二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.493 )
- 日時: 2013/12/18 21:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)
【 ⅩⅥ 】 仮面
1.
「…よし、まずはお前らよく聞けー」
「…何のキャラ気取ってんだ、お前は」
時刻は後蛋白石。半半時を少々過ぎたあたりになる。
空からは時折、岩漿が膨れて消える音が降ってくる。地面からは一心に小さな虫たちが
恋人募集の鳴き声を上げる。しかしそれらは大した音量ではなく、里の者は意にも介さず
竜への祈りを済ませたのちに床へ着く。どこを見ても夜の陰がひっそりと息をひそめていた。
ただ一点——里長の住む家の中を除いては。
「何キャラって、マイレナキャラ?」
「知るか。さっさと話せ」
「はいはーい」
ひんやりと涼しさを体感させる石壁にもたれかかったマイレナは、
呆れた眼と真剣な眼とその他諸々を計十個分受け、両手を広げた。
「まず、マルヴィナとシェナ」
「…」「はい」
何を言われるかはわかっていた。当然だ、自分たちから尋ねたのだから。
その時得られなかった答えを今話してくれるのだろうとは、初めから想像していた。
「…帝国ではね。思いっきし、暴れていーよ」
しばらくの間があった。というよりかは、誰もがマイレナの次の言葉を待っていた。
が、一向に再び口を開く様子はなく、満足げに笑っているのみだった。シェナが眼をしばたたかせる。
「…えーと、」
「はい何? 質問?」
「質問って言うか…それだけ? 理由は?」
えー理由いるのかよーといういかにも気だるそうな言葉が返ってきた。いや当り前だろう、と即座に返答する。
前から聞いていたように、帝国にはびこる兵士はほぼ“霊”だった。
そうなると、彼らが攻め込むには不都合がある。言うまでもない。マルヴィナとシェナは“霊”だ。
さらに言えば、チェルスとマイレナもである。“霊”が一気にその命を落とした時、
関係のない“霊”までその存在が消えるということを話していたのは本人たちだ。
今から帝国へ攻め込むということは、“霊”を一気に葬ることだといっても間違いではない。
だがそうすれば、影響が出るのはマルヴィナたちもである。自分の存亡がかかっているのに、
暴れていいよ、の一言ではいそうですかと片付けられるはずがなかった。
「行きゃわかるが」説明を代わったのはチェルスだった。「あそこには一種の結界が張ってあるんだ」
曰く、それは皇帝ガナサダイの魔力によるもの。その中ではたとえ“霊”が命を落としたとしても、
巻き添えを喰らうことはないらしい。何それそんなこと可能なの? というシェナからのツッコミは
とりあえず流した。
「ほら、やっぱさ、帝国じゃん? 他の国に戦けしかけるようなところじゃん? 絶対内乱とか起こると思わない?」
「あ…」キルガが声をあげた。
「兵士同士で争いが起きて『消えた』としたら、その影響が広がって
国全体の兵士たちが消えてしまうことになるのか」
「ハイ正解。満点」マイレナが指を鳴らした。
「あー成程ね。帝国のためにやったことが、私たちにも吉と出た、と」シェナがようやく胸をなでおろした。
同時に、手加減する必要のない戦いに、強くて危険な闘志をその眸に取り戻した。
「そゆこと。…あ、でも、一つだけ。…てか、作戦だけど」
ようやく出てきたもう一つの本題に、四人は表情を引き締めてマイレナを見た。
帝国との戦に慣れた二人に従った方が良いとは全員一致の意見だった。
「あんたらは、幹部だけ潰していきな。——ていうのも」
説明を終えようとして、再び説明を要求するような空気に、マイレナは早急に言葉を繋げようとした。
が、その前にチェルスがそれを遮る。驚きと訝しみに、それぞれはチェルスに視線を転じた。
夜陰に包まれた深海の眸は、どこをも見ていなかった。
ただ、これ以上の説明を妨げることにはかわりないようだった。
「…まー、いちいち目的以外のものと戦って体力を浪費して挑めるほどやわな奴らじゃないからね。
悪いけど従って」
「…雑魚はわたしらが片付ける」チェルスは簡潔に呟き、「以上だ」と締めた。
まさかとは思っていたが、どうやら本当にこの二人が自分たちと別行動をとることになるらしい。
仲間の力に不安を持っているわけではないが、それでも万が一ということがある。
二人の言う幹部を潰す、というのは間違いなく、三将軍の残り二人と国の主本人の首をとることに他ならない。
さらに言えば、“霊”を蘇らせるほどの力を持つ何某とも。
だが、あの時——“強力の覇者”との戦いでは、最も守りが硬いはずのキルガが命を落としかけたほど。
三将軍の強さは伊達ではないと、思い知らされた。あのときはアギロとクレスがいての勝利。
残る将軍のうちゲルニックはゴレオンと違い、魔術師だ。シェナ曰く、全体攻撃の術を持っているらしい。
魔法防御に耐性の薄いのはマルヴィナとセリアスだ。戦術を組み立てる役割二人が倒れるのは
厳しいものがある。また、あと一人、“天雷の剣神”と呼ばれる将軍がいたはず。
見たこともない、会ったこともない、だが、そいつを知る三人は口を揃えて「三将軍最強だ」という。
チェルスでさえ引き分けたというほどの実力者。四人がかりとはいえ、戦い、
勝てる自信があるなどという言葉は自惚れ以外の何物でもないだろう。
だが、そんなことを口に出せるはずはなかった。不安など何度も感じた。
今更弱音を吐いたところでどうなるわけでもない。
最悪、だったらお留守番してな、の無情で正論である一言が返ってくるのは目に見えていた。
四人はそれぞれに肯定の意を行動で示した。おもむろに、立ち上がる。
眸に、決意の光を閃かせる。「——行こう」マルヴィナは呟いた。
初めて口を開いたせいで掠れた彼女の声は、これから起こる戦いへの緊張感を痛いほどに表していた。
生温い風が頬をなでる。デルフト・ブルーの空に、燃えて灰と化してゆく紅い塵が溶けて消えてゆく。
…最後の戦だ。天使界を、神の国を襲った、強大な力を持つ者たちと。
放っておけば、人間たちに被害を与える原因になる者たちと。
敵は大きい。敵は計り知れない。けど、それでも。
——あの空に消える塵のように、儚く消えてたまるものか。
深い底なしの青をしっかりと睨み付け、マルヴィナは里の外に魔法文字を描いてゆく。
目を閉じて、世界の中心、ダーマの神殿を思い描く。
正確には、その西にある蒼の神木。天の箱舟の待つ、あの決戦の搭乗口へ。