二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.62 )
日時: 2013/01/19 22:15
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

    —x中編Ⅰx—




    【 Ⅴ 】   道次





        1.





 はるか上空を漂う、天使の国——
 その、最も天に近い、世界樹の立つ場所。

「…長老オムイさま。そろそろ、お戻りになられては…」

 近衛天使が、世界樹に祈り続けるオムイに話しかけた。
「…うむ。それもそうじゃな…」
 オムイはいつもと同じように、ため息をつき、立ち上がる。
名残惜しげに、あるいは心配げに世界樹を見てから立ち去るというのは、毎回の事だった。
 だが。今回は、違う。
「…むっ…?」
「はい?」
 何かの音を聞き取ったオムイに、上級天使が聞き返す。だが、答えられる前に、近衛天使も理解した。
 突然何かに明るく照らされた空。聞き覚えのある汽笛の音。
「——なっ!!」
 つい、近衛天使のうち一人は、その名を呼んだ。

「——天の箱舟——!」

 天使たちは、驚きに顔を固まらせ、あるいは喜びに顔をほころばせる。
またあの悲劇がおこる気がして、顔をしかめる者もいた。
 オムイの表情は、安堵である。長老は呟く。「我々を、救いに来てくださったのじゃ…!」
 光の煙を伴い、あの日と同じ位置に、停まる。
 扉が開く。天使たちの視線が殺到する。
 光の向こうから現れた人影は、

 彼らの予想に反していた。

「———————な!? まさか、…マルヴィナっ…!?」

 ——無論、マルヴィナ。そしてそのあとから続いた——キルガ、セリアスだった。




 三人は長老の間で、横一列に並んだ。
「…それでは、説明してくれ。何が起こったのか…」
 オムイはようやく落ち着きを取り戻し、促した。
 翼も光輪もない理由は、天使界から“落ちた”ことにあるのか、それとも偶然なのかは定かではない。
その説明から始まり、天使のチカラを三人ともほとんど失っていることと、
人間界のあちこちで異変が起きていることなどをオムイに話した。だが、シェナのことは言っていない。
なんとなく、言ってはならない、言ってほしくない雰囲気を、去り際に伴っていたから。
 長い説明を終え、三人はようやく黙った。
「…そうか。ここを襲った邪悪な光は、人間界までも…」オムイは目を伏せ、見えない何かに祈った。
「お前たちも覚えておろう。女神の果実が実ったあの日——
光は雲を貫き、女神の果実はすべて人間界に落ちた。お前たちとともに」
 そしてオムイは杖をトン、と床につく。「…お前たちの他に落ちていった天使は、いまだ戻らぬ…」
 確かに、天使界は以前より天使の姿が少なく見えた。オムイの傍仕えの近衛天使も一人、見当たらない。
「そして、あの光の原因を調べるために、何人かの(天使でも数え方は“人”である)
天使が地上へ降りて行ったが…誰も、帰ってはこんのじゃ。まるで、皆何かがあったようにな」
 マルヴィナは背中に生じた寒気に震えた。はっと、下がりかけた顔を上げる。
「えっ、それでは、イザヤールさまは…!?」
 オムイにとってそれは、一番聞かれたくないことだったのだろう。
表情が曇った途端、マルヴィナは悟った。
「…その一人じゃ。イザヤールだけではない。キルガの師ローシャも、セリアスの師テリガンも…な」
 キルガとセリアスの顔色は、ほぼ同時に変わった。
「ともあれ、お前たちだけでも戻ってこられた…仲間たちと積もる話もあろう?
いろいろ済ませたら、世界樹で一晩祈りなさい。感謝の意を込めて…
もしかしたら、翼や光輪を元に戻してくれるかもしれん」
 その言葉を聞いた後、三人は敬礼して立ち去った。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.63 )
日時: 2013/01/19 22:18
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「マルヴィナ! 久しぶりだな!」
「キルガさん、おかえりっ!」
「おぅセリアス! 帰ってこれたって聞いて、あわてて来たぞ」
 マルヴィナは、仲間天使とハイタッチした。
同じ剣術を学ぶ男天使がほとんどであった。つまり、仲間の女天使はかなり少ない。
 一方キルガは、やはりというか一部の女天使に絶大な人気を誇って(?)いる。
少々距離が遠く見えるが、しっかりと彼の周りに集まっているという有り様である。
 ちなみに、セリアスは上級天使もしくは見習い天使の方に人気がある。
あの時世界樹を一緒に見に行った(行かされた)天使テルファもそこにいた。
「…しばらくしたら、世界樹に行こう。久しぶりだから、何かいろいろ話もしたいだろ?」
「あぁ、分かった」
「んじゃ、用事が済んだら、“星の扉”に」
 了解、と答えた後、多分セリアスが一番早く行くだろうな、と思ったキルガであった。



