二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.1 )
日時: 2013/02/23 15:18
名前: 緑茶 (ID: G.M/JC7u)

*キャラ紹介

イヴ 《Ib》
9歳 お金持ちのお嬢様 気丈で無口な女の子 難しい漢字が読めない

ギャリー 《Garry》
20歳前後 変なモノに好かれやすい青年 オネェ口調で性格もやや女性的

メアリー 《Mary》
イヴと同じ位の年 人懐こく無邪気 美少女

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.2 )
日時: 2013/11/24 06:49
名前: 緑茶 (ID: tDifp7KY)

*0

《プロローグ》

 ——ある日の午後
「イヴ! 準備出来た? 忘れ物、無い?」
「うん。大丈夫だよ、お母さん」
「ハンカチは? ほら、誕生日にあげた……」
「……大丈夫。ちゃんと持ったよ」
 ほら! と言いながら、お母さんにハンカチを見せる。
「なら良いわ。落とさない様にね!」
 そう言って私の頭を撫でた。

「準備は出来たかい? そろそろ行こうか」
  ドアを開けながら、お父さんが顔を出す。
「「は〜い」」
  お母さんと同時に返事をして、家を出た。

「イヴ、今日行くのは『ゲルテナ』と言う人の作品展よ」
 移動中、お母さんが話し掛けてきた。
「ゲルテナ?」
「そう。絵だけじゃなくて、彫刻の作品とかもあるらしいから、きっとイヴでも楽しめると思うわ♪」
「そっか……楽しみだなぁ……」
 そんな会話をしていると、
「もうすぐで着くよ」
 と、お父さんから声が掛かった。その声に反応し、ふと、顔を上げると目の前に立派な美術館が姿を現した。
(大きな美術館だなぁ……)

 ——この美術館であの事件に巻き込まれる事になるとは、この時の私はまだ知らなかった——。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.3 )
日時: 2013/11/24 06:57
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)
参照: トリップ付けました

*1
「『ゲルテナ』って、あまり人気じゃないらしいけど、前から来てみたかったのよこの作品展!!」
 お母さんが嬉しそうに言った。
「母さん、受付済ませてしまおうか」
「そうね、パンフレットも貰いましょう」
 カウンターに行くと、少し時間がかかると言われた。
「……お母さん、先に見て回ってもいい?」
 このまま待っているのは退屈だった。
「え!? 仕方ないわね……。いい? 美術館では静かにしてなきゃダメよ」
「父さん達も受付が終わったら行くから、迷子にならないように気を付けてね」
「は〜い」

(まずは、一階を回ろうかな?)
 一階は混んでいないが、そこそこの人がいた。 壁にはたくさんの絵があって、その中で一番大きな絵の隣に案内板が掛かっていた。

【本日はご●●いただき ●にありがとうございます。当館では、《ワイズ・ゲルテナ作品展》を●●しております。●おしきも美しい作品達を心行くまでご●●下さい。 館長】
 所々、難しくて読めない字があったが、
(……来てくれてありがとう、って事だよね?)
 軽く流した。

 その後、二階に上がった。一階より人が少なく、彫刻が多かった。
 二階をぐるっと回ると、一番大きな絵の前に出た。

『●●●の世界』

 なんて読むのか考えていると、
 ——ピカッ、ピカッ。
 蛍光灯が光った。
(……蛍光灯、古くなっていたのかな? まぁいいや、お母さん達受付終わったかなぁ)
 そろそろ合流しようと階段の方に向かったが、人がいない。
(あれ? さっきまで人がいたのに……。一階に行ったのかな?)
 そう思い一階に降りたが誰もいなかった。
 ……一緒に来たはずのお父さんとお母さんも……
(ドッキリ……じゃないよね、さすがに……。もう一度探して見よう)
 一階・二階を隅々まで探して解った事は、出入口と窓が全て閉まって開かない事と、やはり人はいないという事だった。
 そして、最後に二階のあの大きな絵の前にたどり着いた。その絵の額縁からは青い絵の具が垂れていた。
(? さっき来た時はこんなの付いてなかったのに……)
 じっと見ていると、床と壁に文字が浮かび上がってきた。

《おいでよ イヴ》

《したにおいでよ イヴ ひみつのばしょをおしえてあげる》

(……下? 一階のこと?)
 もう何度も行き来した階段を降り、一階へ行くと床に描かれた絵の周りにあった柵の一部が開いている。
(ここに入れ、ってこと……だよね?)
 出入口が全て閉まっているため、どうしても進まなければならなかった。
(行けばお母さん達の事が解るかも知れないし、出入口が閉まっているからここから出られないし……)
「……進むしか……ない」
 意を決して絵に飛び込んだ。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.4 )
日時: 2013/11/24 07:02
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*2

 目を開けるとそこは異世界だった。周りを見渡すと、幾つかの絵が飾ってあり、美術館らしい場所という事がわかったが——
「……なんか、さっきまでいた美術館と違う……」
(取りあえず進まなきゃ)
 震えを抑えながら勘で決めた左側の道を一歩づつ進んで行った先にあったのは、一つのドアと机。机の上には一輪の薔薇が花瓶に生けてあった。それは、
「赤い……薔薇? 綺麗……」
 燃える炎の様に澄んだ赤色をしていた。
 手に取った瞬間、直感が私に言った。
 ——この薔薇は常に肌身離さず持っていなくては——。
 なぜ、こんな風に思ったのかは分からないが、私はその直感を信じることにした。
 近くのドアには鍵がかかっていなかったので入ってみると、そこにあったのは女の人の絵と青い鍵だった。絵の下には張り紙もあった。
【その薔薇●ちる時、あなたも●ち果てる】
(……《朽ちる》って、なんて読むんだろう)
 読めなくても大丈夫だと思った私は、鍵を拾って部屋を出ようとした。すると——
「……今、動……いた?」
 鍵を拾って顔を上げた時に見えた絵は、この部屋に入ってきた時と違っている様な気がした。
(きっと、気のせいだ)
 そう割り切って部屋を出た。次の瞬間私が見たのは、床や壁に真っ赤な字でびっしりと書かれていた

《か え せ》

 の文字だった。
「……っ!」
 怖くなった私は、ダッシュでこの世界へ入ってきた場所へ走った。そこにはあるはずの物——この世界へ来た時に使った階段——がなかった。
「嘘……帰れなく、なっちゃった…… はぁ……」
 考えてみれば、さっきは変な文字が書かれていたし、その前は絵が動いた(気がした)。階段がなくなっていても不思議ではない。
「やっぱり、進むしかないか……」
 もう一つの右側の道へ進み、手に入れた鍵でドアを開けた。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.5 )
日時: 2013/02/16 17:20
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Lt03IZKe)

参照50越え ありがとうございます!!

*2 の続き 書きました。お待たせしました。
テスト前になったので、さらに更新 遅くなります。ごめんなさい!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.6 )
日時: 2013/02/18 23:29
名前: お萩 (ID: 6AakIVRD)

凄いですね!
私もibで小説書いてます!
でも、緑茶さんにはかないませんw
これからもお互い更新頑張りましょう!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.7 )
日時: 2013/02/19 13:16
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: meVqUFl1)

>>6
お萩さん、コメントありがとうございました!! お萩さんの方のIbも面白いですよ!
更新頑張りましょうね♪

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.8 )
日時: 2013/11/24 07:06
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*3

「……はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫かな……」
 こちら側の美術館に来て、どれくらいたっただろうか。時計を持っていないので、今の時間もどのくらいたったのかも解らない。
 あの薔薇を取ってからここに来るまで様々なモノに襲われた。そして、さっきも——
 いつになったら、ここから出られるのだろう……。はぁ、と、ため息をつきながら次のドアを開けると、そこには人が倒れていた。
 始めは襲ってくると思い、警戒したが全然動かないので声を掛けてみることにした。
「あの……大丈夫ですか?」
「…………うぅっ……」
 その人は、紫色の髪にボロボロのコートを着ていた。よく見ると手には鍵が握られていた。
「これって……さっき開かなかったドアの鍵、かな?」
『さっき開かなかったドア』と言うのは、分かれ道の先にあったドアの事で鍵がかかっていたのでこちらの道へ来たのだ。
「えっと……鍵、借りますね」
 何度声を掛けても起きない人から鍵を借り、開かなかったドアの方へ歩き出した。

 しばらくしてドアの前に到着。鍵を鍵穴へ差して回すと
 ——カチッ。
と、すんなり開いた。
 ドアを少し開けて覗くと何かが動いているのが見えた。それは、絵の額縁から上半身が出た女で、何かをちぎっていた。もう少しドアを開くとちぎっている物が見えた。それは、
「青い……薔薇?」
 そう口にした瞬間、女の絵がこちらを向いて目が合う。その刹那——。
「ギャァァァァァァアアア!」
「……っ!」
 女の絵は叫びながら物凄いスピードで走って来たので、急いで外へ出てドアを閉める。すると
 ——ドンドン……ガッシャーン!
 その部屋にあった窓から女の絵が飛び出してきた。私はダッシュで走り、逃げる逃げる逃げる……
「はぁ……はぁ……もう、平気、かな?」
 鍵を借りた人の近くまで走って一息つく。落ち着いてくると一つ思い出す事があった。
「そう言えば……あのちぎられていた薔薇、私の薔薇と似ていた様な……」
 色は違っていたが同じ様な薔薇だった。だとしたら、誰かの大切な薔薇かも知れない。実際、私は薔薇を手に入れてから一時も手放していない。
「だったら、取り返さなきゃ……!」
 私は勇気を奮り絞り、逃げてきた道を引き返した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.9 )
日時: 2013/03/04 17:09
名前: セツナ (ID: 2IhC5/Vi)

 朔良です(^^)

 文才めちゃくちゃあるじゃないですか!
 騙しやがったな…www←口が悪いな

 羨ましいです(>_<)

 合作が楽しみです。
 

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.10 )
日時: 2013/03/04 18:17
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 すみません、上の「セツナ」は私です。
 ややこしくて申し訳ない(>_<)

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.11 )
日時: 2013/03/04 21:23
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: X4sjHulf)

いえいえ、大丈夫ですよ!
騙して無いです! 朔良さんこそ文才あるじゃないですか!
合作、こちらこそよろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.12 )
日時: 2013/03/05 00:14
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: X4sjHulf)

*4
『大切な薔薇かも知れないから取り返す!』と決意して戻ってきたはいいものの……
「うぅ……まだ、いる……」
 部屋から出て自由になった女の絵は、檻から出た猛獣の様に獲物を探して這いずり回っていた。
(どうしよう……そのまま行っても駄目だろうし、でも、隠れる場所も無いし……)
 考えに考えた結果、出た答えは——強行突破!
(隠れる場所が無い以上、それ以外無さそうだし……全力で走れば何とかなるよ! きっと……)
 私は大きく息を吸って走り出す。それに気付いた女の絵が襲って来たが避ける。動くスピードは思ったより速くないようだ。
 その勢いのままドアに向かい、部屋に入る。どうやら無事に戻ってきたようだ。
「はぁ……怖かった……早く薔薇見つけて帰ろう」
 辺りを見回すと、花びらが少ない薔薇が落ちていた。
「あった! ちょっと萎れているけど大丈夫みたい。よかった……」
 薔薇をポケットに入れて立ち上がり、ドアノブに手を置き覚悟を決める。
(まだあの女の絵の人はいるだろうけど大丈夫。さっき出来たから大丈夫)
 自分に言い聞かせてドアを開ける、と同時に全力疾走。女の絵が何か叫んでいたが気にしない。
「はぁ、はぁ、ここまで、来たら、大丈夫、でしょ……」
 安全そうな場所で足を止めて呼吸を整える。この世界に来てから随分と走った。これだけ走ると、少し足が速くなった気がする。
 少し歩くと花瓶があったので、花びらが少ない薔薇を生けた。すると、たちまち生き生きとした薔薇に戻った。
 回復した薔薇をポケットに入れ直し、先に進んで、もう一度あの人——鍵を借りた人——に声を掛けた。
「あの……大丈夫ですか?」
「うっ……ん……あら、苦しくないわ」
 そう言って倒れていた人は起き上がって、私の事を見た瞬間——
「うわっ! な、何よ! もうアンタにあげる物は何も無いわ!」
 大きな声で叫んだ。
「あっ、あの……私、何もしていませんけど……」
 いきなりの大声に驚きながら言った。
「あら、ごめんなさい! アタシを襲って来た奴らと勘違いして……本当にごめんね」
「いえ、大丈夫です。あ、これ、あなたのですか?」
 私は今までポケットにしまっていた薔薇を差し出した。
「あっ!! それは、アタシの薔薇!! アンタが助けてくれたの?」
「はい」
「そう。本当にありがとう! アタシ、ギャリーって言うの。アンタは?」
「イヴです。よろしくお願いします、ギャリーさん」
「ギャリーでいいわ。こちらこそよろしくね、イヴ」
 それから二人で話し合い、私はギャリーと一緒に行くことにした。
「一人より二人の方が絶対にいいものね! さ、行きましょ、イヴ」
「うん!」
 私に大切な友達ができた。


参照100越え ありがとうございます!
これからも よろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.13 )
日時: 2013/03/06 18:28
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 参照100おめでとうございます!
 
「泉の更新間に合わねーよ(@_@;)」と少し焦り気味の朔良です。
 少しずつ合作メンバーが集まってきているようで嬉しいですね(*^_^*)
 
 てなわけで、更新に飛んできます!(^^ゞ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.14 )
日時: 2013/03/06 19:41
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: QVI32lTr)

朔良さん
ありがとうございます! 合作メンバー、もっと集まると良いですね!
更新、頑張って下さい(・∀・)ノ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.15 )
日時: 2013/03/07 17:37
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 そうですね(^^) 集まると良いです。
 更新頑張ります。

 緑茶さんもね! 応援しています。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.16 )
日時: 2013/11/24 07:22
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*5

 ギャリーと出会ってから、ここから出る冒険は百八十度変わった。物が道を塞いでいる時はギャリーがどかしてくれたし、何より話し相手ができた事が嬉しかった。

「さぁ、次の部屋よ。頑張りましょう!」
 ギャリーと話しながら次に進んだ場所は、様々な色の服を着た女の絵がたくさんある部屋だった。正直な所、このような絵にはトラウマがあるので出来ることなら入りたくなかったが、それはギャリーも同じようで、
「うぅ……。あんまり入りたくないけど、入らないと始まらないし……手でも繋いで行きましょうか?」
 ギャリーが左手を差し出しながら言った。
「うん!」
 私はかなり怖かったので、本当にありがたかった。

「うーん……。めぼしい物は無いわねぇ……。そっちはどう?」
 女の絵がたくさんある部屋を二人で探索していると、鍵が開いているドアを見つけた。
「ギャリー、ここのドア開いているよ!」
「あら、本当ね! 危険かも知れないから、気を引き締めて行きましょ。アタシから入るわね」
 そう言ってギャリーはドアを開けた。特に襲ってくる物が無いので、ひとまずは安全のようだ。
 その部屋にあったのは、本棚と二人掛けのソファー、そして一枚の大きな絵。絵に描かれていたのは、笑顔で立っている男女二人組だった。
 私はその絵を見た瞬間、頭が真っ白になってしまった。
(嘘……。何で……。だって、この絵の人は……!)
 絵の前で固まったまま同じ事をぐるぐると考えていると、本棚を見ていたギャリーが近づいてきた。
「ここにも出るための情報とかは無さそうね……ってイヴ、どうしたの?絵を見たまま固まっちゃって……」
「……お父さん、お母さん……」
 私は蚊の鳴く様な小さな声で言った。
「え!? この絵に描かれている人って、もしかしてイヴのお父さんとお母さんなの!?」
「うん……。ねぇ、ギャリー……。お父さんとお母さん、大丈夫だよね? 無事だよね?」
「……何言っているの! 大丈夫に決まっているじゃない! だから、早くここから出る手段を見つけてお父さん達に会いに行きましょう!」
『大丈夫に決まっている』
 その言葉に救われた気がした。
「……うん! ありがとう、ギャリー!」
「どういたしまして! さて、ここには良い物が無かったから出ましょうか」
 そう言ってギャリーはドアノブを回した——が、
「え……開かない! 嘘!? 鍵は開けっ放しのはずなのに!」
 ガチャガチャと何回もドアノブを回すが、開く気配が無い。代わりに聞こえてきたのは——

 ドンッ……ドンッ。

 と、何かがドアを叩く音。
「ギャ、ギャリー……」
 私はギャリーのコートを掴んで顔を見上げる。ギャリーは私の手を握りながら言った。
「二人で居れば平気よ! きっと……」
 ギャリーがそう言った瞬間——

 ドーン!!

