二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.72 )
日時: 2013/01/20 21:39
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

         3.



 ダーマの塔。
 かつて転職の儀式があったというだけあって中はなかなか神聖な雰囲気を感じさせられた。
しかしこうも魔物が多くては、神聖もへったくれもない。そして。


「…………………………………なんでアンタまでいるんだ?」


 ちゃっかり横にいる変人スカリオもうっとうしい。

「何でって、来ないなんて一言も言ってないよ」
「来るとも言ってないだろっ」
「まぁ、細かいことは——」
「気にするわッ」
「ああ、ようやくボクに気を——」
「前言撤回、気にさわる!!」
 妙にテンポのいい会話を背景に。案内人・ロウ・アドネスは、先頭にいた。
当然の如く、セリアスはその後ろである。彼は向かってくる魔物にのみ対抗した。
逃げ隠れする魔物には、手を出さない。だが、その一撃の、重さ、鋭さ、正確さ。
初老であることなど全く気にならなかった。一瞬たりとも隙を見せない。
代わりに、無駄のない行動をとる。そんな彼の動きを、セリアスは糸でつながれたように見続けた。
 これが、バトルマスター…
(常にまわりを意識し、集中する…仲間を、守る為に)
 セリアスの中で、決意が固まってゆく。



 ロウの強さに恐れをなしたのか、魔物たちは上階ではほとんど手を出してこなかった。
しんがりのスカリオを狙おうとする魔物もいたが、意外なことにそいつらは
スカリオの剣技の元に次々ひれ伏して行った。
(…へぇ。意外とやるんだ)
 マルヴィナはその様子を見て、少しだけ、ほんの少しだけ、本当に僅かに、
見えないくらい僅かにだけ認める。
 そんなわけで、意外と早く塔の頂上に着く。それでも、そろそろ夕暮れる前であった。
「誰もいない…よね」
 シェナが嘆息しつつ呟く。「もしかして無駄骨だった?」
「いや」答えたのはロウだ。「こちらだ」
 ロウが指し示したのは、明らかに場違いそうな、そこにぽつんと立つ大きな鏡である。
銀色だったのだろうその縁は、今や永の時を超えて灰色にくすんでいた。
「これは己の決意を表す鏡」説明する。
「転職は生半可な決意で出来るものではなかった。
その決意を認められた者のみ、この先の空間へ行けたのだ…だが」
 ロウはそのまま呻く。シェナが首を傾げて、言った。
「…確かに、何らかの魔法的な力がかかっているみたいだけど…
どっちかというと、呪いの匂いがしませんか? …これは、きっと別の入る方法があるはず」
「分かるのか。…だがあいにく私は、魔法的なものの知識はないのでな」
 そりゃそーだバトルマスターなんだから、と声に出さずマルヴィナ。
「“光戦士”殿」
「ん?」
 ロウの特別な名の呼び方に、反応したのはスカリオである。
「なんだい? てか、知ってたのか。ボクのこと」
「無論だ。…任せても良いだろうか」
「あぁ、いいよ。魔法はボクの専門だからね」
 前に進み出るスカリオ。
「………“光戦士”?」
「ボク自身の称号さ」
 スカリオは至るところを観察しつつ答える。
「知らないのかい? 旅人や城の兵士などには、たいてい称号が付けられる。
神殿でつけてもらえることもあるんだ。世界広しと言えど、同じ名前の人はいるからね。
称号なら、よっぽどのことがない限り同じものは現れない…分かったよ」
 スカリオは肩越しに振り返る。「行くかい? この先に」
「行く。当たり前だろ」
「ん。じゃあ、みんな、目を瞑ってくれ。——行くよ」

 マルヴィナは、目を閉じた。


 身体がかあっと熱くなる。重い風が、彼らをさらった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.73 )
日時: 2013/01/22 15:17
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「っっっっっぱはぁっ!?」
 マルヴィナは無意識に止めていた息を一気に吐いた。
「んあぁぁ…苦しかった」
「息止めてるからよ。…っと。お出ましかしら?」
 軽くツっこんでから、シェナは銀色の髪を掻き分けにやりと笑った。


