二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.8 )
- 日時: 2013/01/14 20:56
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
2.
再び太陽が昇った頃——ウォルロの村にて。
新米守護天使マルヴィナは、自分の“仕事”をこなすべく、せかせかちょこまか動いていた。
相変わらずお手伝いごとをするマルヴィナの今の仕事は、指輪探し——という
これまた首を傾げたくなるような仕事である。教会で毎日祈っているおばあさんの、亡き夫の形見らしい。
どこかで落としたらしく、どうか見つかりますように、というような事を呟いていた。
祈っても指輪に足は生えていないのだから帰ってこない。マルヴィナはため息を吐きながら探しにまわった。
相変わらず、その仕事内容に納得のいかない表情になりながら。
「ワン!」
「…っふえええええい!?」
——と、いきなり不意打ちかまして何かに吠えつけられたマルヴィナは素晴らしい勢いで振り返った。
今回も師匠イザヤールはいない。これから世界を回るつもりだという。
イザヤールといえば、上級天使のまた上位、しかも“世界の守護天使”なんて格好いいじゃないか!
ここでビビッて引き気味になってちゃっかり剣に手を伸ばしかけている
ちょっと間抜けな“新米”守護天使とは大違いである。
「ななななぁ?」マルヴィナは状況を確認する。そして、視線を下に——「いっ犬か! あーびっくりした」
「ワンワン!」なんだか活発そうな飼い犬である。
「は? キャビア? えっと、名前?」
「ワン!」
「ああハイハイ、つまり名前で呼べってことね。キャビアなんてぜーたくな名前してんな」
「ワワワン! ワワン!」
「あー分かった分かった。しつれーしました」溜め息をついて立ち去ろうとして——止まる。
「…って、いまさらだけどアンタ、わたしの姿が見えるのか?」
しかも会話までしている。…いや、天使の場合、動物とも話すことができるのだからおかしくはないのだが、
反対となると——その話は聞いたことはない。
「ワン。ワワン」
「う、うるさい。気付くのが遅くて何が悪い!」
「わん! わんわんわん」
「くっ比べるな!! 当たり前だろうイザヤール様は上級天使、わたしは新米! これから頼れる天使になるんだっ」
と云々、何故か犬相手にムキになるマルヴィナであった。その子供っぽさにようやく気付いたマルヴィナは
とりあえず今までのことを誤魔化すために咳払いをする。
「こほん。とにかく。おま、キャビア。アンタ指輪見なかった? 教会のおばあさんの」
犬に助けてもらう守護天使なんていうのも、かなり子供っぽいが。
「ワンワン!」
と、キャビアが駆け出す、着いて来い、と言う意味だ——と解釈したマルヴィナは、
ちょっぴり表情を和らげた。
「おっ! いいぞキャビア。案内してくれ!」
そんなやりとりの後、犬連れ指輪探しが始まったわけなのだが。
「それは輪ゴムだ! んな太い指の奴がいるか!」
「何故に金!? 教会に寄付! 無理か」
「どっから持ってきたその下着はっ!! 変体かお前はっ」
——以上、残念ながら全く役に立たない犬であった。
呆れと疲れに脱力するマルヴィナ、ひらりと手を振り一言。
「まーいい。もーいい。自分でやる。んじゃねキャビ公」
「わん。くぅん」
「…………。なに? 今度は」
なんだかしょぼくれたような声を出され、ちょっと言い過ぎたかと一瞬迷ったが、
素直にそう言うことにどことなく警戒を覚えて結局つっけんどんに聞き返した。
振り返ってやったのだからマシだろう。
…振り返ってよかった。マルヴィナは太陽に反射したキャビアの口にくわえられたものを凝視した。
「は?」
そう——指輪登場。
「くぅん」
「見つけたのか!?」顔をほころばせる。「おっしゃ、よくやっ——」が、マルヴィナここで停止。
(…待てよ? …今見つけたなら、褒めるべきだけど、まさか)
対称的に、コイツまさか本当はずっと持っていたんじゃ、とかなんとか思っていたりする。