 と、コンクリートの様な素材で作られた壁を破って、女の絵が部屋に入ってきた。
「きゃっ……!」
「だ、大丈夫よ!アイツ足遅いから、こっちに近寄ってきた隙にアイツが作った穴から出ましょ!」
 ギャリーと手を繋ぎながら女の絵の隙を見て外へ出ると、そこに広がっていたのは大量の女の絵が一斉に襲ってくる、地獄の様な風景だった。
「イヴ! あの開いているドアの所まで全力で走るわよ!」
 ギャリーは開いているドアを指さしながら叫んだ。
「う、うん!」
 私達は女の絵を避けながらドアまで全力疾走した。

 命からがらドアの向こうに入って、一息つく。
「はぁ……はぁ……こ、ここまで来れば大丈夫でしょ。ドアもきちんと閉めたし……ざまぁみなさい!」
 ギャリーも私も怪我は一つも無かったが、私は——
(どうして……どうして私達だけこんな目に会わなくちゃいけないの? 何で……何で!)
 そんな事を考えていたら、フッと目の前が真っ暗になった。
 暗くなる直前、ギャリーの驚く顔と私を必死に呼ぶ声が聞こえた気がした。

・・・・・・・・・・・
朔良さん
ありがとうございます!これからも頑張ります!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.17 )
日時: 2013/11/24 07:27
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*6

 私は小さな部屋がいくつも並ぶ道をひたすらに、ただ、ひたすらに走っていた。理由は簡単。
「ギャァァァァアアア!!」
 何者かに追われているからである。それから逃げる為に、走ってはドアを開け、走ってはドアを開け……を繰り返していたのだが、いつまでも追って来る。
(何で来るの!? もう疲れたし、そろそろ諦めてよ……!)
 そう思いながら次のドアを開けようとするがドアノブが回らない。
(えっ! 嘘! 何で開かないの!?)
 今までこんな事は無かった。ここまでのドアは簡単に開いたのに……!
 ドアノブを必死に回していると背後から、

 ——ドンッ……! ドンッ……!

 と、何者かがドアを叩く音が聞こえた。
(このままだと私……!)
「お願い! 開いて!」
 叫んだ刹那、カチッと鍵が開く音が耳に届く。
「開いた!」
(よかった! これで……!)
 逃げたい一心でドアを開ける。そこに見えたのは、
「嘘……。何で……」
 頭の無い石像や額縁から上半身が出た女の絵。
 反射的に戻ろうとするが、ドアを開ければ、そこには私を追って来たヤツがいる。もう逃げ場は無い。
 そう悟った瞬間、頭の無い石像に殴られて——


「…………っ!!」
 目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。どうやら私は寝ていたらしく、ギャリーのコートが毛布の様に掛けられていた。
(何だったの? さっきのは夢?)
 そんな事を考えていると、
「あ、イヴ、起きたの?」
 少し遠くにいたギャリーがこちらによって来た。
「ギャリー……ここは?」
 ギャリーのコートをどかしながら聞いた。
「イヴが倒れた場所の近くにあった部屋よ。倒れたの、覚えて無い?」
「……よく覚えて無い」
 目の前が真っ暗になったのは覚えているが、そこから先は記憶が無い。
「……イヴ、顔色悪そうだけど大丈夫?」
 少し俯いて考えていると、ギャリーが心配そうに顔を覗きこんできた。
「うん、ちょっと怖い夢見たけど平気だよ」
「そう。まぁ、あんな事があったんだから無理も無いわね。起こせばよかったんだろうけど、ごめんなさい、気が付かなくて……」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」
 そう言うとギャリーは、フッと笑った。
「どういたしまして! ……イヴ、そのコートのポケットの中、探ってみて?」
 言われるままポケットを探ると、出てきたのはレモンキャンディー。
「それ、あげるわ。食べても良いわよ。ここは安全そうだから、もう少し休んでから行きましょ」
 ギャリーはそう言い残して、本棚らしき所へ行って本を読み始めた。
(ギャリー……本当に優しいな。助けてもらってばっかりだし、何か恩返しができないかな?)
 考えた私は取り敢えずギャリーと話すことにした。
「ギャリー、コートありがとう。……ギャリーって、好きな物、何?」
 ギャリーにコートを差し出しながら言った。
「どういたしまして! 好きな物? そうね……甘い物とか好きよ♪」
「私も好き! マカロンとか……あっ!」
 そこまで話を聞いた私は、ふと、ある提案を思いついた。
(こんな事で恩返しになるか分からないけど……)
「どうしたの? 急に大声出して……」
「あのねギャリー、ここから出たら一緒にマカロン食べに行こう!」
「それ、良いわね! アタシ、マカロンが美味しい喫茶店知ってるの。そこに行きましょ。約束だからね!」
 そう言ってギャリーは小指を差し出してきた。
「うん! 約束!」
 私も小指を出して、ギャリーと指切りをした。

 休んだ私達は、また出発することにした。
 あんな事があってまだ怖かったが、
「さ、また怖い事があるかも知れないけど、もう少しできっと出られるわ! 頑張りましょ!」
「うん!」
 ギャリーがいるから——ギャリーと一緒だから、私は前に進める。
 また手を繋いで、次の部屋へと踏み出した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.18 )
日時: 2013/03/30 21:33
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 お久しぶりです(*^。^*)
 たくさんコメント下さってるのに、来るのが遅くなって申し訳ない……<m(__)m>
  
 更新応援してます。頑張ってください!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.19 )
日時: 2013/04/05 20:09
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: YjkuwNYn)

朔良さん
コメント返信遅くなって、本当に申し訳ありません(;つД`)
朔良さんの作品にも書きましたが、完結おめでとうございます!! 次回作も楽しみにしてます!! 頑張って下さい!

私も更新頑張ります! 土曜か日曜に更新予定です。亀更新で大変ご迷惑をおかけしますが、気長に付き合って下さい(>_<) よろしくお願いしますm(__)m

*参照200突破しました!! ありがとうございます!!m(__)m*

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.20 )
日時: 2013/11/24 07:32
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*7

『この絵のタイトルは?』
 ドアの前には、このメッセージとともに見たことがある絵の写真が貼ってあった。
どうやら絵のタイトルを入れないとドアが開かない仕組みらしい。
「う〜ん……さっき休んだ部屋からここまで来たは良いものの……絵のタイトルなんて、いちいち覚えてないわよ……確か『深海のなんとか』って言うタイトルだったと思うけど、イヴ覚えてる?」
 そう言いながらギャリーは私を見る。
 忘れるはずも無い。何故ならその絵は、私がこの世界に来た時に通った絵だったからだ。だからタイトルも覚えているのだが、一つ問題がある。
「えっとね……字はなんとなく覚えているけど、読めないの。どうしよう?」
「じゃ、床に書いてくれる? なんとなくでも良いから!」
 私は言われるがまま、床に『世』という字を書いた。
「世……あ!! 『深海の世』!! そうよ、それだわ!!」
 ギャリーは叫んだ後、ドアに『しんかいのよ』と入力すると

 ——カチッ

 と、ドアの開く音が響いた。
「イヴ、正解よ! やったわね!」
「うん! よかった!!」

            *

 ドアを開けて中に入ると、いくつかの本棚と大きな絵が一枚あるだけの部屋だった。
 大きな絵の前に二人で立ち、見上げる。
「絵のタイトルは……『決別』ね。なんか悲しい絵だわ」
「うん……そうだね」
 私が頷いた次の瞬間、フッと視界が黒一色に染まった。
「うわっ!! 停電!? イヴ、いる!? ちゃんとそこにいる!?」
「大丈夫、いるよ」
 ……なんだか凄く焦っているけど、ギャリーって暗いの苦手なのだろうか?
「よかった……しっかし、電気付かないわね〜……あ! アタシ、ライター持っていたんだっけ。まぁ、一時しのぎにはなるでしょ……よっと!!」
 ボッ、とライターの付く音がして部屋が明るくなる。
 そこに広がっていたものは——

『や め ろ』

『い や だ』

『こ わ い』

『し に た く な い』

 クレヨンで大きく書かれた文字だった。
 私は無言でギャリーのコートの裾を握って顔を見上げる。
 ギャリーはそんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「ほんっとキッツいわ、精神的に……まぁ、ここで立ち止まっていても何も良い事無いから、先に進みましょうか? イヴ、大丈夫?」
 心配そうな顔を向けてくるギャリーに、私は出来るだけ笑顔で
「大丈夫だよ、ギャリー」
 と、答えた。
 その後一度来た道を戻り、違う道を探す事になった——のだが、道を戻っている途中、来た時には無かった赤い足跡が付いている。
 それは——こちらも来た時には無かった——ドアに向かって付いていた。
 まるで『こっちにおいで』と誘っているように。
 私がそちらに向かった途端、ギャリーに止められた。
「イヴ、これ罠って可能性もあるわ!! もっと慎重に行動した方が良いと思うの」
 ギャリーの言っている事は最もだ、と思いながらも、自分の意見も口にする。
「うん。でもここから出る為の良い手がかりがあるかも知れないし、放っておけないよ? 戻っても道が無かったら、どうせ行く事になるから今行っても変わらないよ?」
 ねっ!! と、同意を見詰めること数十秒。どうやらギャリーも折れたらしく、ため息を付きながら呟く。
「そうね、イヴの言ってる事にも一理あるし……行ってみましょうか」
 パアッ、と効果音が出るくらい私の顔が明るくなったのが自分でも分かる。
 行きたい所へ行けるのが嬉しいのではなく、自分の意見を受け入れて貰えた事が嬉しかったのだ。
 そんな私の顔に人差し指がズイッと迫って来て、チッチッチッと揺れた。
「た・だ・し、くれぐれも慎重にね!」
「はーい」
 ……ギャリーって、本当心配性だなぁ……
 言われた通りに慎重にドアを開ける。すると、

 ——ドンッ

 と、体に衝撃が走り、私はしりもちを付いてしまった。
「ちょっ、イヴ大丈夫!?」
 ギャリーは私に手を差し伸べながら言う。
「……大丈夫だよ」
 私はギャリーの手を借りて立ち上がり、答える。
「そう、ならよかった。あと……」
 ギャリーは私と反対側を見ながら
「そっちのしりもちを付いているアナタも大丈夫?」
 と言った。
「……っ!!」
 明らかに警戒しているその子は——金髪碧眼(きんぱつへきがん)で、高級そうな緑色のワンピースがよく似合う——私と同じくらいの歳の女の子だった。
「そんな警戒しないで!! あっ、アナタ、あの美術館あ人じゃない?」
「……あっ!!」
 とギャリーの言葉に女の子が反応した。
「やっぱり……ねぇ、今アタシ達外に出るための手がかりを探しているんだけど……もしかして、アナタも?」
「わっ私も……誰かいないか探してて……」
「そうなの!? それじゃアナタも一緒に行きましょ!! 女の子一人じゃ危ないわ。えっと……名前教えてくれる?」
「……メアリー」
「アタシはギャリー、こっちがイヴ。よろしくね!」
「うん! イヴもよろしくね!」
「よろしくね! メアリー!!」

 ギャリーに続いてもう一人、大切な仲間が出来た。

           *
 この時はよかったのだ。——そう、『この時』は。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.21 )
日時: 2013/05/14 19:59
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: lBcGKEKB)

※お知らせ※
お久し振りです! え〜、新学期も始まり、学校の授業のスピード&難しさUPのため更新が遅くなる上に書く量が減ります……(半分くらい)
待って下さっている方々(いるのか?)本当にごめんなさい…
なるべく時間を見つけて頑張ります!!

