二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: Ib —『さよなら』の先に— ( No.75 )
日時: 2013/12/31 21:00
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: .g3iy5Ut)

*7

 イヴがあの美術館の記憶を取り戻してから、四年と半年が経った。
 この半年で、イヴは文通を始めたようだが、相手は誰かは教えてくれなかった。

 ある日のこと——

 今日もイヴはポストから手紙を取り出し、サッと目を通して自分の部屋に——戻らず、なぜか私の方に駆け寄ってきた。
「メアリー!! 来週の日曜日って空いてる!?」
「う、うん。何もないけど……」
 興奮気味に聞くイヴに驚きながらも私はうなずく。
「じゃあ、一緒に出かけてもいい?」
「いいけど……」
 私の了承の答えに、嬉しそうにイヴは笑い
「今度の日曜日、家を九時に出るからちゃんと準備しておいてね」
「わ、分かった」
 約束をするとイヴは太陽のような笑みを残し、自分の部屋に戻った。
「……あ、」
 そう言えば、どこに行くか聞いていなかった。一体イヴは、私とどこに行こうというのだろう。
 私は当日まで、もやもやしながら過ごした。

          *

「……ねぇイヴ。いい加減教えてよ。どこに行くの?」
「だから秘密だって!!」
 日曜日。私はイヴに連れて行かれるまま道を歩いていた。何度か行く場所を聞いているのだが、ずっと言ってくれなかった。

「もうすぐ着くよ。……あ、あそこ!!」
 イヴが指差した場所を見るが、そこはただの公園だった。日曜の昼間なのにも関わらず、人影はほとんど無く、がらんとしていた。
 そんな寂しい公園に、人影が一つ。
 イヴはその人影に向かって走り、勢い良く抱き付いた。
 私は状況が読めないまま、イヴの後を追う。そして、そこに立っていた人の顔を見た瞬間、私の頭は時間が止まった。
 なぜならそこに立っていたのは、この世界に居ないはずの人間だったから。
 ——私の願いのために消してしまった人間だったから——

「嘘……ギャリー、なの?」
 私は、まるで幽霊を見るような目で見つめると
「久し振りね、メアリー」
 ギャリーは私と初めて会った時と同じように笑った。

          *

「……どうして出られたの?」
 私の質問に、ギャリーは少しの沈黙後答えた。

 ギャリーの話をまとめると、半年前にあの美術館が改装工事を終えてオープンし、その日にイヴはギャリーに会いに行った。そして絵を境にお互いの手を重ねると、ギャリーはこちらに出られた。だが、どうして出られたのか理由は分からない。
 それから半年間イヴとギャリーは文通をし、ギャリーの生活が落ち着いた頃合いを見計らい、今日久し振りに会ったのだ——と言うことだった。

 そこで私は、二人にお父さんが話してくれた『あの美術館から出る方法』を語った。私の話が終わるまで、二人は黙って聞いていた。


「……つまり、アタシとイヴの思いが一致したから外に出られた、ってこと?」
 ギャリーの問いに私は静かにうなずき、そして深く頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「いきなりどうしたのよ、メアリー?」
「だって私が外に出るために、ギャリーをあの世界に閉じ込めたんだよ? 痛い思いも、いっぱいさせちゃったし……謝っても償いきれないけど……ごめんなさい」
 私はもう一度頭を下げる。するとギャリーは私の頭に手を置き、優しく撫でた。その仕草でふと、お父さんの姿が頭によぎった。ギャリーの手はお父さんと違い、暖かかった。
「もういいのよ。こうやってまた三人で会えたんだから」
「でも……!!」
「んー。そうね……どうしても償いたいって言うなら、この後イヴとカフェでマカロン食べに行くんだけど、メアリーも一緒に行ってお茶する。それで許してあげるわ」
 そう言って、ギャリーはまた笑った。

 本当に、人間って不思議だな……。もしかしたら、私はこんな人間達が見たくて外に出たのかも知れない。

「……分かった。ありがとう、ギャリー」
 私はギャリーに負けないくらいの笑顔で笑った。


 晴れ渡る青の空の下、私達は笑い合いながら公園を出た。
 これから始まる三人でのお茶会に、胸踊らせながら。