 マルヴィナの、先ほど言った通り数少ない友達の女天使の二人。
 長めのツインテールに天使界製の眼鏡をかけた少女がチュラン。
栗色の、ぼさぼさロングヘアーの勝ち気そうな少女がリズィアナ、通称リズィー。
他によく話す奴らと言えばあとは男ばっかりである。
特にチュランとリズィアナとよくいるのは彼女らの幼なじみアレク、フェスタ、ラフ、カルテ、リーラス、
…とそんなものだが、今回は関係ない話。
 チュランはイザヤールの幼なじみラフェットの弟子である。
リズィアナはイザヤールファンらしい。つまり実際にはそう関係なかった。
 ともかく、ラフェットの弟子、という立場から、チュランはラフェットに会うよう勧めた。
「最近石碑の前で祈ってばっかなんだ」チュランは言う。
「石碑…?」
「そ。イザヤールさんのお師匠様の石碑なんだってさ」今度はリズィアナだ。
「イザヤールさまの師匠? …あれ、そういえばわたし、聞いたことないな」
 それに何で石碑、と言いたげなマルヴィナに、チュランは呟くように答える。
「んー…その話するの、イザヤールさんがタブーにしちゃったんだけどね。
多分ラフェット様なら教えてくれるよ」
「だろーね。ずっとマルヴィナとイザヤールさんの無事、祈ってたから」リズィアナは二回頷いた。
「ね、ね、ラフェットさんてさぁ、どう見てもイザヤールさんのこと好きなんだよね?」
「「は?」」
 マルヴィナとチュランの声が重なる。
「…あんたいきなり何言ってんの…?」チュランが呆然とした顔のまま言い、
「そりゃそうだろ幼なじみなんだから」“好き”の意味を別方向に捕らえた(というかそっち方面しか知らない)
マルヴィナが首を傾げながら答える。
「…二人とも疑問詞なんだ…マルヴィナはともかくチュランならわかると思ったのに」
「「だから何が?」」
 再び重なった鈍感少女二人の声に、リズィアナは本気で脱力した。



 チュランの言うとおり、ラフェットは石碑の前にいた。
 マルヴィナが話しかけると、ラフェットは驚き、また喜んだ。
イザヤールが一緒でないことには、顔を曇らせていたが。

 そして、自分が祈っていた石碑に名を刻まれる天使のことを、
マルヴィナが何も言っていなくても語りだす——。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.64 )
日時: 2013/01/19 22:21
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 石碑に刻まれた天使の名はエルギオス。

 かつて大いなる天使と呼ばれ、またイザヤールの師匠だった。
「マルヴィナは彼の孫弟子ということになるね。カッコよかったよ、彼は。私も大好きだった」
 マルヴィナはへぇ…、と頷く。
憧れのラフェットが憧れる天使が師匠の師匠、何だこのややこしい設定は。
「彼はね、ある村の守護天使だったんだ。でも、あるとんでもない嵐の日——
不運にも彼は、人間界に降り立つべく星の扉を通った直後でね。
それ以来——天使界には帰ってこなかった」
「えっ」石碑からラフェットへ、視線を転じる。
「それ以来、その村には守護天使が誰も就いてなくてね。イザヤールもウォルロ村に行っちゃったっしょ。
だからそれ引き継いで、マルヴィナもウォルロ村守護天使になったわけだけど…
もし彼がそのままいたら、イザヤールもマルヴィナもその村を守護してたんだろね」
「…その村って」
「ごめん。名前忘れた」
 あっさり言って見せたラフェットだが、口調はやはり寂しげだ。
「…イザヤール、恐れてたんだよ。マルヴィナまで、もう戻って来ないんじゃないかってね。
人間界に降り立った天使はみんな戻って来ないし、
あいつにまで何かあったらまずいって思ったんだけど…ダメ。言っても聞かないんだよ。
あいつ、見かけによらず弟子思いだからさ」
 ぽん、とマルヴィナの頭に手を置く。そして、はにかんだ。「愛されてることで」
「あい…」
 マルヴィナは考え込む。思いついたのはエリザの姿だった。
(…よく分かんないな…何なんだろ?)
 首を傾げかけるマルヴィナの頭から手を放し、ラフェットは石碑をもう一度見る。
「イザヤール、きっと帰ってくるからさ。気長に待とうぜ。
あいつは諦め悪いから、かなり時間かかるかもしんないけどさ」
 いささか元気の戻ってきたラフェットは、そう言ってまた笑った。




