二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.53 )
日時: 2013/01/18 23:21
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

        2.





 べクセリア、西の封印の祠にて——
 四人は、守りを固めているかのように立ちはだかる死者の霊や
実体のない魔物たちを次々と打ちのめしていった。
「かなり荒っぽいけど、昇天してもらうよっ」
 マルヴィナが鮮やかに剣で薙ぎ、
「昇るのかなぁ?」
 シェナが弓の狙いを魔物に定め、
「後ろ危ないっ」
 キルガが盾で攻撃を弾き返し、
「さすが聖騎士」
 セリアスが飛んだ血飛沫を拭う。
 ルーフィンは一人呆気にとられた。何なんだこいつら? という言葉が顔に書いてある。
「で、壺はどこだ?」
 マルヴィナが戦いの手を止めないまま、ルーフィンを振り返る。
実に危なっかしいが、マルヴィナは余裕の表情である。
「あの部屋の奥が怪しいな。そこじゃないか?」
「…あ、あぁ、恐らくは。ただ、この調子じゃなかなか行けなさそうですね…」
「…嫌味か?」
 マルヴィナは剣を振ったまま、ちっ、と舌打ちした。



 半時が過ぎる。
 ようやく扉の前までたどり着いた一行、扉が開かないという事実に一気に脱力した。
「待て待て。ありかこんなん」セリアス、
「実際ここにあるのよねぇ」シェナ、
「扉開けるキーワードかなんかないわけ…?」マルヴィナ、
「いやそんな都合の良い——あった」キルガ。
「「は?」」マルヴィナとセリアスが同時に問い返した。
 キルガが目ざとく見つけた石碑を見る。古めかしい文字が書いてあった。
マルヴィナとセリアス、キルガでさえその文字に首を傾げ、シェナが覗き込む。「あぁ、古代文字ね」
「古代文字…」
「そう。ちょっとなら読めるんだけど…んー…むー…」シェナが悩み始めた。
「二世代くらい前の言葉ね…っていうか三人は読めないの?」
「一世代前の言葉なら分かるんだが」キルガがいい、
「生憎人間界に係わり始めたのはつい最近で現代の言葉しか」マルヴィナが首を縮め、
「俺には聞くな」セリアスは逃げた。
「えー? なになに? ベンキョー? 寝よっ」サンディは例外すぎた。
 シェナは肩をすくめ、石碑を改めて見た。
「えーと…賢者…? 起きる、って単語と…同じ単語が二つあるわね…文法が同じだし——対句かしら」
 マルヴィナとセリアスが半歩下がっているように見えるが気のせいか。
「…興味深いですね、この祠は」と、いつの間にか離れていたルーフィンが戻ってきた。
シェナがいきなり振り返る。その手があった、と言うような晴れ晴れとした表情になって、
「あ、ルーフィンさん、」
 要件を言うかと思いきや——
「後ろ。ミイラ」     ・・・
 振り返りって、眼鏡越しにそいつを眺め、セリアスが慌てて横ざまからミイラの魔物を吹っ飛ばす。
「イヤ呑気に言ってる場合じゃないだろ! 呑気に観察してる場合じゃないだろ!」
「で、本題だけど」シェナの完璧なスルー。マルヴィナが苦笑しながらセリアスの肩を叩いた。
「はい、ルーフィンさん出番。この文字読んで」
 使えるときに使うとはこういうことを言うのか。
「僕ですか?」
「あなた以外にどこにルーフィンがいるのよ。
どうせこの先も調査するんでしょう? さっさとキーワードを読みなさい」
 やるな、シェナ。と、口中でマルヴィナ。寝るとか言っておきながら寝ていなかったサンディは、
おおっ、となぜか感心していた。


