二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re:第九十五話 ( No.186 )
日時: 2013/09/23 20:45
名前: 水無月 紅雪 ◆zW64EWZ0Wo (ID: nlCdadAl)


「——死ね」

 アルバの体を使ってタナトスは言った。僕の大切な——大好きな人に、そんな言葉は似合わないよ……。
 直後、アルバの周りから黒い煙が出て来た。こっちへ向かって来る。
 階段の下から

「リンネー! オルゴールっ!」

と言うアミスタさんの声が聞こえた。
 僕は鞄からオルゴールを出すと、それを開いた。中から子守唄の様な音が流れる。

「ッ!?」

 同時に黒い煙が目の前から消えた。

「どう言う……ま、まさかっ!?」

 タナトスが一人でブツブツと何かを考え始める。

「その通り! あの時シアンが使ったオルゴールだよ!!」
「シアン言うな馬鹿っ!!」

 アミスタさんが、タナトスの考え事の答えを言う。その後、ルピナスの文句が聞こえて来た。
 ルピナスがギルドへ向かっている途中、どさくさ紛れにチラッと教えてくれた。このオルゴールは邪心を抑える力がある、って。

   ——それは閉じるまで音が流れ続ける仕組みだ。地面にでも置いておけばタナトスの動きは拘束できる——

 ヒュプノスさんの説明が入る。
 僕は鞄を地面に置いて、その上にオルゴールを乗せてからタナトスを見る。動いてなかった。
 でも、タナトスの後ろにはいつか見た犬が十匹ほどいた。その犬モドキはずっと、こっちを見て唸っていた。

   ——なるほど。タナトスにしては考えたな——

 この神様、仮にも兄をどれだけ馬鹿にしてるんだ……?
 うん。ソアラが作戦で、「強行突破」って言ってたっけ。
 僕は無意識のうちに下唇を噛んで「なんで」と言っていた。
 ——絶対に、助けるから。

「グルルルルゥゥ……ギャンギャンッ!!」

 犬が飛びかかって来る。
 あぁ、思い出した。コイツ等はあの時、アルバ達に飛び掛かってたヤツか。
 じゃあ、尚更あの魔法を使わないと……。唯普通に凍らせるなんて、可哀想だよね。せめて綺麗にキレイにきれいに、……散らせてあげないと。
 僕はその場で刀を振り上げた。刀から雪の結晶が部屋全体に広がる。
 その結晶に当たった犬は一瞬凍りついたと思ったら、氷の粒になり、文字通り散った。すぐに、あの時と同じ青い血が降って来る。
 青いその血を見て吐き気に襲われる。でも、僕は確実に見た。
 タナトスのせいで真っ黒だったアルバの目が、一瞬だけ水晶みたいに綺麗な青に戻ったのを。

「——クソッ! まだ動くか……ッ!?」

 この言葉で僕の考えは当たりだと言うことを悟った。
 アルバは僕を見ている。いや、ヒュプノスさんと入れ替わってたみたいな感じで見てるわけじゃないし、決して恋とかの方面じゃなくて。
 意識がある、と言うこと。

   ——私がタナトスを一時的に体外へ出す。その間に決着を!——

 ヒュプノスさんの声が聞こえた直後、アルバの体から赤黒い塊が出て来た。でも、まだ完全に体から離れたって言う訳じゃないみたい。

   ——あの塊を斬れば終わる! さあっ!!!——

 その台詞を言い始めた時、僕は刀を頭の上に掲げる様に持って大ジャンプをしていた。台詞が終わるとほぼ同時に、僕は塊——タナトスの本体に刀を突き刺していた。

「もう生まれ変わることは出来ない、ね」

 タナトスの横で僕はそう囁いた。
 ヒュプノスさんが、「あぁ、そうだな」と言ってからふっと笑う声が聞こえた。
 直後、その部屋が光に包まれた。

 次の瞬間、僕達は瓦礫の上にいた。目の前にいるのは、僕の大好きな人——アルバ。
 僕はいつの間にか、刀を放り投げてアルバに抱き付いていた。僕の顔は知らないうちに涙でぐしょぐしょに濡れていた。

「ありゃー、シアンの刀投げ捨てちゃったよ」
「シアンって呼び方マジでやめろ。……まあ、結果的にあの時見たいな大惨事にならなくて良かったよ」
「そうだねっ、ヒュプノスが今回はなんとかしてくれたみたい」
「……ヒュプノス?」
「タナトスの弟さんらしいよ。性格はほぼ間逆らしい」

 ルピナスとアミスタさんの会話が近くで聞こえたけど、知ったことか。
 僕は今、アルバといたいんだよ。刀とかどうでも良いんだよ。刀なんて物騒な物は今、必要ないんだよ。
 まあ、当の本人は何が何だかわからないみたい。頭の上に「?」を無数に浮かべてる。
 僕は、自分の手で涙を拭ってから息を整えて言った。


「——アルバ、大好き!」