出来れば、今日中に更新したいと思います。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.22 )
日時: 2013/11/24 07:35
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*8

「そう言えば……アタシとイヴが薔薇を持っていたって事は、メアリーにも薔薇があるの?」
 メアリーと出会った廊下の少し先、ギャリーは思い出したように話し掛けた。
「うん! 黄色い薔薇だよ!」
「そう。大切な物だから、無くしたり、誰かに取られたりしないよう気を——」
「わ〜! イヴの薔薇は赤なんだね! 私、黄色も好きだけど赤も好きなの。後、青も!」
「……聞いてない……全く、人の話はきちんと聞きなさいよ!」

 メアリーが加わってから、より一層にぎやかになった。
 やっぱり人数は多い方が良いなぁ、なんて思っていると、目の前に二つのドアが現れた。

「どっちのドアを開けたら良いのかな?」
 私は二人に聞いてみた。
「う〜んと……右!!」
 メアリーが元気に宣言して、右のドアに手を伸ばす。
「あっ、ちょっと!! いきなり開けたら危な——」
 ギャリーが忠告するが、時すでに遅し。メアリーの手がドアノブを掴み、そして、

 ——ガチャ

「あれ?」
 メアリーは何度かドアノブを回すが、ガチャガチャと音をたてるだけで一向に開く気配がない。
「なぁんだ、開いてないや。つまんないの〜。じゃ、次は左!」
「……はぁ。変なヤツに会ってないのに、もう疲れたわ……」

 左のドアを開けると、そこはウサギの置物がたくさんある部屋だった。
「わ〜! カワイイ!!」
 メアリーが大きなウサギの絵の前に駆け寄って言った。
「えっ!? こんなヤツのどこがカワイイのよ! キモチワルイじゃない!」
「カワイイよ!! ねぇ、イヴ?」
 その絵は確かに可愛かったので、
「うん。なでなでしたいくらいカワイイ」
 メアリーに賛成した。
「ほら! イヴだってこう言ってるし、キモチワルイなんて……ギャリーって変!!」
「変なのはアンタ達よ! もう……さっさと鍵を探してこの部屋からでましょ!」

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.23 )
日時: 2013/05/17 13:07
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: lBcGKEKB)

参照300行きました!!
更新遅い上に量も減りましたが、地道に頑張りますので応援よろしくお願いしますm(__)m

テスト一週間前のため、次の更新はかなり先の予定です…( TДT)

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.24 )
日時: 2013/11/24 07:38
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)
参照: テストオワタ\(^o^)/

*9

 しばらくして鍵は見つかったので部屋から出ることになった。
「ふぅ……やっとあの部屋から出られたわ……」
「え〜! もっと居てもよかったのにぃ……ねぇ、イヴ?」
「うん。可愛かったよね」
「冗談じゃないわ!! ずっと見られているみたいで落ち着かなかったし、もーうんざり!」
 は〜ぁ、というギャリーの大きなため息にまぎれて、何か音がした気がした。
「ねぇ、何か音しなかった?」
 私は二人に聞いてみる。
「えっ? そんな音してないよ。ギャリーは?」
「アタシも、」

 ——ガサッ

 突然下の方から聞こえた音によって、ギャリーの言葉はかき消されてしまった。

「……ねぇ、イヴが聞いた音ってもしかして……?」
「うん、この音だよ!」
「……音、近づいて来てない?」
 メアリーの言う通り音はどんどん大きくなって、そしてバリバリッ!! と何かが床を突き破り、私達に向かって来た。
 私はとっさに走って、目をつぶり床にふせた。

「イヴ、大丈夫!?」
「メアリー……。私は大丈夫。メアリーとギャリーは?」
「平気だよ!」
「アタシも大丈夫……って、何よこれ!?」

 そこに見えたのは茨。床から突き出した茨が、私がさっきまでいた場所からいくつも生えて、道をふさいでいた。そして、それは私どうにかメアリー、ギャリーを道の真ん中で分けてしまっていた。
「これって茨のツル? ジャマでそっちに行けないんだけど……」
 そういう言いながらギャリーはツルをどうにかしようと引っ張ってみるが、
「!! ちょっと、これ石で出来てるわ! ……どうしましょう?」
 う〜ん、とギャリーが必死に考えていると、
「ねぇ! 良い案があるんだけど……」
「何? メアリー?」
 私はメアリーに聞く。
「さっきの部屋で見付けた鍵、イヴが持っていたでしょ? その鍵で、あのドア開けられるんじゃない? きっと、何か良い物があるよ!」
 メアリーが言ってるドアは少し前に開けられなかったドアの事だった。
「多分開けられるだろうけど、別れない方が良いと思うわ」
 ギャリーが心配そうな声で言う。
「すぐに戻って来れば大丈夫だよ! ねっ、イヴ?」
「……うん、そうだね。このままここに居ても、何も変わらないし……」
 そう言うとギャリーはようやく折れたらしい。はぁ、とため息をつきながら言った。
「わかったわ。でも良い? 何も無かったらすぐに戻って来るのよ!」
「うん、わかった!」
「はーい!!」

 私とメアリーは元気よく返事をして、ドアに向かって走り出した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.25 )
日時: 2013/06/01 00:08
名前: ちびねこ (ID: lyYROhnH)

うっわ!
すごい文才あるじゃないですか!!
私のは会話文がほとんどなのに対して
緑茶さんは描写などを細かく書かれていて
状況がわかりやすいですし!!
天才ですねっ!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.26 )
日時: 2013/06/01 16:20
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: AZCgnTB7)

ちびねこさん
コメントありがとうございます!!
天才だなんて、そんな事ありません……
まだまだ未熟者です(>_<)

また遊びに来て下さいね〜

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.27 )
日時: 2013/11/24 07:41
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*10

 私とメアリーは、ギャリーと別れて次の部屋——マネキンや段ボールがたくさんある物置らしき部屋——で役に立つ物を探していた。
「ねぇ、メアリー。このイスであのツル折れるかな?」
「う〜ん……ムリじゃないかな。それにこのイス、床にくっついてとれないよ」
「そっかぁ……他に何かない?」
「————あ、」
 メアリーは声をあげて一つの段ボールの中ををガサガサと探し始めた。
「よいしょっと……これなんかどう?」
 そう言って出してきたのはパレットナイフ。絵の具を練ったり、削ったりする小刀だ。
「これであのツル……ムリかな?」
「多分、ムリだね」
 二人で大きなため息をつく。
「でも、念のため持っていこうかな……念のため、ね。良い物無かったし、ギャリーのところ戻ろっか?」
「そうだね」
 私が返事をした直後、

 ——フッ——

 と、視界が黒で塗りつぶされた。
「うわっ!? 停電!? イヴ、居るよね!?」
 ……何かギャリーと同じような事をやったなぁ、と思い出しつつ返事をした。
「うん、居るよ」
「よかったぁ……あ、」

 ——パッ——

「明かり付いた……もう、付かないと思った! さっ、ギャリーのとこに戻ろ!!」
「うん! ……え?」
 私は返事をした後、入口を見た。そこには、あってはならない物があった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.28 )
日時: 2013/11/24 07:43
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*11

「ねぇ、メアリー。あのマネキン、入ってくる時には壁の近くにあったよね?」
「うん——って、え!? 何で移動してるの!?」
「分からない……。二人で動かそう!」
 そのマネキンがあってはならない理由——それは
「…………ふぅ、ダメ。ムリだよ……」
 二人がかりで動かないからだ。
「しょうがない。先に進むしかないか」
「……そうだね。ギャリーには心配かけちゃうけど、仕方ないよね。行こう、メアリー」
「うん!」
 私とメアリーは次のドアに向かった。

 ドアを開けると長い廊下で、メアリーと私はおしゃべりをする事になった。
「イヴ、ギャリーって、イヴのお父さん?」
「え!? 違うよ? ここで知り合ったの」
「ふーん……お母さんは? イヴのお母さんは優しい?」
「う〜ん……怒ると怖い」
「あははっ!! イヴでも怒られるんだ〜。……そうだよね、早く本物のお父さん達に会いたいよね。私も早く外に出たいよ。絶対一緒に出ようね! 約束だよ!」
「うん!」
 私達は二人仲良く手をつないで先に進んだ。

「あ、そう言えばギャリー、大丈夫かな?」

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.29 )
日時: 2013/06/25 16:29
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: j1c653Hp)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=11354

※お知らせ※
どうも、こんにちは!!
皆様に一つ、お知らせと謝罪を。

まずお知らせ!
掛け持ちを始めました。『黒子のバスケ』と言う作品の短編集を作りました。
上のURLから行けますので、よろしければ覗いて下さい。二次小説(紙ほか)板でやってます。

そして謝罪。
Ibの更新ペース遅くてごめんなさい。そして、そんな状態なのにも関わらず、掛け持ちをした事を許して下さい。m(__)m

Ibを中心にやって行くつもりなのでご安心を!
こんな駄作者ですが、見捨てないで下さい…… 最後まてちゃんと行く予定ですので、もう少しの間よろしくお願いします。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.30 )
日時: 2013/11/24 07:45
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)
参照: 参照400ありがとうございますm(__)m

*12

 時は少し戻り——イヴ達が物置らしき部屋で停電にあっていたころ——

「イヴ! メアリー! 聞こえたら返事して!!」
 アタシは石の茨の隙間から叫んだ。
「……ダメだわ。あぁ、やっぱり二人で行かせない方が良かったんじゃ……」

 二人が元気に向こうの部屋に入ってから十分くらいたったが、一向に帰ってくる気配が無い。
「……ずっと待ってても仕方ないわ。もう一度あの部屋でも調べ直してみようかしら……。あんまり入りたく無いけど」
 
 ドアの前に立ち、大きな深呼吸をして、意を決してドアを開ける。
 そして中央にある絵をもう一度見て、
「これの一体どこがカワイイのかしら? 何度見てもキモチワルイわ……」
 ——青い肌色に赤い目、ボサボサの黒髪に顔の端から端まで裂けている口——
 そんな人形の絵をもう一度見てつぶやいた。

「さて、やっぱり役に立ちそうな物は無い……って、ん?」
 部屋を見回してあることに気付いた。それは、さっき調べたはずの本棚。その本棚と壁の間に少し隙間があるのが見えた。
「あら? 隙間? ……もしかしてこの本棚」
 本棚に手をかけて思いきり引く。すると、大人一人がやっと通れるような穴が姿を現した。
「ふぅ……。やっぱり動いたわ!! さっきは何で気付かなかったのかしら? まぁいいわ、これで先に進めるし。イヴ、メアリー、待っててね!」
 早くイヴとメアリーに合流するためにアタシは先に進んだ。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.31 )
日時: 2013/07/04 22:15
名前: ネツケヤ ◆j5gyZdHLxI (ID: 5YaOdPeQ)

どもっ!!!!ネツケヤです!!
Ibにひかれてやって来たんですが、

なんなんですかこの文才はぁッッッッッ!!!!!
1%でいいのでこのksに文才を恵んでくださi...《うるせえ

あ、普段はコメディ・ライトで書いてます!!!よかったら見にきてくだs...《調子乗んな

お目汚しスミマセン。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.32 )
日時: 2013/07/04 22:49
名前: ミラー (ID: M2c74DBu)

初めまして!ミラーです!

ミラー「小説うまい!」
カービィ「ミラーよりうまい」
ミラー「(・ω・;)言い返せない・・・」
カービィ「頑張ってください!」
ミラー「私も小説書いています!良ければ見に来てください!」
カービィ「宣伝するな(・д・#)」

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.33 )
日時: 2013/07/04 23:02
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: VOsGN7zX)

ネツケヤさん
さっそく遊びに来て頂いてありがとうございます!!
文才なんて全くありませんよ(^_^;)
後でネツケヤさんの作品にも遊びに行きますね!

ミラーさん
小説うまいなんて……ありがたいお言葉、ありがとうございますm(__)m
後でミラーさんの小説に遊びに行きますね!

コメントありがとうございましたm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.34 )
日時: 2013/11/24 07:47
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*13

 アタシの前に現れたのはあの青い人形だった。その人形の横には——

『こんにちはギャリー。ねぇ、いっしょにつれてって』

「…………」
 青い人形を置き去りにして先へ進む。が、少し進むと、

『ねぇ、どうしてむしするの?』

「…………」

『えいえんにここにいろ』

 そして、最後のドアの前の人形は一言、

『つ れ て い け』

「もう、なんなのよ!! いい加減にしなさい!!」
 思いきり人形を蹴りたい衝動にかられたが、
「……こんな奴らには、関わらないのが一番だわ」
 壁の方へよけて、アタシはドアへ向かった。

「さてと、イヴ! メアリー! いたら返事して!!」
 数秒待ってみるが返事はなし。
「やっぱりいないか……。一人でどうにかしなきゃ」
 そう自分に言い聞かせ、このフロアの部屋を片っ端から調べることにした。

《七つの色彩 絵の具玉を集めよ さすれば部屋は色づき そなたの架け橋となるだろう》

 このフロアの一番奥の部屋。その部屋は七本の台座が立っているだけの部屋だった。
「えっと、つまり……七つの絵の具玉を集めれば先に進めるってこと? そもそも絵の具玉って何かしら? ……とにかく早く合流しなきゃ」
 壁に張ってあった張り紙を見ながらアタシはつぶやいた。……最近、独り言が増えた気がする。独り言が増えるとボケてくると言う噂を聞いた事があるが、きっと大丈夫だ。何より、こんな所で一人だったら、誰だって独り言を言うだろう。それに自分はまだ二十代だ。ボケてたまるか。

「よし! これで五つ目!!」
 そんな事を考えながらも、絵の具玉集めは順調に進み、残りの絵の具玉は二つになった。
「それにしても、この美術館って、本たくさんあるわね。ゲルテナの趣味なのかしら?」
 五つ目の絵の具玉を見つけた場所は本棚がたくさんある部屋だった。
 どんな本があるか興味が湧き、近くの本——《ゲルテナ作品集 下》——に手を伸ばす。《ゲルテナ作品集 上》は探してもなかった。
「ふーん。ゲルテナってこんな絵も描いていたのね……」
 パラパラとページをめくる手が、とある絵で止まった。
「え……? これって……? 嘘……!?」

 あはは!! 知っちゃった!! 知っちゃった!! メアリーのひ・み・つ♪ あははははは!!

 どこからか部屋に不気味な笑い声が響いた。
「大変だわ……このままじゃイヴが危ない!! 急がなきゃ!!」
 アタシはまだ探していない部屋に向かって走り出した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.35 )
日時: 2013/11/24 07:50
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*14

「急がなきゃ、イヴが……!」
 まだ調べていない部屋。走ってきたアタシは、ドアの前で足を止めて息を整えた。
「ん?」
 ドアの横に何かいる。それは一度見たら忘れられない、あの青い人形だった。

『さっきいいものひろったの わたしのたからものにするの』

「いいもの? そういえばこの人形、おなかが少しふくらんでいるわね……」
 アタシは少し悩んだ後、人形の服を破いて中を見ることにした。……あまり気は進まないが……
「よいしょっと」
 中に入っていたものを取り出す。それは残り二つの絵の具玉のうちの一つだった。
「やったわ!! これで六つ目!」
 絵の具玉は触れると消える仕組みになっているので、今回もすぐに消えてしまった。

 キャハハハハハ!!

