二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:第九十四話 ( No.185 )
日時: 2013/09/23 10:23
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「アルバ……」

 階段を上り、唾を飲み込んでからゆっくりとその名前を口に出す。
 そしたら、ルピナスが僕の頭の脳内にいた時みたいに、声が聞こえて来た。

   ——君の気持ちはよく分かった。その体、少し貸してくれないか?——

 どう言うことだろう。誰だろう。
 僕の頭の中に無数の疑問が生まれた。

   ——紹介が遅れたね。私はヒュプノス。そこのクソ神、タナトスの弟……と言うことは、神話ばかり読んでいる君には解るかい?——

 ……仮にも兄をクソ神って言うところ、何かイメージと違ったな。解りましたけど。
 そう言えば、僕はこの人に会ったことがあるのかな。神話を読んでることは、現実的に考えてこの人には分からないはずなんだけど。

「——もう来たのか。意外に早かったな。だが一人死んだ」

 アルバの体を使ってタナトスが言う。

   ——私達は、冥界の住人。君はこの間、背の高い男の子と一緒に迷い込んだ魂を連れ戻してくれただろう? タナトスは留守だったため殺されはしなかったが、あそこは危険な場所だ——

 アルバ(タナトス?)の台詞を無視してヒュプノスさんは話を続ける。
 なんだ、ヒュプノスさんはあの時いたんだ。でも、ヒュプノスさんはタナトスと違って優しい性格って書いてあったな……。

   ——で、君は私に体を貸してくれるのか?——

 ……完全に忘れてた。そう言えば最初にそんなこと訊かれたな。
 うん……。別に良いですけど、あれ(タナトス)みたいに乗っ取る的なことはしないで欲しいです……。

   ——分かっている。第一、その刀もオルゴールも使えるのは君だけだ。私はタナトスを説得したいだけ——

 そう聞こえたと同時に僕の目の前は真っ暗になった。
 でも、うっすらと明かりが見えた。そこをずっと見ていると、いつの間にか、僕はさっきヒュプノスさんと話していた時と同じ景色が見えていた。

「——身体を持つ、とはこんな感覚なのか」
「ふむ、少女の体を借りてまで俺と話したかったのか?」
「要約すればそう言うことになる」

 ぐ……! また始まったよ、意味不明な会話。今日何回目?
 あ、そう言えば僕って今日一日で凄いことに巻き込まれまくってるよね……。
 放課後不良に捕まって戻って来るのに約一時間。アルバ尾行タイムに十分前後。アルバの家に来て目が覚める間に三十分〜一時間。特に意味のない僕の過去探りに三十分前後。ルピナスの暴露話に五分。アミスタさんとルピナスの馬鹿話に五分。ルピナスとアミスタさんがロドリオ村の老人に云々で約三十分。ここまでに一時間弱。
 まだ三時間位しか経ってない……!? 今はだいたい午後六時位かな。

「——何故だ?」
「今は人の時代だ。神の時代ではない」
「ふざけるな! 俺は穢れたこの世界を正しに来たのだ!!」

 ごめんなさい。僕は今確実に自分の意見がまとまりました。
 おタナトスは大きい赤ちゃんなんですね! そんなヤツに世界を正して欲しくなんかありません!!

「確かにこの世は穢れている様に見えるかも知れない。だが私はそうは思わない」
「何故」
「穢れている人もいる。だが、それ以上にこの世は美しい」

 ……ヒュプノスさんはあれですよね。鈍感。
 まあ、僕もヒュプノスさんの意見には賛成。確かに女子さらって脅迫とかするクソもいるけど、皆を助けるために敵に飛び込んで行く優しい人もいる。

「なるほど。要は俺に却下、と」
「そう言うことになる」
「では、少女ごと叩き斬ってやろう」

 説得の結果、全く意味なし。タナトスさんを挑発しただけ。
 同時に僕の体が元に戻る。
 ——っんの野郎がァっ!! 何面倒な部分こっちに押し付けてんだよ馬鹿!!

   ——すまない。アイツはもう無理だ。殺してやってくれ——

 今僕はヒュプノスさんのことを色々と疑ったよ。
 安心して下さい。謝ってくれただけでもマシなので。僕はタナトスをあの世に送る為に来たんですから。

「用意は出来たようだな。——死ね」