二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.69 )
日時: 2013/12/27 23:25
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: fr2jnXWa)

*2

 お父さんが出て行ってから、どれ程の時が流れただろうか。少なくとも、もうお父さんは戻って来ない事を理解出来るくらいの時間は経っただろう。

 いつもの様に外の世界を眺めていると、今日は珍しく私と同い年位の女の子が居た。
「お話、したいな……」
 この美術館の中で話せるのはお父さんと私だけだったから、お父さんが出て行ってから誰とも話していない。

 こちらに引き込んでしまおうか……? そうしたら一緒にお話出来るし、仲良くなれるかも……

「あ……でもダメか……」
 そう言って私は肩を落とす。
『こちらに来た人数しか出られない』と言うお父さんの言葉を思い出したのだ。つまり、こちらに引き込んで仲良くなったとしても、外に出られるのは一人だけ。結局は離ればなれになってしまう。
「だったら……」

 もう一人、こちらに引き込んでしまえば……?

 そうすれば私とあの子が一緒に外に出ても、もう一人引き込んだ人が私の代わりに絵になるだけで、何の問題も無い。
「決まり!!」
 私は満面の笑みを浮かべながら、強く『あの子をこっちに連れて来たい』と願った。
 すると、外を見るための額縁がチカチカッと光り、フッとあの子が消えた。
「やった!! 成功♪ じゃあもう一人は……あの人で良いや」
 近くに居た紫色の髪の男の人を指差し、同じように願うと、その人も女の子同様に消えた。

「……あ、」
 そう言えば、二人を引き込んだは良いものの、どこにたどり着いたか分からない。
「……ま、良いか。探しに行けば」
 私は引き込んだあの子に会うために、美術館の中を走り出した。

          *

 しばらく走り回って、やっと出会えた女の子の名前はイヴ。そしてなぜか一緒に居た、私の身代わりの男はギャリーと言うらしい。
 せっかくあの子——イヴと二人で仲良くなって、こっそりここから脱出するつもりだったのに……
 私はそんな不満を持ちつつ、一緒に美術館を探索することになった。するとすぐにギャリーと別れる事件が起きた。
 イヴと二人きりになれたから、さっさと脱出してしまおうと思ったけれど、色々な仕掛けがあって素早く進めなかった。

 ——いや、正確に言うなら『進めたけれど出来なかった』だ。
 こんな仕掛けなんて、美術館の中で一番の力を持っている私にかかれば、すぐに終わらせる事が出来た。ここの作品が襲って来ても、私に取っては兄と姉なのだから止めることだって出来た。
 でも私はやらなかった。理由は簡単。私が普通ではない——最悪の場合、絵である事が知られてしまうからだ。
 イヴは私の事を『普通の女の子』として扱っている。
 例え、外に出たらここであった事を忘れるとしても、警戒されたくなかった。

 そんな事を考えながらイヴと二人で歩いていると、壁に掛かっていた唇の絵が私にこう告げた。

『あの男がメアリーの秘密を知ったらしいよ』

 それを聞いた瞬間、私の身体中に寒気が走った。