 キルガの想像通り、一番初めに集合場所に来ていたのはセリアスだった。
待ちに待った世界樹との対面が嬉しいのだろう——ということは、
キルガに言われるまでもなく見え見えだった。
「あー、確かあの時セリアス、ここにいたん」
「言うな言うな言うなっ! いや反省してますマジです勘弁してくれっ」
「わたしが上級天使だったらそれは通用しないぞー」
「………………………………………………」
 完璧に黙らされた。


 …ともかく、世界樹に着く。セリアスはマルヴィナが初めて世界樹と対面した時のように、
その大きさ、美しさに数秒見とれる。
先ほど帰ってきたときはそんなにまじまじと見られなかったから、感動も大きい。
「すっげぇなぁ…柄にもないけど、なんか生命の神秘、って感じだな」
「たまには詩人だな、セリアス」
「いやぁ、それほどで——キルガ、それ褒めてんのけなしてんの?」
「半々」
「…さいですか」
 即答され、一気に脱力するが、世界樹を前に再び立ち直る。
「俺、もしかしたら天使界史上一番幸せなやつかもしんない」
「単純かつおめでたいことで」マルヴィナは笑って、世界樹の南側に立つ。
 キルガは東に、セリアスは西に。
それぞれ、左膝を地につき、右膝を立て、両肘を足につけない程度に下げて両手を組む。“祈り”を表す。
 そして、——祈る。



 神経が、集中し始める——







             —————————————……さっ…







 ——前に、何かの倒れる音を、キルガもセリアスも前から聞いた。
「っキルガ! マルヴィナがっ」
 セリアスの声に、キルガは目を開ける。祈りは、中断された。
だが、それは彼らにとって今はどうでもよかった。
マルヴィナが倒れている。そっちの方が重要だったのである。
「…マルヴィナ…?」
 彼女は、まるで眠るように倒れていた。顔が穏やかすぎる。息はしっかりとしていた。
 キルガは訝しげに首をかしげた。どう考えても、この眠り方は尋常ではない。
だが、なぜかこのまま起きないのではないかとは思わなかった。
「ダメだ。埒があかねぇ。一回、戻ろうぜ」
 キルガは頷く。マルヴィナを背負おうとして、


「——っ!?」


 結界に触れたような痛みを覚えた。何かにはじかれたように。
「…えっ」
「…マルヴィナ…? 一体、どうしちまったって——」
 答えは、なかった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.65 )
日時: 2013/01/19 22:24
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ———————美しい庭園だった。
 どうやらわたしは、眠っていたらしい。頭が妙にくらくらした。
 …ここはどこだ? 一言で言うとしたら神秘的、という言葉しか思いつかないそこに、わたしがいる。
けれど、うつろで、動けない。ただふらふらと、頭の重みに任せて至る所を眺めるのみ。


“ 人間は、この世にふさわしくない ”

 不意に聞こえたその低い声に、わたしはびくりと肩を震わせる。

“ 嘘をつき、平気で他人を貶める。そんな人間のなんと多いことか ”

 誰? 声だけで、圧倒されそうになる。

“ 私は、人間を滅ぼすことにした ”

