二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.67 )
- 日時: 2013/01/20 21:19
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
2.
「大神官様は、まだお戻りにならないのか!?」
世界地図で、大体は中心に描かれる、この小さな島——アユルダーマ島。
転職を司る神ダーマの眠る地として、そこにはその転職の儀式が行われる神殿があった。
その神殿に名はなかった。だが、人々はこう呼ぶ。
ダーマ神殿、と。
「最後に見たのは、やはりお前のようだな」
ダーマ神殿、フリーフロアと呼ばれる一室でメイドの仕事を務める娘に、武闘家風の男が言った。
「うん。そう、みたい」
二人は恋人同士の仲である。
彼は最後に大神官と会った、という彼女が疑われないか、大いに心配していた。
——疑い。
そんなものを抱かれなければならない理由。
それは、ダーマ大神官の失踪にあった。
わざわざ遠くから転職しに来た者たちはなかなか目的を果たせないことに苛立ちを覚えていた。
それはより一層、神殿に勤める兵士たちの焦りを増幅させた。
そのため、事前に大神官に会っていた者は、ほぼ八つ当たりの対象として、
拷問のような勢いで責められたものである。
「…どうしよう。やっぱり、あたしのせいなのかな…」
「心配すんなよ、じき、戻って…来るさ」
彼の言葉も、かすかに不安がにじみ出ていた。
数時を経て、マルヴィナ、キルガ、セリアスは地上へ着く。だが。
「っあ゛ー、よーやく着いたぁ…運転雑になってないか…?」
「うー、同感だ。少し気分悪いぞ」
セリアスとマルヴィナは水を失った魚、あるいは太陽を浴びすぎたモグラのような雰囲気を漂わせる表情、
早い話が疲れた顔をして呻いた。
ちなみに、一人平気なキルガが、あまり心配していなさそうな口調でとりあえず尋ねる。
「大丈夫かい? …気付け薬、あるけど」
「薬も冗談もいらんわ」
「あ、それ上手い」
「ども。…うー」
「大丈夫そうだね。——ところでマルヴィナ、 ルーラ
あそこに見える建物、覚えておいてくれないか。後から転移呪文で来られるように」
「建物?」マルヴィナはふぅらり、視線を転じる。「あぁ、あれね。分かった」
ふらついた頭を、手を使ってまっすぐに立て、
マルヴィナはじぃぃぃぃっとネズミを睨む猫のような目つきでその建物を見る。
…真剣にものを覚えるときの彼女の癖だ。恐い。
「後で? 今行きゃいーじゃん」
サンディは自分の運転が悪評価だったことの不満も込めてつっけんどんに言ったが、
「シェナに会いに行きたいだろうって思ってね。覚えておきさえすれば、いつでも来られるわけだし」
キルガの余裕の口調に、あそ、と次いで微妙な声を出したのであった。
「あぁっ、マルヴィナ、久しぶり! また来てくれたんだ!」
セントシュタイン城下町の宿屋。
早速役に立った転移呪文でキルガとセリアスが先に入り、マルヴィナも入ると、
いきなりリッカが走ってきてマルヴィナにタックルした。本人曰く首っ玉にかじりついた、らしいが、
ともかく勢いが強すぎてマルヴィナは頭をドアにドゴンとぶつけた。…凄い音だった。
「痛…リッカ、力、強すぎ」
普段ならリッカに叩かれようが蹴られようがマルヴィナならほとんど揺らがないだろうが、
全くの不意打ちに飛びつかれてはふっ飛ぶ以外の行動はなかっただろう。
「え。あぁゴメン! 大丈夫?」
「なんとか」
と言いながらも目線がいろんな所をさまよっていた。
「…えっと…リッカ、ルイーダさんは?」
「え? ああ、ルイーダさんなら、グラス取りに言ってるよ。すぐ戻ってくると思うけど」
「はいはーい。戻ってきてるわよん」
ルイーダ登場。相変わらず優雅で堂々としている。マルヴィナは一礼した。
「ちょうどいい所に。…ルイーダさん、シェナいる?」
「ん? …あぁ、旅の仲間ね? 職業は」
「賢者」
「あぁ、賢——あ、あの可愛いコね。酒場に引き抜いちゃった」
「…………………ハイ?」硬直する三人組。
「……引き抜いた?」
「えぇ」
「…………酒場に?」
「だから言ったとおり」
「……いやいやいやいやいやいや。ちょっっと待ってくれ! 幾らなんでもそりゃちょ痛っ」
そこまで言ったところで、マルヴィナの頭がバシッという音をたてる。
二度同じところをーーーーー!! と、顔をしかめて振り返ると、そこに宿屋のドアを片手で開け
もう一方の手をマルヴィナの頭と同じ位置まで上げたシェナが凶悪な笑顔で立っていた。
「…わわわっ、シェナなななっ」
「何で取り乱してんの…? …戻ってきたのね、結局」
シェナは別れた時の旅装と同じ格好をしていた。マルヴィナの耳元で、呟く。
「もしかして、翼も光輪もないから、天使界追い出された?」