 と、床に置いた人形がいきなり笑いだして、調べていない部屋へ走っていった。
「あの人形動けたの!? ……まぁ、マネキンが動くんだから人形が動かないわけが無いか……」
 この美術館に入って様々な物に出会ったせいか、人形が動く程度で驚かなくなった。……慣れとは本当に恐ろしいものだ。

「あの人形が入った部屋になんて入りたくないけど、調べていないのはここの部屋だけだし……」
 意を決してドアノブを握る。——異様に冷たい。
 嫌な予感が頭をよぎった。
「……ダメダメ!! 立ち止まっちゃ! 早くしなきゃ!」
 思いきってドアを開ける。
 開けた瞬間、気分が悪くなった。
「うっ……。何よ、これ……」
 その部屋は青い人形がたくさん置いてあり、その人形の中心に絵の具玉があった。
「あった!! よかった……」
 また絵の具玉は触れると消えた。そしてすぐさまドアを開け——られなかった。
「う、嘘!? 何で!?」
 ドアには、さっきまでなかった文字が書かれていた。

『たからさがしをしよう だれが かぎをもっているかな? いそがないと——』

「……っ!! 早く鍵を見つけなきゃ!!」
 近くにあった人形の服を破く。中には石が入っていた。
「これじゃない!! 次は!?」

 ゴーン……ゴーン……

 タイムリミットを知らせるかのように、どこからか鐘の音が響いた。

「違う! ……これもダメ!! 次!」

 ゴーン……ゴーン……

 音がどんどん低くなっていく。

「ここにも無い!! 後、調べていないのは……!」

 ゴーン……

 最後の鐘が鳴り響いた時、アタシの視界は真っ暗になった。

『いらっしゃい ギャリー ようこそ わたしたちのおうちへ♪』

 真っ暗になる直前、そんな声が聞こえた気がした。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.36 )
日時: 2013/11/24 07:53
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*15

「あれ!? この部屋、色が戻ってる!!」
「本当だ!! これで開かなかった部屋の鍵が開くね!」
 私達二人はギャリーと別れてから、たくさんの部屋があるフロアを冒険してきた。
 その途中で色が無い部屋があり、次の部屋のドアを開ける鍵が取れなかったので、どうやって取るか考えていた。
「でも、さっき見た時は色が無かったよね? どうしていきなり色が戻ったのかな?」
「うーん……。でも、ちゃんと鍵取れたからいいんじゃない?」
 ……まぁ、メアリーの言う事ももっともだ。ここは不思議な美術館。何があるか分からない。だから、色が無かった部屋に急に色が戻っても不思議ではない。
「イヴ? 鍵取ったよ。開かなかったドアの所に行こう?」
 どうやら、ずっと考えていたらしい。メアリーが私の顔を除きこんでくる。
「あ、うん、行こう!」
 私は慌てて顔を上げてメアリーを追った。

「せーの……どーん!!」
 メアリーが勢いよくドアを開けた。
「ちょっと、メアリー! まだ開けたことないドアをそんなに勢いよく開けたら危ないよ!」
「え〜? 大丈夫だよ! ほら、階段だったし」
「でも、急に何かが襲ってくるかも知れないし……危ないものは危ないよ!」
「ん〜……。次から気を付ける〜」
 メアリーと出会ってから少ししか一緒にいないのに、何だか姉妹になったようだ。
 私は一人っ子なので妹がいたらこんな感じなのかな……と、思った。
「イヴ、早く〜」
「あ、うん!」
 私は慌ててメアリーを追った。

 階段を降りるとそこは、私達が冒険したフロアと同じように部屋がたくさんあった。
「うーん……。どこから見ようか……ん?」
「メアリー、どうかした?」
「何か聞こえた!! こっち!!」
「ちょっと待って!」
 走り出したメアリーについていくと、私にも何か聞こえてきた。

『…………で…………の?』


『あら…………なの?』


『いいじゃない!! …………くれたって!』


『絶対秘密にするから……』


 音がする部屋に近づくほどに、はっきりと聞こえてきた。どうやら誰かの話し声のようだった。

 ドアの前に立つと、中の声がよりはっきりと聞こえる。
「どうする? 入る?」
「……うん、行こう、メアリー」
「……分かった」
 私とメアリーは意を決して中に入った。
 そこにあったのは——


 私が一番見たくないものだった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.37 )
日時: 2013/08/09 23:56
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: gfjj6X5m)

*16

「ねぇ、いいでしょ? 絶対秘密にするから!!」
 そこにあったものは——床に座りながらウサギの置物に向かって話しているギャリーの姿だった。
「……ギャリー?」
「えー!? そんな事があったの!? 落ち込んじゃダメよ! そんなヤツは一発殴ってやるといいわ!」

 私が話かけてもギャリーはまだウサギと話していた。
「……ねぇ、イヴ。これギャリーじゃないよ。本物だったらこんな所にいないと思うし……ってイヴ?」
 私は無言でギャリーの前に立ち、もう一度名前を呼ぶ。
「ギャリー」
「そうよ! 今度連れて来なさい! アタシがぶっ飛ばしてあげる!!」
「イヴ、どうしたの?」
 メアリーの質問には答えず、私は右手を握り、大きく振り上げ——

 ベシィ!!

 良い音を響かせながら、ギャリーの顔面に右ストレートをお見舞いした。
「ちょ、ちょっとイヴ!?」
 メアリーが何事かと近づいて来たが、そんな事はお構い無しだ。
 ギャリーは何が起きたか分からないような表情でこちらを見上げ、首をかしげた。
「ギャリー!!」
 私はギャリーの目を見ながら必死に名前を呼んだ。すると——

「イ……ヴ?」

 目の焦点を私に合わせ、ギャリーは私の名前を呼んだ。
 その瞬間、私の中に張り詰めていた緊張の糸が切れて、気がついたらギャリーに泣きついていた。
「うぇ……ギャ、リー……うぅ」
「……何だかよく分からないけど、心配かけちゃったみたいね……ごめん」
「……うん!!」

 この時の私はギャリーが元に戻った喜びと安心で気付かなかった。

「何で戻ったの?」
 と、メアリーが一人つぶやいていたことを——

          *
「アタシ、色々と混乱してて記憶が曖昧なのよね……」
「無理に思い出さなくても良いんじゃない? そんなに重要な事じゃないんだよ、きっと」
「そう……かしら?」
 無事ギャリーと合流し先に進んでいる最中、私は二人で話している後ろ姿を見ながら、一人考えていた。
 (ギャリーが元に戻って本当によかった。このまま三人でここを出られるといいなぁ……)
 だが、この直後、私は知ることになる。

 どれだけ願っても私の願いが叶わないことを。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.38 )
日時: 2013/08/10 00:02
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: gfjj6X5m)

参照500越えました!!
本当にありがとうございますm(__)m
早く第一部?(原作の話)が終わるよう努力します……
これからもよろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.40 )
日時: 2013/09/16 14:07
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Ej01LbUa)

参照が600を越えて、もうすぐ700……だと……!?

どうも、「Ibを中心にやっていく」と言ったのにも関わらず、掛け持ちの小説ばかり更新し、一ヶ月も停滞させた駄作者の緑茶です。

更新していないのに読んで下さった皆さま、本当にありがとうございます!!
そして、停滞してすみませんでしたm(__)m

今日は時間があるので、更新しようと思います。

相変わらず更新スピードは遅いですが、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.41 )
日時: 2013/09/16 14:51
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Ej01LbUa)


*17

 色々探した結果、私とメアリーが探検していたフロアに先に続く道があったので、そこに進むことにした。

 その途中でそれは起こった。

「あら? メアリー、薔薇落としたわよ……って、え!?」
 メアリーが落とした薔薇をギャリーが拾った瞬間——
「さわらないで!!」
 メアリーは大声を出して、殺気のこもった目でギャリーを睨み付けながら、パレットナイフを握っていた。
 そのパレットナイフには見覚えがあった。ギャリーと別れた直後、物置のような部屋で手に入れたものだ。『念のため持っていく』と言っていたが、まさかまだ持っていたとは思わなかった。

「ちょっとメアリー!! 危ないわよ!? 早くそれをしまって!!」
「うるさい!!」
 パレットナイフを取り上げようとするギャリーと、抵抗するメアリーが揉み合いになり、結果——
「あっ…!」
 メアリーが倒れ、動かなくなった。
「メアリー!!」
 慌てて駆け寄ろうとする私をギャリーは手を出して止めた。
「……ギャリー……?」
 私は意味が分からなかった。なぜ、メアリーの側へ行くのを止められる必要があるのか。
 そんな私にギャリーは驚きの言葉を放った。

「イヴ、落ち着いて聞いて。……メアリーは人間じゃないの」
「…………え?」
 頭が真っ白になった。だって今の今まで一緒に探検していたのに?

 ギャリーは続けて言った。
「思い出したの。曖昧だった記憶を——」

      *

 アタシは絵の具玉を集めるために、たくさんの部屋を巡っていた。
 その時、本棚がたくさんある部屋にたどりついた。
 たまたま近くにあった本——ゲルテナ作品集 下 ——にその真実はあった。

「メアリー」
 ゲルテナが手掛けた生涯最後の作品。
 まるでそこに存在するかのようにたたずむ少女だか、
 もちろんのこと彼女も実在しない人物である。

      *

「これが真実よ。普通の人みたいに接してきたから分からなかったわ」
「ウソ……ウソだよね、ギャリー?」
 私はすがるような気持ちでギャリーを見つめる。
 だが、ギャリーは無言で首を横に振り、そこに落ちていたメアリーの薔薇を指差して言った。
「触ってみれば分かると思うけど、その薔薇、本物そっくりに作られた造花だわ」
 確かにメアリーの薔薇は、私の薔薇と質感が違った。
「イヴ、仕方ないけど、受け入れるしかないのよ」
「……うん」
 受け入れなくてはならない。これが真実なのだから。

 私は泣きそうなのを我慢して、ギャリーの手を強く握りながらゆっくりと前に進んだ。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.42 )
日時: 2013/11/24 07:58
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*18

「なんか変な雰囲気の所に入ったわね」
「…………」
 ギャリーの言葉は聞こえていたが、私の頭は動いていなかった。

 あのメアリーが……ずっと一緒にいたメアリーがゲルテナの作品——あの動く絵やマネキンと同じだったなんて……。

「イヴ」
 隣を歩いていたギャリーが足を止め、私と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「メアリーのことはショックだったでしょうし、すぐに気持ちを切り替えるのも難しいでしょうけど、」
 一度言葉を区切って、うつむいていた私の顔に手を置いて少し上に向かせて続けた。
「下を向かないで、前を見て。少しづつでいい。一歩づつでいいから、前を見て歩きましょ」
 ね! と優しくギャリーは笑った。

 ギャリーだって辛いはずなのに……。

「……うん。ありがとう、ギャリー」

 ギャリーのおかげでやっと笑うことができた。

      *

 さっきギャリーが言っていたように、改めて回りを見回すと、確かに雰囲気が違う場所へ来た。
 今までは美術館のような場所だったのに、ここはまるでスケッチブックにクレヨンで描かれたラクガキの中に入ったようだった。

「さて、これからどうしましょう……ん?」
 壁を見つめるギャリーにつられて見ると、そこには子供が書いたような字で『ぴんくのかぎは、おもちゃばこにしまうこと』と書いてあった。
「おもちゃ箱? そこに行けば鍵が手に入るのかしら? 行ってみましょ!」
「うん!」

 ここは、今まで見てきた中では道は簡単な方で、すぐにおもちゃ箱がある部屋にたどり着いた。
 その部屋はおもちゃ箱らしき大きな箱がポツンとあるだけの、殺風景な部屋だった。
「これがおもちゃ箱? ずいぶんと大きいのね……それに底が深くて真っ暗だわ。この中に鍵があるのかしら?」
「そうみたい……どうする、ギャリー?」
「う〜ん……」


「行ってみたら?」


 それはとても馴染みのある声。

 私達が振り返ろうとした瞬間、背中に衝撃が走り、おもちゃ箱に突き落とされた。

 視界が黒で塗り潰される直前に見えたのは、

 揺れる金色だった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.43 )
日時: 2013/11/24 08:02
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: tDifp7KY)

*19

 目を覚ますとそこは、薄暗い空間だった。
 体を起こそうとすると、少し痛んだが、どうやら無事らしい。
 周りを見回すと、所々子供の落書きの用な絵とたくさんのおもちゃが見えた。
 けど、大切な物が見当たらない。
 この不思議な世界に入ってからずっと持ち歩いていた、私の赤い薔薇がなかった。それに、一緒に落ちたはずのギャリーも居なかった。
「ギャリー!!」
 ……返事が無い。私はおもちゃに足を引っかけないように注意しながら、辺りを歩くことにした。

 歩き始めてすぐに、私はギャリーを見つけた。落ちたショックで気絶しているらしい。
「ギャリー!!」
 慌てて近づき肩を揺らす。
「うっ…………イヴ?」
「ギャリー大丈夫?」
「えぇ、少し体が痛いけど……イヴは?」
「大丈夫だよ」
「そう、良かった。それよりここって……おもちゃ箱の中? アタシたち落とされたのよね……追ってきたあの子に……。って、イヴ、顔色悪いけど本当に大丈夫?」
 ギャリーは私の顔を心配そうにのぞきこんできた。
「うん、私は大丈夫だけど、薔薇が……」
「薔薇? ……って、え!? イヴ、もしかして入って無くしちゃったの!?」
「うん……」
「大変じゃない!! 急いで探しましょ!!」

 私とギャリーはおもちゃ箱の中を手分けして探した。だか、周りが薄暗くて薔薇はすぐには見つからなかった。その代わり——
「ギャリー!」
 名前を呼ぶと、すぐにギャリーはこちらに来た。
「何? 薔薇見つかった?」
「ううん、まだ。でも代わりにこれ見つけたよ」
 そう言って私はギャリーにそれを見せた。
「これって……鍵!?」
「うん。多分私たちが探したていたぴんくの鍵だと思う」
「そう。これで先に進めるわね。あとはイヴの薔薇だけど……」
 その瞬間——

『キャハハハハハハ!!』

 不気味な声が辺りに響き渡った。
 それに、
「私にくれるの? やった!! ありがとう♪」
 と言う無邪気な声が続いた。

「え……? この声って、まさか!? 行くわよ、イヴ!!」
「う、うん!」

 ギャリーに手を引かれながら、声のした方へ走ると、やはりそこに居たのは金髪に青い目、高級そうな緑のワンピースを着た、仲間だと思っていた女の子——メアリーだった。

 「メアリー!!」
 ギャリーが声を出すと、メアリーはこちらを向き、今までと同じように笑った。
「あれっ!? イヴとギャリーだ! 探し物は見つかった?」
「…………」
「それより、さっきいいものをもらったの!」
 そう言ってメアリーが差し出したのは、真っ赤な真っ赤な私の薔薇だった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.44 )
日時: 2013/11/25 06:16
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*20

「メアリー、その薔薇は……!」
 ギャリーが驚きながら言うと、メアリーは納得したように言った。
「あぁ、これイヴの薔薇だったんだ! どこかで見たことあると思った!!」
「メアリー、その薔薇をイヴに返してあげて」
「え〜そうだなぁ……」
 メアリーは少し迷った後、満面の笑顔で言った。

「じゃあ、ギャリーの薔薇と交換して?」

「「っ!!」」
「私ね〜赤も好きだけど、青はもっと好きなの!! ……イヴ、それでも返して欲しい?」

 ……私、は……。

「……別に返してもらわなくてもいい」
 ギャリーの大切な薔薇を交換してまでも、私の薔薇を返して欲しいとは思わなかった。
「何バカなこと言ってるの!!」
 そう叫んでギャリーは自分の薔薇を取り出し、メアリーに差し出した。
「いいわ。イヴの薔薇と交換して」
「え!? 本当に良いの?」
「えぇ」
「やった〜!!」
 メアリーが赤、ギャリーが青の薔薇を差し出し交換した。
 ギャリーの薔薇を受け取ったメアリーは、

「キレイな色……。アハ、アハハハハ!!」

 笑いながら走り去って行った。


「はい! もう無くさないように、しっかりと持っておくのよ」
 そう言ってギャリーはしゃがんで、私の手に薔薇を握らせてくれた。
「……ギャリー」
「ん?」
「ごめんなさい。私が薔薇を無くしたから……」
 うつむきながら言うと、ギャリーは優しく私の頭を撫でながら言った。
「イヴのせいじゃないわよ。アタシが勝手にやったことだし、それに薔薇だったら今からメアリー追いかけて取り戻すこともできるんだから!」
「……うん。ありがとうギャリー」
「どういたしまして!」

