二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.518 )
- 日時: 2013/11/29 19:44
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: V4iGFt6a)
どこか好戦的な性格をしていそうだ——守りより攻めに向いているのではないだろうか?
実力者には変わりないだろう。さて、マルヴィナとどちらが強いのやら——
あまり関係のないことまで含めて相手を観察しながら細かく動いているうちに、
ふとキルガは違和感を覚えていることに気付いた。
自分の記憶の『何か』が、今感じている『何か』と一致している。
何だろう…? 一瞬逸れた思考の間を突いて、敵が動いた。キルガは目を瞠り、
槍を突きだして相手の動きを止めようと試みる。
が、黒鎧はその鈍重そうな見た目に反し俊敏な動きを以てそれを躱し、懐へ入る。
もう一度目を見開く間もなく、キルガは咄嗟に地面を強く蹴って後ろへ飛んだ。
崩れたバランス、見逃さない黒鎧。繰り出される追撃に、無駄な思考を取り払って反射神経だけで躱す。
少しずつ冷静さを取り戻したキルガは小さく舌打ちすると、今度は意図的に大きく後ろへ跳び、
避け辛い脛当ての辺りを狙って槍で払う。耳障りな金属音が短く響いた。
何のダメージにもなってはいないだろうが、どうやら僅かながらも当たったらしい。
黒鎧の猛襲が止まり、思い出したように冷や汗が額を濡らし始めたのを感じた。
まさか一瞬の隙を突かれるとは思わなかった。それは相手が相当集中力の高い者なのか、
それとも自分が分かりやすいのか——表情を隠す兜、購入した方がいいだろうか、なんて、
やはり別方向に行く考えは、もうある意味で病気かもしれない。
「——ふ、やはり、所詮は槍、だ」
嘲笑うようなその声が目の前の兜の中から聞こえたことを理解すると同時に、
落ちていた記憶のピースが音を立てて嵌った。
所詮、槍。どう考えても剣と槍じゃ優位なのは前述通り槍のはずなのに——
あぁ、そう思うのは、二度目だ。つい先ほどと、そしてその前は。
「しかし、腕は上げたようだな——“静寂の守手”。久方ぶりだ」
まだ、この強大な敵を知らなかった頃。
血を思わせる生々しい色を初めて目にした日。
まだ何も知らずに、黄金の果実を求め歩いていた日々、初めてであった、あの場所は。
——サンマロウだ。
サンマロウ、北の洞窟。
果実をよこせと言った、あの物語の登場人物めいた独特な話し方の、あいつだ。確か——…。
「———————…」
——沈黙が流れた。
(…名前、何だっけ)
ここで相手の名を言えば少しは奴の話し方に見合った、絵になるような一場面ができたのだろうが——
さすがのキルガも、何年ほどか前の出来事、ひょいと出会っただけの人物の名を覚えていられるほど
細かい点まで集中した生き方をしているわけではなかった。
おそらくはその『絵になる』状況をどこか期待していたのであろう、
黒鎧は明らかに不機嫌な素振りを見せた。反撃開始とばかりにキルガは、
相手の物言いたげな様子を無視して間合いを詰め、低い体勢から再び薙ぎ払って見せる。
応酬、だ。先ほどの彼同様、虚を突かれた黒鎧は、キルガよりはずっと遅い動きで、
剣を使いながらキルガの払いと突きの連続した攻撃を、しかし器用にも全て受け流して見せる。
伊達じゃないかと目を細め、自分自身の動きが当初より鈍くなる前にキルガは攻撃の手を一度止める。
「…貴様…」剥き出しの不機嫌さを見せる敵にキルガはいくらかの気分的な余裕を得た。
心理戦なら恐らく彼の方が上手だろう。ゲルニック相手だったらこの兵士は間違いなく負けるだろうな、
いや、だからこそ部下として動いているのだろう…あぁ、何でこんなに考えがずれていくんだ、自分は。
「物語めいた言動は好まない」ぬけぬけと、涼しい顔で言って見せる。「——失礼。名を失念したもので」
ちっとも失礼とは思っていない口調で言葉を繋げた。相手の隙を作るには、
相手の思惑を外すのが一つの手かもしれないと考えた結果からの言葉だが、
我ながら確かにこれは発言、態度共に失礼だと苦笑せざるを得ない。
案の定その損ねた機嫌を無理矢理平静に戻しているような黒鎧は、少々滑稽にもみえた。
「——ほう? 名を、な。…仕方あるまい。忘却など、誰にでもある話」
…一体何を気取っているんだろう…と、キルガはある種呆れに似た感情を抱いた。
人の性格をとやかく言うわけではないが、聞いていて居心地が悪い。確か以前サンディは、
戦闘後この兵士に『イタイ奴』という評価をしていたが、どういう意味なのかはよく知らない。
「再び申そう。我が称号は“高乱戦者”、名を」
「あ、シダードだ」
思い出したキルガは咄嗟に口に出してしまい、その後にあぁやっぱり失礼だった、
相手が敵で良かった…のかもしれない…と一つ反省する。
再び描いていたであろう一場面をすげなく破壊された戦者は、いよいよその手に持つ剣の柄を、
亀裂を走らせんばかりに握り込む。反省しているとはいえ、ごめんなさいと謝る気はさらさらない。
寧ろ相手の乱れた感情にキルガは心中で不敵に笑うと、再びその隙を狙って槍を振りかざした。
漆千音))ザ・ムードクラッシャーキルガ