 鏡の中の世界。
 視線の先は、漆黒の魔神。針の如く鋭い二の腕を、その魔神はいきなりの来客六人に突きつけた。
「何だ…貴様ら?」
「そりゃこっちのセリフだよ」セリアスが呟く。「大神官はどこだ?」
「大神官? はっ!」魔神は突き放したように笑う。
「馬鹿め。分からぬか! 今や私は大神官ではない…この力で人間どもを従えさせる魔神、ジャダーマである!」
「…俺が馬鹿なのは認めるけどよ。何? つまりアンタ、大神官?」
「魔人ジャダーマと言っておる!」
 何このやりとり、とシェナは呆れた。
 漆黒の魔神、元大神官は、唇と思しきそこをむぎゅうと歪めた。    ・・・
「ちょっと。何で、大神官が魔物なんかになっているんだ? しかも、ジャマーダ?」
「…えーと。ジャダーマね」キルガが吹き出しそうになるのをこらえて訂正する。
「確かに邪魔にはなるが——ともかく、果実のせい、だろうな」
「果実? …まさか…」やはり願いが強すぎて…? 言う前に、的は行動した。
「うわっ、来た!」六人はばっと散った。左にセリアス、ロウ、シェナ。右にマルヴィナ、スカリオ、キルガ。
…なんだか謀ったような組み合わせである。
 がぁん! 腕が床に叩きつけられ、ヒビを作る。凄い破壊力だ、と四人は思った。
「ジョーダンじゃないって」
 マルヴィナは呟き、仕方ないとばかりに剣を抜く。
「…果実が、大神官を魔物にしちゃったってこと?」
「だろうね。…彼の身体から破壊するために」
「果実に強く願いすぎたって事か。てことは、元は人間なんだな? 戦いにくいなぁ…」
 マルヴィナは嘆息したが。
「いや…大丈夫だ」キルガは答える。
「彼は死なない。果実による呪いなら、彼を倒せば、呪いが解けるはずだ。あの書物が正しければね」
 書物、と言うのは天使界に帰った時にキルガが読んだものである。
「そっか。じゃあ、…遠慮は、いらないんだな?」
「あぁ。ま、ほら。既にセリアスもロウさんも、攻撃に専念しているし」
 ロウが何かを呟くたびに、セリアスのいい返事が聞こえる。緊張しているのか、張り切っているのか。
いずれにせよ、セリアスは戦いの才能が四人の中では一番長けている。
セリアスなら、なれると思った。彼の憧れる、バトルマスターに。
後は、彼が信頼して背中を預けられる仲間——自分たちがそうである必要がある。
「…うん。じゃ、ボクもだね。——せっ!」
 スカリオの気合いの声が響く。マルヴィナが目をしばたたかせた時、
元大神官を除く全員に、光の力が生じた。きらきらと輝く、聖なる光。
「…な? 何今の?」思わず尋ねるマルヴィナに、スカリオは得意げに鼻を鳴らす。
「フォースさ。ライトフォース! 魔物には、それぞれ弱点がある。
その弱点を突き、また自分たちの守りを固める…それがフォース。魔法戦士だけの!」
「…フォース、か」
 マルヴィナは少し考える。受けた光の力を感じながら。ジャダーマの、隙を探りながら。
 …悪くないかもしれない。この、魔法戦士というものも——いや、スカリオは別として。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.74 )
日時: 2013/01/20 21:46
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ジャダーマが、両手を天に掲げる。刹那、どこからともなく稲妻がほとばしった。
雷は忠実に、敵の位置へ落ちる。呻き声が重なる。セリアスは攻撃への集中から、咄嗟に反応できなかった。
手が痺れ、剣がはじかれる。大きく弧を描いて、剣は飛び——
「わ、ちょっ!?」
 …それはシェナの右手に収まる。思わず、彼女は剣を掴んだのである。
 片手で。
「…えっ? シェ、ナ?」
 剣は、重みのある、本格的なものであった。
マルヴィナはその天性の才能からその剣を扱うことが出来たが、シェナは賢者であり、
普段力仕事は任せる方である。そんなシェナが、剣を、しかも咄嗟に——片手で、支えた。
「……あ、せ、セリアスっ!」
「お、さんきゅ!」
 セリアスはその事実に気付かなかったらしい。それだけ、集中しているのだ。この戦いに。
マルヴィナとキルガの訝しげな視線を背に感じて、シェナは少し肩をすぼめた。
「相手の、隙を探る…守りを考えず…確実にダメージを与えるために…」
 セリアスは、ブツブツと呟いた。そして、目線をあげる。
 元大神官は完全に魔の神に従っていた。マルヴィナには、それが歯がゆかった。
神に絶対を誓うはずの神官が、他の神に従っている?
ふざけんな、そんな怒りが、マルヴィナを静かに取り巻いた。
 マルヴィナに生じていた光の力が、だんだんと大きくなっていく。スカリオは一瞬目を見張った。
無防備となるほどに自分の光に集中するマルヴィナ、
それに目を留めたジャダーマの攻撃を、キルガがさえぎった。
 ジャダーマは舌打ちし、攻撃の的をセリアスに向けた。セリアスも同じだった。
ただし、相手の動き、隙、そして自分の実力を、冷静に考えて。
 ジャダーマとの差、三丈ほど。セリアスは動かない。微動だにしない。

