二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.479 )
- 日時: 2013/12/24 00:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)
「シェナこそ不安じゃないのか」しばらくの沈黙が流れたのち、ふとキルガが口を開いた。
まったく、自分ですらわかってないことをさらりと聞いてくれちゃって、この男は。
「…どーなんだろうねぇ」
他人事のように呟いたのは、私の中でうずくまって震えている不安を今ここでは出したくないから。
いくら彼らがそういう感情だって全部受け止めてくれるからって、不安を口に出して
士気を下げるようなことはしたくない。でも、その反面、一緒にいればその不安は紛れて消えるだろうって、
明確な根拠のない割に確信できることが不安の隣で一緒に眠っている。
曖昧な答えになってもしょうがない状況なんだ、今は。
「…前だったらね。絶対、あんなとこ、戻れなかっただろうなって思う」
徐々に位置を高くし始めた太陽を視界の上端に入れて、すぐに目を逸らした。
光の残像が線を引いてうろついている。まるで、先のない闇を彷徨う夢を見続けた、あの頃の私みたいに。
「…いいの。吹っ切れた」
…ホントは吹っ切れちゃいけないんだろけど。でも、もう私たちは、後に戻れないことをした。
敵国の将軍を一人、落とした。そう、言葉を交わすという手段で事の解決に導けない人間たちの、
最後の強硬手段を以て。
キルガの表情が曇ったのを、見ずとも感じ取れた。
あー、やっぱり似たようなこと思ってたのかしらね。まぁ、確かに、彼は——彼らは、天使だもの。
本当は、人間を助けて、導く存在(だっけ?)だから。やっぱ、何かしら罪悪感があるのかもしれない。
「今なら」キルガは呟いて—さっきから声量は落としていたけど、今回はわざとじゃなくて、
本当にぽつりとこぼれ出たような声だった—、ふっと視線を転じた。
チェルスの言うことも、分かるかもしれない。唇の動きがかろうじて読み取れる程度の声量で、
恐らく視線の先——私の住む家の中にいるだろうもう一人の天使の姿を、彼は辛そうな表情で見ていた。
——天使も人間も、神も。所詮は皆、同じだ——
…チェルスは、異様に静かな朝に今は感謝しながら、
いつから残されているのかよく分からない書物を見ていた。
天使界で、シェナが話していた、竜族の先祖——マリの残した、手記。
おそらく何十、何百年単位で、代々の里長たちがその文字が消える前に書き写してきたのだろう。
ところどころに誤字が見られる(脱字は意外にもほぼなかった)が、読めないほどの障害はない。
途中まで現代語訳された別の羊皮紙を戸棚の隅に置く。当たり前だが、
当時の文字の読み書きのできるチェルスにそんなものは不必要だった。
むしろ、現代語の方が読めない。一体どこの言葉だって言う文字が飛び交っている。…とくに、なんだったか、
あの、マルヴィナの相棒。あの超絶派手で、明らかに異世界の存在感を放つ…何だっけ。
サンサンとかいう名前の奴。…なんか違う。まぁいいや、と考えを放棄した。
あのちびっ子の使う言葉と言ったらもう何がなんだかさっぱりわからん。
あれと会話できるマイレナの思考回路を分析したい。…等々しばらく関係ないことを悶々と考えたのは、
親友の手記を勝手に覗き見る罪悪感にふと手を止めたから。固まった時間で、
つい別のことを考えてしまったのだ。
…いや、こんなことをしている場合ではない。もともとこれは、
誰かに読んでもらうために彼女が残したものなのだ。
まさか当時の同胞、しかも唯一の親友だったであろう(自分で行ってこっ恥ずかしくなった)者に読まれるとは、
さすがの彼女も想像していなかっただろうが…。
不規則に脈打つ心臓の音を聞き、少々ばかり黒ずんだ天井を見上げる。
小さな音で吐いたはずの息が、その量に比例するように大きな音となって響いた。
何人もの指が触れたのであろう黄ばんだ頁をめくり、チェルスは適当な速さで目を通し始めた。
初めは、一体誰だという言葉を贈りたいほど、荘厳で真面目にかかれている。
…彼女自身がたどった、人間界に落ちてきた後の話。
…どうやら彼女も自分と同じく、人間界に落ちた後はしばらく『眠った』らしい。
生きていたことに対するうらみつらみが、微妙に文章構成からにじみ出ている。
何年後に目覚めたのかは定かではないようだ。
彼女は誰にも会わなかった。誰にも聞けなかった。
彼女には翼が残っていた。風に攻撃されて、無残にも散り散りになった、まるで襤褸のような翼が。
…光輪については書かれていない。が…この文章から見ると、失ってしまっているのではないか?
そうすると、人間には姿が見えるはずなのだが…待て、ちょっと待て。
何でそこから豪く話が飛んでいるんだ! 何かあったか? 文章でも無くしたか?
何をどうすればそこからちゃっかり子孫ができてこの里のもとになるだろう
この地に住み始めた話になるってんだ!!? その間にあったことが一番重要だろうが!!
ちくしょう何がわたしが知りたがっていた全ての真実だ次期里長の賢者!!
果たして親友に怒るべきなのか、それともこの書の管理方法即ち子孫たちに怒るべきなのか
さっぱりわからないが(まぁ多分、賢者のお嬢さんに怒るのは筋違いだろう)、
ともかく気になるうちの一つである『一体天使がどのようにして子孫を残せたのか』は明らかにならぬまま、
チェルスは憮然とした表情で続きをめくる。
断崖絶壁、他から閉鎖されきったこの地は静かにひっそり、人目を避けて住むには
良い場所だったと書かれている。まぁ、そうだろうな。明らかにここは自然以外の方法で切り開かれた土地だ。
加えて一番近い人の住む地も、歩いて…どれくらいかかるってマルヴィナは言っていたっけか。
まぁ、そこはどうでもいい。里ができた経緯は特に知りたい情報ではないんだ。
気になるのは、マリが、それからどうなったのか。
一度閉じて、今度は反対側からめくり始めた。最後の頁にたどり着く。現代語訳はなかった。
たどたどしく、歪に並んだ文字たちは初め、何の呪いだと思いかけたが、
その悪筆を少しずつ目で追うとチェルスの瞳の色は変わった。
一瞬だけ、息が止まったのを感じた。