マルヴィナは次の行動に本気で困った。
…とりあえず撫でておいてやった。
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.9 )
- 日時: 2013/01/14 21:04
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
—— 一方、ウォルロ村の東北東、ガナセルと呼ばれる地域の、ベクセリアという名の町。
守護天使キルガの担当する町である。
誰もいない宿屋の個室を掃除するという何とも地味な作業を彼が既に三時間もしているのには、
当然理由がある。宿屋を切り盛りする女将の腰が不幸にもギックリいったために、
掃除が出来ないまずいナムナム、となぜか珍妙な呪文のようなものを唱えひっくり返ったことからであった。
前の客は相当いい加減な正確だったのか、見るものが強盗に入られたかと誤解しそうなほどの散らかりよう。
すべての部屋を片付けた頃には空がすっかり茜色。
華奢なわりに意外と丈夫、滅多に疲れることのない彼でさえ溜め息をつくほどであった。
星のオーラが出るといいけど、と少しだけ思いつつ、ひとまずは一度外へ出る。
扉を少しだけ開けると、そこにはちょうど女将と、もう一人姿があった。…いつ外に出たんだろう。
「ふいい、冷たい。ありがとねぇエリザちゃん、助かるよ」
「いえいえ! そうだ、そのシップ、おばさんにあげますよぉ。うちのルーくん、全然使いませんし」
理解する。どうやらギックリいったところに湿布を貼ってもらったらしい。
…お大事に、とキルガは思いつつ、背中丸出しのおばさんを前に眼を逸らしておく。
「それじゃ、わたし行きますねぇ。ルーくん、研究に根詰めすぎてるかもしれませんし」
去っていくエリザという名の女性—この町の町長の一人娘—を見て、
女将は溜め息をついて背中をようやく隠す。キルガはその溜め息に、反応した。
「ルーくん、ねぇ。可愛そうに、あんな学者を夫なんかに持って——気を使って。
ああ、守護天使様、彼女に幸せをあげてくださいまし」
聞いた途端、キルガは、眼を細める。
——幸せ。
…幸せって、——いったい何なのだろう?
人間によって、違ったもの。お金が欲しいとか、遊びたいとか、そういうのをよく聞く。
では、エリザの幸せとは?
“学者”であり“夫”——ルーくん、本名ルーフィン。キーワードは、彼。
“その人がいるだけで幸せ”という言葉があるが、あれはただのきれいごとだと教えられた。
人間は、それだけで満足する欲少ない生き物ではない、と。だが、彼女は? エリザは?
彼女の幸せは、ルーフィンの傍にいる、この現状。彼女は幸せを感じている。だが周りはそう思っていない。
「———————」
若い守護天使は悩み続ける。どうか幸せに——その言葉の意味するところは、一体何なのかと。
同じ頃の話——
「うわーっ!」
というマルヴィナのややこしい叫びは、悲鳴ではなく感動である。
目線の先は、ウォルロ村自慢の、大滝。夕日の光を取り入れ、まばゆいばかりに輝くそれを見て、
マルヴィナは目を細めて笑っていた。
とはいえ、あたりはほぼ闇夜、その光景は一分足らずで終了する。
「………けっ」
あまり綺麗ではない言葉を呟き、マルヴィナはくるりと背を向ける。
手を開き、星のオーラを確認。そしてその量に満足する。
「こんな、もんでしょ」
ひとりでにやり、と笑う。そして、最後の見回りにかかった。
村長家では、息子のニードは遊び呆けてろくに仕事をせん第一あいつは十七歳にな(以下略)…と
愛妻に愚痴をこぼす家の主を一分ほどながめる。ニードというのは、先日魔物騒ぎを起こした張本人、
リッカの幼馴染でやたら人に威張る癖あり、
ちなみにリッカに片思い中——ということまではマルヴィナは知らないが。
馬小屋では。
働き終わって—というか全部マルヴィナが手伝ったといっても過言ではない—すっかり寝てしまった
中年のおじさんにタオルをかける。
馬に頭突き—鼻突き—された。いや待てそれ出てけって意味じゃあなかろうな?
