二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:   ボトル詰めの宇宙空間 ( 雑食 ) ( No.89 )
日時: 2013/12/31 21:48
名前: 燎火 ◆kuB5mqYaRs (ID: hFInjsVD)




「今年ももう終わりかぁ」
「ですねぇ」

 呟きに似た俺の声に、ナチュラルに相槌を打たれた。窓からの景色を見遣れば、闇の帳はとっくのとうに下りていた。
 今年もあと何時間単位で終わろうとし、新年が始まろうとしている。こういう状況に限ってあまり実感が湧かないのは、恐らく自分だけではないだろう。
 暖房をつけた部屋は勿論暖かいが、何処か息苦しさを感じる。窓を開けて良いか、と十夜に訊ねてみれば「良いですよ」と了承の答えが返ってきた。

 窓を開けようと手を伸ばし、ふと外に視線を送った。
 空模様がどうも怪しい。日が替わる頃——というより年を越す頃には雪が降っても可笑しくはないだろう。

「どうされましたか?」
「いや、雪降りそうだなーって」
「来年は雪化粧に包まれて始まりますか」
「多分な」

 他愛も無い話をしながら、窓を開ける。少しだけの隙間から勢い良く寒風が吹き込んできた。こうなるだろうとは分かってていても、寒い物は寒い。厚い生地であるはずの衣服を物ともせずに肌を刺した。新鮮な空気を手に入れる為の引き換えは地味に大きいらしい。「うっ」と寒さに堪える自分以外の声が確かに聞こえた。

「そこに突っ立ってんならさっさと閉めろ」

 女子にしては低い声にハッとする。後ろを振り向けば、腕を組む未来がいた。ぴんと背筋を伸ばしている未来は、相変わらずの少しだけ眉間にシワを寄せた無表情。彼女と初めて会う人は、怖いとも思うがそれよりも先に不気味だという気持ちが支配しそうだ。

「空気入れ換えてんだよ」
「外の空気が吸いたいなら外に行けよ」
「入れ換えてるって言ったろ」

 思わず溜息を吐く。未来はそんな俺をどうでもいいと言わんばかりに、手前にあったテーブルに近づく。そして、ミカンの山から一つを手に取った。

 ——時の流れは速いのやら遅いのやら。
 俺もどうでもいい事を考えつつ、無性にミカンが食べたくなり窓を閉めた。

「ミカンまだあるわよー」
「助かります、過去さん」
「もっと褒めても……シバいても良いのよ?」
「それじゃあ外に出て死んで来て下さい」





 強い甘みの中に潜む酸味が、美味しいという感情を湧き起こす。黄色みの強いオレンジ色の果実を、一つずつ千切りながら口の中へ入れた。果汁が瞬く間に広がり、やはり今の季節のミカンは美味しい、と再認識した。

「やっぱミカン美味ぇな」
「今の季節が旬で御座るからな」
「あったかい所で食べるのが良いんだよねぇ」

 のほほんとした雰囲気の三人。彼らだけでは無い。元親や猿飛先輩、更には片倉先生も。毛利もそのような雰囲気に包まれているのは包まれているような気がするのは気のせいだろうか。

「つか政宗ん家、ガキ使優先してんだな」

 「紅白は録画か?」ふと元親が政宗に話題を振った。台詞からして、テレビ番組の事だろう。
 確かに今の季節になると、“ガキツカ”という略称の番組で何かと話題になる様な気がする。それでも紅白歌合戦の方に自然とチャンネルを変えているのだが。元親が話題に上げるということは、それなりに面白い内容なのだろう。

「Ah……今年はガキ使が良いからこれにしただけだ。紅白は録画で正月の内にゆっくり見るさ」

 くす、と笑みをこぼしながら答える政宗。彼の新年は楽しい行事が沢山待っているのだろうか。

 ——来年、か。
 来年には一体何が待っているのだろうか。今年は一言では言い切れない程にイベントが埋め尽くされ過ぎていて、その分自分の知らない事が知れたような気がする。
 来年も、また今年みたいに沢山の得体の知れないイベントが待ち受けているのだろうか。出来ればゆっくり、ゆったりと過ごしたいものだが。

「戦国、お茶要るか」

 強張った声が突然耳に入り、何事かと思えば湯呑を右手に持つ片倉先生が居た。
 湯気と茶の香り——香りからして緑茶だろうか——が立ち上る白い陶器が、小さな欲を掻き立てる。

「お、お願いします」
「分かった」

 彼の言葉に甘えてみると、先生は快く湯呑を私の前へ置いてくれた。「有難う御座います」とお礼の一言を頭を下げながら述べる。
 受け取った湯呑の中を覗いてみれば、透き通った緑茶が私の顔を映していた。そういえば、緑茶は黄色に近い色の方が健康的だとテレビ番組か何かで言っていたような気がする。この緑茶の色も黄色に近いものだ。片倉先生はそのようなことを考慮したのだろうか。
 素朴な疑問がすっとよぎったが、それは置いといて、と自己処理をして口にする。ちょっとした渋みが刺激するが、逆にそれがクセになる。

「……あったかいなぁ」

 呟きに似たその言葉は、率直な今の思いだった。

「あー毛利の旦那クスクス笑ってるー」
「嘘を吐くな、捨て駒めが」
「毛利殿! 読書をせずに某達と共にテレビを見ましょうぞ!」
「Ha,ならガキ使に則って笑っちゃいけねぇルールでもやるか?」
「ガキ使見ながらか? そりゃあ面白そうだな!」
「全く、お前達は……」
「ほら、娑羅も一緒に」
「……え、私も?」







 皆さん良いお年を。