二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 玉響懐中時計 ( 雑食 ) ( No.87 )
- 日時: 2013/12/17 21:13
- 名前: 燎火 ◆kuB5mqYaRs (ID: IQFPLn6c)
ふと、前田慶次が立ち止まる。
「独眼竜は、どう思うんだい」
普段よりも低いトーンの声で言った台詞に、すぐさま普段とは違う、いわゆる違和感を覚えた。コイツが“何か”に対して本気なのは薄々分かるが、同時に嘘かも知れないという疑いもある。そして何なのかが分からない。だからこそ、敢えてオレはしらばっくれる。
「どう思うって、何がだ」
「その言葉は冗談として受け取っておくよ」
どうやら、相当本気らしい。ピリピリとした雰囲気と態度が物語る。
素直に口を噤めば、前田慶次は口を開いた。
「——またこうして、俺達が出会ったこと」
ぴたり、と足が止まった。それはオレのものであることは間違いない。
コイツは知らねぇと思っていたが、どうやら読みが甘かったようだ。一国を束ねた武将がこの調子じゃあ、小十郎だけじゃなく部下全員に笑われちまう。
「アンタは願ったかい? 祈ったかい? “また逢いたい”って」
「……“No”っつったら、嘘になるな」
ブラウンの視線がオレを射抜く。疑いを掛けているのだろうか。だがこれは嘘じゃねぇ。残念ながらな、心の中で僅かながらに嘲笑しながら、こっちも視線を投げかける。——テメェはどうなんだ、と。
「俺は……自分が無力だと痛感したよ」
「無力? どういう死に方したんだ、アイツは」
「そのままの意味さ」
最後の台詞が弱々しくなったのを聞いたからには、これ以上詮索しない方がコイツの為だと静かに悟った。
沈黙が流れる。気になる事もあったので、それは数秒で断ち切ることにした。
「……アイツはこの事を知らねぇとして、他にこれを知ってる奴は何人いる? 少なくとも小十郎は知ってるんだが」
この事実を知っている奴を把握しておきたい。それが、今オレが知らなければならない事だ。どうやら小十郎以外のセンコウはオレ達の知る奴らとは別人らしい。根拠は何処にも無ぇが、本能と直感がそう伝えている。
「毛利は知っていると思うよ。後は……お忍び君、かな」
「俺の知っている限りはね」真剣な目付きで告げた二人の人物。勿論オレが知らねぇ訳が無く、そして大方予想していた。
確証を得られたというだけで十分な収穫だ。小さく礼を言うと、「構わないさ」と返事が来る。
「もし」
「……?」
「もし……アンタの言う『if』が本当だったら、その時はどうする?」
オレの言う『if』——つまりそれは、アイツがこの事実を知っている、ということだ。そしてそれが本当になったとしたら。単刀直入で、実に分かり易い問いを、何処からともなく前田慶次は突きつけた。
アイツがオレ達を知っていたら。もしそうだとしたら、アイツはどうするのだろうか。アイツの事だから、疑心暗鬼にでも陥りそうだ。
何にせよ、『if』が『True』だったとして。そしたら、オレは。
「——そのままでいるな。何か騒ぎ立てるつもりも無けりゃ、目の色変えるつもりも無ぇ。今のアイツと、いつもどおり接するつもりだ」
本当は、そんな事無い。そうする自信なんて何処にも無ぇんだ。
オレの言葉の真意を知らず、前田慶次は「そう」とだけ返した。
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