二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.72 )
日時: 2013/12/29 22:17
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: 0JVwtz5e)

*4

 私の薔薇は、お父さんがここから出て行く前に私にくれた物だった。

『この美術館において、薔薇は己の命を表す。外から来た者には自動的に与えられるが、お前には無い。いつか外の者と会うのなら必要だろうから、私が作ってやろう。大切に持っていなさい』

 言われた通りに大切に持っていたのに、イヴに私の秘密が知られる心配がなくなった気の緩みからか、私は自分の薔薇を落としてしまった。

「あら? メアリー、薔薇落としたわよ……って、え?」
「触らないで!!」
 拾おうとしたギャリーに私は叫び声を上げた。

 私の薔薇は二人と違う、作り物なのだから。
 私と同じ、ニセモノだから。

 ギャリーを薔薇から遠ざけるために、探索中に手に入れたパレットナイフを突き出した。
「ちょっとメアリー!! 危ないわよ!? 早くそれをしまって!!」
「うるさい!!」
 パレットナイフを取り上げようとするギャリーと私は揉み合いになり、バランスを崩して——
「……っ!!」
 私は床に倒れ、気を失った。
 遠くで私の名前が聞こえた気がした。

          *

 床に倒れて、どれくらいの時間が経っただろうか。
 気が付いた私はゆっくりと身体を起こし、ふるふると頭を振った。辺りを見回してみたが、そこにはもう、二人の姿パレットなかった。
「ねぇお姉ちゃん。二人、何か言ってた……?」
 一部始終を見ていた、壁に掛かった女の人の絵に問い掛ける。
『男が記憶を取り戻して、メアリーの秘密を女の子に話していたわ。女の子はかなりショックを受けていたみたいだけど、ここから立ち去る時は心配そうにあなたを見ていたわ』
「…………、そう。ありがと」
 お姉ちゃんからの言葉を聞いた私は、大きく深呼吸をして、二人を追うために走り出した。

 早くしないと、イヴとギャリーの二人が外に出てしまう。
 ……また私は一人になってしまう。

 ——もう、なりふり構っていられなくなった。


 他のお姉ちゃん達にも話を聞きながら進むと、チラッと揺れる紫が見えた。
 足音を立てない様にゆっくりと近付くと、大きな箱を覗きこんでいる二人がいた。
「これがおもちゃ箱? ずいぶんと大きいのね……それに底が深くて真っ暗だわ。……この中に鍵があるのかしら?」
「そうみたいだね……どうする、ギャリー?」
「うーん……」

「行ってみたら?」

 二人が話し合っている間に、私はこっそりと背後に回り込み、背中を思い切り突き飛ばした。
 私は二人が落ちていく様子を、そのまま黙って眺めていた。

          *

 その後、私は別の道を使っておもちゃ箱の中に入った。
 ここは私が作ったり、遊んだりした物をしまっておく場所だが、余り来ないので物が散乱している。その上薄暗いので、とても歩きにくい。
 そこで私は、私が作った相棒の青い人形を呼び、転ばない様に案内させた。
 ここにいつも居るお陰で、物がある場所が分かっていた青い人形は、嬉しそうにトコトコと私の前を歩いて行った。

 少し経った頃、青い人形が私に何かを差し出してきた。よく見るとそれは、真紅に染まった真っ赤な薔薇だった。
「私にくれるの?」
 私がそう聞くと、人形はキャハキャハと笑った。肯定の様だ。
「やった! ありがとう!!」
 私が人形から薔薇を受け取ると同時に
「メアリー!!」
 奥から私の名を呼ぶ二つの影が現れた。
「あれっ! イヴとギャリーだ! あのね、さっき良い物もらったの!!」
 そう言って私は見せびらかすかの様に、二人の前に赤い薔薇を差し出した。