二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 玉響懐中時計 ( No.4 )
- 日時: 2013/03/18 13:17
- 名前: 黒依 ◆kuB5mqYaRs (ID: IhV1PiHJ)
- 参照: 酷過ぎるネタバレ短編。 ‐きをくめぐり‐
何時も通り、学校から帰ってきて、玄関を開けて、リビングに辿り着く。そうすると、待っていたお母さんが優しく「お帰り」と言ってくれる。時には早帰りしたお父さんも居て、静かだけれども同じセリフを言ってくれる。
カジュアルでナチュラル感溢れるあの部屋が好きだった。小学校に上がった時に作ってもらった一人部屋も良いけれど、何よりあの部屋の雰囲気と、親と一緒に居ることを考えると、とても好きで、お気に入りの場所だった。
周りから差別されようとも構わない。家族が居てくれるのなら、それで良かった。両親は今の世界に異を唱えていて、だけど相手が相手なだけに太刀打ちできる力なんて無い、というのを自覚していたからか、周りから荒んだ瞳で見られようとも意思だけは貫き、私達を護ってきてくれた。周りとは違っていても、何も抗う事はしない代わりに、揺るがなかった。
そんな事しなくても良いんだよ、と一度だけ言った事がある。だけど二人は同じ答えを返してきた。しなくちゃいけないんじゃなくて、するからするのだ、と。それは、自分がやりたいからこの道を選んだ、というのも含まれているが、何よりも、自分の子供に間違った道を歩ませてはいけない、という明確な意思が、幼い私にもハッキリと分かった。だから、そんな二人を尊敬していた。だからこそ、何も出来ない、無力な自分が凄く嫌だった。だからこそ、大人になったら、今度は自分が親を護ると決めた。この心に、誓った。
それが、今ではどうだろうか。いつも通り帰って来た私の目前に広がるのは、あの和やかな雰囲気なんかじゃない。重く、冷たく、おぞましい、未知の雰囲気じゃないか。
優しげな木漏れ日は今日に限って強過ぎて、その分鮮やかな色が目についた。赤、紅、緋、朱、あか、アカ——色の源は、静かに横たわる両親のもので間違いなくて。その色が、棒立ちしている、翼の生えた女性にべっとりと付着していた。勿論、それは翼にも同じ事が言える訳で、ローブと同じ色の綺麗な純白と、赤黒い色をした割れた飛沫とのコントラストがやけに気持ち悪かった。こんな雰囲気、私は知らない。こんな奴、私は知らない。迎えの声が私の耳に入ってこないのは、私が聞き逃したからだろうか。それなら、もう一度言ってくれないかな。今度はハッキリと聞きたいから。だから、お願い。もう一度、もう一度。
不意にソイツがこちらを向いた。思わず肩を竦めてしまった私を見るや否や、にんまりと笑みを浮かべた。アイツの瞳は、まるで生ゴミの様に、いや、それ以上に汚らしい気質を宿していた。だけど、そんな奴に構っていられるほど、私に余裕は無い。今の現状を飲み込むよりも、ただただ両親の分かり切った安否を確認する事しか頭に無かった。お母さんの元に駆け寄り、寝込んだ体の肩を必死になって揺する。何度も何度も、息が切れるまで何度も呼んでも、返事は無い。ただの屍だ、とでも言うかのように、何も帰って来なかった。お父さんにも同じ事をする。結果は一目瞭然で、同じだった。
不意に、私を呼ぶ声がした。釣られて声の主に目を向ければ、口裂け女の如く笑っていた。これじゃあ、綺麗な顔が台無しだ。そして、何を言うのかと思えば、こちらの人生を全否定する言葉。こうなったのは自業自得。君の両親が悪いのさ。君なら分かるよね? 口は笑えど目は笑っていない、そんな顔から投げかけられた言葉だった。
——悪寒が全身に駆け巡った。硬直する私になりふり構わず、彼女は軽々しく喋る。君がいじめられるのは両親の所為だの、何故もっと早く止め無かっただの、何だのかんだの。そして、彼女は結論付けるかのように、付け加える。私は——だ、と。
台詞の中の一文字一文字だけで心が砕けてしまいそうだというのに、最後の結論の所為でものの見事に、音を立てて何かが壊れた。それは、ガラスを叩き割るかのような、脆くて悲しい音だった。
湧き起こる怒り、悲しみに溺れて恨みに駆られる。そして全身を支配するのは殺意、殺気、殺人衝動。脳内を侵食するのは、ネガティヴな文字達と、殺という一文字だった。ケラケラと嗤う、瞳に映るクズ野郎があまりにも憎い。こんな憎い奴が世界を平和へと導いてるだなんて、可笑しいにも程がある。不条理、理不尽、不可解、理解不能、エトセトラ。周りの奴等は、本性を知らずに、言われるがままに崇拝している。何と悲しい事だろう。これじゃあ、本当に両親がしている事が正しいじゃないか。じゃあ、今までの世界は、時の流れは何だったのか。今まで周りが崇めていた物は何だったのか。自由も何も尊重されず、崇めたく無い物を崇めなければ崇める存在によって殺されるなんて理不尽他ならない。そんな真実を隠していた世界が崇めていた存在がこんなヤツだっただなんて、誰が想像できただろうか。ただ、淀んだ思考の中でも言える事が、一つ。目前で哂うアイツは殺す。殺されなければならない。出来る事なら、最も惨めでみっともない死に方で。
背中に背負った、今では遺品にしか過ぎない誕生日プレゼントを抜く。光を受けて煌めく切っ先は、醜いくらいに鋭かった。これを軽々と持てる私の筋力は、両手で持つべき物を片手で持てるくらいのもので、周りから敬遠される理由の一つだった。まあそんなこと考えていても仕方ない。ゆらりと私は立って、気付いたクズ野郎は余裕の笑みを浮かべる。嗚呼、憎たらしい。憎たらしいったりゃありゃしない。右手に持った遺品を引きずりながらゆっくりと一歩を踏み出した瞬間、敢えて狙ったのであろう、脇腹に細い棒状の光が突き刺さった。皮膚を貫き、溢れるのは両親と同じ色。なのに、その色は無彩色に彩られている。確かに本来の色は知っている、分かっている、見えている。だというのに、色は無彩色だ。それに気付いた時には、走っている殺人衝動が打って変わって激痛になる。これも同じく、走っているはずなのに、何故か平然と立てる。痛みを、感じない。この身で感じているはずなのに、感じない。それでも疑問として留めておく事は無かった。どうでもいい、と、結論付けたから。
ゆらり、ゆらり。着実に一歩を踏む。ゆらり。一歩を踏む。ゆらり。また一歩を踏む。その度に、足の裏は色に染まる。それが身に染みて分かった。
変な脱力感と満ち溢れる何かに身体が蝕まれ、それを察して怖気づいたのか、光の棒を次々に発射した。相手は心臓を狙っているのだろう。しかし、それは全て肌を掠める程度に終わる。その度に小さな飛沫は飛び散り、地に落ち、弾ける。
来るな、と甲高い声が聞こえたのは気のせいだろうか。数歩歩いた刹那、血塗れのフローリングを蹴って、クズ野郎の胴体を一つ、断った。
( 壊れて戻れない私に、いつさよならを告げようか )
■ 惨殺グロリアス