 私たちは急いでメアリーを追いかけた。だが——。

「…………」
「? ギャリー?」
 急に足を止めてしまったギャリーに気付かず進んでしまった私は、駆け足で戻った。
「大丈夫? 凄い汗だけど……」
「…………イヴ、ごめん。何て言うか……ウソは付きたくないけど、本当のことも言いたくない……」
 うつむかせていた顔を上げ、ギャリーは微笑みながら言った。
「……動けるようになったら、追い付くから……先に行ってて」
 けれど、私にはムリをしているようにしか見えなかった。
「……はい。これ使って」
「……ハンカチ?」
「うん。汗凄いから貸してあげる。だから——後でちゃんと返してね」
「————」
 ギャリーは驚いたような顔をして固まっていた。
「絶対だよ!!」
 念を押すと、ギャリーはまた優しく笑った。
「分かったわ。約束ね」
 そう言ってギャリーは右手の小指を出した。
 私も小指を差し出し、指切りげんまんをした。

 そして私はギャリーに
「絶対来てね!!」
 と、もう一度念を押してメアリーを追いかけた。



 ——これが私とギャリーの最期の会話だった——。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.45 )
日時: 2013/11/25 06:19
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*21

『好き……嫌い……好き……嫌い……』

 ギャリーと別れた先にあった道へ進むと、少しづつ声が聞こえてきた。
 この声は間違いなく——、
「メアリー!!」
 階段を上りきり少し広い場所に出た私は、そこに居た金髪の少女の名を呼んだ。
「これでやっと……。フフフ……ハ、アハハハハハ!!」
 メアリーは私の事なんてどうでもいいのか、またどこかへ行ってしまった。
 メアリーが立っていた場所には、青い薔薇の花弁と花弁がなくなってしまった薔薇の茎だけがポツンと落ちていた。

 メアリーが出ていった方の道へ行くと、見たことあるような場所へ出た。
 そこは、この悲劇が始まった場所——私がお父さんとお母さんと一緒に来た普通の美術館とそっくりだった。作品の配置までも一緒だった。


 私は一階をぐるりと歩き、二階も調べた。
 すると二階の一番大きな部屋に、とても大きな絵があった。
 絵があるのは普通の美術館と一緒なのだが、どこか違う雰囲気がする。
「これって……?」
 そう、『違う雰囲気がする』のは当たり前だ。
 何故なら、絵の内容が違っているのだから。普通の美術館で見たのは黒っぽい絵だったが、今は白っぽい絵になっている。その絵の下には張り紙があった。

『 絵空事の世界 』
『飛び込んだらもう戻れない ここでの時間はすべて失う それでもあなたは飛び込むの?』

 それを読み終わった瞬間、パッと目の前が光り、絵の額縁が消えた。
 恐る恐る絵に触れると、手が絵の中に入った。
「……もしかして……帰れる、の?」
 ずっと願ってきた、ここから出る事が、今まさに叶おうとしている。でも——。
「……ギャリー……」
 私は一度振り返り、今まで来た道を眺めた。ギャリーはまだ来ていなかった。
「…………」
 ……ギャリーはきっと来てくれる。ちゃんと約束したから。だから私は——ギャリーを信じる。

 私は絵から少し離れ、助走を付けて、
「えいっ!!」
 思い切り絵に飛び込んだ。



       *



「これで——願いが叶う。外に出られる」
 数秒前に赤の少女が飛び込んだ絵を見つめる者が居た。
 それは絵に向かって歩き、ゆっくりと中に入った。

 誰も居なくなり静かになった場所には、本物よりも輝いている、一輪の黄色い薔薇だけが残されていた。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.46 )
日時: 2013/11/25 06:22
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*22

 目を開けると、そこには大きな黒っぽい絵があった。
「えっと……」
 私は何をしていたのだろう?

 お母さん達と一緒に、ゲルテナって人の展覧会に来て、

 受付している間に一人で見るって言って、

 一人で展覧会を見て、それから——、

 ……それから何をしたんだっけ?


 何か大切な事を忘れている気がする。でも思い出せない。もう一息の所まで来ているのに……。

 ……まぁ、思い出せない事をずっと考えていても仕方ない。
 きっともう受付も終わっているだろうし、そろそろ戻らないと心配されるだろう。
 私は二階を一回りして、お母さん達がいない事を確認し、一階に下りることにした。が、階段の近くにあった絵に私は目を奪われて足を止めた。

 そこには、紫色の髪にボロボロのコートを着て壁にもたれ掛かっている男の人が描かれていた。

 題名は『忘れられた肖像』

 ——なぜだろう。なぜ、こんなにも心が引かれるのだろう。
 今まで見た作品には何も感じなかったのに……なぜこの作品だけ……。
 もう少しよく見ようと絵に近づいた瞬間、
「あ! イヴいた! もう、探したんだからね!」
 名前を呼ばれ、腕を引かれた。そこにはお母さんが立っていた。
「さっ、行きましょ! 二人とも一階で待ってるわ」
「う、うん」
 あの絵をじっくり見たかったなぁ……
 そう思いながら階段を下りた。すると、
「おっそーい!! もうお腹空いちゃったよ!!」
「まぁまぁ、メアリー落ち着きなさい。ここを出たらカフェにでも行こうね」
 一歳年下の妹メアリーと、お父さんが待っていた。
「良いわね、カフェ。イヴもお昼はそこで良い?」
「うん」
「私、オムライスが良い!!」
「ハハ、メアリーはオムライスが好きだね」
「だって美味しいもん!!」
 お昼ご飯をカフェで食べる事を決めた私達は美術館を出た。

「…………」
「? イヴ、どうしたの?」
 歩きながら考え込む私にメアリーが声をかけてきた。
「うん……私、何か大切な事を忘れている気がするの……」
「良いんじゃない? 思い出せないなら、無理に思いだそうとしなくても。それより、帰ったら何して遊ぶ? ……何がいいかなぁ」
 美術館が退屈だったのか、メアリーはもう家で遊ぶ事を考えているようだった。
 おもむろにメアリーは私の手を握り、満面の笑みで言った。
「これからも……ずっと一緒にいようね! イヴ!!」
「うん!!」
  私はメアリーの手を握り返しながら、同じく笑顔で言った。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.47 )
日時: 2013/11/01 09:51
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: v2e9ZzsT)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=1130

【お知らせ】

参照800突破しました!!
ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました!!

そして、やっと……やっと、原作の小説が終わりました!!
ここまで長かった……ε- (´ー`*)
今更ですが 、>>0にIbの本家のホームページのURLを貼りました。
小説では省略していた内容もたくさんあるので、ぜひ遊んでみて下さい!
(この小説のEDはアレンジしているので、ゲームにはありません)


これからは原作にはない、オリジナルの話になります!!
相変わらず、更新スピードが遅いですが、読んで下さるとありがたいです!

URLの絵はリア友が描いてくれました!!(イヴちゃんです!)
本当にありがとうね!!

これからもよろしくお願いいたしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.48 )
日時: 2013/11/25 06:25
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*23

 「「「ハッピーバースデー、イヴ!!」」」

 今日私は十歳の誕生日を迎えた。
 そこで家ではささやかなパーティが開かれていた。
「イヴ、プレゼント!!」
「ありがとうメアリー」
 誕生日プレゼントとしてメアリーから髪をしばる赤いリボンをもらった。
「おそろいにしたんだよ!」
 メアリーは自分の髪にしばられた赤いリボンを見せた。金髪に赤色がよく似合っていた。
「うん。かわいいと思うよ!」
「えへへ♪ やった!!」
「お父さんからはこれだ」
 そう言ってお父さんは分厚い本を取り出した。
「覚えているかい? 一年前に行ったゲルテナの展覧会の事。これはそこに飾ってあった絵の画集だよ。あの展覧会はイヴも気に入っていたようだし、喜んでくれると嬉しいな」
「ありがとうお父さん!!」
「お母さんからはこれ」
 差し出されたのは白いレースのハンカチ。
「前の誕生日にあげたやつ、いつ無くしたの? 今度は無くさないようにね」
「うん。ハンカチ無くしちゃってごめんなさい。今度はちゃんと大切にするね!」
 皆からプレゼントをもらい、楽しいパーティの時間はあっという間に過ぎていった。

      *

「今日は楽しかったなぁ……」
 自分の部屋でベッドに横になりながら一人つぶやいた。
「あ、そうだ。お父さんからもらった本……」
 まだ寝るのには早かったので、お父さんからもらった画集を見ることにして、分厚い本をベッドに持ってきた。
「……うわぁ。懐かしいなぁ……」
 そこには約一年前に見た絵の数々が並んでいた。
『新聞を取る貴婦人』、『心配』、『赤い服の女』——その他にもオブジェの写真もいっぱいあった。

 私はとある絵でページをめくる手を止めた。

『忘れられた肖像』

 それは一年前のゲルテナの展覧会が行われた美術館から帰る時、なぜか気になっていた絵だった。
「何でだろう……もうちょっとで思い出せそうなんだけど……」
 その絵をじっと見ながら必死に思い出す。

 紫色の髪。
 ボロボロのコート。
 優しい笑顔。
 レースのハンカチ。

 色々な光景が浮かんでは消えていく。
「……? レースの、ハンカチ?」
 確か……前の誕生日にもらったハンカチは、展覧会が終わった後に無くしてしまったはずだった。
 じゃあ、何で今頭に浮かんだんだろう?

「貸して……あげた?」
 その言葉を口にしたとたん、私が誰かにハンカチを差し出している光景が見えた。
 ハンカチを渡されている人は、どことなく絵の人と似ていて——。


「……ギャ……リー?」


 その言葉が鍵となっていたかのように、一気にあの時の記憶があふれだした。

『アタシ、ギャリーって言うの』

『……もう大丈夫よ』

『絶対にここから出ましょ!!』


『イヴ』


 どうして忘れていたんだろう。
 どうして忘れることが出来たんだろう。

 私の名前を呼んだ優しい声を。
 私を励ましてくれた暖かい手のぬくもりを。
 いつでもそばに居てくれた、彼の存在を。

「……うっ、ギャ、リー……」
 私は画集を泣きながら抱きしめ、絵の中の彼の名を呼んだ。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.49 )
日時: 2013/11/25 06:27
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*24

 翌日、私はいつもより早く起きて外に出かける準備をした。
 本当はすべてを思い出した昨日の夜のうちに行きたかったのだか、さすがに時間も遅かったので今日にしたのだ。

 ——そう、今日、私はあの美術館へ行くのだ。

 ゲルテナの展覧会はもう終わってしまっているかも知れないが、それでも行く価値はあると思った。
 準備を終え、そろそろ出ようとすると、
「イヴ? どこかに出かけるの?」
 と、メアリーから声をかけられた。
「メアリー……」
 私はメアリーを直視することが出来なかった。そんな私の反応から察したのか、メアリーは目を細めていつもより少し低い声で私に聞いた。

「もしかして……思い出したの? あの美術館のこと」
「…………うん」
 私はうつむきならがら答えた。
「ギャリーの事やメアリーがギャリーにした事、あの時のこと全部」
「……思い出してほしくなかった」
 メアリーは悲しそうな顔をして言った。
「イヴはギャリーにあんな事した私のことキライになるだろうから……」
 私はメアリーの暖かい手を握りしめながら、首を横にふった。
「メアリーと一緒に暮らしたこの一年、凄く楽しかった。あの事を思い出してもそれは変わらないよ。だから私はメアリーの事をキライになんかならない」
「……イヴ、ありがとう」
 そこでようやくメアリーは私に笑顔を見せてくれた。

「私、これからあの美術館に行ってくる。お留守番よろしくね」
「分かった。気をつけてね」
 メアリーに留守番を頼んで私は外に飛び出した。
 一年前に歩いた道順を思い出しながら走る。私のことを命懸けで守ってくれた彼のために。どうしたら助ける事が出来るのか分からないけれど——それでもただひたすらに走り続けた。
 空は、あの日と同じ灰色だった。

      *

「…………ウソ、でしょ……?」
 美術館にたどり着いた私は、門の前で立ち尽くしていた。
 その門には鈍く光る鍵と、黒の門に似合わない白い紙が貼ってあった。
 紙にはこんな事が書いてあった。

『現在この美術館は、建物の改装及び修理のために閉館しております。皆様には多大なるご迷惑をおかけしますが、何卒、ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。 館長』

 その下には、工事の日程と工事修了予定の日付が書かれてあった。それは今から四年後のものだった。

 知らず知らずのうちに涙があふれてくる。一度出てしまうともう抑えが効かなくなり、私は門の柵を握りしめながら泣いた。


 私はこの両手からこぼれそうなほどの思い出をもらった。楽しいものばかりではなかったけれど、とても大切なものだ。
 なのに、何も恩返しが出来ていない。最後の最期まで迷惑ばかりかけてしまった。
 あなたは優しいから、きっと気にするなって言うだろうけど……。


 ねぇ、神様。もし居るなら、私の願いを叶えて下さい。
 たった一度で良い。
 他には何も望まない。
 だからもう一度だけ……。

「……会いたいよ…………ギャリー……」

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.50 )
日時: 2013/11/25 06:29
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

 君にはまだ伝えたい事があった。話したい事があった。

 でも、もう隣に君はいない。

 
 だから書こう。君への手紙を。

 君へ伝えられなかった、あの日の事を全部詰め込んだ手紙を。


 どこにも出せないけれど、君には絶対届かないけれど、

 きっとこの気持ちだけでも、心だけでも——、


 届くと信じて。




*番外編 『届かぬ手紙』 始動*

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.51 )
日時: 2013/11/18 12:34
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: WIU8k0YH)

【お知らせ】

こんにちは! 緑茶です。
今回はちょっと本編をお休みして、番外編『届かぬ手紙』をお送りします!!

