二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.503 )
- 日時: 2013/11/16 22:17
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)
レイピア
マルヴィナは無言で細剣に手をかけた。キルガは逆手に持つ槍を慣らすように振って空を裂き、
セリアスは腰を深く落とした。シェナは見慣れたその厚く張り付いた笑顔を睨み付け、息を静かに吐く。
「あぁ、何とも血の気の多い方々で。おしゃべりの余裕もないということでしょうか」
「お前と話すことなんか、ない」
「おや冷たいことで…まぁ、それなら対応していただかなくても結構、ただの独り言としてお捉えください」
踏み出そうとしたセリアスをマルヴィナが無言で止めた。
ぴくりと動いた黒鎧が、再び直立不動を保つ。キルガは目を細めた。
思った通り、黒鎧はゲルニックを守りに行くような動きを見せた。同業者の勘、奴らは盾だ。
周りにいる別の兵士たちがじわじわと取り囲み始める。——ほぼ、魔物のようだ。
こいつらはおそらく待ってはくれないだろう。本拠地を守る者どもが、別の者の話を訊けるほど
余裕を持って戦えるような奴らだとは到底思えない。さて、どうしようか。
「あー、それウチらも聞く必要ある?」
とても敵前とは思えない口調で、マイレナは右手をひらりとあげた。
左手で後頭部を遠慮なしに掻く。相変わらず乙女の所作は皆無だった。
武器すら構えていない彼女の余裕は一体どこから来るのかが甚だ疑問だが、恐らく歴戦の戦士の証だろう。
完全に舐めている様子を見せることが果たして最善の行為かどうかは定かではないが。
「…“賢人猊下”…」ワントーン低くなったゲルニックの声色は、
自分の思い通りにならない苛立ちと不満を含んでいた。呼ばれたマイレナが、やっ、と軽い口調で挨拶すると、
眉の間の皺を増やして瞳の色を変えた。
あぁ、流石の此奴もマイレナの前じゃあ仮面を被っていられないんだと、
見習いたくもない尊敬の念を抱かないこともない。
「…だから言ったのですよ…蘇らせるべきでないと…陛下も相変わらず頭の弱いことで」
あー、やっぱ作戦、筒抜けだったかー、と自分が復活した日を思い出す。
まぁ今はいいやと、マイレナは軽く見渡した。
先ほどより近付いている魔物たち。腐臭が立ち込め始める。次いでチェルスに目配せした。
腕を組んだまま彼女はマイレナを一瞥し、ゲルニックを見…そして、不敵に笑った。
「やるか」
「了解」
短い掛け声の後、二人は全くの同時に武器をとった。
何度も繰り返した行為、幾度となく経験してきた行動。
最早背中を合わせる必要などない。まだ、本気を出す程度じゃない。
「…“猫”、“賢人猊下”“蒼穹嚆矢”双方を黙らせよ。一太刀も浴びせられぬ雑魚は要りません」
目を細めたゲルニックの指示で、猫と呼ばれた魔物たちの歩みは速まった。
その光景を見ながらも、二人の顔に浮かぶ不敵な笑みは揺らがない。
「どうする? こいつらに花持たせて数太刀くらいは浴びてみる?」
「馬鹿言え。つきあってられるか。——じゃあマルヴィナ、後は任せた」
緊張に固まっていた子孫に言葉を投げかけたと同時にチェルスは動いた。
マイレナはチェルスの言葉に続いてよろしくー、とまた気の抜けた声をあげると、
同じように踏み出して一気に何体かを薙ぎ払う。二人の様子を半ば唖然と見守っているうちに、
いつしか入れ過ぎていた肩の力が和らいだのを感じる。開いたままの唇を引き締め、
一瞬だけ口角を上げてから、マルヴィナは再び薄っぺらくなった表情の将軍を見た。
…話したくなんかない。こちらが今更話して何にでもなるわけではない。
けれど、話を聞くだけなら、従ってやろう。相手を深く読み取っていくんだ。戦法の材料を掻き集めてゆく。
「…小賢しいものが増えたことで…馬鹿ほど扱いやすいものはありませんが
行動力のある馬鹿は稀にこちらの計画を覆してくるものですから、困ったものです」
誰が、とは言わないが、間違いなくその主語はマルヴィナだ。流石に本人である故にそれには気づいた。
激昂することに軽く期待を抱いていたゲルニックは、変わらぬ剣姫の様子に内心で
小さく感嘆の溜め息を吐いた。自分の師匠に関しては、あんなにも分かりやすい反応を示していたというのに。
「…いやはや。初めて会ったときは、まさかあなたごときがここまで力のある者だとは思いませんでしたよ。
不落の要塞をあぁもたやすく看破されるとは…一体どんな小細工を使ったので?」
「…別に。運が良かっただけだ」
「謙遜ですね。これでも褒めているのですよ?」
…掴めない奴。以前から薄々抱いていた印象が再び頭をかすめた。
奴は頭のいい男だ。物理や魔法的な戦法以外、即ち精神的なところをも戦術に組み込んでいるのだろう。
あまり長く喋りすぎないほうが良さそうだ。相手をある程度知ったら、攻撃を仕掛けねばならない。
ゲルニックはおもむろに四人に背を向けた。視線を阻むように盾の兵士が立ち塞がる。
幹部の視線が外れた瞬間、マルヴィナは仲間に合図を送った。キルガとシェナは兵士を頼む。
セリアスは兵士が一人落ちたら、奴を狙ってほしい。わたしも続く。
——三人が力強く頷いたのを確認して、マルヴィナも静かに頷き返した。