「————————っセリアス!!」

 マルヴィナがその時、叫んだ。マルヴィナの光の力が、一瞬にして消えた——否、移った。
精神を集中させるセリアスに、マルヴィナの——
フォースに関しては素人であるはずのマルヴィナの光のそれが、セリアスに移ったのである。
 攻撃。横ざまからキルガが走り込んだ。槍と、盾を使って、その攻撃を的外れな方向へ向ける。
セリアスが動いた。キルガが強く地面を蹴って後ろへ離れた。
驚いたジャダーマが、キルガに視線を向けていたのが、セリアスにとっての好機だった。
意図に気付き、更に驚愕に顔を歪めるジャダーマの瞳を見る。
 そして——






                  ————————斬る!!









 ——ジャダーマが、叫んだ。
 まるで何かを、己の身の内にある何かを、絞り出すように。

 痛み。そして、己が使えていたはずの聖なる神の声が——神の叱咤が——頭に、響いた。
 あの剣に——少年の持った、あの剣に、何よりも清らかな、聖なる光が宿った。
それは、あの少女の、チカラ。
 光…私は、何をやっていたのだ…何故私が、闇になっているのだ…
 私は、光であり続けなければ、いけなかったのに——

 黒い煙が、全身を取り巻いている。黒い力が、消えてゆく。

 …煙が消えた時、中から現れたのは、力尽きたようにうつぶせになる大神官その人だった。
 ぐらつく頭を押さえ、うつろな眸で、初めに目の前に立つセリアスを見る。
セリアスが息をつき、大神官に立てますか? と手を差し出した。
「…私は…一体何を、していたのだ? …何故、私は」
「果実」後ろで、マルヴィナは言う。「光る果実を食べた。…そうだろ?」
「果実…?」復唱したのち、はっと顔を上げる。
「そ、そうじゃ。果実…そうじゃ。
…だが、思い出せるのは…自分が、自分でなくなっていくような…そんな、恐ろしさ…」
 言葉をいきなり切って、大神官は切羽詰った表情ではっと顔をあげた。
セリアスの差し出した手を無視して、ふらリ、と立ち上がる。ありゃ、とセリアスが気の抜けた反応をした。
「戻らなくては。神殿に、人々が、私を呼んでおる」
 まだ何かに取り付かれているかのように、危なげな足取りで歩く。
「おっと…送っていくとしようか。すまぬがあとで——セリアス、あとで私のところに来い」
 ロウがそう言い、セリアスが驚いた。が、彼は大神官を追い、スカリオがそれに続く。
マルヴィナが続かないのを見て止まりかけたが、以外三人に睨まれたので、そそくさと退散した。
 残された四人は、自然に顔を見合わせる。
「…で。結局、果実…駄目だったのかな」
「さぁ…………ん?」
 シェナの声に肩をすくめたマルヴィナは何となく横を見て、
そしてそこにぽつんと残されたものをしばらく眺めた。
「………………」
 それは、黄金に輝く、綺麗な果実——
「…………………………」
 マルヴィナは、それが何か判断するまでに少々長い時間を使い。