「サンディと同じことを言うな」
「あ、そうそう。サンディちゃんは?」
「後でね」
今は人間の前である。
「——は、いいとして。シェナ、これからもヨロシクってことでいい?」
「ん? やっぱそーなるの? いいけど…でも、仕事残ってるし」
「はいはい」ルイーダは笑う。「仲間紹介する仕事の私が、“行っちゃだめ”何て言わないわよ」
——そんなわけで、再びシェナが仲間になったのだが。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.68 )
- 日時: 2013/01/20 21:21
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「ここって、ダーマ神殿?」
薬草などの道具を揃えなおしたのち、彼らは再び蒼い木の前に訪れる。
本当に便利な呪文を授かったものである。
そして、シェナが崖の上に立つ建物を見て、言った。
「ダーマ神殿?」
「そ。転職が出来るんだって」
「転職?」マルヴィナが問い返した。
「うん。たとえば、旅芸人から武闘家、とか、戦士、とか魔法使…って柄じゃないか」
「余計なお世話だしかも好きで旅芸人になったわけじゃない」
早口で一気に言い済ませるマルヴィナ。
「…む? じゃもしかして俺、ここで戦士からバトルマスターになれたりする?」
シェナは笑って頷いた。
「なれるわよ。もちろん」
「詳しいねシェナ」
「そりゃ、賢者ですから。ダーマ大神官は賢者の一人なの。…セリアス、転職はタダよ」
財布の事情を確認し始めたセリアスに、シェナは次は苦笑した。
「そなのか?」
「…とりあえず、行ったほうが早そうね」
一同は神殿に足を踏み入れる。
ちなみに、サンディは天の箱舟にて、壊れた部分と格闘していた。
神殿のある崖上に行くために、四人は長い長い階段をひたすらのぼる。
「362、363、364、3…ちょセリアス危ないっ!!」
セリアス、バランスを崩す。
だが、さすがはセリアス、持ち前のしぶとさでなんとか足を地面に残す。
肝を一気に冷やされたキルガとシェナは微妙な表情で溜め息をついた。
「…再開するか。えっと何段だっけ?」
「知らないわよ。368くらいじゃないの?」
三段ずれている。
「そっか。えっと、368…あれ? ここが368? それともこっち?」
「……………数えるの自体やめたらどう? ここの階段は673段よ」
知ってんなら先に言え、と言わんばかりの視線をシェナに送るが、
見事にスルーされたというのは関係ない話。
ようやく673段と言う中途半端な段数の階段を上り終えると、まずそこに立っていたのは二人の神官である。
現れた四人の若い旅人たちを見て、神官は右手を左胸に当て、頭を垂れた。
天使界では“光栄です”を表すが、人間界ではそうではないようだ。
とりあえず四人は止まり、神官の言葉を待つ。
「ここは転職のすべてを司る神ダーマの眠る地」
「ようこそダーマ神殿へ。転職をご希望ですか?」
真っ先に頷いたのはやはりセリアスだ。隣でシェナが、当たり前でしょ転職の神殿なんだからと呟く。
「…そうですか。それでは、どうぞ中へ」
神官は道を開ける。セリアスが進み、マルヴィナも倣う。
セリアスはともかく、彼女は少し首を傾げていた。
「…ねぇキルガ。なんか…おかしくない?」
そのマルヴィナの後ろ、神官を抜いたところで、シェナがキルガにささやく。
彼は頷いた。同じ考えらしい。
「あぁ。妙に…拒絶されているような気がする」
「何で? …もしかして、転職の儀式する人、いないからできませんよオチだったりして?」
シェナの予想は完璧に当たっていた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.69 )
- 日時: 2013/01/20 21:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
セリアスは、ダーマ神殿地下一階のフリーフロアと呼ばれる場所で、ごすん、と椅子に座った。
「まぁまぁ。気を落とさないでよセリアス」
「落とすに決まってんだろ…せっかくきて、大神官いないから転職できません、そりゃねーよ…
あー、なりたかったなぁバトルマスター。うー…」
もう一度深い溜め息をつく。幸せ抜けるわよ、とシェナが小声で茶化し、マルヴィナがつま先で蹴る。
「ほぅ。そなた、バトルマスターになりたいと申すか」
ネ
そんな時にいきなり聞こえた声。よくあるパターンだなとマルヴィナがじろりと睨めつけかけ、
だがその半眼が見開かれる。
大体五十代の、日に焼けた肌を持つ、大柄な男だ。深い 皺、白髪がかった髪、だが老人を思わせない。
そんな男に声をかけられたセリアスは、まず初めに、相手の名を聞いた。
