二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.583 )
- 日時: 2014/08/05 23:23
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: D7i.SwLm)
- 参照: https://twitter.com/nightcat_shi
声を失ったまま、ただ二人は互いを見合った。
そこにいるはずのない存在。生きていた時代はもうとうに過ぎたはず。
だというのに、目の前に立つ人物を疑いようもなかった。
「——ねぇ、さ、」
自分が違う時代に存在し始めたと知った時よりも、
闇髪の娘が『銀河の剣』を所持していると知った時よりも——
再び望まぬ生を受けさせられてから覚えた限りなく少ない驚きの中でも、
群を抜いてルィシアは驚いていた。マイレナもまた、その眸を開き、手足の動きを完全に封じていた。
唯一動いた口元は、らしからぬ、引きつったような笑みを作り上げていた。
その口からも、「あ、…はは」無理をしたような笑い声がこぼれ出た。
「…おっかしいなぁ。これ、全部夢? 冗談きついな——んぎゃ」
軽口をたたく姉の口元を、ルィシアは恐る恐る引っ張った。「はえんか。こあ」頬を引っ張られた
間抜けな顔は記憶にあった。「…なに。本物? ありえなさ過ぎて爆笑なんだけど」
「一人じゃ爆笑って言わないんでしょ?」
——確信、した。幾度となくかわされたパターン化した会話、淀みなき言葉運び。
下手な変装ができるはずもない、真似しようのない奇人変人だ。
確信した途端、かつて封じ込んだと思っていた感情の制御が解かれつつあることにルィシアは気づいた。
まずい、という焦りが呑み込まれてゆく。待て、抑え
「ルィ!」
いきなりの大声に、全てが引っ込んで代わりに再びの驚愕が支配する。「っん、で…」その声は震えていた。
「なんで、無茶して、無理して、変なとこ来て、どんだけ、どんだけ心配、
ふざけんなウチが一体どうやってどんだけどうしてこの馬鹿無事だったんだな! ばかやろ!!」
呆気にとられた妹は、ただの娘だったころから大きく変わってしまった妹は、
そんな滅茶苦茶になった姉の言葉に、忘れかけていたそのやり取りに、ふと頬がほころぶのを確かに感じた。
それは数百の時を超えた、たった一人の家族にのみ与えられる、穏やかな微笑み。
「——ごめんなさい」
言いたいことはたくさんある。聞きたいことはたくさんある。けれど、今はそんな時ではない。
あくまでもここは戦場。ひと時の安らぎは所詮ひと時。
だからこそ、彼女は待つことにした。『生きる』意味を、再び見出した。
ニッ、と、今度こそマイレナは笑った。風が吹く。
「速攻で片づけてやるよ」マイレナはルィシアの足を軽くつま先でつついた。
「負けられないな」セリアスが呟いた。「わかってたことだけどな」
「…そう、ね」シェナが頷く。
「…いいわよ。やってやろうじゃないの。——私を私にしたこと、たっぷり後悔させてやるわよ」やけっぱちな、
ただし自暴自棄では決してない声色で。
「そうそう、その意気。頼りにしてるぜ」セリアスはやはり、変わらない姿でいた。
「…そろそろ行ったほうがいいだろう」キルガが言った。「…のんびりしすぎるわけにもいかない」
頷く仲間たち。ここはまだ、入口。先はまだ長い。疲労は時の力で軽く回復させた。
チェルスは初めの位置、すなわち奥から動いていない。マイレナが振り返った。
チェルスへ、微妙な笑顔を向けた。彼女は肩をすくめた。
行こう。再びの緊張感を片手に歩き出した一行の中で、ひとり、
早くからずっと緊張感を帯びた表情をしていた者だけは動かなかった。
——まだだ。
どくん、脈打つ心臓。どく、どく、どく。警鐘を思わせる鼓動。
違う、まだだ、まだ終わっていない。来る。危険が、迫ってくる。
抱きたくない嫌な予感が包み込んで、彼女は、マルヴィナはぞくりと背筋を震わせた。
からからに乾いた喉。ゆっくりと眸が、動く。どくん、どくん、どくん。
——目を、見開いた。
視線が、そして、その鼓動が。
完全に、一致した。
「————————————、ぁっ…!」
脇を流れた、魔法の力。
生命を繋ぎ止める、死神に背を向ける呪文、すなわち、蘇生呪文。
誰へ? ——言わずもがな、だ。
「…調子に、乗せすぎた——よう、で」
その、たった一言が。一度落ち着いたそれぞれの心をざわめかせる。
斃したはずの妖術師が、血と泥にまみれた顔の中で、開ききった眸を一つ、
異様な光を放ちながら再び立ち上がっていた。