二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.496 )
日時: 2013/11/16 01:02
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)

 この世界を半周することなど、天の箱舟の力の前では短い時の間にできること。
 いやに高鳴る心臓を落ち着ける暇など与えず、彼らは再び不毛地帯へ降り立った。
 真っ直ぐと北へ向かって歩く途中から襲い掛かってくる魔物に、キルガとセリアスは実によく対応した。
後に待っているだろう激戦のことを考えるとあまり動きすぎてはいけないとは分かっていても、
そう言っていられない理由が彼らにはあった。

「…どう? 使い心地」
「…ちょっと難しいかな…重みが今までにない」
「同じくだ。…さすがに神器とか呼ばれるだけはあって」

 二人は、夕刻ラスタバに譲り受けた新たな武器を手にしていた。
 キルガ、『鬼神の魔槍』。素材不明、恐ろしいまでにその穂先は硬く鋭い。
その頂点は、阻まれることを知らない。何もかもを貫き、何もかもを裂いて抉る、
なまくらな腕では、却って装備者やその周りの者を傷つけるだけになるであろう、まさに鬼神、まさに魔槍。

 セリアス、『グレートアックス』。物理的攻撃にのみつかわれる斧には珍しく、
強い魔法的な力が備わっている。その重みと魔力は、その手を通じて精神をじわじわと侵し始める。
斬られた者は、尚更そうなるだろう。精神力の強いセリアスだからこそ、
その魔法に呑みこまれずに手懐けられる。

 そんな大それた武器を現里長が隠し持っていたことを全く知らなかった次期里長の賢者は、
一体、あの里にはあといくつの秘密が隠されているのだろうとある意味で不安に似た疑問を頭にかすませる。
全てはきっと、あの古代天使文字で書かれたあの書を読めばわかる…のだろう。…気が遠くなる話だ。
この戦いが終わったらチェルスに学ぶか最悪現代語訳してもらおう、と考える学問好きのシェナは、
本来『最悪』を使うべきなのが学ぶ方であることに気付いていない。
また、気になっている情報全ては書かれていないことを既にチェルスが身を以て知ってしまっていることも、
気付く由はなかった。

 帝国へ近づくにつれ、警戒は濃くなってゆく。
ぐるりと高い壁で覆われた帝国領の前へ辿りついたころには半時が過ぎていた。
チェルスの話した通り、紫紺の薄壁がまるで生き物のようにゆらゆらと揺れながら
城門からの出入りを塞いでいた。その、見るからに触れると害のありそうな物体に一同が顔をしかめる。
互いに目配せし、触れてみようかとしたところでチェルスに止められる。
触れられないから結界なのであり、また異物を感知したら無駄に兵士が寄ってくるだけだ。
入れもしない状態のうちから敵だけ増やして得することなど何もない。
 いきなり八方ふさがりかよとセリアスが呟くが、そのまま黙って待つように言われた。
チェルスが何を待っているのかが、いまいち——否、全く掴めない。
マイレナに訊いても肩をすくめるだけ。いよいよ四人が不審がった時、

 カッ、

 という擬音語が相応しいほどの強い光が、一筋空を裂いた。
 雷ではない。その光は曲がることなく彼らの目の前に降り注いだ。
キルガが一歩下がるよう促し、三人は従う。
四人とマイレナが手で目を覆う中で、チェルスだけは初めから目を閉じて突っ立っていた。
目が眩むほどの白い輝きは、紫紺を強く焼いてしばらくして消え去った。
ゆらゆら、相変わらず不気味に不規則に動く壁に、一部だけ通行路ができた。
視力を取り戻したそれぞれは、目の前に広がる帝国領の中の景色に唖然とした。

「…えと。入れる、のか?」
「あぁ」セリアスの確認にチェルスは一言で返した。
時間を無駄にするなと言わんばかりに歩を進める彼女に恐る恐るついて行く。
難なく入国に成功し、マルヴィナはたった今通り過ぎた壁の間を見た。…どうやら、閉じることはないらしい。

「…何かしたのか? チェルス」
「わたしじゃない」
 隣に並んだ子孫を一瞥してから、チェルスは答えた。「…女神が、な。これくらいなら力を貸せるって」

 まさか今、女神セレシアの名が出てくるとは誰も予測せず、特に天使三人組は過剰に反応して
慌てて口を塞いだ(セリアスはシェナに手刀を叩きこまれた)。

「ただ、これで侵入者の存在はばれた。…来るぞ」

 家らしい家のない、ルディアノを思い出させる廃墟と廃墟の間や陰に、たちまち膨れ上がる邪気。
マルヴィナが息をつまらせる。…多い。けど、こいつらじゃない。こんなにたくさんいるのに。
まだ、もっと大きな、もっと邪悪なものが近づいている。
    ・・ ・・・・・・・・・
 あぁ、奴だ。あいつがやってくる。

 空に魔法文字が浮かび上がる、異空間の割れ目が顔をだし、複数の陰を次々と吐き出してゆく。
マルヴィナの心臓が脈打つ。黒い鎧に身を包んだ兵士たちの中に、背の低い、
しかし間違いなく一番強い毒を放つ存在がいた。

 …会いたかった。決して家族や恋人に向けるような温かく望ましい再会なんかじゃない。
 血生臭い、殺意に溢れかえった感情。

「——お久しぶりです。“天性の剣姫”——」

 ——二人目の将軍、“毒牙の妖術師”ゲルニックが、そこにいた。