二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.484 )
日時: 2013/11/04 01:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)

 ——ちょっと待て。何だこれは。

 急いで、チェルスは更に頁を戻した。
食い入るようにとある言葉を探す彼女の目は、まるで鼠を睨めつける猫そのもの。
否、それ以上の緊張と、焦燥を、綯交ぜにした異様な色を放っていた。

 既に日は高く、時折誰かのあげる叫び声がくぐもって聞こえてくるが、
正直なところそれに気を使えるほどの余裕はない。一心不乱にめくり上げ、
ようやく見つけた一文を、じっとりと汗ばむ指でなぞる。

 ——彼女にはいなかったのだ。神や、天使や、同胞や——人間への、
偏った嫌悪を取り払ってくれた、アギロのような存在が。
 背中に張り付いているだけでもう何の意味もなさない翼。
閉鎖された土地で、閉鎖された生活を送らねばならない不満。
何故、こんな目に遭う。自分たちを追放した天使のせい。それ以前。
じゃあ、自分たちを創り出した神のせい。そうだ、でも、もう一つ。
その神が創りだした、人間のせい。
この種族さえいなければ、自分たちが創られることも、こんな目に遭うこともなかったのだと。
この悪筆は、元からだったのだ。怒りや、表現できない憎悪が先走った文字。
何も知らず、ただそれを酷い字だと客観的に、楽観的に書き写すしかなかった子孫たち。

 ——偏見だ。
 シェナが何度もぶつぶつと文句を言っていた言葉が脳裏に甦る。
否定しない。ただ、今なら、という言葉を、前につける。

 ——あの頃の自分は、自分たちは、その偏見を一片だって疑わなかった。疑うはずがなかった。
周りから見れば如何に偏見であろうとも、当人からすれば信じて止まぬ信仰そのもの。
自分の存在意義であり、生命を繋ぐ理由。人間や神を恨むことでしか生きる意味を持たない、哀れな生命。

 最後の手記を書いた時点でも、その思想は変わらぬまま、憎悪のみを増幅させた。
チェルスは茫然とした思いをぐるぐると回らせることしかできなかった。

 かたかたと無機質になる奥歯の音が、再び誰かの声にかき消されてゆく。チェルスは手記を閉じた。
一冊分開いた本と本の間に埋め込んで、早急にその場を離れた。がつ、がつと重い足音が地面を哭かせた。
最後に呼んだ一文を反芻する。短い文章の中に詰め込まれているだろう感情が頭を締め付ける。
火山の中へと足を踏み入れる。相手の実力も計り知ることのできぬ無謀で単純な魔物たちを、
ある意味で自分たちの同胞である者たちを、無言のまま一閃して先を急ぐ。上がる息も、大きさを増す足音も、
全てが流れ落ちる汗と共に消えてゆく。なぁ、教えてくれよ。頂上に近付くにつれて、思いが先走る。
これは、この世界は、何なんだ。全てが創られたシナリオの上で動くのか?
誰かが考えた拙い物語の登場人物を何も知らぬまま演じる者で埋め尽くされているのか?

 助けてくれ。…わたしに、どうしろというんだ。なぁグレイナル、
お前なら、一体どうするんだ…? 何故、お前は——…。


 何度も何度も、あの短い文字の羅列が脳内を不規則に飛び回ってゆく。
完全に否定しきれない、けれど、どちらかといえば咎めてしまう、あの言葉。





“——何を恨めばいい? …天使か、神か、人間か。
 私に、彼女に、こんな先を与えた運命か。


 何もできないまま終わる? じゃあ、私は、何のためにここまで生きてきたのか。



 下手な言葉で羊皮紙に書いて、それで落ち着けるほどもう弱くない。
 このままただ無機質に、意味のない生命線上を歩かされるくらいなら、












 ———私は、                                     ”






















            【 ⅩⅤ 真実 】  ——完。