二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.378 )
日時: 2013/06/01 20:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)

 キルガがマルヴィナを好きなのは一目瞭然だった。
 いやホントこの子分かりやすいんだよね。普通こんなイケメンでそこそこ強くて性格良しときたら
今頃ハッピーエンドまっしぐらよ? …相手が相当な鈍感じゃあない限り。

 …マルヴィナね。ぴったり当てはまりますね、この非ハッピーエンド条件。
 ただ——鈍感である理由が、ちょっとだけ特殊なだけで。

 …恋、か。ウチはまともに、そんなことをした記憶はない。そりゃ、ちょっとこさ格好いい人に
きゃーカッコいい☆ なんてことにはなったことはあるけど(それでそのたびチェスに表現しようのない
途轍もなく微妙な視線を受けたんだけど)本気で誰かを好きになったことがなかった気がする。
まぁ、十六、七でマーティルの滅茶苦茶面倒くさい旅に駆り出されたしね。
華の乙女時代を泥臭い日々にかき消されたわけさ。へっ。
 …なんて、こんなこと言ってるけどね。…正直、恋したくなかったわけじゃないし、
嫌ってたわけじゃない。もし相棒にそういう話が転がり込んで来たら、
全力でからかって全力で応援してやりたかったし。
 でも、そういうわけには、いかなかった。
 そんなことは、できなかった。




 基本ウチは、あっけらかんとしておおらかで基本何でも許しますよー多分。みたいな性格だと思う。
だけど、たった一人だけ、ウチには許せない奴がいた。許せないというか、もう憎悪しかないくらい。
顔を思い出すだけで、思いついちゃうウチの頭をぶん殴って破壊させたいくらい、
それくらい嫌いな奴—あ、もちろん破壊したら死ぬからやんないけどさ—。
もしかしたら、あまりにもそいつを忌み嫌っているせいで、他の奴の何だとかこうだとか見たって、
そう大したことないように思えて、気にならないだけなのかもしんないけど。

 …何度も思い知らされたことを、つい説教たれた口調でキルガに言っちゃった。
諭せるような立場じゃないってのにね。
単なる、理想——そりゃ、自分の力にはいつだって誇りを持っていたいよ。
むしろ誇れなきゃ、当時の戦乱の世なんて渡り歩けなかった。元天使の相棒もいたし、
あの頃は本当に、自分の力を過信しすぎていた。向かってくる敵は毎回の如く殲滅。
魔物であったって——それこそ、敵国の人間だって。
謙遜する方が自慢になるような気がしていた。

 …それを、あいつは。大嫌いなあの男は、いとも簡単に打ち破った。
 …ずっと自分の中に宿っていた絶対的な自信を失わせたこと——
これもあいつが嫌いな理由に当てはまるんだけど、まぁこれは殆ど八つ当たりだしね、あくまで一部。

 若年にして、ガナン帝国の幹部。
 人間とは思えないほど鋭い攻撃技。
 リーチでは確実に勝てる槍を以てしても、全く歯の立たなかった、あの剣士。
 …帝国が誇る三将軍のうちの、ひとり。


 境遇が少しだけ、キルガに似ている。
 ・・・・・・・・・・・・
 マルヴィナのことが好きなこの青年に。

 そしてそれに気づいたとき、つい思った。
 …本当に、何の因縁なんだろう。



 ウチはあいつが嫌いだ。
 あいつが、何らかの理由でガナン帝国にいた妹の師匠だったから。
 そして——彼女の闘志を乱した理由を作った、戦友の想い人だから。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.379 )
日時: 2013/06/05 21:03
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)

 …ルィシアがガナン帝国にいる。
 その情報を手に入れたのは、ウチがルイを捜し始めて云年経った時だった(言うと年齢ばれるから内緒)。
 …あの子はもともと剣士としての素質があることは知っていたし、アーヴェイに入っただけあって
攻撃呪文にも長けていたから、修行によっちゃ魔法剣士と言われる存在にだってなれると思っていた。