「ッあああああぁぁぁああっ!?」



 叫んだ。セリアスが盛大に驚く。
「うわわっ! 何だいきなり!」
「か、果実だ! 女神の果実だ! まだ残って——たのか?」
「聞くの?」
 シェナが最後につっこんだ。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.75 )
日時: 2013/01/20 21:48
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 こうして。
 一つ目の果実を手に入れた一行は、ダーマ神殿へ戻った。
 神殿もちょっとした活気を取り戻し、転職を心待ちにしていた人々が続々と押し寄せた。
中にはメイドになりたいとか言う老人(男)もいたが…一体どうなったのだろう。
 シェナいわく、「あーゆーオジジはどこにでもいるものよ」らしいが、
…とりあえず気にしないでおいた。




 …ところで。
「セリアス〜。転職おめでとう? ま、とにかく、良かったわね」
 シェナは転職を終えたセリアスに真っ先に声をかけに行った。
セリアスはびっ、と親指を立ててはにかんだ。バトルマスターとして、ロウに実力を認められたのである。
 ジャダーマ戦、セリアスが最後に見せた、あの動き。守りを捨て、攻撃に専念した、あの一撃。
まさかバトルマスターとしての修行を積んでもいない彼が、
バトルマスターの戦いを見事に心得ている動きを見せたのだ。これは天賦の才だ、と彼に言われて、
セリアスは大いに照れた。そして、彼の攻撃の手前。
最高のタイミングで援護し、最高のタイミングで仲間を守った仲間たち。
良い仲間たちだな、と言われ、セリアスはもう一度照れたという。
 ロウはバトルマスターを辞めるつもりだったらしい。
そのために、見込みのあるものに、自分の意志を託そうとしていたそうだ。
「意志?」
 シェナが聞き返す。セリアスは頷いた。
「何か、バトルマスターっていう名を持ってるために、自分の武器に頼る奴が多いんだってさ。
本当の武器は、精神力と己の力。それが分かっている奴を探してたって」
「それがセリアスだったのね。やるじゃん」
 笑ったついでに、シェナはふっとさっき目を引いたものについて尋ねる。
「思ったんだけど、それ。その背中のって、ロウさんの斧よね」
「えっ? ああ、そうだよ。もう使わないからってさ。正直、結構重い」
「…そう、なんだ」
 シェナは思わず視線をそらした。——重い、の言葉。思い出す。あの事を聞かれたくない——
「持ってみるか?」
「——へっ?」
 だが、セリアスは何を思ったか、それとも何の考えも無しだったのか、そう言った。
シェナは呆然として——頷く。セリアスは、重いと言っていながら片手でスッと突き出す。
シェナはおずおずと両手を出した。
「離すぞ。——もういっぺん言っとくが、重——」
 その瞬間。


          が ん   っ!


「ひっ」
「あら」
 斧の刃、床に激突。綺麗に。
「あああああああああ“あら”じゃないっっっ! 重いっつっただろっ!?」
「遅い。…えーと、床、大丈夫?」
「どうしたんだっ?」
 最後は宿屋にいたキルガである。ちょうど出てきたところだったらしい。
「あ、いや…これシェナに渡したら、刃が床に…」
「重いもの持たせるからよ。
…あの戦いでセリアスの剣を持ったのは、火事場のなんとやら、って奴なんだから」
「持たせろ言ったのは誰だ!?」
「先に言ったのはセリアスじゃなかったっけ?」
 シェナの反論にセリアスは口ごもりつつ、会話している中で、キルガは。
 そうか、火事場の馬鹿力だったのか、と思って——思いかけ——首を、かしげた。