「…あの、あなたは?」
「私は、ロウ・アドネス。バトルマスターだ」
低く、重々しい声だが、恐ろしさを感じない。どっしりとした、冷静さを感じさせる。
マルヴィナが珍しく身を引き、キルガが興味深げに眺め、
シェナがしばらく見とれ、セリアスは椅子を蹴り立ち上がる。
「そ…そうなんですかっ? …うわぁ…なんか、……すげぇ」
率直な感想を言うセリアスに、ロウはそのままの表情を崩さず、聞き返した。
「少年。名を何と言う」
「あ、俺、セリアスです」
「そうか」一つ答えたのち、彼は少しだけ考える。「セリアス、そなたは今、戦士…といったところか」
凄い! マルヴィナは、顔に出さずそう思った。見ただけで。何の特徴もないこの姿だというのに、
一発で職を当ててしまった——いやまぁ確かに僧侶や魔法使いには見えないけれど。
驚いたのはマルヴィナだけではない。
「…どうして分かったのですか?」シェナの問いに、ロウは慇懃に笑って答える。
「この年まで神殿に滞在すればな。大体は、雰囲気で分かる」
年の功だけでそうなれば素晴らしいものである。
が、彼はその表情を少しだけ固くすると、改めてセリアスに向き直った。
「バトルマスター。そなたは、甘く見てはおらぬか?」
「え」
セリアスの瞼が高速でしばたたく。
「その名のとおり、バトルマスターは、戦いの猛者。己の全てを攻めにかけ、身を捨てても戦い抜く。
故に力は必要だ。だが、それだけでは、不十分だ」
「と、いうと…?」
「精神力だ」ロウは続ける。
「途中で投げ出さない、守りを考えない、己が向き合った相手には、最後まで向き合う」
「うっ…」セリアスが詰まる。
「そして——最後に、己の力は、己の力は、自分のために磨くのではない。
そなたの…その仲間のために、磨くのだ」
「仲間、の」
セリアスだけではない。マルヴィナも、キルガも、シェナもその話に聞き入ってしまう。
しばらく物も言えなかった。
だが、ロウはその様子を見て、臆するでない、と言った。
「だが、攻めに全てをかけると言うことは、守りの全てを捨てるも同然。
そうしても問題ない仲間を持っているか? 背を預ける友を持っているか?」
三人を見回して、最後にもう一度セリアスを見る。
「セリアス、決意があるならば、もう一度私の元を訪れるが良い」
言い残して、彼はフリーフロアの、最も隅の席にひとり座った。
「意外と…大変なんだな、バトルマスターって…セリアス?」
マルヴィナが呆然顔のセリアスに声をかけるが、キルガがそれを止めた。
考える時間をあげよう、と言う意味らしい。
「席を外そうか」
それを見て、とりあえずセリアスにそう言ったが。
「え、行くのか? 待てまて、俺も行くぞっ」
いつもの調子で、自分から放って置かれることを拒んだ。
落ち込んでいたんじゃないのか、と思ったキルガとシェナが顔を見合わせ…シェナが、呟いた。
「単純」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.70 )
- 日時: 2013/01/20 21:28
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
その男は、かぶっていたビーバーハットをきゅっ、とかぶりなおした。
自分へと視線を送ってくる僧侶や魔法使いの女性たちに、軽く手を振ってやる。
女性たちの、その反応の分かりやすいこと! 瞬時に頬を薔薇色に染めてきゃいきゃいと騒ぐのである。
ところがその男、フフン、と嫌味に鼻を鳴らすと、その後いきなり溜め息をつくのである。
「なかなかボクの好みはいないなぁ…まぁ、仕方ない。それが本当のイイ男ってもんだ」
まったくもって意味がつながっていないが。
——だが、そんな時に、彼女はいた。その男の、理想とする女性は。
「それじゃ——そろそろ、果実に着いて情報を集めていこうか。どうせだし、二手に分かれるか?」
その女の子は、そう話していた。声も凛としていて素敵だ! …しかし、ちょっと待て。
今、果実、っていったか? わざわざ、こんなところに来て、求められる…果実。
それは、まさか…いい! いいぞ、話しかけるチャンス。
「そこの女の子!」
精一杯の、ボクのいい声を出す。今まで、これに振り返らなかった女の子は(ほとんど)いない。
実際、メイドと女戦士と、理想の女性——
…の隣の女の子が(若干睨みつけられた、というところまで気付かなかった)ボクを見る。が、
——か、か…肝心のその子は、見てくれなかった!! それどころか、話を思いっきり進めている。
「前と同じように行く? わたしとセリアス、キルガとシェナ、って形で。それとも、替——」
「ねぇマルヴィナ」
「ん?」
その理想の女性は——マルヴィナというらしい。いい名前だ!