——「簡単に言うけどね、魔法と剣を併用するのってどんだけ大変か分かってる?」
 ずっと昔、交わした会話。
「え、剣に集中してどーんばーん、みたいな」
「…姉さん、攻撃魔法なめてない?」
「きっとおいしくはないんぎゃいん!?」ここで剣の柄で手荒につつかれた覚えがある。
すごーい黒い表情されてたからなー。我が妹ながら恐ろしい。
「ウチ回復魔法専門だから! 知らないからそういうの!」
「あのね、攻撃魔法ってのは、その場にある『気』を操るの。炎だったら炎の気を集めなきゃならないし、
氷だったら氷の気を集めなきゃならない。要するに、『気』を集めることでその場の空気の状態、
たとえば気候が若干変化したりすることになる。加えて、日常的に使う初歩的な魔法ならともかく、
攻撃に転じるだけの魔法を使うなら集中しないといけない。それぞれの『気』が少ないところならなおさらね」
 …ちょっと待て。ルイが饒舌だ! 珍しい!!
「そうして生じた魔法を今度は剣に向けて、それでその魔法の力を継続させたまま今度は剣技に集中する…
これがどれほど大変なのか分かってんの?」
 まったくわかりませんでした。ていうかルイの長話があまりにも珍しくて
そっちに集中…あれ、なんか矛盾してる?
「…姉さんって…本当に頭いいのかしら」
「羊皮紙の上での知識が豊富なのは頭がいいというわけではない記憶力が高いというのだ」
「馬鹿なの?」
「大変なのは凄くめちゃくちゃもう素晴らしくよく分かりました」
「馬鹿なのね」


 ——断言されて終わったあの会話、自分自身で魔法剣の厳しさを語ったというのに。
耳に入ってきたその情報は、天与の魔法剣使い。“漆黒の妖剣”ルィシアの名。
 その名を初めて出した帝国の幹部を半殺し状態にして、更に情報を引き出したことを、今でも覚えている。
同時にそれは、敵にウチとルイのつながりを知られてしまったこととなったのも。
 これがその名の通り、一生の不覚となった。
 …ルイに剣を教え込んだ者、その名を、何度繰り返しただろう。
 奴と対峙したあの日まで。その名を深く刻み付けなかった日はなかった。





 ——ガナン帝国の城内だった。
 売られた喧嘩を買うために、襲撃された故郷のために、そして何より、妹のために。
親玉の首をとるために入り込んだそこでウチは、ようやくそいつに出会った。
 剣以外の何をも持たず、細めた目から鋭い光を発した、三人目の将軍。
 帝国史上最少年で将軍となったというだけあって、その力は——
 感情で動くな。チェスの声は耳をすり抜けた。
 それで——呆気なく、…本当に呆気なく、…敗れて。
 得意なはずの槍も、魔法も、何も効かなくて、信じられなくて、
悔しくて、自棄になって、自分の疲労にも気づかなくて、それで——!
「マイらしくないな。…感情で動くものほど、見失うものは大きいんだろ。…待ってな」
 ウチの想いを、感情で動いた理由を、全てわかってくれた上で、らしくない、の言葉を投げかけた戦友、
 ぐちゃぐちゃになった思いに何も言えなかったウチを背に残して。
 そのあと、あまりの出血の影響か、意識が飛んで——…

 …ねぇ、その時に、何があったの?
 一体どうしたの。何で、そんなに傷だらけなの。












         漆千音))久々にネタが尽きました。マイレナの過去は断章Ⅳでいろいろやったからなぁ…

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.380 )
日時: 2013/06/05 21:08
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)

 互いに、もう染まるところがないってくらい、纏ったものを朱色に変えて。
 聞き取れない叫び声を上げながら、互いに互いの剣をぶつけてる。
もう、周りには動く者はいない。逃げようと思えば逃げられた。
それを実行したところで、追う気力なんか絶対にないってくらい、二人は疲労していた。
「ちぇ、すっ」
 喉の奥から必死に声をあげたとき、互いしか見えていなかった二人の意識が外れて。
二人同時に、まるで燃料が切れたかのように、倒れてしまった。
 もう、ウチの方がまだまともに動ける方になっちゃって。
どう考えても、これ以上攻め込むのは不利だったから、迷わずチェスを抱えて脱出した。



