二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.483 )
- 日時: 2013/11/04 00:37
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)
「ちょっと、鍛錬なら里の外でやってくれるー!?」
サファイア
青玉の刻、太陽が白くなり始めた頃に、私は身体を動かす二人の仲間へ声を張った。
「あ、ごめん! なんか感覚掴めそうだったんだ!」
大声で返しながら謝って、隣のキルガを促してマルヴィナは軽い足取りで里の入り口へ向かう。
まったく、敵襲でもないのに里の中で魔法剣使ってどうすんのよ。
「やー、マルヴィナも変わんないよなぁ」私の横でけらけら笑うのはようやく起きたセリアス。
…またすごい寝ぐせだこと。恥ずかしいからちょっとは気を遣ってほしい。
なんて考えるだけじゃ伝わるはずもなく。おはよう、とついで挨拶がきて、おはようと返した。
「あんたが言えること? 相変わらずお気楽にぐーすか寝てくれちゃって…今夜から決戦だって言うのにさ」
「ん、寝ないために今のうちに寝といたんだよ」
「いつもでしょうが」
二人が腕を動かしながら里の門をくぐった。
マルヴィナが突きのコツかなんかをキルガに教わっているみたい。
正直、斬撃と突きに長けたあの二人が組めば最強だと…あ、ごめんそれ以上に
チェルスとマイレナって言う不正行為並みの二人がいました訂正します。
「…キルガの奴、この戦いが終わったら、ちゃんと一歩進むんだってよ」
ん? と、セリアスに顔を向ける。ちょっとして、意味を理解した。
セリアスにしては珍しく、洒落た物言いだったからびっくりした。
「へぇ。ようやくなんだ、あのヘタレは」目を細めてにやりと笑う。
「でも、だいじょぶなの? 若干フラれる道寄りじゃないの、今」
「…大丈夫だよ」驚いたことに、セリアスは言い切った。
「…俺は、マルヴィナはキルガのこと好きなんじゃないかって思ってる。マイレナとか、シェナには
いろいろ言われたけどな。でも、あの二人は、一緒の方がいいんだ。お互いさ」
「…あんた意外とロマンチストでしょ」
「とりあえずそれは褒め言葉ってことで」
合わない、とちょっぴり笑って言った。
「…寂しくないの」
「ん。何が」
「いや、だから…」
だって、ずっと三人一緒だったんでしょ。
ちょっと言い辛くて言葉を濁すと、これまた意外にもセリアスは笑った。
「変わんないだろ。どうなったって、キルガは親友のままだし、マルヴィナだって親友のままだ」
…あ、と、すぐに気づいた。…そうかもしれない。二人がどんな関係になったって、
セリアスへの関わり方は変わることはないだろう。三百年近くも、変わらない関係だったから。
…でも、それでも。
「ま、ちょっとこさ、置いてかれた感はあるけどさ」
もう一度見たセリアスの横顔は、普段見ない切なさと静けさを伴っていた。
秋を思わせる、消えゆく景色をただ見守る、何かのような。
置いていかれた感。恋、とは、一歩踏み出すもの——彼からそんな言葉が出てきた意味が分かった。
分かって、何故か自分まで辛くなった。そんな顔をしないでほしい。ねぇ、あんたはそんな奴じゃないでしょ?