 私のすぐ横を、赤い光がすごいスピードで通っていく。もう一度、ぎくりとした。人間を、滅ぼす——?
 ダメだ、と声をあげたくて——声が出ない。けれど、すぐにもう片方の横を、今度は青い光が通り抜ける——
 わたしの脳裏に、世界がうつった。赤い光が、世界に届くか、届かないか。
そんなところで、青い光が赤い光を止めた。二つの光が散った。お待ちください、と、綺麗な声が聞こえる。
頭に、連続して声が流れてくる。まるでせめぎ合うように、まるで先を争うように。

“ 何故…止めるのだ。人間たちをかばう必要などないではないか ”
“ 私は人間を信じます。まだいるはずです、清き心を持った人間が! ”
“ 邪魔をするな、————! ”

 声が一瞬途切れる。誰かの名を呼んだように感じた——

“ 私は人間を信じます ”

 悲しげな、綺麗な声がする。

“ 私は…身を以て、そのことを——— ”

 その瞬間、光がはじける。目の前が明るくなった。
それは、まぶしくて、暖かな、ひか———








 その瞬間、わたしは——
「っ!!」
 ——その瞬間、わたしは、

 マルヴィナは、目を開けた。

「マルヴィナ!」
 目に見えたのは、キルガとセリアスの二人。
「あ、あれ…ここは?」マルヴィナの呟きに、
「おいおいおいおおいおい、まさか記憶喪失ってことはないだろな!? わたしはどこここは誰とか言わなきゃ、…アレ?」セリアスが混乱し、
「セリアス、逆」キルガが冷静に指摘、
「あ、そうだ、わたしは誰ここはどことか言わなきゃ問題ない!」セリアス訂正、
「わたしはマルヴィナですか?」マルヴィナがちょっとボケてみて、
「聞くのかーーっ」どぉっと脱力するセリアス。ほぼ漫才である。
「マルヴィナ。大丈夫か?」
 最後のキルガの一言に、マルヴィナは頷いた。

「…何か、変な感じがする。…意識が別のところにあったような…」
「人間界で“夢”と言われるものか?」
「分かんないよ。見たことないんだし——」マルヴィナは頭をおさえて、
かぶりを振りかけて——はっとした。「って、あれ? 光輪は? …翼は——」
 マルヴィナが座り込んだまま、背と頭の上を確認(実際には見えなかったが)する。何もなかった。
「…戻らなかった? …いや、祈りを中断しちゃったからか」
「…多分」
「…そっか」
 溜め息をつき、ごめん、と謝る。“夢”の内容を、忘れないうちに話しておこうと思った。
そして、口を開いた——



———守護天使マルヴィナ、守護天使キルガ、候補セリアス…私の声が聞こえますか?


 だが、聞こえたのはマルヴィナの声ではない。無論、マルヴィナが発したわけでもない。
その声は、世界樹から聞こえた——
「…えっ? あ、あなたは…!?」
 言って、マルヴィナははっとした。先ほどの、綺麗な声。
今聞こえる声は、同じだった。

———今は名を語ることはできません。…一度人間界に落ちてもまたここへ戻って来られるとは、
   これも奇跡というべきでしょうか。…あなたたちに、お願いがあります。
世界に散らばった女神の果実…それを、全て取り戻してほしいのです。
   私のチカラを宿せし青い木が、あなたたちをいざなうでしょう

「…女神の果実…」
「青い木…?」
 三人は復唱した。

———守護天使マルヴィナ。あなたに、一つの呪文を授けます。
   転移呪文——名を、“ルーラ”

「る、—————っ!?」
 今度は復唱できなかった。
マルヴィナの周りに、あの眩しくて、暖かい光が生じる。
マルヴィナの中で、何かの封印が解かれたような感触がした。
 何かを身に着けた、そんな感触が——

———天使たち…どうか…果実…お願……し………

 …世界樹の光と声は、そこで消えた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.66 )
日時: 2013/01/19 22:28
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「…ど、どーなってんだ? 今の声、一体…」
 セリアスが変わらぬ体勢のまま、マルヴィナを見る。
「なんかマルヴィナにかなり期待してたみたいだけど」
「分かんないって。とりあえず、長老オムイさまにこのこと報告——」
「聞こえておったぞ、守護天使マルヴィナよ」
 別の場所から聞こえた言葉に、マルヴィナは立ち上がり、キルガは振り返り、セリアスは体勢を整える。
無論、長老オムイであった。近衛天使とともに、杖を片手に、しっかりと頷きながら。
まさか来ていたとは思わず、三人は慌てて敬礼した。それを制し、オムイは三人に命じる。
「…今のはきっと、神のお告げ。お前たちが、女神の果実集めを命じられたのならば従うのみ!
マルヴィナ、キルガ、セリアス。再び人間界へ赴き、散らばった七つの果実を集め無事戻るのじゃ!」
 ——託された使命。それは——
「はっ」

