二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.567 )
日時: 2014/07/01 22:22
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: D7i.SwLm)
参照: https://twitter.com/nightcat_shi

 闇の中で妖術師が目を剥いておもむろに膝をついてから前のめりにどうっと倒れるまでを、
賢者はただ何の感情もなく見つめるほかなかった。
訪れた静寂。あらゆるものの生気を奪い、無に帰した呪文は、
それこそ初めから何もなかったかの如く消え去っていた。

「…、あ」

 娘が絞り出せた言葉は何の意味も持たぬまま、地面に落ちて消えて行った。
その言葉を受け取った者はいない。受け取れた者はいない。
何とかしてかけるべき言葉を探そうとして、彼女の仲間は言葉を失った。

 ——敵の生気、無。この場の首領は斃れ、片指の動きすらもう見せなかった。
呆気ない終わりだったと表現するのが正しいのか、それともそれほどまでに
魔力が大きすぎたと表現するのが正しいのか。考えるまでもない、後者だ。
賢者はふらりと足元を不安定にさせる。疲労は大きかった。吸うこともままならぬ乱れた息が、
実際的な意味でも彼女に苦しみを与えた。
——あぁ、駄目だ。変われなかった。こころは知っていたんだ。自分は、聖じゃなくて——

 しゃきん——わざとらしい大きな音と共に、ルィシアが剣を収めた。「お疲れ様」短く、労いの様子を
一片も見せないまま彼女は言った。

「…なに、それ」

 シェナは静かに声を荒げた。「何よそれ…皮肉のつもり?」
「ひねくれてくださらなくて結構よ。そのままの意味」ルィシアは右足に重心を置いた。
左の足に体重の半分をかけることはまだ厳しいらしく、軽く浮かせながらの不安定な格好で話す姿は、
シェナに軽率だという思いを抱かせた。
もともとシェナは未だ最もルィシアを毛嫌いしているためというのもあるだろう。
自分こそ皮肉るように、シェナは自身へと共に嘲笑った。

「いいわよね、あんたは怯えなくていいんだから。自分が聖なのか闇なのか、
分からない不安になんて駆られないんだから!」

「おい、シェナ」セリアスが力なく咎めたが、もちろんシェナには聞こえない。「…分かんないわよね。誰にも」
「あー、やだやだ」うんざりしたように、ルィシアは無造作に額にかかった髪をかきあげた。「そういう不幸ぶる奴」

 シェナの右手が、ルィシアの胸倉を掴みあげる。鎧を纏っていないルィシアは肌を引っかかれ、
一度だけ顔をしかめた。潤んだシェナの眸が、冷めたルィシアの視線とぶつかる。
シェナは何も言えなかった。何が分かる、そう言おうともした。
一方で、分かってほしくなんかない、とも思う。何を言えばいいのか分からない。
掴みあげた手をどうすればいいのか分からない。ただ、どうしようもなく、悔しかった。

「——あんた、何でそういやがってんのよ」
「何でって、そんなの」
「ぶっちゃけなくても今の、充分な戦力じゃないの」

 唇は紡ぐ言葉を失い、シェナは今更気づいたように突然その力を緩めた。
ルィシアは皺になった衣服を気だるげになおし、一歩身を引いた。
 あぁ、今日はやけにおしゃべりだ——自分で自分に呆れながら、ルィシアはもうそれでもいいかと諦めた。
どうせもう会わないだろう。自分の役目は果たした。戦えぬ身で、未練も理由もないまま『生きる』意味もない。
これで去ってしまえばよかった。それでもかまわなかった。
なのに、更におしゃべりになってしまったのは、    ・・・・・・・・・・
その『賢者』という存在に親近感が湧いたからだろうか。会えぬ姉の姿を重ねて。

「負けた方が自分のこと受け入れてくれないんだったら、せめて勝った方は受け入れてやりなさいよ。
自分がどういう奴だなんて最後に決めるのは魔法じゃなくて自分じゃないの」

 確信を突いたその言の葉に、シェナはもう嘲笑えなかった。
こんなところで悠長に敵の話なんて聞いている暇はない、そう思うのに、
その脳は意地でも彼女の言葉を反芻し、その足は地面に張り付いたまま動こうという気配を見せてくれなかった。

 奥で鳴り響いていた金属音が消える。再びの不気味な静けさが舞い戻った不毛地帯は、生ある者の息遣いを鮮明に運んだ。
 完璧に論破されたと、改めてシェナは思った。途轍もなく、悔しい。
けれど正論に反する理由も言葉も見つからずに、シェナはようやくその足を動かした。
「——お喋り」言われっぱなしというのも気に食わなくて、せめてもの皮肉として一言呟いた。
返ってきたのはバツの悪そうな溜め息だった。

「…マイレナの受け売りかな」マルヴィナは独り言として、誰に聴かせるわけでもなく言いながら
改めてつま先を最終目的地へと向ける。「——みんな、体力は」主格らしいことを言おうとして、
突然肩を掴まれる。驚いて反射的に剣に手をかけ、振り返りざまに抜き放とうとして、止まった。

「——あんた今なんて言った?」音と気配を消したルィシアの姿だった。
「…なに、何か今日やけに係わってくるな」思わずマルヴィナは思ったことを素直に言ってしまった。
いいから答えろと言わんばかりのルィシアの表情はどことなく焦りのような何かを含んでいた。
この短時間で、今まで抱いていたルィシア像をどれだけ変えられたことかと頭の端で考えながら、
マルヴィナは再びその言葉を言う。

「いや、だから体力」
「ボケてんの? その前よ」あ、いつものルィシアでした、とマルヴィナはある種の納得と安心感を覚える。
 率直な意見にいちいち反応するのも大人気ない。マルヴィナは「…や、別に…」もう一度復唱する。
「…さっきの、マイレナの受け売り? って言っただけ」

 厭味の一つでも言われるかと思った。どうせあたしのキャラじゃないとか言いたいんでしょ、なんて
ひねくれた答えが来ると思っていた。「——なんであんたが知ってんの?」返ってきたのは、そんな震え声だった。

「いや、ただの想像——」
「何であんたが、その名前を知ってんのって——」

          ・・
「—————————ルイ」


 見当違いな答えを紡ぎ出したマルヴィナの声を遮ったルィシアの声を、また別の声が遮った。


 …本来今の世界にいるはずのない、正真正銘のルィシアの姉の声が。






  漆千音))なんだかんだ一か月かかってしまいましたゴメンナサイ。
    あと改めて急展開ゴメンナサイ。久々すぎて文章力落ちましたゴメンナサイ。
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