 さすがは考古学者、古代文字はしっかりと頭に入っているようだった。

       『 二人の賢者の目覚めし時
                  赤き光と蒼き光は蘇る 』

 ルーフィンの読み上げた石碑の内容に従い、二人の賢者を探す。
ここにシェナという賢者がいたが、それは『職』であるため、まずないだろうと意見は却下された。
「…今思ったんだけれど」マルヴィナが、探索しながら呟いた。
また勝手にどこかへ行っていないかとルーフィンの存在を確かめ、言う。
「ここって鍵がかけられていたはずだろ? なんで魔物なんか生息しているんだろう」
「え。…んー…ビョーマが次々と魔物を生み出しているとか?」
「やな病魔だなオイ」
 セリアスが呟き、キルガが苦笑すると。
「はいは〜い。マルヴィナ、賢者“あった”よん」
 パタパタ飛び回っていたサンディの導きで、何とか一同は二つの賢者像を見つける。
 静かにたたずんでいた賢者の像、手中に収まった赤と蒼の宝玉。手を触れる。
光が放たれ——“目覚める”。
 祠が揺れた。二つの宝玉の光が消えたころ——閉ざされた扉は、開いていた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.54 )
日時: 2013/01/19 21:45
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 壺を見る。
 今は開いた閉ざされた扉を、ルーフィン、セリアスとマルヴィナがほぼ同時、
シェナ、キルガの順にくぐり抜ける。
「あー…壊れているな、やっぱり。…どう? 直せそうか」
 マルヴィナが病魔の気配に気を遣いながら、ルーフィンを見た。様子は変わっていない。
「ええ。予想していたより割れた部分が少ないですからね」
 言ういなや、ルーフィンは白衣の至る所から、見たこともないような謎の道具を出し始め、
散らばった破片を拾い集める。戦いに関しては動けても、この先は何も手を出すことはできない。
やることのなくなった四人はひとまず顔を見合わせた——その時だった。


「われヲふうジこメヨウトスルものヨ…ソノすべテニわざわイアレ…!」


「——っ危ない!!」
 ツボの破片に集中していたルーフィンの後ろに突如現れた影に、キルガが反応した。三人も同じだ。
「来たなっ」
 マルヴィナが真っ先に剣を構える。すぅ、と息を吸い、現れた病魔との距離を一気に縮めた。
 病魔の気がルーフィンからそれる。三つの目が、ぎょろっ、とマルヴィナを見据えた。
だが、彼女は怯えない。怯まない。もう、慣れてしまった。必要なときには躊躇わない、その思いに。

(もらった!)

 マルヴィナは剣を、勢いをつけて病魔に深く突き刺した。——だが。
手ごたえは、無かった。
 軽い。何かを刺した、という感触が、ない。まるで、空気を相手に、剣を刺しただけのよう——
「マルヴィナっ!」
「えっ? ——なっ!」
 マルヴィナはギクリ、とした。前にいたはずの病魔が、後ろにいる。驚いている暇はない。
だっと駆け出し、その場から離れる。
「な…!? 確かに、刺したはずなのに…!」
「効かないのよ!」シェナが叫ぶ。「あいつは病魔、本来存在するはずのない魔物なんだわ」
「どういうことっ?」
「だから、あいつには実体がないの。成分で構成されたもの——エレメントなのよ!
だから、どれだけ戦っても、あいつは倒せない。封じることしかできないのよ!」
「そっ…そんな!」マルヴィナが病魔を見上げた。
「どうすればいいんだ!? これじゃ、またいつか同じことが」
「てか、その前に、どうやって封じ込めるんだよ? 弱らせることができないってのに、一体」
 セリアスの呟きに、シェナは少し考え込んでから——答える。
「…浄化、かしら。実体のない魔に効くのは死霊と同じ、聖、光、その類。
…呪文勝負になるかもしれないわ」
「それしかないのか? 俺らじゃ手出しできないじゃないか」
「何か一発で弱らせる方法はないかしら…弱点が…」
 病魔は暴れる。動く。ふしゅふしゅと、嫌な音、嫌な色を伴って、気体が吐き出される。
「…っ!?」
 それは、甘ったるい臭いのする気体だった。
完全に不意を突かれ、かつ一番近くにいたマルヴィナが、ふら、とたたらを踏む。
そして、いきなり、倒れた。
「っ!」
 キルガ、セリアス、シェナはとっさに口を手でふさぐ。気体には昏睡効果があったのだ。
病魔はにへらと笑うと、昏睡したマルヴィナに向けて、手を振り上げる。
「っさせるか!」
 傷を負わせることができなくても、マルヴィナから病魔を遠ざける。
それを目的として、セリアスは病魔に斬りかかる。



 …その時、気付いた。
病魔へ痛手を負わせる、その方法を。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.55 )
日時: 2013/01/19 21:48
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

       ——ざっ!