・ギャリー視点です。
・2、3話の予定ですが、長くなるかもです。
・この話は捏造です。本家Ibにはない話です。
・ギャリーの口調がおかしいかもです。

以上の事をご理解の上で進んで下さいm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.53 )
日時: 2013/11/25 06:32
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*1

 あの日アタシは久し振りに美術館へ足を運んだ。
 その日はたまたま暇だったし、よく雑誌で見るゲルテナって人の作品に少し興味もあったから。
 始めはそれなりに楽しく作品を見ていた。けど——いつの間にか人の気配が無くなって、気が付いたらアタシは一人ぼっちになっていた。


 人を探しているうちに変な場所に迷い混み、迷っている途中で青い薔薇を見つけた。
 その薔薇を見たとたん、何故か大切に持って行くべきだと思った。
 アタシはその直感にしたがって、持って進むことにした。
 戻ろうとは思わなかった。——いや、正確に言うなら、戻ろうとしたが出来なかった。今まで来た道が無くなっていたり、ドアが開かなくなっていたり……結局進むしかなかった。


 ずっと歩きっぱなしだったアタシはちょうど良い場所を見付け、少し休んだ。
 すると突然ガッシャーン!! と音がして、目の前の絵が落ちた。
 アタシは驚いて立ち上がって、絵を見た。絵からは青い服の女が上半身だけ絵の中から出ていた。
 普通じゃ絶対あり得ない光景にアタシはパニックになり、逃げるのが遅くなってしまったの。
 その隙を見付けた女はすかさずこちらに近づいて、アタシが持っていた薔薇を奪い、その花弁を引きちぎった。
 その瞬間、身体中に激痛が走り、立っていられなくなった。だか、このままでは危ないと思ったアタシは、必死に薔薇を奪い返し全力で走った。
 走っている途中で見付けた鍵と、花弁が辛うじて残っている薔薇を握りしめながら。


 女が追って来ていないことを確認し、安心したとたん身体中に痛みが戻って来て、アタシはそのまま意識を失った。


 耳元で誰かの声がした。気付けばもう苦しくなく、ゆっくりと目を開けた。
 すると目の前には——そう、君が立っていたの。

 君はアタシと同じように迷って、そしてアタシを助けてくれたんだよね。本当にありがとう。

 それからアタシは君と一緒に進むことにした。
 進んで行くうちにもう一人、メアリーが仲間になって、一人で歩いていた時より比べ物にならないくらい賑やかになった。
 『このまま三人でここを出る』
 アタシはそれを目標に進んでいたんだ。


 ——その願いが叶わないと知ったのは、この目標を立てた少し後、二人と別行動をしている時だった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.54 )
日時: 2013/11/21 21:52
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: X4sjHulf)

【お知らせ】
参照900突破しました!! 

ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございますm(__)m
これからも頑張ります!!
目指せ、参照1000!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.55 )
日時: 2013/11/23 16:47
名前: ネツケヤ ◆j5gyZdHLxI (ID: m1N/dDQG)

緑茶sおひさです!!!!ks作者のネツケヤですww
PC壊れてしばらく来れませんでした…。これからは、ちょくちょく来させて頂きます!!!!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.56 )
日時: 2013/11/23 19:48
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: y9FxUFsG)

ネツケヤさん
お久し振りです!
はい!! ぜひ来て下さい!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.57 )
日時: 2013/11/25 06:33
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ejIoRkVP)

*2

 アタシがそれを知ったのは、二人と別行動をしている時だった。

 石でできた茨のツルによって別行動を余儀なくされて、アタシは一人でなんとか出来ないか、色々調べていたんだ。
 抜け道を見つけ、絵の具玉を集めることになった時、アタシは見た。見てしまった。本棚の中にあった一冊の本——ゲルテナ作品集 下——の、あのページを。

『メアリー』

 そこには、途中で仲間になったメアリーの名前と、メアリーそっくりの絵があったんだ。
 キレイな金髪に青い目、高級そうなワンピース。絵に描いたような美少女だと思ったけど、まさか本当に絵から出てきたとは思わなかったわ。

 そして——これは最期まで君に話さなかった事だけど——その本棚の中には、この世界のことを書いた本があったの。

 そこには——、
 ここはアタシ達が来た元々の美術館の裏の世界——ゲルテナによって作られた作品達の世界であること。
 ゲルテナが作り出した作品は、ゲルテナの魂が込められていて、生きている人のように動くこと。
 作品達は自分を壊されることを恐れて、ここに入って来た人を襲うこと。
 入口は多々あるが、出口は一つであること。
 作品は外に出ることが出来たら、実在する人として外で生きていけること。
 ここに迷い込んだ人数だけ出ることが許されること。
 その他色々と書いてあった。

 つまり、ここで出会った仲間のうち一人はここに残らなくてはならない。そしてもしメアリーが外に出られたら、メアリーは本物の人になれるの。

 メアリーがもしこの事を知っているなら、君と一緒に居るのは危ない。

 アタシは一刻も早く合流するために急いで絵の具玉を探した。
 そして、アタシの意識はとある部屋の中でプツンと途切れた。


 意識が戻ったアタシに訪れたのは、涙目でアタシに抱き付いてくる君の姿と、左の頬の痛みだった。
 あの時は心配かけちゃったよね。ごめんね。

 混乱していたらしく、アタシは二人と別れてからの記憶があまり無かった。
 メアリーは無理して思い出さなくてもいいって言った。アタシもそれでいいって思った。

 でも、アタシの記憶は、あることがきっかけですぐに戻ったの。
 拾ったメアリーの薔薇が造花だって分かったとたん、忘れていた記憶が一気によみがえってきたの。
 アタシは薔薇を取り返そうとしたメアリーを突飛ばして、メアリーを気絶させた。そして君にメアリーの真実を伝えた。
 メアリーととても仲の良かった君は、ひどくショックを受けていたね。でも、きちんと伝えなくちゃいけなかったんだ。君を悲しませるようなことはしたくなかったんだけど……ごめん。

 落ち込んでいる君を慰めながら、アタシ達は先に進んだ。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.58 )
日時: 2013/12/01 00:28
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 1hluJEzQ)

*3

 進んだ先にあったのは、君には厳しすぎる現実だったね。
 おもちゃ箱に落とされて、君の薔薇はメアリーの手に渡ってしまった。
 メアリーは『アタシの薔薇と交換なら、返す』って言った。それに対して君は、『返してもらえなくても良い』って言ったね。
 あの時は、『バカなこと言わない』って叫んじゃったけど、本当は嬉しかった。アタシを守ろうとしてくれて、ありがとう。
 君がアタシを守ろうとしてくれた様に、アタシも君を守りたかったんだよ?
 君にはたくさん助けてもらったから、その恩を返したかったんだ。

 君は優しいから、『気にしなくてもいい』とか言うんだろうけど、それでも借りはきっちり返したかった。

 アタシがメアリーと薔薇を交換した時、君はアタシに謝ったよね。
 あの時も言ったけど、自分がやりたいから交換したんだ。気にしないで。

 ……そうだ。一つ謝らなくちゃいけないわね。
 約束、守れなくてごめんなさいね。
 ハンカチ、ちゃんと返すって言ったのに……。あ、後、マカロン一緒に食べに行くって約束もあったわね。その約束は、守れないわ……。本当にごめん。

 君は無事に外に出られた?
 一緒に外に出たメアリーも元気?

 こっちは、メアリーの抜けた穴を埋めるような形で作品達の仲間になったけど、それなりに元気よ。
 でも、最近、工事か何かを始めたらしくて、絵やその他の作品は全部倉庫っぽい場所に入れられちゃったみたい。外の景色が見れる絵が、真っ黒になっちゃったのは寂しいかな。

 君は幸せですか?
 今を楽しんでいますか?
 止まってしまったアタシより、君の時間は進んでいますか?

 君は、アタシの事を——あの日の事を、今でも覚えてくれていますか?

        *

「ふぅ……」
 アタシは伝えたかった事を、全部詰め込んだ手紙を一気に書いて、ペンを机の上に置いた。
 腕を伸ばしながら天井を見る。そこにはいつもと同じ暗さがあった。

 暇で暇で、やることが無くて、思い付いたから手紙を書いてみたけど……色々思い出しながら書いたせいか、脳裏に君の笑顔が浮かんできた。

 今ではもう、『つらい』とか『外に出たい』とかの感情は無くなってしまった。
 そんなアタシに残っている、たった一つの願いは——。

 一度だけでも君に——。

「……会いたいよ……。イヴ」

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.59 )
日時: 2013/11/30 22:13
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 こんばんは、朔良です。

 やっぱり緑茶さんの文章は素敵だなあ〜と思います。 
 読み易くて、す〜っと入ってくる感じがします(*^_^*)


 いつか、緑茶さんの完全オリジナルも読んでみたいな、と思いました。


 応援してます
 更新頑張って下さい!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.60 )
日時: 2013/12/01 00:35
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 0hhGOV4O)

朔良さん
そんな素敵だなんて……。朔良さんの作品だって、凄く素敵ですよ!

オリジナルの話ですか……。実は、この作品が終わったら、書いてみようかなぁ…と思っています(。-∀-)

ありがとうございます!! 朔良さんも頑張って下さい!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.61 )
日時: 2013/12/02 23:26
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: jBnjPLnI)

【お知らせ】
こんばんは、緑茶です。
番外編『届かぬ手紙』いかがだったでしょうか?
これにて、番外編は終了となり、次回からまた本編がスタートします。
本編はいよいよクライマックスです! 最後までお付き合い頂けると幸いです!
よろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.62 )
日時: 2013/12/03 00:35
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: jBnjPLnI)

*25

 ——四年後——

 私は灰色の空の下を一人で走っていた。目的地はあの美術館。
 そこでは今、ゲルテナの展覧会が行われている。
 行っても彼に会える訳ではないけど、せめてちゃんと謝りたい。
 私は四年前のあの日と同じ様にただ走った。

 美術館は工事が終わり、前に来た時よりキレイになっていた。
 しかし、美術館の規模の小ささと天気のお陰で、人はほとんど居なかった。

 私は簡単に受付を済ませ、焦る気持ちを抑えながら、あの絵を探して小さな美術館の中を歩き回った。

 ほどなくして、私は彼の絵を見付けた。

『忘れられた肖像』

 それは、皆とここに来た日と全く変わらないままだった。
「ギャリー……」
 私はギャリーの絵に手を置きながら謝る。
「ごめんなさい……。私があの時、薔薇を無くしちゃったから……。本当にごめんなさい……」
 自然と涙がこぼれた。
 その瞬間——

     *

 今日もする事が無く、美術館の中をさ迷っていたアタシは、表の美術館が騒がしいことに気が付いた。
 騒がしいと言っても、少し人が来ているだけの様だか、それだけの音を久しぶりに聞いた。どうやら工事が終わったらしい。
 様子が見たくて、外と繋がっているアタシの絵の額縁まで走って行くと、そこには——

「…………イヴ?」

 アタシと美術館をさ迷ったあの日より、背と髪が伸びて少し大人っぽくなっていた女の子がいた。どことなくイヴの面影があった。

『ごめんなさい……。私が薔薇を無くしちゃったから……。本当にごめんなさい……』

 久しぶりに聞いたイヴの声が、アタシの耳に、心に響いた。
「違うわ!! イヴのせいじゃない! アタシがやりたくてやった事だから……。だから、」

 泣かないで。

 どんなに声を張り上げたって、この声は君には届かない。
 目の前に君が居るのに、触れることも出来ない。
 なんとかしてこの気持ちを伝えたくて、アタシの絵に置いている君の手に、重なる様に自分の手を置いた。
 その瞬間——

     *

 突然上から重い何かが降ってきて、立っていた私はしりもちをついた。
「いった……」
「うぅ……」
 勢い良く打ってしまったお尻の痛さに顔を歪めながら、落ちてきたそれをよく見た。
「…………!!」
 余りの驚きに私は言葉を失ってしまった。

 落ちてきたそれは人の形をしていた。
 その人は紫色の髪をしていて、ボロボロのコートを着ていて——

「ギャ……リー?」

 私の声に反応したのか、その人はゆっくりと顔を上げ、驚いた様に目を見開きながら言った。

「……イヴ……?」

 その声を聞いた瞬間、壊れたダムの様に涙が溢れだし、私はギャリーに抱き付いた。
「うぅ……ギャ……リー。ごめ……なさ……」
 泣き付きながらひたすらに謝った。
 私が薔薇を無くさなければ、ギャリーは絵の中に閉じ込められる事なんて無かったのに。あんなに苦しい思いをしなくてよかったのに。
「いいのよ。気にしないで」
 そう言ってギャリーは、私を優しく抱きしめ返してくれた。
 その手には、ギャリーと美術館をさ迷っていた時と同じ暖かさがあった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.63 )
日時: 2013/12/03 21:49
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: zjy96Vq7)

*26

 ギャリーは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。
 ようやく落ち着いた私は、ギャリーに様々な話をした。

 今はいつなのか?
 どんな世界になっているか?
 実はメアリーと一緒に脱出して、今では姉妹として暮らしていること。

 ギャリーも私に話を聞かせてくれた。

 向こうの美術館には色々なルールがあり、メアリーは外に出る為にギャリーを襲ったこと。
 向こうからこちらを見れる絵があって、そこを見たら私が居たこと。
 私が絵に置いていた手に自分の手を重ねたとたん、こちらに出られたこと。

「しっかし……何でいきなり外に出られたのかしら?」
「うーん……」
 多分、出る前にやった『手を重ねること』が大切だったと思うんだけど……。
「良く分からない」
「アタシも……。まぁ、『終わり良ければすべて良し』ってことでいいんじゃない? 考えても分からないことは、分からないんだし」
「……そうだね」
 考えても答えは出ないと思った私は考えるのを止めて、再会出来た喜びを噛みしめることにした。

「……さてと。アタシはそろそろ行かなくちゃ」
「行っちゃうの……?」
「ええ。イヴの話だと、アタシが絵の中に閉じ込められてから、五年経っているんでしょ? だったら家の掃除とか、家族の事とか、色々やることは多いからね」
「……そっか」
 ギャリーと離れると、また会えなくなるような気がして、私は不安だった。
 そんな私の気持ちを察したのか、ギャリーは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「大丈夫よ。一生の別れとかじゃないんだから。……約束もあるしね」
「約束……?」
「あら? イヴが約束したのに忘れちゃったの? マカロンを食べに行く約束!!」
「……あ!!」

 思い出した。
 一緒に外に出られたら食べに行こうって、約束してたんだっけ……。

「ちゃんと会えるわよ。だから大丈夫。ね?」
「うん!!」
 頭を撫でてくれていたギャリーに向かって、私は笑顔でうなずいた。

     *

 私とギャリーは美術館の外に出ていた。
 いつの間にか空は、灰色から真っ青な色に変わっていた。
 絵だったギャリーが抜けた穴は他の作品が埋めたらしく、『忘れられた肖像』があった場所には『吊るされた男』と言う、新たな絵があった。不思議な力が働いているのは相変わらずだった。

「ん〜。久しぶりに外の空気を吸ったわ! 気持ち良い〜」
 ギャリーは深呼吸をして、空を眩しそうに眺めていた。
「そうだね」
 私も同じように空を見た。清々しいほどの青空は、確かに気持ち良かった。
「……イヴ」
「何?」
 空を眺めていた私は、名前を呼んだギャリーの方を見る。
「色々やることが多くて、すぐにはムリだけど……落ち着いたら、手紙を送ってもいいかしら?」
「手紙?」
「そ、手紙。約束の待ち合わせとか連絡したいんだけど……。住所教えてもらってもいい?」
「もちろん!!」
 私は近くにあった『美術館をより良くするために』の紙を一枚貰い、そこに家の住所を書いた。
「ありがとう、イヴ。……あ、後、ハンカチもマカロンの時でいい? ちゃんと洗濯して返したいから」
「分かった!」

 美術館の外の別れ道まで歩いた私達は、そこで足を止めた。
「じゃ、アタシこっちだから……」
 ギャリーは私の帰り道と反対の道を指差した。
「そう……」
 もっと話したかったなぁ、と、うつむきながら言うと、ギャリーはまた頭を撫でた。
「なるべく早く連絡出来るようにするから……。待っててくれる?」
「……うん!!」
 四年も待てたのだ。後少しなんてきっとすぐだろう。私は元気に頷いた。

 指切りげんまんをして、私達は別々の道へと歩き始めた。


「「またね!!」」


 ——またすぐに会えることを信じて。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.64 )
日時: 2013/12/03 21:54
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: zjy96Vq7)

《エピローグ》

 出会いのあとには別れがある。

 別れのあとには出会いがある。

 では、再会のあとには?

