二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 参照600突破*とんがり 〜ほしぞら魔法学校より〜*短編集 ( No.50 )
日時: 2013/05/08 22:43
名前: ショート ◆RNBm3A/DrQ (ID: CwD5uNz.)

————そうして、オレはなるべく早めに(そして出来るだけアイツを見ないように)体を洗い終えた。……のはいいんだが、この湯船はどう見ても一人しか入れない。いや、頑張れば入れるだろうけど、そこまで頑張れるほどオレの心に余裕などない。
と、黙って湯船を眺めていると、アイツがありえないことを言い出した。

「あ、そっか、これ二人で入るの難しいよね……そうだ! じゃああたしが翔くん抱っこしてあげるから、おいで!」
「は、え、いや……えええっ!!?? な、ななな何言ってるの!?」
「え? だってそうしないと入れないでしょ?」

そりゃそうかもしれないけど……それはいろんな意味で困るし!
そんなオレの思いを知らないあのバカは、キョトンとした顔でオレのことを不思議そうに見ていた。

「狭いけど、まだ夜は寒いし温まらないと風邪ひいちゃうよ?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……で、でも————くしゅんっ」
「ほら、くしゃみしてるし! いいから入るのっ!」

そう言うとショートはオレの腕を掴んで引き寄せて、オレを抱っこしてまた湯船に入った。
なんていうか、多分こいつは気付いてない……いや、気にもしてないんだろうけど、イロイロあたってる気がするから離していただけると超ありがたいですね。
しかも昼間のときと違って、服を着てない……っていうか、水着しか着てないんだからそのへんもうちょっと考えてくれよ……って言ってもこいつからすりゃ今日初めて会った年下の男の子なわけだし。
……でも、なんでこんなにベタベタひっついてくるんだろうか。コイツそんなに小さい子供好きだったっけ?

「あ、のさお姉ちゃん……?」
「ん? なぁに?」
「えっと……なんで、抱きついてきたり、一緒にお昼寝したり、お風呂入ったりしてくれるの? そ、そんなにオレみたいな小さい子供、好きなの?」
「へっ……!?」

あまり聞かれたくなかったのか、一瞬困ったような顔をした。そして風呂に入ってるから——それ以外の、何かの理由で、余計に顔が赤くなっていた。

「き、聞いちゃダメだった?」
「そ……んなことは、ない、けど……」

そうは言うものの、やはりアイツの顔は未だに赤かった。
なんというか、むしろオレにとって聞いちゃいけないことなんじゃないか?

「……そ、だね、うん……まぁ、小さい子はそこまで好きじゃないかもしれない」
「へ? じゃ、じゃあ何で……?」
「……………………………………、から」
「え……?」

俯いて、さっきよりも顔を紅潮させながらも、割と大きな声で言った。

「あ、あたしの……好きな人に、少しだけ、似てるから」
「え……?」
「あ、ご、ごめんね……なんか、その人のおかげで……みたいな、感じになっちゃって……。あの……」

ショートの顔がどんどん赤くなっていく。
コイツの……好きな人に、似てるから……?

「で、でも翔くんも可愛いと思うし、翔くんは翔くんで、好きだよっ! それは、ホントのことだからっ!」
「う、うん……」

いやあのオレ男なんだけど……? 昼間から可愛いって言われまくってる気がするんだが……。それとも、コイツの好きな人って可愛いの?

「……見た目もそうだけど、中身もちょっと似てるかもね」
「へ?」
「なんとなく、今日のこと思い出すと、その人もきっとそうしてくれたんじゃないかなって、思うんだ」

ショートはそう言うと、幸せそうに微笑んだ。
————分かっては、いたけど。でも、やっぱりどうしてもソイツと……なんていうか、付き合ったりして欲しくないっていう思いは消えない。
好きな人の幸せを願うことも出来ないなんて、嫌な人間だなぁ、オレ……。

「あー、もー、あっつい! これ以上入ってたらのぼせちゃう! というわけであたし出るねっ」
「え、あ、うん……」

そう言ってアイツはさっさと風呂場から出て行った。
そしてその数分後、オレも風呂から出て湯冷めしないよう早めに着替えをすませ、髪の毛を乾かして、とりあえずもう眠くなったら寝られるという状況にしておいた。そのときまだ二十二時だったにも関わらず、「節電のためだから!」と普段からこのくらいの時間に寝てることをわざわざ隠して寝ようとするショートを、バレないように笑ってやった。
とはいえ何故かこの部屋に滞在することになったオレも寝ないわけにはいかないので(一応節電のため?)、しょうがなく昼間と同じようにアイツのベッドで一緒に寝ることになった。
そして、折角だからアイツの好きな人のことを聞いてみようと思い、話しかけてみた。

「ねぇ、お姉ちゃんがさっき言ってたオレに似てる好きな人って、誰なの?」
「……え? えぇっ!!?? な、ななな何でそんなこと聞くの!?」
「え? え、えぇっと……ほ、ほら! 似てるって言われたら気になるじゃん……!」

我ながら苦しい言い訳だな。

「う、うーん……で、でも……これ以上無駄に知れ渡っちゃうのも……」

お前も無駄に知られてるのかよ……。いや、でもコイツの好きな人、たしかゆうきが知ってたもんな……アイツが知ってるなら広められるのも仕方がないのかもしれない。しかも何故かアイツの流す噂に限って広まるのがやたらと早いんだよな。

「じゃ、じゃあ……身近にいる人なの? 例えばこの魔法学校の中にいるとか……」
「え、うん、そう……だね」
「へー、特徴とかは?」
「そ、そうだなぁ……まず周りの男の子よりチビだしカッコよくもないし意地悪だし理想とは程遠いかも」

散々だな。ホントにソイツのこと好きなのかよ……。しかも特徴が同情する以外に何も思いつかないんだが。

「じゃ、じゃあ年上? 同い年? 年下?」
「えー? 年上だけど……」

余計分からなくなった……誰だよ。まさか校長とかか? ……いや、流石にないよな……。

「も、もうあたしの好きな人のことはいいでしょ! それより—————……」

と、そんなこんなで30分くらい無駄に喋ってたら気付いたら寝てたオレたち。次の日も、またその次の日もそのままの体型で。
でも、一ヶ月くらい経ったある日、いきなり元に戻った。小さくなった理由も分からないけど、元に戻った理由も分からない。本当に突然だった。幸い、戻ったときアイツはいなかったから、よかったけど。

「えぇっ、翔くんのお母さんが来て、引取りに……って、本当なの!?」
「え、えぇ……急いでたみたいだから、アンタに挨拶できなかったみたいだけど……」

けど、そのせいでこんな感じで若干怪しまれてる。いや、あれは怪しんでるというよりお別れできなかったことに対してショックを受けているようだった。

————結局、「翔」が「てんま」と気付かれることはなかったが、元に戻ってからは主にゆうきとりんねに必要以上にいじられるハメになってしまった。
もう二度とあんな風になりたくはねぇ!