「んなっ!?」
 とびかかったセリアス自身、驚いた。
 全くダメージを与えられなかったはずの病魔が…今、確かに、悶えた。
「…え? いまの、実体?」
 セリアスは手ごたえを感じていた。気付いた。
 病魔は精神体だ。だがそれは、攻撃を受けない代わりに、こちらを傷つけることもできない。
 攻撃をするために一瞬でも精神体を実体に戻すというのなら——こちらが攻撃する好機は、
病魔の攻撃のその一瞬。一番確実なのは、カウンター攻撃だ。
「……くそっ、マルヴィナ…起きないぞ」
「…仕方ない。——奴が攻撃をする…実体に戻る機会を作る。攻撃は任せるよ」
 キルガの言葉にセリアスが頷こうとして、その言葉の意味に気付く。
「…待て。それ、——囮になるってことか?」
「あぁ」あっさりと言われる。
「冗談じゃねぇ、そんな危険なこと任せられるかよっ」
 言うと思った。だからあえて、はっきりと“囮になります”と言わなかったのに。
「それ以外の作戦を考えている暇はない。なるべく早く終わらせる必要があるんだ。…それに、僕は」
 キルガは静かに、槍を構える。意識を集中させ、しっかりと両足立って、言う。
「——聖騎士だ」
 聖騎士——すべてを守りにかける、博愛の騎士。
 これ以上被害は出したくない。ここにいる仲間と、ルーフィンを、守ること。それが、今のキルガの使命。
 言い切られたその言葉に、セリアスは言葉に詰まる。その間に、キルガは走った。
シェナがふっとため息をつく。「必死なのよ、キルガだって」
「分かってるよ」セリアスは答える。「すぎるほどにな」
「ま、任されたんだし——マルヴィナ心配なのもわかるけど——」
 シェナは複雑な表情をするセリアスを見る。そして、そんな戦士に、一言で気を奮い立たせた。
「——行くわよ」
「——あぁ」
 二人は集中する。





『…どう思う? 眠りに就いてしまったけれど』
 何かの、声がした。だが、誰も聞こえない。誰も気付かない。
『どうって…どー考えても、まだピンチじゃないっしょ』
『…まぁ…そうよね。無駄に“チカラ”を使うわけにもいかないし…』
 二人分の声だ。だが、やはり誰も聞こえていない。誰も気付かない。
『せめて、ブルドーガ戦の時みたいなヤバさがないと、動けないわな』
『えぇ。でも、油断は禁物だわ。危険になったら、“チカラ”を使うわよ』
『言われなくてもわかってるって。——死なせるわけにはいかないってこともさ』
 …声は、一度途切れた。だが、それでも、誰も気付かない——





「…………っだぁぁああっ!」
 セリアスが叫ぶ。
「っイオ!!」      イオ
シェナが気合を込めて空爆呪文を唱える。
キルガが身を鮮やかにひるがえし、“実体”に戻っていた病魔は再び悶えた。
「いける! ——ルーフィン、調子はどうっ!?」
「あと少し時間がかかりそうです。思ったより複雑でしてね…」
「——冷静に言うなっ」
 こっちは必死なんだっ、——と言おうとしたときに、病魔がのけ反った。
びくっ、として、セリアスは発言の機会を逃したということなのだが。
「…心臓に悪いわねっ」                        ドルマ
 同じくシェナもびくりとしたらしく、無駄に緊張させてくれたお見舞いに闇固呪文を唱えかけて
既に“精神体”に戻っていることに気付き舌打ちする。
「割と弱まったわ、あとはほとんどルーフィンを待つだけなのに…」
「キルガ、もう囮になる必要はない! あとは奴の攻撃に気を付けるだけでいい。
このままの状態で、あとは封印されるのを待——」


 セリアスが叫んだ、その時。
 病魔が、思いもよらぬ行動をした。

「っ?」

 今確かにそこにいたはずの病魔が——いない。
 消えた? いや、そんなはずはない。嫌な気配が、まだずっとしているのに——何処へ——

「あそこっ!」

 シェナが真っ先に気付き、指差した先は、マルヴィナのいる位置だった。
深い眠りについたマルヴィナは、目の前に病魔がいても、全く起きる気配がなかった。
「…まずい!」
 病魔の手が振り上がる。
残された力を使って、一人でも多く道連れにするために——病魔は、マルヴィナを狙う。