噂好きのおばさんの家では。
なぜか飛んできたジャガイモをヘディングしてしまい、怪訝そうな顔をされた。
…なんかさっきから入った瞬間歓迎されていない何かを感じるのだが気のせいか。…気のせいだろう。
宿屋では。
入るなり飛び込んできたのは来客のいびきの大合唱(ちなみに音痴)。
ウォルロの大滝を愛し隊、とかいう集団が来たのだ。
確か部屋の広さが足りなくて一部屋に人間がひしめき合っているはず。
…まぁ、それだけ平和なのだろう。いいことだ。多分。
…大丈夫だ。マルヴィナは思った。よし、帰ろう、と。折りたたんだ翼を広げ、マルヴィナは飛ぶ。
月が、夜を照らしていた。
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.10 )
- 日時: 2013/01/14 21:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「オムイ様」
ろうそくの火を灯す頃、天使界の長老の間の話。
ひざまずく上級天使の前で長老オムイは、
「楽にしてよいぞ」と威厳のかけらもない声で言う。
「はっ、恐縮です」言いながら姿勢はそのままである。
「ところで、今宵はまた、一際世界樹が輝いている様子——いかがされますか」
「ふむ」オムイは頷いた。「よろしい。たしかに、そろそろ果実が実を結びそうな頃。イザヤールは?」
「今、世界樹の元へと向っている途中かと」
「行くとしようかの」
オムイは腰を上げ、杖を手にした。上級天使は下がり、再び敬礼する。
「ああ、そうじゃ。確か守護天使キルガ、マルヴィナの二人が人間界に赴いておったの。
戻ったら世界樹まで来るよう伝えておいてくれ」
「はっ」
恭しく頭を下げられたオムイは、ひとまずその頭を上げさせると、
「オムイ様っ!?」
“えいえいおー”のポーズをとり、その後とてつもないスピードで走っていく。
一万歳とか、あるいはもっとだとかいわれる、名のとおりの長老の見せる若々しさに残された一同は
穏やかな笑みを浮かべるが、
ゴキッ、
という、オムイの消えた階段の向こうから聞こえたその音に、失笑と苦笑、二つの表情に変わったのであった。
見習い天使一同は、天使界の外には出してもらえない。
『守護天使候補』や、同じ位にある『上級天使見習い』もまた、そうであった。
理由は単純である。
守護天使や上級天使でもない彼らに意味もなく世界樹を見せるわけには行かない、ということからだった。
例え、女神の果実が実るかもしれないとしても。
天使たちは妙にそのあたりが義理堅い。…だが。
「ちぇ、頭固いんだよなぁ…あ、おいテルファ、そっちじゃない、こっちだ」
・・・
例外の、守護天使候補止まりのセリアスは、仲の良い見習い天使テルファとともに、何故か外にいた。
「セリアスぅ。やっぱ止めようよ。怒られるよ」
「ばかいえ。チャンスなんだぞ。世界樹を早く見れるかも知んないんだぞ。お前の仲間よりも」
「でっでも、トゥールさん見張りについてるし、あの階段上らなきゃ見に行けないんでしょ?」
「それが今困っていることだろうが。説明せんでいい」
キザハシ
セリアスは、世界樹への階の前で、いわゆるセリアスのような、守護・上級以外の天使が来ないよう
見張っている上級天使トゥールを見張っていた。
——簡単に言えば、見張りを見張るという、珍妙な行動を二人して行っているのである。
「あ〜〜っ、くっそう。これは奥の手を使うしかないのか…」
「さっきも言ってなかった? それ」
「…奥の奥の手だ」
「…ちなみに?」
テルファが促し、セリアスは至極あっさりという。
「“俺も守護天使になりました”」
真顔で。
「…………………………………………ぶはっ」
長い沈黙、最終的に笑い出すテルファ。
「あはははははは! セリアス、そりゃムリムリ!」
「ばか、声がでかい!」
「うぐほっ」
「いいか、俺は『守護天使候補』だぜ? だから全然ダメってわけじゃ——」
彼はサンマロウという名の町の次期守護天使候補であった。ちなみに、
先ほどの『うぐほっ』は、テルファがセリアスからツッパリを真正面から食らった時の彼の悲の叫びである。
「だめって、わけじゃ——あ、やべオムイ様だっ」結局隠れる二人。
「無理だようほんとに〜」
「だー、あきらめ早い。そんな根性で守護天使になれるのかっ」
「神の国に行ったら、なる必要もなくなるよ」
「…………」
反論できなくなったセリアス、とりあえずスコーン、と殴っておく。
「ってぇ。…あ、トゥールさん行っちゃった」
オムイに促され、自分も世界樹の元へ行く見張り。チャーンス!! 二人は同時に目配せ。
人目を気にするゴキブリのように、かさこそ歩く二人の——後ろから。
「——何やっているんだ?」
なんて言葉がかかり、ゴキブリは、否二人の天使はその名のとおり飛び上がり、脱兎の勢いで壁に張り付き、
——そのままへなへなと脱力した。
「きっきキルガかよぉ…マジでびびったぁ…」
それは、星のオーラを五つ左手に持つキルガであった。
彼は、ねー、なー、と仲良く顔を見合わせる二人の様子を観察、次の言葉は、
「バレた時、責任はとらない」
であった。
世界樹見たいんだよ、なっ、頼む、黙っていてくれ! ——そう言おうとしていたセリアスはドン引き。
そしてキルガは、何事もなかったように再び歩いていった。
見送って、セリアスは盛大な溜め息を吐く。
「っあービビった。くっそうキルガめ、相変わらず脅かし」
「——何やっているんだ?」
「「うおわえあがっ!!」」
しかし次なる同じ言葉がかかり、——脱力再び。
次は、キルガと同じく星のオーラを右手に五つ持ったマルヴィナであった。
だが既に、セリアスはともかく、テルファは失神寸前となっていたりする。
マルヴィナはテルファの名を大声で呼びかけてセリアスに慌てて口を塞がれた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.11 )
- 日時: 2013/01/14 21:20
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
…天使界、頂上。
キザハシ
リタイア(?)したテルファを置いてきたセリアスだけがこっそり階を上る。
正式な守護天使二人はもちろん堂々とそこへ向かった。
金と、銀と、蒼と、白。
美しく、神々しい光が、今までに例のない輝きを見せていた。
ギックリいったのにもかかわらずやはり驚異的なスピードで昇りきったオムイと、
既に世界中の傍らにいたイザヤールは、若い守護天使二人に命ずる。
星のオーラを捧げよ、と。
二人は頷く。そして、同時に両手を広げた。
共鳴するかのように輝く結晶は、
浮かび、煌き、
樹に吸い込まれ——光輝。
星の輝く夜空は、それより遥かに強い光に包まれる。
それだけではない。
光は止まない。
葉と、葉の、間。
膨らみ、輝き、実を結ぶ——女神の、果実!
