二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.536 )
- 日時: 2013/12/17 23:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)
「…面倒くさい奴…」
キルガの口調が悪くなるのは、決まって不機嫌な時だ。
何分、普段からほぼ無表情であり滅多に表情を変化させないので、この表情に限らず
感情が顔に現れるのは珍しい事項であると言える。口調に現れるのは更に稀だ。
それほどまでに彼を苛立たせているのは、言わずもがなだ。
相変わらず芝居口調で大袈裟に話しかけてくる“高乱戦者”からは既に二つの傷を受けている。
いずれも、リーチ的な意味での有利さに油断していた自分の過信が原因だとは自覚済み。
ここは戦だ。相手の所為など何もない。全ての災いは、全て自分の責任なのだ。
しかし本当に相手は面倒な男だった。こちらの突きを見切り、懐へ入ってくる。
マルヴィナも時折、キルガの動きを見切って飛び込んでくることがある。
相手の隙を突いた彼女の攻撃はなかなか鋭く、どちらかと言うと躱せなかったときの方が多い。
さて、どうしようか。向かいくる剣を盾で受け止める。本当に人間かと疑いたくなるような一撃の重さは、
重装備のキルガの腕を痺れさせる。相手も相当成長したらしい。当たり前のことをいまさら考える。
強くなれるのは自分たちだけなんて、そんな夢物語があるはずがない。
相手が滅多に盾を使ってこない一方、キルガは新調したそれをいきなり
かなりの頻度で使うこととなっていた。斬撃を弾いたときにできる、相手の一瞬の隙と膠着状態を突くしか、
今の彼には攻撃のタイミングが見いだせなかった。だが、頭ではそう考えているというのに、
何分意識と身体がついていかない。ただの理想で終わってしまっている原因は、無意識の気の迷い。
敵国とはいえ人間——ただ人を滅ぼすために放たれた魔物とは違う。
生き方さえ違えば、ここで刃を交わすことなどなかったのだ。
かつて一匹の魔物でさえ命を奪うことに躊躇いを見せていた頃があった。
あれはまだたどたどしい連携しか取れなかった、ルディアノの地のこと。
セリアスからの一括は、心を鬼にするきっかけを与えた。
良いことだとは思わない。一方で、悪いこととも思えない。甘いんだ、と自分自身嘲笑したくなる。
けれど、甘えだと一言で言って払えるほど冷酷になりきることもできないのは紛れもない事実。
戦だ、と簡単には言っているが、言い方を変えれば人間殺しに過ぎない。
早くに手にした守護天使の称号は、その使命に反する自分の行動を、あらゆる方向から非難して咎めている。
あぁ、せめて、何かきっかけがあれば。人間と同じで、感情のある者の意識は簡単に変えられない。
考えを一転させることは、今まで信じてきたものや矜持を裏切り、見捨てることと同じ。
だから敵国の兵士は敵国のために戦うのをやめない。自分たちは一度生じた迷いを振り切れない。
だったら、無理矢理にでも、変わるきっかけを求めるしかないじゃないか。
——あぁ、本当に、自分は弱い。咎められるだろう強さを、今だけは欲しい。
——ふと、視界の端が紅く染まった。
ごう、という、周りの空気を取り込んで広がる炎の音と、聞き慣れた声が、不甲斐ない彼の意識を引き戻す。
自分の動きが止まったのを、他人事のように感じた。相手と距離をとっていたのと、
目立ちすぎるその炎に誰もが意識を引き付けられていたのが唯一の幸いだった。
あからさまに生まれた隙は、あの面倒くさい敵でなくとも突くことは容易かっただろうから。
間違いなく戦場にいた全員が、時間は違うとはいえその赤に一瞬の気を逸らされた。
それほどまでの炎の中心にいたのは、分かっていながらも最も信じたくない人だ。
絞り出すような声で彼女の名を呼ぶ自分の声を聞いた。
まるで自分を傍から見ているような妙な気分が、今のキルガを支配し続けていた。
自分の身に起きている展開についていけなかったのかもしれない。思い出したように
一気に押し寄せた焦りと怒りは、丁度今まさにきっかけを求めていた彼を突き動かすには充分すぎた。
失うのか。また自分は何もできないままに失うのか。
完全に冷静さを失った割に、彼の今とるべき行動を、意識より前に身体は忠実に再現した。
悲しいかな、自分自身が彼女のもとへ向かったとしても、できることは何もない。
救えるのは、回復呪文を操るシェナのみだ。
自分のすべきことは、今ここで、仲間を失う障害となる者を、殲滅することしかない——
僅かにも考えていなかったことを実行するように、まるで夢のように。
狂ったような敵の笑声が耳障りだった。敵の斬撃を受け止めるところまで同じ動きを繰り返した身体は、
次の瞬間、右の腕を突きだしていた。
…“高乱戦者”の背から、穂先が生えているのを、彼はしばらくの後に、見た。
熱を帯びた鉄が急激に冷まされて硬くなるように、無意識の激昂がいきなり冷めきった。
傍から彼自身を見ていた自分が、ゆっくりと戻ってくる。状況を整理しきった時に、
後味の悪さだけが一人ぽつんと残って、キルガは顔をしかめた。
ああ、ひとつ、終わったんだ。戻れない道の上を、踏み出してしまった。
「は…ははっ」
頽れた戦士は嗤った。「成、程…言うほどではあるようだ」
芝居がかった男の最期は、まるで物語のような、単純な思考に突き動かされた一撃によるもので。
力なく呟いた戦士は、誰に向けてか分からない罵声を最後にこと切れた。
大袈裟な言動を主とした男の、偽りない姿。それをもキルガは振りきって、次の戦場へと向かう。
——獣にしかなれないんだ。もう一人の自分が呟いた。
何も知らない日々が懐かしいか。戦うこともなかった、天使としての幸せの日々が懐かしいか。
こんな運命を呪うかい。こんな世界を恨むかい。
それでも、この道は、君自身が選んだんだ。もう、戻れない。
あぁ、知っている。もとから、もう抗えないことは知っていた。分かっているんだ。だから——
今はまだ、何も気づかないふりをした、獣のままでいさせてくれないか。
そうでないと、もう自分は動けないから。
回復の援護を受けた戦友のもとへ駆け寄り、容体を確認する。
大丈夫だと、息も途切れ途切れに呟いた彼女が、驚いたように目を瞠っていたのを見た。
青年はそれに気づかないふりをして、不気味なほど静かな気持ちで、視線を上げた。
…無知の潔白に戻れない悲しみに泣いたのは、一体どちらの自分だったのだろう。
応えのないまま、敵と共に感情をも殺した気がした青年は、ただ目の前の敵を見据えていた。
漆千音))鬱い Σ(( ゜д゜
あと何か分かり辛い((汗 いつか書き直そう…