「っマルヴィナっ!」




 その叫びが、止まった。
 マルヴィナを包み込んだ、青白い光を見て。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.56 )
日時: 2013/01/19 21:51
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「っ!?」

 マルヴィナを包み込んだ、“光”——
それは、マルヴィナの腰に吊るされた、リッカから譲り受けたあの
使い物にさえならなさそうな剣から発せられたもの。
 青白く、神々しく光る。昏睡状態だったマルヴィナの身体が動いた。
ゆっくり立ち上がり——開眼する。驚愕の視線を受けている。
マルヴィナは一瞬呆けたように辺りを見渡し、そして気付いた。
「っ」
 今、自分が、するべきことに。

 目の前に病魔、一対一。相手は固まっている。
病魔でも、驚くのか? いや、違う。この止まり方は…!

(今、)

 マルヴィナは本能的に、剣を手に取った。
光の消えたあの剣は、前より若干綺麗になっていたものの、やはりまだ使えそうになかった。
 病魔の焦りが見える。動けない。動かないのではなく。何かに、止められているように。

(——っだ!!)

 もう、躊躇う感情はない。人を苦しめ、嘲笑う魔物に、天罰を——マルヴィナは叫ぶ。剣を振る。


そして——

           ——斬る!!




〈 —————————————————————— 〉





 病魔が叫ぶ。人間の言葉では表せない、断末魔の、叫び。
「…っ治りましたよ!!」
 ルーフィンがようやく口を開く。四人は頷いた。全員で、意識を集中させる。
          トコシエ
「悪しき魂よ…再び、永久の眠りにつけ!!」

 示し合わせたわけではない。だが、四人も、ルーフィンも、導かれたようにそう叫んだ。
 病魔が——


 耳障りな声で、叫びながら———




 封印された。







「————————っ」
 息を吐き、剣を収める。ほっと胸をなでおろす——その時だった。
 どくん、と。
(…な…また…?)
 戦いは、終わった。
 だが、マルヴィナの心臓が、その瞬間…脈打った。嫌な感じに。
 マルヴィナは知っている。この脈打ち方、普通なら絶対にありえないこの打ち方を。
(イシュダルが死んだときと…レオコーンが昇天した時と…同じだ)
 その時も、マルヴィナの心臓は脈打った。
誰にも言ったことはなかったし、あのときはそう気にもしなかった。
(…一体、何…?)
「——おー、倒したねマルヴィナ。とちゅーでグースカ寝ちゃったときは焦ったよ、マジで」
 いきなりサンディ登場。一体どこにいたんだ。
「で、天使だからだいじょーぶだとは思うけどさ、ヘンなビョーキもらってないよね? マジ」
「…多分」
 当たり前だろ、とは、言えなかった。病気? そんなはずはない。違う。
じゃあ、何だと言うのか。それとも…この三つは、ただの偶然か?
 ——まさか! そんなはずは——…
「ふーん。ま、いいケド。…ところでさぁ、アンタがねちゃったとき、ヘンな声したじゃん? あれダレ?」
「声…?」キルガ、セリアス、シェナが首をかしげる。マルヴィナの反応はなかった。
「したじゃん! どー考えてもピンチじゃないー、とか、ムダにチカラ使うわけにもいかんー、とか」
「………………」顔を合わせる。「してないよ、そんなの」
「うん。してないしてない」
「え? うっそ。…あー、コレだから天使モドキってヤッカイなのヨ。絶対したんだからね!!」
 サンディは叫んで、プイ、と横を見る。意見を曲げる気はないらしい。
「…………?」三人は首を傾げる。マルヴィナがそんな彼らに声をかけた。
「とりあえず、戻ろうか。…ルーフィンは?」
「あ、この奥。名前のない王様の墓調べるとかなんとか言ってた。で、先戻ってろってよ」
「結局そーなんのか…」
 マルヴィナはため息をついた。





 四人は町長に病魔封印完了を伝えるべくベクセリアに戻る。
 これで人々に活気が戻るだろう。
 救えなかった命へ一つ、償いができただろうか。ベクセリア守護天使は、そっと天を仰いだ。
大丈夫。これで誰も悲しまない。誰も泣くことはない——








 そう思った。
そう思っていたかった。



 エリザの亡骸を見るまでは。