 ——さよならの先にあるのは、きっと奇跡。



   Ib オリジナルED 『さよなら』の先に

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.65 )
日時: 2013/12/04 13:10
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Ueli3f5k)

【お知らせ】
こんばんは!! 緑茶です!
「Ib—『さよなら』の先に—」いかがだったでしょうか?
*26をもって、この作品は完結となります。
無事に完結出来たのは、ここまで読んで下さった皆様のお陰です!!
本当にありがとうございました!!m(__)m

ですが、この作品はまだ少し続きます。
……言ってることが矛盾してるって?
完結したのは《本編》です。( ‾▽‾)
《番外編》をもう一本書こうと思っています!!

こんな作者ですが、もうしばらくお付き合い頂けるとありがたいです!
よろしくお願いします!!

【追記】
参照1000突破!! ヘ(≧▽≦ヘ)♪
本当に本当にありがとうございました!!

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.66 )
日時: 2013/12/20 20:29
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: VnoP1T29)


 私は罪を犯した。

 どうやっても許されない罪を。

 叶うことなら一度だけで良い。


 私に罪を償うチャンスを——




*番外編 『私の願い 二人の思い』 始動*

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.67 )
日時: 2013/12/20 20:38
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: VnoP1T29)

【お知らせ】

お久し振りです、緑茶です。今回は番外編『私の願い 二人の思い』を書いていこうと思います!
本編で曖昧になっていた秘密を書く予定です!

・メアリー視点です。
・2〜3話予定です。
・本家Ibには無い話です。

相変わらず更新遅いですが、よろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.68 )
日時: 2013/12/20 22:03
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: VnoP1T29)

*1

 私が目覚めたのは、五年前なのか、十年前なのか、はたまたそれより前なのか——今の私は全く覚えていない。目覚めた場所が薄暗かったことだけは覚えている。

「やぁ、おはよう。メアリー」
 目覚めた私の前に立っていたのは、一人の男だった。
「メ……アリ……?」
「あぁ。それが君の名前だ。そして私は君を産んだ親——ゲルテナだ。親しみを込めて『お父さん』とでも呼んでくれ」
「お父……さん」
 私の親と名乗った男——お父さんは、

 自分が芸術家であること。
 ここはお父さんが作った作品達の世界で、私もその一人であること。
 ここから出て行きたければ、外のニンゲンと入れ替わらなければならないこと……

 その他にもたくさんのことを私に教えてくれた。

       *

「お父さん。他の作品って、どんなのがいるの?」
「知りたければ見に行けば良い。ここにいる物は皆、お前の兄と姉だ。ちょうど良いから挨拶にでも行って来ると良い。私はここで待っているから」
「……道が分からないよ」
 そう言うとお父さんはフッと笑い、
「あぁ、そうだったな。ならば一緒に行こう。おいで」
 ゴツゴツした手を差し出した。
 私も手を差し出すと、お父さんは私の手を握って道案内をしてくれた。お父さんの手は冷たかった。

 赤い服のお姉ちゃん。
 頭の無いお姉ちゃん。
 逆さまのお兄ちゃん。

 お父さんは、たくさんのお兄ちゃんとお姉ちゃんと絵を紹介してくれた。

       *

「ねぇ、お父さん。前に『外に出たい時は、外のニンゲンと入れ替われ』って言ったけど……ニンゲンって何?」
 お父さんは物知りで、私の知らない事を何でも知っていた。だから、私が質問すると、いつもちゃんと答えてくれた。
「人間とは私達と同じような形をした生き物だ」
「お父さんは人間なの?」
「あぁ。だがお前は違う。私に作られた作品——言うなればニセモノの人間だ」
「ニセモノ……」
 それは本物ではないってこと。これもお父さんから教わった。
「じゃあ、本物になるためにはどうしたらいいの?」
「外に出ればいいのさ。そうすればお前は本物の人間として外に出られる。ただし、その為には外の人間と入れ替わらなければならない」
「入れ替わらるにはどうするの?」
「外の人間をこちらの世界に引き込むのだ。お前が望めば簡単に出来るだろう。お前は私の作品の中で、一番の力を持っているのだから」
 頭を撫でてくれたお父さんの手は、相変わらず冷たかった。

「入れ替わった人間はどうなるの?」
 私は続けて聞いた。
「お前の抜けた穴を埋めるように、私の作品の仲間になる。死ぬ訳では無いが、人間達の世界から見れば絵になる。そうなったら、出られる方法はほとんど無い」
「ほとんど?」
 ほとんどと言う事は、ゼロではないと言うことだ。
「絵になった人間が元に戻る方法はあるの?」
「……一つだけ、な」
 お父さんは暗い天井を見ながら言った。
「私はこの美術館を作った時、いくつかルールを決めた。『こちらに来た人数しか出られない』、『こちらに取り残されれば絵になる』等だ。そのルールの一つが記憶操作——つまり、この世界から生きて出る者は、ここでの記憶はすべて失うように。入って出られなかった者は、元から居なかったように改変されるよう設定している。まぁお前は作品だから、記憶操作は働かないがな。……それで、絵から人間に戻る方法だがな、外の人間と絵になった人間の思いが一致した時に戻れる。だが外の人間は、絵になった者のことなど覚えていない。だから戻れる事など、不可能に等しいのだよ」

 お父さんはそこで一度区切り、短い沈黙の後、思いもよらない事を言った。
「……さて、そろそろ行くとするか」
「え……? どっか行くの?」
 私は驚いて聞いた。お父さんは、私が産まれてからずっと近くに居てくれたから、離れるのが不安だった。
 私の気持ちが分かったのか、お父さんは薄く笑いながら言った。
「すぐに戻るさ。私が留守の間、ここを頼むよ」
「……うん、分かった。行ってらっしゃい」
 最後に私の頭を撫でたお父さんの手は、やっぱり冷たかった。

 そして——
 お父さんが出て行った部屋のドアは、二度とお父さんの手で開かれることはなかった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.69 )
日時: 2013/12/27 23:25
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: fr2jnXWa)

*2

 お父さんが出て行ってから、どれ程の時が流れただろうか。少なくとも、もうお父さんは戻って来ない事を理解出来るくらいの時間は経っただろう。

 いつもの様に外の世界を眺めていると、今日は珍しく私と同い年位の女の子が居た。
「お話、したいな……」
 この美術館の中で話せるのはお父さんと私だけだったから、お父さんが出て行ってから誰とも話していない。

 こちらに引き込んでしまおうか……? そうしたら一緒にお話出来るし、仲良くなれるかも……

「あ……でもダメか……」
 そう言って私は肩を落とす。
『こちらに来た人数しか出られない』と言うお父さんの言葉を思い出したのだ。つまり、こちらに引き込んで仲良くなったとしても、外に出られるのは一人だけ。結局は離ればなれになってしまう。
「だったら……」

 もう一人、こちらに引き込んでしまえば……?

 そうすれば私とあの子が一緒に外に出ても、もう一人引き込んだ人が私の代わりに絵になるだけで、何の問題も無い。
「決まり!!」
 私は満面の笑みを浮かべながら、強く『あの子をこっちに連れて来たい』と願った。
 すると、外を見るための額縁がチカチカッと光り、フッとあの子が消えた。
「やった!! 成功♪ じゃあもう一人は……あの人で良いや」
 近くに居た紫色の髪の男の人を指差し、同じように願うと、その人も女の子同様に消えた。

「……あ、」
 そう言えば、二人を引き込んだは良いものの、どこにたどり着いたか分からない。
「……ま、良いか。探しに行けば」
 私は引き込んだあの子に会うために、美術館の中を走り出した。

          *

 しばらく走り回って、やっと出会えた女の子の名前はイヴ。そしてなぜか一緒に居た、私の身代わりの男はギャリーと言うらしい。
 せっかくあの子——イヴと二人で仲良くなって、こっそりここから脱出するつもりだったのに……
 私はそんな不満を持ちつつ、一緒に美術館を探索することになった。するとすぐにギャリーと別れる事件が起きた。
 イヴと二人きりになれたから、さっさと脱出してしまおうと思ったけれど、色々な仕掛けがあって素早く進めなかった。

 ——いや、正確に言うなら『進めたけれど出来なかった』だ。
 こんな仕掛けなんて、美術館の中で一番の力を持っている私にかかれば、すぐに終わらせる事が出来た。ここの作品が襲って来ても、私に取っては兄と姉なのだから止めることだって出来た。
 でも私はやらなかった。理由は簡単。私が普通ではない——最悪の場合、絵である事が知られてしまうからだ。
 イヴは私の事を『普通の女の子』として扱っている。
 例え、外に出たらここであった事を忘れるとしても、警戒されたくなかった。

 そんな事を考えながらイヴと二人で歩いていると、壁に掛かっていた唇の絵が私にこう告げた。

『あの男がメアリーの秘密を知ったらしいよ』

 それを聞いた瞬間、私の身体中に寒気が走った。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.70 )
日時: 2013/12/29 20:30
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: v2e9ZzsT)

*3

 絵の言葉だからだろうか、どうやらイヴには聞こえなかったようで、スタスタと先に行ってしまった。絵の言葉に衝撃を受けて立ち止まっていた私は、ハッと我に返り、すぐにイヴの背中を追った。
 探索中、イヴが「早くここから出たいね」とか「ギャリー、一人で大丈夫かな……」とか話していたが、正直の所、今の私はそれどころではなかった。

 ギャリーが私の秘密を知った。

 それはつまり、私が絵である事を知ったのだ。

(きっとギャリーは、私が襲って来るお姉ちゃん達と同じだと思っているよね……)
 イヴとギャリーに取って、ここの作品=襲って来ると言うイメージなのだろうから、仕方無いと言えば仕方無い。
 けれど合流したら、おそらくギャリーはイヴに、私が絵である事を話すのだろう。そうすれば、イヴと二人で外に出られなくなる。それだけは避けたかった。

 どうしようかと頭を悩ませていると、隣の部屋からポソポソと話し声が聞こえてきた。
 中に入ってみると、そこには人形に向かって話しているギャリーの姿があった。
「……ギャリー?」
 イヴが信じられない様子でギャリーに近寄っている隙に、私は他の人形からここであった事を聞いた。どうやら仕掛けに掛かり、出られなかったペナルティとして狂ってしまったようだった。
 そこで私は考えた。

 ——これは一つのチャンスなのでは?
 狂ったままここに置いて行ってしまえば、私の願いは叶うのでは?

 そう思った私はイヴにこう言った。
「こんなのはギャリーじゃないよ。本物だったらこんな所に居ない」
 ——だから行こう。そう続けるつもりだったが、私が言うより早く、イヴは黙ったまま拳を握りしめて高く振り上げ——ベシィ!! と良い音を響かせて、ギャリーの顔に右ストレートをお見舞いした。
 一緒に居たのは少しの時間だが、それでもイヴが大人しい性格なのは知っていた。だから、そんなイヴが人を殴るなんて思ってもみなかった。

 私はイヴの行動に驚き、固まっていた。すると——
「イヴ……?」
 私はもう一つの驚きで、再び身を固めることとなった。
 今まで正気でなかったギャリーが、イヴの名前を呼んだのだ。

 イヴが嬉しそうにギャリーに抱き付いているのを、私は静かに見つめ、呟いた。
「何で戻ったの……?」

          *

 ラッキーなことに戻ったギャリーは、私が絵である事を忘れている様だった。これでイヴに私の秘密が伝わる心配は無くなった。
 後は、チャンスを見計らって、イヴと私で外に出るだけだ。

 そう考えていた私は、取り返しのつかないミスをしてしまう事を、この時はまだ知らなかった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.71 )
日時: 2013/12/30 16:57
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: YjkuwNYn)

*参照1100越え!!*

こんばんは、緑茶です。
参照が1100を突破しました!!
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます!!

【ちょっとしたお知らせ】
番外編『私の願い 二人の思い』は、2〜3話の予定だったのですが、「あれも書きたい。これも入れたい」と試行錯誤した結果、なんと後4話ほど伸びそうです(^_^;)

なんとか今年中に終わらせたいので、ハイスピード更新になりますが、何卒よろしくお願いしますm(__)m

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.72 )
日時: 2013/12/29 22:17
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 0JVwtz5e)

*4

 私の薔薇は、お父さんがここから出て行く前に私にくれた物だった。

『この美術館において、薔薇は己の命を表す。外から来た者には自動的に与えられるが、お前には無い。いつか外の者と会うのなら必要だろうから、私が作ってやろう。大切に持っていなさい』

 言われた通りに大切に持っていたのに、イヴに私の秘密が知られる心配がなくなった気の緩みからか、私は自分の薔薇を落としてしまった。

「あら? メアリー、薔薇落としたわよ……って、え?」
「触らないで!!」
 拾おうとしたギャリーに私は叫び声を上げた。

 私の薔薇は二人と違う、作り物なのだから。
 私と同じ、ニセモノだから。

 ギャリーを薔薇から遠ざけるために、探索中に手に入れたパレットナイフを突き出した。
「ちょっとメアリー!! 危ないわよ!? 早くそれをしまって!!」
「うるさい!!」
 パレットナイフを取り上げようとするギャリーと私は揉み合いになり、バランスを崩して——
「……っ!!」
 私は床に倒れ、気を失った。
 遠くで私の名前が聞こえた気がした。

          *

 床に倒れて、どれくらいの時間が経っただろうか。
 気が付いた私はゆっくりと身体を起こし、ふるふると頭を振った。辺りを見回してみたが、そこにはもう、二人の姿パレットなかった。
「ねぇお姉ちゃん。二人、何か言ってた……?」
 一部始終を見ていた、壁に掛かった女の人の絵に問い掛ける。
『男が記憶を取り戻して、メアリーの秘密を女の子に話していたわ。女の子はかなりショックを受けていたみたいだけど、ここから立ち去る時は心配そうにあなたを見ていたわ』
「…………、そう。ありがと」
 お姉ちゃんからの言葉を聞いた私は、大きく深呼吸をして、二人を追うために走り出した。

 早くしないと、イヴとギャリーの二人が外に出てしまう。
 ……また私は一人になってしまう。

 ——もう、なりふり構っていられなくなった。


 他のお姉ちゃん達にも話を聞きながら進むと、チラッと揺れる紫が見えた。
 足音を立てない様にゆっくりと近付くと、大きな箱を覗きこんでいる二人がいた。
「これがおもちゃ箱? ずいぶんと大きいのね……それに底が深くて真っ暗だわ。……この中に鍵があるのかしら?」
「そうみたいだね……どうする、ギャリー?」
「うーん……」

