二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.469 )
日時: 2013/10/11 23:48
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)

 …これは神の国へ足を踏み入れてから、五つの日が廻った時の話になる。
 私がいたのは、故郷の里だった。訂正。私たちがいたのは。
 もっとざっくりと分かりやすく言えば——人間界に戻ってきました全員。
 …何でこんなことになったかって。当然といえば当然なんだけど、神の国に原因はある。

「おはよう、シェナ」

 家の前の、一つ増えた墓の前にしゃがみ込む手前で、声——キルガの声がする。
あぁまた寝られなかったのかこの寝不足常連客。
「おはよ。セリアスは?」
「相変わらず夢の中だ。…決戦前だって言うのに揺らがないな、あいつは」
 そうね、と吹き出した。そんなこと言って、キルガだってそうだ。もっともこの繊細神経質の場合、
また寝られなかったという言葉しか出てこないんだろうけど、いつもと変わらず寝つきが悪いのと
抑えつけられない緊張で寝つけなかったのじゃあ竜と人間ほどの違いがある。
大方いつもみたいに、隣の怪物のいびきが煩くて起きてきた、って感じでしょ。

「…まだ、つい最近のことなのにな」新しく創られた、小さく綺麗な墓に目を細めて、キルガは呟いた。
「…そうね。なんか、色んなことがありすぎたわ」すっかり肩をすくめる癖ができちゃったみたい。
見た目があんまりよろしくないから、そろそろ直さなきゃって思うんだけど、
一度定着した癖に抗うのは結構難しい。

 めまぐるしく移ろう季節より早く、私たちが対面した出来事は次々と流れて行った。
徐々に上がり始めた熱、いつの間にか着いていた故郷。見計らったように何度も襲ってきた帝国軍。
短い間に失った命は多すぎた。焼き付いたケルシュの姿と、グレイナル様の最期が蘇って、
そして消えた。…今は泣く時じゃない。

「…不安じゃないの?」同じようにしゃがみこんで視線の位置を合わせたキルガに、訊ねた。気になっていたこと。
「何が?」
「何って…」この反応からするに、この質問が無意味だとは知りつつも一応、聞いておく。
「神様もいない、女神も完全に復活していない…しかも、こうなった元凶が
ガナンにいるかもなんて滅茶苦茶な状況なのよ?」



 …神の国の奥へ進んで、とても人間じゃあ作れないだろうってほど複雑な装飾の施された
蔓草模様の扉を開いて、私たちは皆して瞠目した覚えがある。
 流石に能天気組も全知全能の神様に対面、ってことの重大さを自覚したのか、
ちょっとばかし背筋が伸びていて。私としては偏見全開の考えを目にしたばっかりだったから
あんまり気乗りしなかったけど、ついていって——それで、固まっちゃった。
 …そこに、今でも女神のためにゆっくりゆっくり力を蓄えているはずの神様はいなかった。
代わりにあったのは、無残に、残酷に床一面に張り巡らされた、大きな亀裂と、
びっしりと張り付いた直視できないほど赤黒い、異様に濃い苔。
どうにかして堪えたけど、今でも思い出して背筋に怖気が走るほどグロテスクな光景だった。
なんせ、ほんの少し前までは、この世とは思えない神秘的な空間を見続けていたものだから。
 当然私たちは驚いて、不躾ながらにも中を探索した。
今度ばかりは何が起こるか分かんなかったから、固まって。さすがのアギロやチェルスも驚いて、
いつになく険しい表情で(元からアギロは厳つい顔だけど)話し込んでいた。
…とても思えないけど、このふたり、長老のおじーちゃんより昔からいるのよね。…うん、見えない。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.470 )
日時: 2013/10/11 23:47
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)

 結構時間をかけて最終的にたどり着いた神の国のさらに頂上…頂点?
 まぁ、一番高いところで、また表現しようのないほど綺麗な場所があって。
いやね、下の階はもうほんとに無残なことになっていたのに、そこだけ無事なの。
亀裂もないし、苔もないし。でも、ついでに言うと、ほんとに何もない。行き止まり。行き詰まり。
困ったところに、ここに女神の果実を捧げるのではないかと言ったのは長老のおじーちゃんで。
もしかして神さまは一時的に姿を隠して身を守っているんじゃないかと。
果実さえ捧げれば自分たちの存在に気付いてくれるのじゃないかと。

 …ここで思ったんだけど、神様って意外と完璧じゃないのかしら? …まぁ、そもそも全知全能って、
言葉じゃ簡単に言うけど、実際のところどういうものなのかって突っ込んで訊かれたら
曖昧な答えしか出ないだろう代物だし。
 ともかく、手にした七つの果実(あぁ、やっぱ懐かしいわこの輝き)を捧げて。
そしたら目の前が真っ白になって。

 気づいたら、見覚えのある景色が目の前に。…天使界の頂上の世界樹の前でした。
強制連行もしくは退出。ちょっと、神の国へ長い時間かけて旅した時間返して。ってくらいの瞬間移動でした。
 …何か既に信じてもらえなさげな話してるけど、冗談は含んでいません。全部ホントのことです。
どこの物語だって感じもするけどね。

 そこで私たちは、果実の力で一時的に復活した女神の言葉を聞いたわけ。



「…なぁんか」
 キルガの答えを待つ前に、思い出した急展開の出来事に笑う。「夢の中の出来事みたいだったわねぇ」
「確かにね」他人事みたいに言ったのがおかしかったのか、キルガも笑った。
「…まぁ、そんなに不安じゃない、かな」
「へぇ? …何で?」改めてキルガを見る。…相変わらずまつ毛長いな、この男。寄越せ。
「…女神セレシア様が言うには、天使界が襲撃されたと同時に神の国も襲われたんだ…
その時からすでに創造神様もいらっしゃらなかったことになる。つまり、僕らは今まで、
神様たちの加護を受けずにここまで来られたということだ——状況は前も今も変わっていないさ」
「なるほどね」復活した女神は、わずかに残されていた時間で簡潔に話してくれた。
今キルガが言ったように、神の国があんな悲惨なことになったのは天使界襲撃と同時。
マイレナが言うには(どうやらマルヴィナには既に話したらしいけど)天使界を襲った犯人? は
ガナン帝国にいるとのこと。女神の力では地上にとらわれた天使たちを完全に取り返すことはできず、
また天使たちが神の国へ戻ることも到底できないってこと。
 帝国に巣食う者どもが災いの元凶なら、それを潰すしか道は残されていないみたいで。
そんな内容の言葉を言ったとき、女神は哀しそうな貌をしていた。
悪しきものは滅ぼす——これでは自分のしていることは、父と同じだと。

 …言いたいことはたくさんあったけど、言わないでおいた。
心の中で、神様の殆どは偏見持ちなのだろうかと思っただけで。



 ——思いがけず長くなったけど。これが、私たちが再びこの世界に戻ってきた理由になる。