 あの日ほど苦しかった日はない。あの日ほど悔しかった日はない。
 あの日ほど辛かった日はない。

 そして、あの日ほど怒った日も、なかった。







「——あんた…まさか」
 傷の中でも、決まって最もひどくなる部位——右腕をおさえながら、チェスはずっと目をそらしていた。
「…嫌だ、とか…言わないよね」
 そいつを…憎んでも憎み切れないそいつを、いつかはウチが討ち取るから。
助けてもらったことが情けなくて、何より、自分への宣言として、彼女に言った。
 分かった、と言ってもらうことを、想像していた。長いこと共にいたから、大体言うことは分かっていたから。
 なのに、その言葉はおろか、反応する声すらなくて、戸惑った。
疲労で口がきけないわけじゃない。つい今の今まで、今日の戦いのことを話していたんだし。
ウチが、あいつの名を出した瞬間に——チェスは、黙り込んだ。
「…チェス」
 呼んだ名の、返答はなくて。
「…チェス、どういうこと!? 何、あいつに同情でもしてるの!? なんか変なことでも吹き込まれたわけ!?」
 感覚のない手で、彼女の負傷も気にせず揺すりまくったっけ。
「……っ」
 それこそさっきのウチ以上にらしくない彼女の目を覚まさせようとして…気付いちゃった。
剣を握りしめ、必死に歯を食いしばる、その、辛そうな貌に。
決して現実になることのない理想に苦しむ、彼女の姿に。
 …嘘だ。そう、思った。嘘。でも、それは。
「あんた…まさか、…あいつ、…………っ」
 思い浮かんだ言葉は、まるで吹き荒れる風に巻き込まれた業火のように、
流れ去ったというより、掻き消された——掻き消した。もう、彼女の受けた傷なんて頭になかった。
「何考えてんの!!? あいつは、敵で、将軍で、幹部なんだよ!?
ウチらとは絶対に相容れない存在!! おかしい…あんたおかしいよ!」
 チェスは反論しなかった。あの時——彼女の想いに何の同情もできなかったウチは、
いっそこのまま終わっちゃおうか、って思うほどだった。力なくへたり込んで、
まばたきすらできず、意味もなく真っ黒な地面を見て。
「…大丈夫」
 彼女は言った。
「そんなつもりは、ない」
 彼女の言葉を、その時のウチはどうとらえたのか——もう、覚えていない。
 それほどあの日のことはよく覚えていて、凄く忘れてしまった。




———「…意外でしょ。チェスに好きな人がいるとか」
「…えぇ」キルガは心底驚いているのを何とか隠しているけれど隠しきれていないような
凄く曖昧な表情だった。無理ない無理ない。「そんな感じ、全然なかったですから」
「そ。…そういうもんなのよ。あまりにもその思いが強すぎると、他のことはその思いに掻き消されちゃう。
…多分マルヴィナもそれと同じなんだと思うな」
「…さっきの話ですか」
 そ。…あ、これ、禁句だったかな。やば、ごめん。えと…続き続き。
「多分これから先、そいつとぶつかるはず。なんせひとり将軍を落としたからね。
間違いなく、戦うはず…あいつは本当に強いよ。…まぁ、あの頃のウチは
今よりどう考えたって断然弱かった、ってのもあるんだけどね」
「…帝国…最年少の、将軍…ですか」
 そう。だから、本当に何の因縁なんだ、って思った。

 敵国の最年少将軍に惹かれてしまった戦友。
 その子孫を恋う、天使界至上最年少で守護天使とやらになった青年。

 …なんだか、似ていると思わない?


 …簡単に叶わないというところまで、本当に。



「…まだ間に合うよ」
 せめてもの励ましに。
「…大丈夫。まだ、今ならね」
 …彼らにはなってほしくなかったから。
 決して叶うことのない思いを持ち続けて苦しむような、戦友のようには。