「行ってみたら?」

 二人が話し合っている間に、私はこっそりと背後に回り込み、背中を思い切り突き飛ばした。
 私は二人が落ちていく様子を、そのまま黙って眺めていた。

          *

 その後、私は別の道を使っておもちゃ箱の中に入った。
 ここは私が作ったり、遊んだりした物をしまっておく場所だが、余り来ないので物が散乱している。その上薄暗いので、とても歩きにくい。
 そこで私は、私が作った相棒の青い人形を呼び、転ばない様に案内させた。
 ここにいつも居るお陰で、物がある場所が分かっていた青い人形は、嬉しそうにトコトコと私の前を歩いて行った。

 少し経った頃、青い人形が私に何かを差し出してきた。よく見るとそれは、真紅に染まった真っ赤な薔薇だった。
「私にくれるの?」
 私がそう聞くと、人形はキャハキャハと笑った。肯定の様だ。
「やった! ありがとう!!」
 私が人形から薔薇を受け取ると同時に
「メアリー!!」
 奥から私の名を呼ぶ二つの影が現れた。
「あれっ! イヴとギャリーだ! あのね、さっき良い物もらったの!!」
 そう言って私は見せびらかすかの様に、二人の前に赤い薔薇を差し出した。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.73 )
日時: 2013/12/30 21:04
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: ycnzZQhq)

*5

「メアリー、その薔薇は……!!」
 ギャリーの驚いた声を聞いた私は、ああ、と一人で納得した。
「これイヴの薔薇だったんだ。道理で見たことあると思った!」
「……メアリー。その薔薇、イヴに返してあげて」
「えー。そうだなぁ……」
 貰った物だから簡単には渡したくなかったが、そこでふと、あることを思い付いた。

「じゃあ、ギャリーの薔薇と交換して?」

 ここでギャリーの薔薇を手に入れれば、ギャリーの命は私のもの。薔薇を引き千切ってしまえば、私とイヴの二人で外に出られる。
「イヴは薔薇、返してほしい?」
 きっと返してほしいはずだ。自分の命がかかっているのだから。けれど、イヴから返ってきた言葉は、私の考えを打ち砕くものだった。
「私は別に返してほしくない」
 それは小さな声だったけど、私を混乱に陥れるには十分なものだった。

 ——どうして? 自分の命がかかっているのに?——

 私には全く理解出来なかった。
「何バカな事言ってるのイヴ!!」
 イヴの返事を聞いたギャリーは、すぐさま自分のコートのポケットに手を突っ込んで、真っ青な薔薇を取り出した。
「いいわ。イヴの薔薇と交換して」
「え? 本当にいいの?」
「ええ」
「やった!」
 何はともあれ、計画は成功したのだ。これでやっと願いが叶う。
 私はイヴの薔薇を差し出し、ギャリーの薔薇を受け取った。
「……あは、あははは、ははははは!!」
 そして私は青い薔薇を手に、あの絵に向かって走り出した。

          *

「好き……嫌い……好き……嫌い」
 あの絵に向かう途中の開けた場所で、私はギャリーの薔薇を取り出して、一枚一枚千切っていった。
「……好き!!」
 最後の一枚を千切った瞬間、私は笑いが止まらなくなった。これで確実に願いが叶うのだから。
 花弁が一枚も無くなった寂しい茎をポイッと捨てて、私はまたあの絵に向かって足を進めた。

 あの絵——『絵空事の世界』は、お父さんが描いた作品の中で一番大きな絵で、この世界から出られる唯一の出口だと、遠い日のお父さんは言っていた。
(確か、絵に触れると出られるんだっけ……)
 お父さんの言葉を思い出しながら絵に触れようとすると、少しずつ近付いて来る足音に気が付いた。
 私はすぐに物陰に隠れて様子を見た。足音の主は、もちろんのことイヴだった。
 イヴは少し戸惑いながら、絵に触れて中に入って行った。

 イヴが居なくなった事を確認した私は、イヴの後を追うように絵に触れた。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.74 )
日時: 2013/12/30 22:29
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: NIrdy4GP)

*6

「やあ。久し振りだな、メアリー」
 真っ白になった世界で響いた声に、私は耳を疑った。
「……お父さん?」
 辺りを見回すと、そこには薄く笑ったお父さんが佇んでいた。
「ここは人間と作品の世界の間の世界。お前は今から人間の世界に行くのだが、その前にお前と話がしたかったから呼んだのだ」
「……話?」
「ああ。……お前はなぜ、外に出たかったのだ?」
 突然始まったお父さんの質問に、私は迷わず答えた。
「外に出て、色々なものを見たかったから」
 ——その『色々なもの』はまだ分からないけれど。
「では、あの男を犠牲にしてもか?」
「…………」
 続けて放たれた質問に、私は言葉を失いうつむいた。

 少ししか一緒に居なかったが、本当のところは、ギャリーはそれほど嫌いではなかった。だから、私の願いのためだけに犠牲にしてしまったのには、少なからず後悔がある。……まぁ、今となっては後の祭りだが。

 黙ったままの私に、お父さんはまた言葉を紡ぐ。
「もし後悔をしているのなら、お前はその後悔を背負ったまま生きろ。犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ」
「……後悔を背負って、一生償う……」
 お父さんの言葉を繰り返した私は、ゆっくりと顔を上げた。
「さぁ、もう行きなさい。新しい家族が待っている」
 そう言ってお父さんは、光の強い方向を指差した。
「新しい……家族?」
 私はおうむ返しに聞いた。
「ああ。お前は外に出た少女の妹として生きていくのだ。きっと待っているだろうから、早く行ってあげなさい」
 お父さんは一度言葉を区切ると、私に近付き頭を撫でた。そこには懐かしい冷たさがあった。
「……さて、私はもう行くとしよう」
「え……行っちゃうの?」
 やっと会えたのに。まだ聞きたいことがあるのに。
 私は泣きそうになりながらお父さんを見上げる。するとお父さんは苦笑しながらしゃがみこみ、私と変わらない身長で、私を優しく抱きしめ言った。
「外でもしっかりやるんだぞ。……私はお前の父として、心からお前を愛していたよ」
 耳元で囁かれた言葉に目を見開いた瞬間、お父さんの身体は霧のように消えてしまった。
 お父さんの背中に回していた手をゆっくりとおろして、私は辺りを見回す。そこにはただ、白い空間が広がるだけだった。

 私はお父さんが指差していた光に向かって歩き出し、光に入る前に、今まで居た世界を振り返った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お父さん。今までありがとう。……大好きだったよ」
 誰にも聞こえるはずのない言葉を残し、私は光に飛び込んだ。

          *

 美術館から出て一年後——イヴの誕生日にそれは起こった。
 イヴのお父さん——つまり今の私のパパ——から誕生日プレゼントとして貰った『ゲルテナ作品画集』に載っていた絵を見たイヴが、記憶を取り戻したのだ。

 私がそれを知ったのは、その日の夜、イヴの部屋に遊びに行った時だった。
 ノックしようとドアの前に立つと、奥からすすり泣く声と、それに紛れて言葉が聞こえたのだ。耳を澄ませた私は、驚きの余り固まった。
 その言葉は、イヴが覚えているはずもない人物の名だったから。

 ——思い出してほしくなかった——

 ギャリーを慕っていたイヴは、きっと私を嫌いになるから。
(お父さん……これはやっぱり罰なのかな……)
『犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ』
 という言葉を思い出した私は、心の中でそっと罰を受ける覚悟を決めた。

          *

 次の日、私は外に出ようとするイヴに話しかけた。本当に思い出したのか、確認したかったのだ。

『全部思い出した』
 と言うイヴに
「嫌われたくなかったの……」
 私はポツリ取り戻した本音をもらした。
 そんな私の手を取り、イヴは私の目を見開かせる言葉を放った。
「あの時の事を思い出しても、私はメアリーを嫌いになったりしないよ」
「…………、うん。ありがとう、イヴ」

 私は笑いながらイヴを見送った後、壁にもたれ掛かって天井を仰ぎ見た。

 ……どうして許してくれるの? あんなに酷い事をしたのに……?

 イヴは優しい子だということは知っていたが、これは許されるべきではない罪だ。なのになぜ……?
 考えても考えても、その答えは出なかった。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.75 )
日時: 2013/12/31 21:00
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: .g3iy5Ut)

*7

 イヴがあの美術館の記憶を取り戻してから、四年と半年が経った。
 この半年で、イヴは文通を始めたようだが、相手は誰かは教えてくれなかった。

 ある日のこと——

 今日もイヴはポストから手紙を取り出し、サッと目を通して自分の部屋に——戻らず、なぜか私の方に駆け寄ってきた。
「メアリー!! 来週の日曜日って空いてる!?」
「う、うん。何もないけど……」
 興奮気味に聞くイヴに驚きながらも私はうなずく。
「じゃあ、一緒に出かけてもいい?」
「いいけど……」
 私の了承の答えに、嬉しそうにイヴは笑い
「今度の日曜日、家を九時に出るからちゃんと準備しておいてね」
「わ、分かった」
 約束をするとイヴは太陽のような笑みを残し、自分の部屋に戻った。
「……あ、」
 そう言えば、どこに行くか聞いていなかった。一体イヴは、私とどこに行こうというのだろう。
 私は当日まで、もやもやしながら過ごした。

          *

「……ねぇイヴ。いい加減教えてよ。どこに行くの?」
「だから秘密だって!!」
 日曜日。私はイヴに連れて行かれるまま道を歩いていた。何度か行く場所を聞いているのだが、ずっと言ってくれなかった。

「もうすぐ着くよ。……あ、あそこ!!」
 イヴが指差した場所を見るが、そこはただの公園だった。日曜の昼間なのにも関わらず、人影はほとんど無く、がらんとしていた。
 そんな寂しい公園に、人影が一つ。
 イヴはその人影に向かって走り、勢い良く抱き付いた。
 私は状況が読めないまま、イヴの後を追う。そして、そこに立っていた人の顔を見た瞬間、私の頭は時間が止まった。
 なぜならそこに立っていたのは、この世界に居ないはずの人間だったから。
 ——私の願いのために消してしまった人間だったから——

「嘘……ギャリー、なの?」
 私は、まるで幽霊を見るような目で見つめると
「久し振りね、メアリー」
 ギャリーは私と初めて会った時と同じように笑った。

          *

「……どうして出られたの?」
 私の質問に、ギャリーは少しの沈黙後答えた。

 ギャリーの話をまとめると、半年前にあの美術館が改装工事を終えてオープンし、その日にイヴはギャリーに会いに行った。そして絵を境にお互いの手を重ねると、ギャリーはこちらに出られた。だが、どうして出られたのか理由は分からない。
 それから半年間イヴとギャリーは文通をし、ギャリーの生活が落ち着いた頃合いを見計らい、今日久し振りに会ったのだ——と言うことだった。

 そこで私は、二人にお父さんが話してくれた『あの美術館から出る方法』を語った。私の話が終わるまで、二人は黙って聞いていた。


「……つまり、アタシとイヴの思いが一致したから外に出られた、ってこと?」
 ギャリーの問いに私は静かにうなずき、そして深く頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「いきなりどうしたのよ、メアリー?」
「だって私が外に出るために、ギャリーをあの世界に閉じ込めたんだよ? 痛い思いも、いっぱいさせちゃったし……謝っても償いきれないけど……ごめんなさい」
 私はもう一度頭を下げる。するとギャリーは私の頭に手を置き、優しく撫でた。その仕草でふと、お父さんの姿が頭によぎった。ギャリーの手はお父さんと違い、暖かかった。
「もういいのよ。こうやってまた三人で会えたんだから」
「でも……!!」
「んー。そうね……どうしても償いたいって言うなら、この後イヴとカフェでマカロン食べに行くんだけど、メアリーも一緒に行ってお茶する。それで許してあげるわ」
 そう言って、ギャリーはまた笑った。

 本当に、人間って不思議だな……。もしかしたら、私はこんな人間達が見たくて外に出たのかも知れない。

「……分かった。ありがとう、ギャリー」
 私はギャリーに負けないくらいの笑顔で笑った。


 晴れ渡る青の空の下、私達は笑い合いながら公園を出た。
 これから始まる三人でのお茶会に、胸踊らせながら。

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.76 )
日時: 2013/12/31 21:05
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: P747iv5N)



 さあ、ここからまた始めよう。


 三人で紡ぐ、新しい物語を——




*番外編『私の願い 二人の思い』End*

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.77 )
日時: 2013/12/31 21:32
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: R.nHzohl)
参照: http://m.youtube.com/watch?v=w79ejPpQajI&list=WL&feature=plpp

【お知らせ】
こんばんは、緑茶です。
ついに『Ib—『さよなら』の先に—』を完結することが出来ました!!
色々ありましたが、(一ヶ月停滞してたり、一日で1000〜1500程度を二本書く生活を三日続けるとか…(^_^;))無事に完結出来ました!!

ここまで来られたのは、コメントを下さった

お萩様 朔良様 ちびねこ様 ネツケヤ様 ミラー様を始め、絵を描いてくれたリア友、陰ながら読んで下さった皆様のおかげです!!

今まで応援して下さった皆様に、心から感謝します!!


前にチラッと話ましたが、これからは私オリジナルの小説をコメライで書いていこうかな、と考えています。スレ立てたらURLを張るので、よろしければそちらも覗いて下さると嬉しいです!

本当にありがとうございました!! そして、来年もよろしくお願いします!!

それでは皆様、良いお年を!

*追記*
上のURLは、この小説の原作となった曲です。ぜひ聴いてみて下さい!

Re: Ib —『さよなら』の先に—【完結】 ( No.78 )
日時: 2014/01/01 16:46
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: LkcNOhbf)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=35775

【お知らせ】
明けましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いしますm(__)m

さて、新しいスレを立てました。よろしければ覗いて下さい!(上のURLからどうぞ)

Re: Ib —『さよなら』の先に—【完結】 ( No.79 )
日時: 2014/01/06 11:33
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: xDkHT39H)

【お知らせ】

なんと……今回行われた「小説カキコ☆2013年冬大会」において、二次小説(映像)板部門で金賞を受賞することが出来ました!!

まさか入賞、そしてその中でトップである金賞を受賞するなんて夢にも思わず、管理人さんの記事を見た瞬間叫びましたw

私の作品を読んで投票して下さった皆様、応援して下さった皆様に心から感謝します!!
本当にありがとうございました!!

本年房价?大幅上? 信?政策或??放松qQC-lanji27511 ( No.80 )
日時: 2015/05/20 15:06
名前: 本年房价?大幅上? 信?政策或??放松qQC-lanji27511 (ID: 0WRXSyTI)
参照: http://lanji27511.lofter.com/post/1cbab011_704af86

桂林房地?

80后要?二胎提前?房 ??二胎政策致使?房??r16-yimei75514689 ( No.81 )
日時: 2015/05/20 15:06
名前: 80后要?二胎提前?房 ??二胎政策致使?房??r16-yimei75514689 (ID: 0WRXSyTI)
参照: http://yimei75514689.lofter.com/post/1cf45d02_704af9e

二手房税?