 刃のあたったような音はした。だが、それにしては、おかしなところがある。

 床は、切れていなかったのだ。
重さによって取り落としたのなら、このやわらかい絨毯には必ず付くはずの——傷が。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.76 )
日時: 2013/01/20 21:52
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「てか、キルガ。マルヴィナは? 一緒じゃなかったのか?」
 シェナについに反論できなくなったセリアス、苦し紛れに話題をそらしたが——
そういえば何処だ、と後から思う。だが、キルガもキルガで、首をかしげた。
「そっちこそ、一緒じゃなかったのか」
 頷くセリアスの横で、シェナポツリ。
「スカリオのところ」
 三人の間に静寂が落ちる。が、セリアスがすぐさままくし立てる。
「いやいやいやいや、待て待て。あの変人男、マルヴィナに手ぇ出したら絶対許さんっ」
 キルガ、複雑な表情。別にセリアスはマルヴィナに好意を持っているわけではない、
彼は仲間思いな性格なのだ、と言うことは分かっているのだが——
やはり、最終的にこの複雑な表情になる。
 だが、シェナは。
「フリーフロアのはずよ。今回はマルヴィナから行っちゃったけど——あ、聞いてないわね」
 セリアスが脱兎の勢いでフリーフロアに向かっていた。無論、キルガも追っていた。


「スカリオ」
 マルヴィナが、ひとりカクテルをあおっているスカリオを呼ぶ。すぐさま手を休めて振り返る。
「…あぁ! マルヴィナ、君凄いね。絶対魔法戦士の素質あるよ」
「あぁ、そのことで話がある」マルヴィナは当初であった時よりかは柔らかな笑顔で言った。
「——あの時、そのフォースを教えてくれなかったら、魔法戦士に興味を持たなかっただろう。感謝する」
「ああ! ようやくボクに——」
「興味を持ったのは“魔法戦士”だ。“スカリオ”じゃない」
 スカリオの発言を笑顔でサラリと一刀両断するマルヴィナ。乾いた空気が流れた頃。

「マルヴィナぁ! 大丈夫か! っっっスカリオぉぉっ!!」

 かなり迷惑な叫びと共にセリアス登場。
思えば彼らはこのフリーフロアで何回も叫んでいる。ある意味迷惑な連中である。
「セリアス君? 何だいそんな慌——うわっ首絞まるっ」
 そしてそのままきゅううううっと問答無用で首を絞めたわけなのだが、
続いて登場したキルガ、ではなくシェナに、凄い勢いで頭をはたかれ、
「あー、すいませーん。勘違い、勘違い」
 という言葉で、スカリオは命拾いしたわけである。
「どうしたんだ? いきなり」
 首を絞められたスカリオとはたかれたセリアスを別に心配するわけでもなくマルヴィナは訊ねる。
「なんでもないのよ。それよりマルヴィナ、
魔法戦士に転職するつもりで、スカリオさんに話を聞いていたんでしょ?」
「え? あぁ、うん。そうだよ」
 涙目セリアス&無事キルガ、頓狂な声を出す。
 マルヴィナは肩をすくめ、もったいぶった口調で宣言した。
「決めた。わたしは、魔法戦士になる」