——少々発音しにくいが、ボクに呼べない女の子の名前はない。
「この人、貴女に用事があるみたいだけど?」
「は? 何?」
ようやくまっすぐ見る形となる。面と向かうと、かなり可愛い! ボクは一つ咳払いして、話しかけた。
「果実って…金色のかい?」
結局その場に残ることにしたマルヴィナたちは、その場でこれからの方針について話し合っていた。
「そこの女の子!」
とか言う声には、シェナが反応し、口中でうっさいわねと毒づいていた。
まさかそれが自分に向かってかけられた言葉だったとは欠片も思っていなかったマルヴィナは、
いきなり現れた第一印象・嫌味男に、いきなりつっけんどんな物言いをした。
だが、
「果実って…金色のかい?」
その言葉に、眉をひそめ、立ち上がって聞き返す。
「…なんで知っているんだ? ——イヤそもそも、あんた誰?」
その嫌味男は、ビーバーハットを(再び)かぶりなおし、馬鹿馬鹿しいほどに丁寧なお辞儀をする。
「ボクは——スカリオ! 華麗なる魔法戦士さ!」
「へぇ」
大して興味を持たないマルヴィナである。
「な、なかなか簡潔だね」少々落胆したのち、精一杯余裕の笑みを浮かべながら感想を言う変人。
「この反応以外に何か? で、その果実探しているんだ。情報があるなら、教えて欲しい」
一応は依頼する側、極度に優しくなりすぎず失礼になりすぎずの微妙な口調で、
マルヴィナはそっけなく言った。だが、変人男、否スカリオは、ふふん、と鼻を鳴らす。
セリアスは咄嗟にロウ・アドネスと比べてしまい、咳払いした。
本当は今すぐ剣の餌食にしたかったが情報提供してくれないと困るのでどうにか堪える。
「教えてあげてもいいけどー、その代わり、ボクと——」
「あー、スカリオさん。マルヴィナは口説かないほーがいいよー。本気で怒らすと、こわいよー」
シェナが冗談とも本気とも取れる、一番恐ろしい口調でさえぎる。
「…口説いていたのか? 悪いがあんたみたいな変人に興味はない。
情報も教えてくれないなら、いるだけ無駄だ。とっとと帰れ」
マルヴィナがトゲだらけの言葉を返す。
キルガは苦笑し、セリアスは吹き出し、シェナはうんうん、と頷く。
「あ、あぁ、じょっ冗談だよ! 教えるよ。
——実はねぇ、その果実、ここの大神官が食べちゃったんだよね」
少々長い、沈黙が落ちた。
「……………………………………………………………た」
そして、震えてマルヴィナが声を出す。
「「「「食べたぁ———————————————————————っ!?」」」」
…その後フリーフロアに、四人分の声が響き渡った。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.71 )
- 日時: 2013/01/20 21:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
当然だが、その大声に反応した者がいる。
メイドと、とある武闘家であった。
「イヤイヤイヤイヤイヤてめぇ冗談でいう事じゃねーぞそれ!!?」今にも胸ぐらをつかんで
縦にぶんぶん振りそうな勢いのセリアスを制するべくシェナがチョップを叩きいれる。
「冗談なのか!?」
「冗談じゃないよ! ボクは見たんだ! あぁ信じてくれ小鳥よ」
「一気に信用無くなった!」
「ヒドイ!」
「あの果実」空気をぶち壊して、キルガが冷静に、けれど内心焦りに焦って言った。
「人間が口にすると、まずい」
「な、何だいキミいきなり——」あ、やば、と言うセリアスの声がした。見れば二人とも少々退散している。
マルヴィナとセリアスにとっては案の定、シェナとスカリオにとっては驚くことに、
キルガは鋭い睨みと固められた拳、半端ない殺気を醸し出した。
「………」蛇に見込まれた蛙、というのはこういう事だと誰もが思った。
キルガが誰かの話をさえぎると言うことはよっぽど重要な話があると言う事であり、
