二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.74 )
- 日時: 2013/12/30 22:29
- 名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: NIrdy4GP)
*6
「やあ。久し振りだな、メアリー」
真っ白になった世界で響いた声に、私は耳を疑った。
「……お父さん?」
辺りを見回すと、そこには薄く笑ったお父さんが佇んでいた。
「ここは人間と作品の世界の間の世界。お前は今から人間の世界に行くのだが、その前にお前と話がしたかったから呼んだのだ」
「……話?」
「ああ。……お前はなぜ、外に出たかったのだ?」
突然始まったお父さんの質問に、私は迷わず答えた。
「外に出て、色々なものを見たかったから」
——その『色々なもの』はまだ分からないけれど。
「では、あの男を犠牲にしてもか?」
「…………」
続けて放たれた質問に、私は言葉を失いうつむいた。
少ししか一緒に居なかったが、本当のところは、ギャリーはそれほど嫌いではなかった。だから、私の願いのためだけに犠牲にしてしまったのには、少なからず後悔がある。……まぁ、今となっては後の祭りだが。
黙ったままの私に、お父さんはまた言葉を紡ぐ。
「もし後悔をしているのなら、お前はその後悔を背負ったまま生きろ。犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ」
「……後悔を背負って、一生償う……」
お父さんの言葉を繰り返した私は、ゆっくりと顔を上げた。
「さぁ、もう行きなさい。新しい家族が待っている」
そう言ってお父さんは、光の強い方向を指差した。
「新しい……家族?」
私はおうむ返しに聞いた。
「ああ。お前は外に出た少女の妹として生きていくのだ。きっと待っているだろうから、早く行ってあげなさい」
お父さんは一度言葉を区切ると、私に近付き頭を撫でた。そこには懐かしい冷たさがあった。
「……さて、私はもう行くとしよう」
「え……行っちゃうの?」
やっと会えたのに。まだ聞きたいことがあるのに。
私は泣きそうになりながらお父さんを見上げる。するとお父さんは苦笑しながらしゃがみこみ、私と変わらない身長で、私を優しく抱きしめ言った。
「外でもしっかりやるんだぞ。……私はお前の父として、心からお前を愛していたよ」
耳元で囁かれた言葉に目を見開いた瞬間、お父さんの身体は霧のように消えてしまった。
お父さんの背中に回していた手をゆっくりとおろして、私は辺りを見回す。そこにはただ、白い空間が広がるだけだった。
私はお父さんが指差していた光に向かって歩き出し、光に入る前に、今まで居た世界を振り返った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お父さん。今までありがとう。……大好きだったよ」
誰にも聞こえるはずのない言葉を残し、私は光に飛び込んだ。
*
美術館から出て一年後——イヴの誕生日にそれは起こった。
イヴのお父さん——つまり今の私のパパ——から誕生日プレゼントとして貰った『ゲルテナ作品画集』に載っていた絵を見たイヴが、記憶を取り戻したのだ。
私がそれを知ったのは、その日の夜、イヴの部屋に遊びに行った時だった。
ノックしようとドアの前に立つと、奥からすすり泣く声と、それに紛れて言葉が聞こえたのだ。耳を澄ませた私は、驚きの余り固まった。
その言葉は、イヴが覚えているはずもない人物の名だったから。
——思い出してほしくなかった——
ギャリーを慕っていたイヴは、きっと私を嫌いになるから。
(お父さん……これはやっぱり罰なのかな……)
『犠牲にした分まで生きて、一生償い続けろ』
という言葉を思い出した私は、心の中でそっと罰を受ける覚悟を決めた。
*
次の日、私は外に出ようとするイヴに話しかけた。本当に思い出したのか、確認したかったのだ。
『全部思い出した』
と言うイヴに
「嫌われたくなかったの……」
私はポツリ取り戻した本音をもらした。
そんな私の手を取り、イヴは私の目を見開かせる言葉を放った。
「あの時の事を思い出しても、私はメアリーを嫌いになったりしないよ」
「…………、うん。ありがとう、イヴ」
私は笑いながらイヴを見送った後、壁にもたれ掛かって天井を仰ぎ見た。
……どうして許してくれるの? あんなに酷い事をしたのに……?
イヴは優しい子だということは知っていたが、これは許されるべきではない罪だ。なのになぜ……?
考えても考えても、その答えは出なかった。