 マルヴィナは一人、ダーマ神官に会いに行っていた。
フリーフロアに残された三人の内——スカリオは、キルガを呼んだ。
しかも、いつものへらっとした様子ではなく、大真面目に。どこかの不良かと一瞬思ったほどに。
「…何か?」
 キルガは若干警戒しつつ、尋ねた。スカリオは少し離れた位置にキルガを誘導する。
ますますもって訝しげな顔をするキルガに、スカリオは低い声で、一言言った。
「好きなんだろう、あの子の事」
 キルガは一瞬呆気にとられ——途端に、身体を硬直させた。何で分かったんだ!?
「分かりやすいんだよ。マルヴィナのことが好きだって、見れば分かる。が——まだ、躊躇ってるんだな」
 スカリオはまるで先輩にでもなったように、続ける。
「確かにあの子は、人一倍度胸もあるし、剣技の実力は半端じゃない。正義感もある。それに、可愛いし」
「…最後は関係ない」きっぱりと、キルガは言った。「僕は、マルヴィナの性格が、…好きなんだ」
 それに、あえて言わせて貰うなら、表現が違う、と思った。
“可愛い”ではなく、“美人”でもなく…彼女には、“綺麗”、と言う言葉が、一番似合った。
彼女を創り上げる、性格や、特徴を全部含めても。
「へぇ、言うじゃないか」スカリオは笑った。
「だが、気をつけるんだね。もたもたしてると、彼女は違う方向を見てしまう。別のところを見てしまう。
彼女は、そういう子さ。あっという間に、視界から省かれてしまう…今のままだとね」
 キルガは思わず彼を見た。その通りな気がする。何で、分かるんだろう。
「…君よりは色恋沙汰に詳しい自信を持つ者から、助言しておくよ。現状維持は、危険信号だ…ってね。
——ま、ボクは彼女を諦めるつもりはないよ。彼女と行動を共にする、って言うのはキミのハンデだ。
…お互い頑張るとしようか」
 スカリオはふっと笑うと、キルガの肩をぽん、と叩いて、立ち去った。
(危険信号…か)
 キルガは、口をつぐんだ。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.77 )
日時: 2013/01/20 21:55
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「よう、マルヴィナさん」
 その日、魔法戦士に転職したマルヴィナは、例の武闘家の男の声に反応した。
「…あぁ、どうも」
「どうも、はこっちの台詞だ。…いや、本当に、ありがとよ。
…正直、最初はあんたらで大丈夫かとも思ってたんだ」
 マルヴィナは短い笑声を上げた。仕方ない。どう考えても、十代後半にしか見えない旅人なのだから。
「…けどな。いや、よくよく考えれば、あんたらは凄い。魔物に、臆さない、強い意志を秘めてる。
…多分、俺には、それがなかったんだ。あいつを置いて行けないからって、
言い訳してただけに過ぎないんだな」
 彼の視線の先には、転職を終えた者とこれからする者、それぞれの思いを抱く人間を相手に必死に、
けれどすごく楽しそうに働いている彼の恋人がいた。
「だが、これからは違う。本当にあいつを守るために、俺は言い訳せずに立ち向かうぜ。
…あんたらを見習って、な」
「頑張れ」
 マルヴィナは短く応援した。武闘家は、にやりと笑った。
「——と。あと、もう一つ、聞きたいことがあったんだった」
 立ち去りかけた彼の足が止まる。マルヴィナがきょとんと首をかしげ、話を促した。
「称号、あるだろ」
「称号? …あぁ、旅人の」
 スカリオも言っていた、旅人ごとに付けられる称号。マルヴィナも貰った。
この称号に相応しいものが彼女以外にいるだろうか? それほど良い名だった。
「それだ。…“蒼穹嚆矢”って知っているか?」
「…そ、そうきゅうこうし…?」
「あるいは、“賢人猊下”」
「…けんじんげいか………?」
 どちらも棒読みである。
「…知らねぇか」
「…う………いや……あれ………?」
「いや、いい」武闘家は制した。「どっちも三百年くらい前の伝説の称号だからな」
「伝説」マルヴィナはコクッ、と喉を鳴らす。
「あぁ。ダーマ神殿では通な奴は誰でも知ってる。三百年前に、急に現れて、
いきなり消息の途絶えた、おっそろしく強かった二人の女戦士たちの称号だったんだが…
いや、そのうちの“蒼穹嚆矢”の特徴があんたにかなりそっくりでさ」
「…わたしに?」
「子孫かと思ったんだよ。いや、悪いな。…んじゃ、達者でな」
 手をひらり、と振って、フリーフロアを後にしていった。
 迷いなき足取りで。


 けれど、マルヴィナは。
(…蒼穹嚆矢…賢人猊下…)
 その二つの名を、一瞬だけ、確かに
(知っている)
 そう、思ったのだ。
 聞いたことはなかった。初めて聞いたとき、それが称号だとすら分からなかったのに。
なのに、彼女は、その名を知っていた。

(………何、で……………?)

 知らずうちに、手を握り締めていた。





 風は吹き、滝は流れ、草木は歌う。
 今日、また、そこから新たな名を持つ旅人が旅立った。
 一人は“天性の剣姫”、闇髪と蒼海の眸持つ魔法戦士、
 一人は“静寂の守手”、冷静で知識豊富な聖騎士、
 一人は“豪傑の正義”、闘うことで仲間を守り抜く闘匠、
 一人は“聖邪の司者”、聖と邪の呪文司りし賢者。
 旅人たちは、更なる旅を求め、歩き出す。
 ここは、ダーマ神殿。
















            【 Ⅴ 道次 】  ——完。