またこの時に下手に話を続けるとこうなる。まだいい方である。恐ろしいときは、
——イヤこれ以上言うのはやめておこう。
「…なんで?」
ともかく、その雰囲気に少々首をすくめながらも、シェナが問い返す。
自分がつい公共の場で大声を出してしまっていたということにようやく気付いたマルヴィナは、
いくらか声をひそめてシェナに知らないの? と聞き返し、素早く説明した。
「女神の果実は、願いを叶えるチカラがある。…だけど、願いがあまりにも強すぎたり、
心に邪悪があったりすると、食らったものの身体から破壊したり、
自分を抑えることが出来なくなるらしいんだ」
「…え」シェナは視線を逸らした。「何それ、知らなかった…てか、まずいんじゃないの? それ」
「かなりまずい。邪念はともかく、強すぎる願い事はありがちだし…スカリオ!」
「なんだい?」
名前を呼んでもらったスカリオはいい返事をする。
後ろのセリアスから剣を少々抜いた音がしたのは気のせいか。
「大神官が行きそうなところを知っているか!?」
そんなことは当然気にしていないマルヴィナは鋭く言い放つが、
スカリオはビクッと硬直し、あさっての方向を見る。
「…………………………………」
「…知らないのか?」
「とんでもない。ただボクが興味あるのは可愛い女の子の行く先で——」
「知らないのね」
簡潔に呟いたシェナの発言には六本ほど棘がくっついていた。
「…肝心な時に…」
そんなことで八つ当たりも出来ないのだが——
「…あの…心当たりが、あるんですが」
こういった言葉が聞こえると、やはりスカリオの間抜けさを感じさせられるマルヴィナである。
視線を転じた先に立っていた者——それは、例のメイドだった。
「はい?」またしても突然現れた初見の人間に視線を転じるマルヴィナ。
「あの…あたし、最後に大神官様にお会いしたんです。
果実も、大神官様がデザートとして出して欲しいと言われたので…お出ししました。
でも…それを口にされたとき、大神官様は、急に人が変わったようにフリーフロアを退出されたんです」
四人は顔を見合わせた。
「間違いないな。女神——」 ・・・・・・・・
言いかけて、セリアスは一度口をつぐむ。「俺らの探している果実だ」
「そのようだね」殺気モードの解けたキルガも頷く。
「それで、心当たりがあるって言うのは?」
スカリオに対するものとは全く違う口調で、マルヴィナが尋ねる。ほとんどスカリオは無視されていた。
「ダーマの塔、さ」
次に言ったのは、武闘家の男である。シェナはその様子から、あ、この二人恋人だ、と鋭い観察力を見せた。
「塔?」
「ああ」武闘家は答える。
「昔は転職の儀式はそこで行われていたんだ。だが、今は魔物の巣窟…誰も近寄らないが、
多分、そこにいると思う。俺も探しに行きたかったんだが、コイツ一人残してはいけないしよ」
「愛ね」シェナが呟く。
「んじゃ、わたしたちが行こう」マルヴィナはその話を聞くなり勢い良く仲間を振り返り、
拳を握り締めて言う。
「あんたらが!? い、いや、だけど、…あそこの魔物は強いぜ? 大丈夫なのか…?」
「じゃ誰かについて来てもらう」
あっさりと言ったマルヴィナに、おいおい、とつっこむセリアス。
…その後、マルヴィナはロウ・アドネスをつれて戻ってきた。
一体どうやって説得したのかが大いに気になるところだったが、彼女は何も言わなかった。
いきなり現れた大男にスカリオはビビり、武闘家男は安心した顔になる。
「ロウさんが一緒なら心強い。…悪いな、あんたたち。こんなこと頼んじまって」
「ご、ごめんなさい…」
「謝る必要はないよ。どうせ、わたしたちは行かなきゃならなかったんだし…ね!」
マルヴィナが同意を求める。当たり前、と言うように、三人は頷いた。
この四人…武闘家男は、目を細めた。
もしかしたら、見かけによらず、凄い奴らかもしれない。会話から、何となくそう思った。
一同は、ダーマの塔を目指す。
何故か人数が六人いたが。