 その意味を、胸に刻みつけて。三人は、同時に了承した。
僅かにもずれることなく。




 長老たちを見送って、うわぁハイって言っちゃったけれどこれ超重要な仕事じゃん的な表情になってから、
セリアスはふと気づく。
「まった」
まさに箱舟へ向かおうとしていたマルヴィナとキルガは足を止めた。
「何?」
「運転士。箱舟の」
「あ」
 サンディである。
 彼女は、天使界についたいなや『テンチョー探し』と称してどこかへ行ってしまったのである。
テンチョー = 天の箱舟の真の運転士 であることにはしばらくしてから気付いた。
「………。とりあえず、行ってみない? 何か案が見つかるかもしんないし」
「…期待はしないでおく」
 その答えにマルヴィナはあいまいに答えつつ、トコトコ歩くこととなる。
「あいつワケわかんない時にいて肝心な時にいないんだからなぁ」
 いつもフードから後ろ髪をひかれる(別に未練が残って云々の意味ではない)マルヴィナは
皮肉も込めてそう言ったが、扉を開けた後のそこにサンディ張本人がいるのだからたまらない。
「うわぁぁっ」
 当然、マルヴィナは盛大に驚いた。思わず身を引いて、セリアスに背中がドン、と当たった。
ちなみに小揺るぎすらされていなかったが。
「うはっ!? な、何ヨ。アタシが何!?」
 いきなり驚かれたサンディは、原因も知らずそう答える。
「なな、な何でいんのっ!? アンタ『テンチョーサガシ』してたんだろっ!?」
 言われたサンディはその場で腕と足を組み、ぷぅ、とむくれる。
「しゃーないじゃん。あのオッサンいないんだし。なーんか人間界で行方不明っぽいのよねー。
でもテンチョー探さないとバイト代もらえないしさー。…正直探すの超メンドいんですケド」
 三人は顔を見合わせる。人間界?
「てゆーか何でアンタ達こそここにいんの? ハネもワッカもないから天使界追い出された?」
「阿呆」
「うっわセリアスにだけは言われたくないー」
「お前なぁぁぁぁ」
 この二人は相性が悪いのか? と考えるキルガ。
「…まぁいい。人間界に散らばった女神の果実を集めることになったんだよ。ちゅーワケで人間界連れててて…」
 マルヴィナとキルガが語尾に妙なものの入り混じったセリアスの言葉に反応し、彼を見る。
「かんだ」
「…………………………………………………………………………」
 シラけた空気が漂い、だがサンディがすぐに打ち破る。
「まっ、アンタらが人間界行くんなら、協力してあげてもいーヨ?
…でも、箱舟ちゃんまだ壊れてるっぽいのよねー。ちゃんと人間界に停められるのかあやしーんですケド」
「無責任な」
 セリアスが呟き、
「サンディ、青い木、見える?」
 マルヴィナが話を進めた。
「青い木? ——あー、うん、あるケド」
「そこに停められるはずだ」
「はぁ? つか何で知ってんの?」
 マルヴィナはそのままの表情で答える。
「何かさっき不思議な声が聞こえてさ。そこに行けって」  イザナ
「マルヴィナ?」キルガだ。「確かにあの声は、青い木が僕らを誘うとは言ったけれど、箱舟を停められるとまでは言ってないよ」
「…え? でも、停められるはず…」
 珍しく弱気な、だが少々にじむ確信の声に、キルガは首をかしげる。
「あー、グダグダメンドい! ちょいまち。調べてやんから」
「調べられるのかよ」
 だったら最初にそうしろよ、…とまではセリアスは言わなかった。



 箱舟が出発する。
 青い木に、確かに停められるということが分かってから——