「…じゃあさ」
いつの間にか声に出ていた。
「私たち、付き合っちゃう?」
はらりと落ちた葉っぱが止まったような感覚に見舞われた。
セリアスの表情は間抜けなまま停止していた。ぎこちない動きで顔がこちらに向く。
口がちょっと開いて、「……はい?」表情以上に間抜けな単語が返ってきた。
そんな彼が面白くて。
本気で受け取ったのか、思考がついていけなくなっているのかわからないその顔に、吹き出した。
「——なんちゃって! はい、元気出た?」
「え、は、へい?」
「だいじょーぶ、冗談だから。あー、今の顔最高。永久保存もの」
「おま…何がしたかったんだ!!?」
「えー、何って、からかい?」
「…相変わらずなのはシェナものようだな…」
まーね、とくすくす笑って立ち上がる。ご飯食べる? と訊いた。
食べる、という微妙に不機嫌な声が返ってきて、もう一度笑った。
——心の中で、ごめんね、そう呟いて。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.484 )
- 日時: 2013/11/04 01:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)
——ちょっと待て。何だこれは。
急いで、チェルスは更に頁を戻した。
食い入るようにとある言葉を探す彼女の目は、まるで鼠を睨めつける猫そのもの。
否、それ以上の緊張と、焦燥を、綯交ぜにした異様な色を放っていた。
既に日は高く、時折誰かのあげる叫び声がくぐもって聞こえてくるが、
正直なところそれに気を使えるほどの余裕はない。一心不乱にめくり上げ、
ようやく見つけた一文を、じっとりと汗ばむ指でなぞる。
——彼女にはいなかったのだ。神や、天使や、同胞や——人間への、
偏った嫌悪を取り払ってくれた、アギロのような存在が。
背中に張り付いているだけでもう何の意味もなさない翼。
閉鎖された土地で、閉鎖された生活を送らねばならない不満。
何故、こんな目に遭う。自分たちを追放した天使のせい。それ以前。
じゃあ、自分たちを創り出した神のせい。そうだ、でも、もう一つ。
その神が創りだした、人間のせい。
この種族さえいなければ、自分たちが創られることも、こんな目に遭うこともなかったのだと。
この悪筆は、元からだったのだ。怒りや、表現できない憎悪が先走った文字。
何も知らず、ただそれを酷い字だと客観的に、楽観的に書き写すしかなかった子孫たち。
——偏見だ。
シェナが何度もぶつぶつと文句を言っていた言葉が脳裏に甦る。
否定しない。ただ、今なら、という言葉を、前につける。
——あの頃の自分は、自分たちは、その偏見を一片だって疑わなかった。疑うはずがなかった。
周りから見れば如何に偏見であろうとも、当人からすれば信じて止まぬ信仰そのもの。
自分の存在意義であり、生命を繋ぐ理由。人間や神を恨むことでしか生きる意味を持たない、哀れな生命。
最後の手記を書いた時点でも、その思想は変わらぬまま、憎悪のみを増幅させた。
チェルスは茫然とした思いをぐるぐると回らせることしかできなかった。
かたかたと無機質になる奥歯の音が、再び誰かの声にかき消されてゆく。チェルスは手記を閉じた。
一冊分開いた本と本の間に埋め込んで、早急にその場を離れた。がつ、がつと重い足音が地面を哭かせた。
最後に呼んだ一文を反芻する。短い文章の中に詰め込まれているだろう感情が頭を締め付ける。
火山の中へと足を踏み入れる。相手の実力も計り知ることのできぬ無謀で単純な魔物たちを、
ある意味で自分たちの同胞である者たちを、無言のまま一閃して先を急ぐ。上がる息も、大きさを増す足音も、
全てが流れ落ちる汗と共に消えてゆく。なぁ、教えてくれよ。頂上に近付くにつれて、思いが先走る。
これは、この世界は、何なんだ。全てが創られたシナリオの上で動くのか?
誰かが考えた拙い物語の登場人物を何も知らぬまま演じる者で埋め尽くされているのか?
助けてくれ。…わたしに、どうしろというんだ。なぁグレイナル、
お前なら、一体どうするんだ…? 何故、お前は——…。
何度も何度も、あの短い文字の羅列が脳内を不規則に飛び回ってゆく。
完全に否定しきれない、けれど、どちらかといえば咎めてしまう、あの言葉。
“——何を恨めばいい? …天使か、神か、人間か。
私に、彼女に、こんな先を与えた運命か。
何もできないまま終わる? じゃあ、私は、何のためにここまで生きてきたのか。
下手な言葉で羊皮紙に書いて、それで落ち着けるほどもう弱くない。
このままただ無機質に、意味のない生命線上を歩かされるくらいなら、
———私は、 ”
【 ⅩⅤ 真実 】 ——完。