黄金の煌き、神の国への搭乗券。
見守っていた上級天使たちは、喜び、手を叩き、喝采の声をあげる。
目を開いて、マルヴィナは顔の前で両手を合わせた。キルガを見る。
彼もその感動に、滅多に見せない興奮した様子を見せる。笑った。笑い返す。
遠い夜空の向こうから、次第に大きくなる一等星が見える——否。
汽笛の音と共に、光の煙を伴いやってくる、あれは。
「天の…箱舟じゃ!!」
それは、神の国へ戻るための——名の通り、箱舟。つまり、神の国へ行けると。
そう、証明している。歓喜の声がさらに膨れ上がった。
「女神の果実を神の国へお届けせねば。——そうじゃキルガ、下にいる者たちを呼んできてくれ」
「はっ」
キルガは敬礼。そしてその必要もないかもと、セリアスの顔を思い出して考えた。
——ついに叶ったのだ。長年の、天使の努力の結果。
最後——自分たちの手で、実らせることができた。嬉しかった。珍しく、彼の足取りは弾んでいた。
——そんな中、一人だけ。
ラフェットだけは、表情が曇っていた。
“行って来る”
そう言ったきり、帰ってこなかった、天使エルギオス——イザヤールの、師匠。
思い出す、彼は戻ってこなかった。帰ってこなかった。思い出す、あの言葉、あの背中。
どうして。彼こそ、共に神の国へ帰るべき天使じゃないか。
…イザヤール、貴方は、どう思っているの——…?
「———————————————————————————————っ!?」
その刹那だった。
「 うっ…あああああああああああああああああああっ!? 」
地が、揺れる——地上から、凄まじい爆発音が轟いた。
いきなり。
何の前触れもなしに。
邪悪としか言いようのない、黒と、紫の雷、波動。それが、
————天使界を襲っている。
果実は飛び散り、
天の箱舟は砕け、
地上へと吸い込まれていく、
誰一人立てない、
誰かが叫ぶ、
誰かが呼ぶ、
誰か、誰かが、
「 —————————————————————————!! 」
叫んだ。
——キルガだった。
「——っキルガ!!」
ラフェットが叫んだのとほぼ同じだった。揺れに、風に、耐え切れなくて。
キルガは、箱舟や果実と共に地上へ、落ちる。ラフェットの顔が更に引きつった。
そしてまた、マルヴィナも。
風が、揺れが、邪の力が強すぎた。左手一本で、辛うじて何かを掴んでいた。
だが、もう腕は痺れている。
駄目だ、支えられない。もう、限、 界 ——— ……。
「——マルヴィナ!!」
師匠の声が、イザヤールの声が、届く。マルヴィナの薄れかけた意識が戻る。
「掴まれ!!」
風が反発する。右手を必死に前に出してゆく。触れる。触れて——
左手の痺れは、消えた。
感じるのは、強い風のみ。
掠っただけだった手の間隔を残しながら。
風に、飲み込まれた。
わたしは、落ちていた。
誰かが、私の名を呼ぶ。
必死に、呼んでいる。
だが、 その 声 も、聞こえ く な ——
ただ暗闇だけが、目の前に果てしなく続いていた。
まるで先のない、底なしの崖の下のように。
【 Ⅰ 天使 】 ——完。