まぁそんなわけだったから、
ウチは天使なんていないでしょ、って考えの持ち主だった。
やー、まさか本当にあったなんてね、天界。…天使界、か。まぁ想像していたより
あちこちぼろぼろでちょっち驚いたけど。何かこの世界もいろいろ大変そうだね。よくはわかんないけど——…。
…あ、背後に殺気。自分の気配を隠すようにして、こちらへ向かってくる。隙はほぼない。
わー、間違いなく狙われてんのウチだ。姿勢を解かず、表情も変えず、
だらりとした隙ありありな恰好を続ける、隙だらけになって、相手の油断を誘う。
あと約一丈。あと、三尺——
剣の抜き打ち顔負けの速度で、常に所持している愛用の槍をその殺気の主に突き付けてやる。
張っていた空気が揺れた。動揺した——だろうな、後ろのこいつも。
「襲われる趣味はないよ」とりあえず、そう簡単に言ってやった。
「…こっちもそんなつもりはありません」そいつは、驚きを隠しているような声で反論してきた。
この状況で言葉が返せるだけ、上出来だ。
「殺気剥き出しにして来た奴の言葉か、それが」ちょっとだけ呆れ、ちょっとだけ称賛しながら言って、
相手の殺気が完全に薄れたことを確認してから槍を収める。ほんのちょっとだけ姿勢を変えると、
そいつの正体がわかった。「何だ、イケメン君か」キルガか。多分マルヴィナのことが好きな超天才君。
真剣に魔法を学べばきっと簡単にものにしちゃうだろうに、聖騎士を選んでいるってことは、
よっぽど何か理由があるんだろうね。
「何か用? ——だよね。こんな時間帯に訪ねてくるくらいなんだし」そう訊いたけど、キルガは黙っている。
心当たりがあって、ちょっとだけ苦々しいそのことを思い出して、控えめに尋ねる。
「やっぱ、あの人のこと?」…言い辛そうに、目を逸らされた。多分当たりだ。
それに関して何かを言う気は毛頭なかった。何を言ってもキルガにしてみればただの言い訳になるのは確定だから。
「ま、座ったら」一応はキルガも旅人、それもなかなかの強さを持った人間——じゃなかった、天使だし。
自分が座っている状況で立たれると、微妙に威圧感があって居心地が悪い。
キルガはちょっと躊躇う素振りを見せた後に、微妙に距離をとって座った。思わず苦笑。
「そんな警戒しなくても」あ、さっきの槍の突き付けを警戒してんのか?
「あれはただの癖。…反射神経、って言った方がいいのかね」いやホントよ。
流石に天使界で騒ぎ起こすほど呆けてはいないつもりだよ? いやホント。
「…気付いていたんですね。隙だらけだったのに」
思わず笑った。「隙のない奴には負けないよ」——熟練の旅人になればなるほど、
隙という隙は消えてゆく。それは強さの証、加えて、自分の実力を、相手に曝け出すことになる。
世界は広いからね、自分より強い奴がいないなんて確証はどこにもない。
簡単に敵に実力を悟られるわけにはいかない。隙だらけな状況をつくりだして、相手の油断を誘う。
まだまだ隙を無くすことしかできない奴には負けないよ。
胡坐をかいて後ろに傾く。頭の重みに任せて、空を見上げた。
悩める少年の話を、しばらく聞いていた。
つい最近起こったようにしか感じない、とある過去を思い出しながらも。